”無罪の可能性がある限り、有罪にはできない”という危険な賭けと、”法律に疎い人間が人を罰する時どうなるか”という無責任で曖昧な仕掛け。
1991年製作と少し古いが、確かにこの映画は面白いし、変な意味で興奮してしまう。
三谷幸喜監督作品だけあって、笑い転げてしまうし、一人一人の登場人物には同情するし、真剣に見てるとアホらしくもなる。
見終わった後も、不思議と奇怪で中途な充足感が湧いてくる。
「12人の怒れる男(1957)」(Click参照)のリメイクと知ってれば、もっと冷めた違う目線で観れたろうか。でもこれはこれでとても楽しかった。
ただ、この作品のメインテーマとなる”殺人事件”の本質が、被告の有罪か?無罪か?という単純な事よりも、正当防衛による偶然の事故なのか?単なる自殺か?それとも冷酷な計画殺人なのか?といった3つの論点で複雑多岐な議論がなされてもよかったかなと思う。
被告が若くて美人だという事で、無罪か有罪か?敵か味方か?のみに熱を上げる12人の陪審員。とはいっても、それぞれが”スネに傷”を持つ後ろめたい大衆の寄せ集めに過ぎない。
しかし、良い人ほどいや純朴な人ほどに悪に染まり易いのもこれまた事実であり、数多くの殺人事件で立証されてる事でもある。
個人的には計画殺人による有罪と、最後の最後で大どんでん返しという結末を期待したのだが。被告が聡明な美女で、被害者が酔っ払いでチビで醜い暴君という設定では、”条件付き無罪”というのが平和ボンボンな日本の陪審員制度では、妥当な引き所と言えようか。
確かに、計画殺人に持ち込むには、もっと多くの証言とあらゆる角度からの証拠が必要になる。ここにても”推定無罪”という手っ取り早く安直で短絡な”法の原則”が生きた結果となった。
この作品は単なる裁判物語でもなく、辣腕弁護士同士の駆け引きのドラマでもない。何処にでもいる12人の大衆(陪審員)の滑稽で呑気な、感情論と経験論のみが渦巻き、支配する世界なのだ。
だったら、楽しく愉快に無罪放免で終えましょってとこが、オチなのか。
しかし、相島一之(陪審員2号)が演じる怒れる男は実に誇らしいし、見事に映った。この怒れる男は妻と別居中という悲しい設定もあってか、パロディに経たりがちな作品を終始支え続けた。
結局、たった”一人の怒れる男”は最後の最後で、豊川悦司(陪審員11号)に突っ込まれて玉砕する。
この自称弁護士の豊川には「白いドレスの女(1981)」ではないが、若く麗しい女がどんな瞬間に冷酷な生き物に豹変するかを、冷静に論駁してほしかった。
お陰で、たった一人有罪を主張した怒れる男は、周りの嘲笑と共に屈服する。滑稽ではあるが、見てて少し辛い。
真の正義というものは、真相と同じで闇の中に葬られる運命にあるのか。
見方を変えれば実に悲しく屈辱的だ。多数派が少数派を裁く、勝者が敗者を裁く東京裁判の原理と全く同じである。
これは今も昔も全く変わってはいない。”怒れる男”の視点から見れば、被告の美女は永遠に有罪なのだ。
結局この美女は、陪審員たちの安易で無頓着な判決に今頃は高笑いし、家に戻ると、白いドレスを羽織り、ワインを口にして他の男を弄んでるだろうか。そして、この冷酷で巧妙な計画殺人はこれからも延々と繰り返されるのか。
”所詮、陪審員ってのは無能の集まりね。今回の裁判でも裁判官も弁護士たちも鼻の下を長くして、私のドレスの中身ばかりを探ってたわ。私のプッシーがどんな形をしてるのか?そんな事しか興味がないのよ。
私がどうやってあの酔っぱらいの醜男を殺したか?全く探ろうとはしないのよ”
この映画を見終わった後、そんな美女の傲慢な高笑いが聞こえそうだった。
推定無罪の危険な賭けと陪審員制度の曖昧な仕掛けは、法律が権力とお金の奴隷に成り下がった必然の帰着でもある。
”無罪請負人”は、裁判官や検察官とグルになり、犯罪者から大金を巻き上げる事で無罪放免に処す。結果、法では誰をも裁く事は出来ない。全ては情状酌量という名の無に帰すのだ。
たった一人の”怒れるお叫び”は、現代の奴隷に成り下がった法律の哀れな孤高のお叫びなのかも知れない。
全く、この”12人の無能な日本人”の続編を見たいものだ。
私は絶対引き受けたくないです。
でも、プロの裁判官の判決も、やはり美人の犯人には甘くなるということを聞いたことがあるから、結局、人が人を裁くのは矛盾だらけということなのでしょう。
バルザックに言わせれば、中世のヨーロッパの時代で既に、法は限界に来てたんです。
陪審員制度ってのもその言い訳ですかね。そういう私も一度くらいは陪審員になって”怒れる男”になってみたいですが。
アメリカの原版と異なるのは殺害⇒有罪⇒正当防衛⇒無罪と少しややこしくなる所ですが、原版は殺人⇒有罪⇒無罪の単純な流れですが話し合いは喧々諤々となる。
一方でロシア版は2時間40分のロングランだが、殺人⇒無罪⇒有罪と逆になります。
個人的にはロシア版が心にはずっしりと食い込んだ。
日本版は結局はコメディなんだ。最初は面白かったし緊迫感も多少はあったけど。
ロシア版は重くズッシリとくる内容だったです。この作品に関してもブログ書く予定です。それに比べると日本版は全くのパロディでしたね。