象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

現代のゼータ関数の源泉がここにはある〜猿でも解る?バーゼル問題”その6”

2021年12月15日 04時32分46秒 | 数学のお話

 ”ヘビでも解る?バーゼル問題”もこれが最終回です。
 出来るだけ砕いて説明したつもりですが、思うように伝わらない所もあり、記事にした後で不透明な不足を感じる事もしばしばです。
 数学に馴染みのない人にも理解出来る様にと奮闘したんですが、どうも数学という学問は最後には抽象的になるんですよね。
 ”ヘビでも解る?”とは私の個人的な願望で、誰もが理解出来る記事にしたつもりなんですが・・・


前回の補足

 前回「その5」では”ウォリスの無限積”とオイラーの第三の論文「逆数の級数の和において」(1734、1740)について紹介しました。
 特に”sinxの因数分解=sinxの無限級数展開”が、バーゼル問題に最後のトドメを刺したんですが、因数分解は無限積で級数展開は無限和ですね。この等式の係数を比較する事で”逆平方数の級数の和”というバーゼル問題の本質が判明します。

 sinxの因数分解では本当は、sinx=0の解がx=0,±nπであるから、単に、sinx=x(x−π)(x+π)(x−2π)(x+2π)・・・としたいんですが、これだと明らかに発散します。 
 そこで無限積を考える時、因数をx−nπではなく、nπで割りx/nπ−1とし、更に−1を掛け、1−x/nπの形に。すると、因数を無数に掛け合わせた時の収束性がよくなり、意味のある無限積を得る事が出来る。
 故に、sinx=x(1−x/π)(1+x/π)(1−x/2π)(1+x/2π)・・・=x(1−x²/π²)(1−x²/4π²)(1−x²/9π²)・・・(1−x²/n²π²)・・・と、無限積に因数分解できるとオイラーは考えたんですね。
 両辺をxで割り、x²の項を括るとsinx/x=1−/π²(1+1/2²+1/3²・・・)+・・・。
 ここで、sinxの無限級数展開(17世紀、ライプニッツ)より、sinx/x=1−x²/1・2・3+x⁴/1・2・3・4・5−・・・が使え、x²の項を比較すれば、ζ(2)=1+1/2²+1/3²・・・=π²/6を(目出度く)得る事が出来、オイラーは”バーゼル問題”を証明しました。

 そこで、オイラーが果敢に挑んだこの(有限次数で成立する)”解と係数の関係”ですが、高校でも学んだ公式を例に取ります。
 3次方程式ax³+bx²+cx+d=0の解をα,β,γとおくと、a(x−α)(x−β)(x−γ)と因数分解でき、x²の係数を比較すれば、α+β+γ=−abを、xの係数の比較でαβ+βγ+γα=acを、定数項の比較でαβγ=−adを得ます。
 因みに、3次方程式の解の公式(カルダノ)はとても複雑すぎて高校では教えません。
 4次方程式ax⁴+bx³+cx²+dx+e=0の解をα,β,γ,δ とおくと上と同様に、α+β+γ+δ=−ab、αβ+αγ+αδ+βγ+βδ+γδ=ac、αβγ+αβδ+αγδ+βγδ=−ad、αβγδ=aeを得ます。

 ここで少し難しいですが、上の3次と4次方程式の解と係数の関係を眺めれば、n次の解と係数の関係を予想できます。
 n次方程式:aₙxⁿ+aₙ₋₁xⁿ⁻¹+・・・+a₁x+a₀=0の解をα₁,α₂,...,αₙとする。そこで、sₖ=Σ[1≤k≤n]α₁α₂・・・αₖとおくと、sₖ=(−1)ᵏaₙ₋ₖ/aₙが成立する。
 これをn次方程式の”解と係数の関係”と呼ぶんですが、このsₖはn次方程式の解α₁,α₂,...,αₙに関するk次の基本対称式となってます。
 但し”k次の基本対称式”とは、n個の解からk個選んで掛け合わせてできるもの(全部で、nCk=n!/k!(n-k)!通り)を全て足しあわせたものです。
 特に、α₁+α₂+...+αₙ=−aₙ₋₁/aₙとα₁α₂・・・αₙ=(−1)a₀/aₙは、”不変式論の定理”と呼ばれます。確かに、3次と4次の解と係数の関係を見れば、不変式の形になってますね。

