2014年に朝日新聞が報じた、”9−3÷1/3+1=?の新入社員の正答率が4割だった”という話題が物議を醸している。
因みに、JCASTによると20代の正解率は6割もないとされる(yukawanetより)。
”9−3÷1/3+1”の計算を高卒と大卒の技術者の新入社員にテストした所、正答率は何と4割だった。”÷”と”/”との表記が混在し、ナメて掛かると必ず混乱する問題でもある。
しかし、この単純な計算のどこが難しいのだろう?
4割の新人がミスした単純な計算
仮に、”9−3÷1/3+1”を古い卓上電卓で計算すると、3になる。
電卓には”/”のボタンがないから”÷”で置き換え、前からバカ正直に順に計算するから、”9−3÷1÷3+1”=6÷1÷3+1=6÷3+1=3と弾き出す。
しかし不思議な事に、スマホの電卓アプリだと、なぜだか4割の新人がミスした様に”9”という答えになる。
多分間違えた人は、以下の様に計算したに違いない。
”9−3÷1/3+1”=9−(3÷1/3)+1=9−3/3+1=9。
これは、わり算を括弧で括ったまでは良かったが、3÷1/3=3/3として間違えてしまった。
そこで、”÷”は”/”よりも記号としては弱い(曖昧だ)から、まずは1/3を括弧で括り、”÷”を”/”に置き換え、3÷1/3=3/(1/3)=3×3とするのが正しい。つまり、何もせずにそのまま左から順に計算したらアウトなのだ。
数学的センスのある人は、”3を1/3で割る”との感覚がすぐに浮かぶだろうから、間違う人は少ないだろう。
恥ずかしいながら、私もこれにまんまと引っかかった。悲しいかな、原稿を読み飛ばした菅首相と同じである。
つまり正解は、”9−3÷1/3+1”=9−3/(1/3)+1=9−(3×3)+1=9−9+1=1である。
因みに、正しい問題文は”9−3÷3分の1+1”という事で、パソコンで”9−3÷1/3+1”と表記したが故に、大きな混乱の原因になった。
正確には、”9−3÷(1/3)+1”と書くべきである。というのも(4割の新人社員がしくじった様に)、3÷1/3=3/1/3=(3/1)/3とすれば=3/3=1となり、不正解になる。
これは後でも述べるが、”割り算における結合法則が成り立たない”事に大きく関係する。
ネット上では、表記上仕方ないものの”式が意味不明である”上で、解けない理由を”ゆとり教育”を原因にしてると批判が殺到した。
因みに、1980年代に同様の計算をした所、何と9割近くが正解だったという。
しかし、そんな単純な問題だろうか?
算術の抽象性と曖昧さ
しかし、この問題には算術(数論)という曖昧で抽象的な学問の暗い影が見え隠れする。
「数の概念」でも書いた様に、私達が普段当たり前の様に計算してる事は、実は当たり前じゃない。
例えば、”2×3=3×2が何故そうなるのか?”を知らないと大ケガをする。
私達は小学校の時、四則演算の基本を学んだ筈だ。掛け算とわり算は足し算や引き算よりも優先されるから、掛け算とわり算は(括弧で括り)先に計算する。
もしこの基本ルール(命題)を無視すれば、電卓みたいに、”9−3÷1/3+1”の答えが3になったり9になったりする。
それに私達は、”加法や乗法について交換法則や結合法則が成立”する事も知っている。
しかし、計算の仕方次第では、”9−3÷1/3+1”の交換法則は成り立たない。
そこで、”9−3÷1/3+1”を左から順に計算すれば、=9−3÷1/3+1=6÷1/3+1=6/3+1=3となる。
ところが、右から順に計算すれば(少しややこしくなるが)、=9−3÷3/4=9−15/4=−21/4と、全く異なった答えになる。
但し、割り算を括弧で括り、先に計算すれば、9−(3÷1/3)+1=9−(3×3)+1=1。これを右から計算すれば、=1+(3×3)−9=1となり、偶然にも交換法則が成り立つ。
しかし3を6に変えれば、9−(6÷1/3)+1=9−(6×3)+1=−8だが、右から計算すれば、=1+(6×3)−9=10となり、交換法則は成り立たない。
この様に、割り算を括弧で括るか括らないか、左から計算するか右から計算するかで、交換法則が成立したり成立しなかったりする。
これは、割り算や引き算における交換法則と結合法則が”一般的には”成り立たないからである。
こうした(当然正しいとされる)命題のしくみを知らないと、4割の不正解者の中に不幸にもアナタは含まれるかも知れない。
交換法則と結合法則
前述した様に、足し算と掛け算に関して交換法則と結合法則が成り立つ事を、我々は小学校の時から何の疑いもなく、無意識に計算で使っている。
3+5=5+3=8や3×5=5×3=15などは(証明しなくとも)当たり前とされる。故に、これらは”命題”と呼ばれる。
しかし、これら交換法則や結合法則は、引き算や割り算の形のままでは成り立たない。3−5≠5−3や3÷5≠5÷3、(3−4)−5≠3−(4−5)や(3÷4)÷5≠3÷(4÷5)の様に”一般的には”成り立たないのだ。
但し、引き算を足し算の式に、割り算を掛け算の式に直して計算すれば、3−5=3+(−5)=(−5)+3や3÷5=3×(1/5)=(1/5)×3の様に交換法則が成立する。