 この証明ですが。
 まず、aₙxⁿ+aₙ₋₁xⁿ⁻¹+・・・+a₁x+a₀=aₙ(x−α₁)(x−α₂)・・・(x−αₙ)と因数分解できる。
 そこで、xⁿ⁻ᵏ次の係数を比較すれば、左辺=aₙ₋ₖと右辺=aₙ(−1)ᵏsₖとなり、aₙ₋ₖ=aₙ(−1)ᵏsₖより、sₖ=(−1)ᵏaₙ₋ₖ/aₙを得る(証明終)。
 因みに、展開した時にxⁿ⁻ᵏに寄与する項は、xを(n−k)個と−α,−α₂,...,−αₙの中からk個選んで掛けあわせたもの(のaₙ倍)となり、それらを全て足し合わせると上の基本対称式が得られる。
 以上、「高校数学の美しい物語」を一部参考にしました。

 sinxの因数分解(無限積)=sinxの無限級数展開(無限和)というn次方程式の係数比較によりバーゼル問題の決着が付いたんですが、解と係数の関係についても簡単に補足しました。
 抽象的ですが、オイラーは無限次の方程式でもこの解と係数の関係が成立すると大胆にも考えました。
 有限次元空間を扱う線形代数と無限次元空間を扱う関数解析の違いと言えばそれまでですが、こういう分厚い壁をオイラーは観念で乗り越えちゃうんですよね。

 
洗練された証明と円積分の漸化式

 オイラーはずっと後になって、第4の諭文「1+1/4+1/9+1/16+1/25+•••の和の証明」(1743)を書いた。
 オイラーは、円積分(円の弧長を表す積分)sとその微分dsを、s=∫dx/√(1−xx)、ds=dx/√(1−xx)ー①で定義します。sをx=0~1まで積分すれば(1/4の円弧となり)、s=π/2となるのは明らかですね。
 因みにx=sinθは、円の弧長を表す積分(円積分)であるθ=∫[0,x]dx/√(1−x²)=arcsinxの逆関数”x=φ(θ)”との1価関数で認識されるので、円積分は円関数とも呼ばれ、三角関数と同じ意味で用いられます。
 このオイラーの円積分が、ファニャノやガウスのレムニスケート曲線の等分理論に繋がり、その弧長積分”∫dx/√(1−x⁴)”の等分と同じ事で、この逆関数を取ればレムニスケート関数の等分方程式を解く事になる(ガウス4参照)。

 少し横道にそれましたが、①の記述を簡明にする為、オイラーが用いなかった記号を導入し、S(n)=∫xⁿdx/√(1−xx)、dS(n)=xⁿdx/√(1−xx)と定義する。
 オイラーはまずsとdsの積を作り、級数展開した。s・ds=S(1)+(1/2・3)S(3)+(1・3/2・4・5)S(5)+(1・3・5/2・4・6・7)S(7)+・・・ー②
 ここに部分積分の公式である、S(n+2)=((n+1)/(n+2))S(n)−xⁿ⁻¹√(1-xx)/(n+2)を代入し、x=0からx=1まで積分すれば、後項は0となり、S(1)=1、S(3)=(2/3)S(1)=2/3、S(5)=(4/5)S(3)=2・4/3・5、S(7)=(6/7)S(5)=2・4・6/3・5・7、を得る。
 これを②に代入し、x=0~1まで積分すれば、∫sds=(1/2)ss=π²/8=S(1)+S(3)+S(5)+・・・=1/1+1/3・3+1/5・5+•••を得る。
 しかし、Q−(1/4)Q=(3/4)Q=1+1/9+1/25+・・・より、Q=1+1/4+1/9+1/16+1/25+・・・=(4/3)•π²/8=π²/6なる目標に到達する(証明終)。
  因みに、オイラーは記号S(n)を用いず、1つ1つ積分式で書いた。

 オイラー研究の作家でもあるW・ダンハム(1947~)は、この証明は洗練され、現代の規準にも合致すると言う。
 因みに、この論文の後半には、1+1/2⁴+1/3π²/+1/4π²/+1/5π²/+・・・等、分母の幕指数が一般化された場合も述べている。


ゼータ関数の源泉と進化

 オイラーのこの発見”バーゼル問題”は、現代のゼータ関数の源泉となった。
 また、逆平方数の級数が如何にしてオイラーによって突き止められたか?また如何にして円周率πの平方という、全く予想を超えた数値と結びつくに到ったか?を辿る旅でもある。
 オイラーからガウスヘの影響も勿論だが、ヤコプ•ベルヌイからオイラーへの影響もとても興味深いものである。

 オイラーの最初の証明(1734、1740)では(ダニエルやニコラスが指摘した様に)”無限次数では全ての解を求められないのではないか”という微々たる?問題があった。
 事実、実曲線のグラフだけでは全ての解が求まらない可能性がある。考察する方程式の次数が有限であれば全ての実・虚因子とそれらの重複度までを考慮する事で正しい等式を得る事ができるが、次数が無限の時は全ての実・虚因子を考慮しても正しい等式を得る事は出来ない。更に、無限積の場合は積の順序による収束性の問題も絡んでくる。

 しかし、「無限解析入門」(1745、1748)の2つ目の完全なる”バーゼル問題”の証明では、多項式aⁿ−zⁿの有限積表示から始め、超越関数(eˣ−e⁻ˣ)/2の無限積表示を求めている。故に、有限積から徐々に無限積が定まる過程を確かめる事ができる(「オイラーの無限解析の源流」p155参照)。
 これを可能にしたのが無限解析の力である。この力により極めて重要な数学である、関数の無限和及び無限積表示、超越関数の複素零点、オイラーの公式、更にはゼータ関数の特殊地が生み出された。
 つまり、最初の単純で微かな問題から、如何に大きな進展が数学にもたらされたか?
 我々は只々驚くほかはない。