また、引き算の結合法則も、3−4−5=3+(−4)+(−5)と足し算の形にすれば、(3+(−4))+(−5)=3+((−4)+(−5))=−6となり、同様に成り立つ。
割り算の結合法則も、3÷4÷5=3×(1/4)×(1/5)と掛け算の式にすれば、(3×(1/4))×(1/5)=3×((1/4)×(1/5))=3/20となり、成立する。
つまり、引き算も割り算も足し算や掛け算の形にする事で、交換法則や結合法則が成り立つ。これは、”割り算も引き算も基本的には左から計算すべき”である事を示唆している。
しかし感の鋭い人は、”足し算の形や掛け算の形にした時点で反則やん”って思うだろう。
確かに、答えは最初から固定され、その上で交換&結合する訳だから、成り立つのは当然である。でもこれには理由がある。
中学以上の数学では、(非常に使い勝手の悪い)割り算の符号”÷”を撤廃する理由として、交換法則や結合法則を利用できる様にし、計算効率を高める為だが。それ以外にも曖昧さや抽象性をなくし、計算ミスや混乱をなくすという利点がある。
もっと判りやすく言えば、足し算や掛け算は何の工夫もせず正しい答えを導けるが、引き算と割り算は一寸した工夫(トリック)を使って正しい答えを導す。
ただ、この”数のトリック”がとても抽象的で複雑なのだ。故に数学をマスターするには、色んな不可思議な公式やルールやトリックを覚える必要がある。
確かに、数学嫌いが続出するのも当然ではある。しかし思考を鍛えるには、こうした苦難に満ちた数トレも時には必要なのだ。
今の日本政府がアホなのは、こうした数学的思考が極端に弱く、混乱を相手にした時に無能をさらけ出すからだろう。
最後に〜数学に絶対はない?
”素数分解の一意性”(=整数は素数の積に一意的に表せる)にてガウスが主張した様に、我らが”絶対とか当たり前”とか思ってる事は、それ自体が大きな矛盾を孕んでる事がある。
つまり、”暗黙の内に了承されてるだけで厳密には証明されてない”のだ。
それに”一般的には”と言っても、数学的に言えば危険で曖昧な言葉でもある。
アーベルの世紀を揺るがす「不可能の証明」も、”一般的には”という言葉のお陰でガウスの叱責をもろに食らった。ガロアが呈示した様に”ルートと四則に限って”とすれば、何ら問題はなかったのだが。これも後の祭りである。
例えば、1+1=2は2進法(1+1=10)では通用しない。1+2=3は2進法(1+2=11)でも3進法(1+2=10)でも通用しない。
我らが標準で使ってる10進法は、数の集合のほんの一部に過ぎないのだ。
特に算術(数論)ではこうした初歩的なトラブルが多い。
かつてガウスが言った様に、”数論の法則は目に見えて現れるが、その証明は宇宙の闇に深く横たわっている”
”フェルマーの定理の様な証明も反証もできない式は、いくらでも書き出せるさ”
この2つの名言は、数論の不可思議性を強く物語ってると言える。
つまり、”3÷1/3”という一見、バカでも解ける様な単純な計算には、算術(整数論)の奥深い謎と罠が秘められてたのだ。
故にこの式は、整数論の抽象性と曖昧さを見事に露呈してるとも言えなくもない。
という事で、自分のミスをはぐらかしてますが、ご勘弁をです(悲)。
÷って符号を使った時点で反則よ
でもこの反則攻撃を
割り算の結合法則にまで発展させるところは
さすが数学的脳みその持ち主です👅
ガウスに言わせれば
数論は気まぐれな女神なのよね
こういう曖昧な問題の出し方は好きじゃないですね。
小学生でも解ける様な計算ですが、かなり頭を悩ませましたよ。2晩かかってやっと書き上げたくらいですから・・・
全く、気まぐれな問題ではありますね。
なんていくらでも作れるさ
ってことになるんですよ。
計算の仕方ではいくらでも答えが出る。
正しい正しくないというより
数学の多様性の本質じゃないのかな
あの、すごく素直にとけてしまいました(^_^;)
私は“古い人間”…のようですね(((^^;)
学校の“教え方”でしょうね…(*_*)
これに関する問題は、もっと混乱するの色々とありそうですね。
数論が女神というのは言い得て妙ですが、言われる通り多様性にも繋がりますね。
数学ではこうしたトリックは幾らでも書き出せるから、色んな公式や命題を覚える必要があるんですよね。
言われるように
3÷1/3は(広義的には)
3/1/3=1とも3÷1÷3=1ともみなせるから
答えは1にも9にもなる
つまり電卓はウソつかない
引き算も割り算も左からが鉄則が、それでも答えは混在します。
それに表記で言えば、1/3の横棒ははルジャンドル記号ですものね。
ルジャンドル記号とは、平方剰余の相互法則を記述した記号のことです(ここでは詳しい説明は省きます)。
その上、指摘されたように、÷という曖昧な記号を使ってることもあり、問題自体が正当性を欠きます。厳密に言えば、等号が成り立たない。
故に、小学校の教育から÷をなくし、/に置き換えることをしないと、こうした混乱は永久に続くでしょうね。
小学校のときから、本格的に数学の基礎を教えるべきなんですよね。
計算ドリルなんて、ある程度にし、思考を鍛えるような数学の難しく美味しい部分を先に教えるべきですよ。
でないと、日本人はアホばかりになる?