 以上、最後は「オイラーの無限解析の源流」(高橋浩樹著)から一部参考にしました。
 では最後に高橋浩樹氏の言葉で締めくくる。
 
”オイラーと我々の間には様々なギャップがある。我々はオイラーのように数そのものを徹底に追求したり、数そのものが関わる世界を探求できるだろうか?
 そのギャップを乗り越えるための鍵はおそらく真剣な遊び心にある。つまり、広大無辺のオイラー数学は我々をずっと待っているのだ”



6 コメント

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幾何を用いた最初の証明 (UNICORN)
2021-12-15 11:20:57
この証明には幾つかの問題がありました。
しかし、その10年後の「無限級数展開」では無限解析を用いてほぼ完璧な証明を与えています。
最初の証明は厳密にはsinx/xではなく、1−sinx/y=1−x/y+x³/y−x⁵/y+x⁷/y−・・・=(1−x/A)(1−x/B)(1−x/C)(1−x/D)・・・の無限級数展開=無限積を考えた(y:定数)。つまり、A,B,C,D,,,が1−sinx/y=0の解となる。
そこでオイラーはy−sinx=0の解を求めるために半径1の円を考え、sinxは周期2πの関数より
全ての解は、x=A+2kπ又は(π−A)+2kπとなる(k:整数)。
特にy=1の時、π/2,π/2,-3π/2,-3π/2,5π/2,5π/2,・・・となり、1−sinx/y=1−x/y+x³/y−x⁵/y+x⁷/y−・・・=(1−x/π/2)²(1+x/3π/2)²(1−x/5π/2)²(1+x/7π/2)²・・・を得ます。

そこで右辺の無限積を展開し、左辺の無限和のxの係数を比較すれば、-1=2×(2/π)×(-1+1/3-1/5+1/7-・・・)とライプニッツの公式=1-1/3+1/5-1/7+・・・=π/4を得ます。更に、x²の係数を比較すれば、1+1/3²+1/5²+1/7²+・・・=π²/8を得る。
ここで上式に初項1公比1/2²の等比級数(1+1/2²+1/4²+1/8²+・・・=1/(1-1/2²))を掛けると、目出度くQ=1+1/2²+1/3²+1/4²+1/5²+・・・=π²/6が得られます。

無限解析による完璧な証明は、転んだクンに任せるとして、今日はこれまで・・・多分?
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UNICORNさん (象が転んだ)
2021-12-15 13:12:55
確かに円積分を使うやり方は慣れてないと抽象的すぎますかね。
オイラーの第4論文でも最後はQ=(4/3)π²/8となるから、オイラーの公式を経由し超越関数をの無限積を使った証明のほうがややこしくはありますが、抽象的ではないですよね。

UNICORNさんのご指摘どおりに何とか頑張ってみます・・・多分
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オイラーって (HooRoo)
2021-12-15 22:17:37
常にロマンと完璧を求めていたと思うの
彼には数学こそが
それら2つを成し遂げるに一番理想な学問ととらえてたのね

よくわからないけど(^^♪
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Hooさん (象が転んだ)
2021-12-16 03:26:27
オイラーは計算の天才とも言われてますが
厳密には計算アルゴリズムの創始者とも言えますね。
当時誰もがなし得なかった超難しい計算を暗算でやったとされてますから、頭の中は計算アルゴリズムというお花畑で満たされてたんでしょうね。

完璧の証明ですが、超越関数の無限積表示なんて、こんな複雑な計算をスラスラとやってのけたオイラーは神の領域を遥かに超えてる。
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Unknown (腹打て)
2021-12-16 05:41:10
オイラーの厳密性の欠如

オイラーの最初の証明は厳密性に欠けると言うけど、その厳密性よりもヤコブが模索したように、オイラーは無限級数の収束性に拘ったんだろうね。
無限解析の厳密化は19世紀になってからで、ある特定の一天才にしか見えなかった数学的光景が誰の目にも見えるようになったという点では、一般化とも呼べる。

一方でコーシーは無限級数には収束するものとしないものがあると明確に限定した。そのコーシーが追求としたのは曖昧な理論ではなく一般化への要求であった。
しかしこれはオイラーが指し示した方向だったんだよな。

結局オイラーも”誰でも理解できる数学”を目指してたんだよ。そういう意味では”ヘビでもわかる”とした転んだ君の感性も相当なもんじゃないのかな?
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腹打てサン (象が転んだ)
2021-12-16 06:25:24
お褒め頂いて恐縮です。
一般化や明確化という点では、コーシーを一歩推し進めたディリクレの存在も無視できませんね。
そう言えば、ガウスも数論の一般化にはとても拘りがあった様にも思えます。

腹打てさんのコメントが専門的すぎて、中途なお返しになりました。悪しからずです。
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