前回の”Episode1”では、アインシュタインの一般相対性理論(1916年)の発表までの奇妙な生涯について、サイドストーリー風に述べました。勿論、あくまでフィクションですよ。そして今回は、その一般相対性理論とリーマン幾何学の深い繫がりについてです。少し理屈っぽくなりますが、悪しからずです。
Episode2
親友のロマン•ロランはコニャックを飲み干し、アルバート•アインシュタインに近寄った。
”でも何故?わざわざ相対性理論(general relativity)とかの抽象的な名称にしたんだ?”
アルバートは苦笑する。
”実は、あまり人前では言いたくはないんだがな。一般相対性理論は、重力場による時空の歪みをリーマン幾何学を用いて記述したもんなんだ”
ロマンは頷いた。
”やっと認めたか。だったら、アインシュタイン幾何学とか、宇宙幾何学とかにすればよかったじゃないか?”
アルバートは友人の耳元で静かに囁いた。
”バカ言え!そんな事したら、俺の発見はリーマン幾何学の拡張版になる。それこそ自殺行為さ”
”しかし、リーマン幾何学を宇宙空間にまで拡張する事自体、凄い発見だろうよ”
”いや、この発見はリーマン幾何学とは切り離して考えたかったんだ。俺は新しい宇宙観を抱いてたんだ”
”太陽の重力場で光が曲げられるという宇宙観だよな。いわゆる重力レンズ効果が存在する宇宙空間の事だろ?”
”いや、それとは別に、宇宙が極限の領域で膨張や収縮しているとは考えたくなかったんだ”
”でも一般相対性理論をそのまま適用すれば、演繹的には宇宙は膨張し収縮するんだろ?”
”いや違うね。それは動的宇宙論で、俺が言いたかったのは、理論上静的な宇宙理論の存在だったのさ”
ロマンはコニャックを横に置き、身を乗り出す。
”空間が歪むのは動的だろう?”
アルバートは葉巻をテーブルに置く。
”重力による影響を相殺する様な「宇宙項」を「場の方程式」に組み入れる事で、その歪みってヤツを静的理論で証明しようと思ったんだ”
”でも、後にその宇宙項は撤回したんだろ?”
”ああ、ハッブル望遠鏡で観察した結果、宇宙が膨張してる事が明らかになったんでな”
ここで、私(テンゾー=転象)がツッコミを入れます。
”でも、アインシュタインさん。今では「宇宙項」は否定する必要がないのでは?と言う意見もありますよ。
つまり最新の研究では、宇宙はある加速度で膨張してるとされます。この加速度を説明するには、「宇宙項」を導入する方が妥当だとする声があります”
アルバートは目を見開いた。
”おおう!それはユニークじゃ。宇宙は理論的には加速膨張するからな。やはりオレの研究は無駄じゃなかったんだよ。よくぞ言ってくれたの、テンゾーさんよ”
ロマンは少し間を置いた。
”話を元に戻そうよ。21世紀の理論はお預けにして、一般相対性理論の名の由来だよ”
”元々一般相対性とは、いかなる座標系においても物理法則は不変であるという物理的原理なんじゃよ。これを数学的に言えば、全ての物理法則は、テンソル形式と共変微分を用いて記述されるという事さ”
”どんどん難しくなってきたな。もっとわかり易く言えないのか?”
”つまり、一般相対性理論とは、一般共変性原理と等価原理を理論的な柱とし、リーマン幾何学を数学的土台として構築した、古典論的な重力場の理論の事なんじゃよ”
ロマンは4杯目のコニャックを注いだ。
”ちょっと待ってくれ。ゆっくりと説明してくれないか?まずは一般共変性原理からだよ”
アルバートは再び葉巻を蒸す。
”ああ、耳をかっぽじて聞いとくれよ。一般共変性原理とは、先程も言った様に、一般相対性原理と同じ事じゃよ。一般座標変換によって物理法則は不変だという事さ”
”つまり、物理法則は全ての座標系において同じ形式であるべきという事?”
”その通り。そして次に等価原理とは、物理法則は宇宙のどこでも同じでなければならないというコペルニクス的な古典的アイデアの事さ”
ロマンは再び身を乗り出す。
”この2つとリーマン幾何学とどういう関係があるのかな?”
”つまりだな、リーマン幾何学に登場する測地線の方程式と、アインシュタイン方程式(重力場の方程式)が一般相対性理論の帰結になってるという事よ”
”測地線って?リーマン計量に出てくる奴か?”
そこに、私(転象)が口を挟む。
”計量が定義される空間では、測地線は2つの離れた点を結ぶ最短な線として定義されます。つまり一般相対性理論では、光は曲がった空間での測地線を進むという原理に基づいてるんです”
アルバートが葉巻をテーブルに置く。
”おおう、テンゾー君も偉そうな事を言うじゃないか。この測地線の微分方程式こそが、リーマン多様体の中で定義されるのさ”
ロマンはコニャックをテーブルに置く。
”つまり、一般相対論では時空を4次元のリーマン多様体として記述するが、光の経路は測地線で記述されると考えたんだな?”
アルバートは大きく頷く。
”そうなれば話は早い。つまり、自由落下している物体の軌跡が測地線で表されると考えたんだ。数学的な時空の定式化には、測地線は欠かせない道具なんだよ”
ロマンは一息入れる。
”測地線の事は大体理解出来たんだが。時間と空間を結びつけるアンタの一般相対性理論では、かつてアイザック•ニュートンにより万有引力として説明された現象が、ニュートン力学的な意味での力ではなく、時空連続体の歪みとして説明されるって事なんだよな”
”おおう!正解だ〜な。流石はノーベル賞作家だけの事はあるな。友人として鼻が高いよ。
もっとわかり易く言えばだな、質量が時空間を歪ませる事で、重力が生じると考えるんじゃよ。質量(地球)が格子模様の平面(時空)に落とし込んだ状態をイメージ(写真参照)すれば判り易いな。この歪んだ格子模様自体が重力なんじゃよ”
”すると、大質量の周囲の時空間は歪んでる為に、光は直進せず、時間の流れも影響を受けるという事だね”
”そうそう。これこそが重力レンズや時間の遅れといった現象となって観測されるんだ”
ロマンは5杯目のコニャックを注ぐ。
”その重力場を時空の幾何学として取り扱う方法を、初めて君が模索したんだね。1912年の事だったかな。チューリヒの母校の教授に抜擢された時だったよな”
”この時にリーマン幾何学の存在を教えてくれたのが、同じ母校の友人で数学者のマルセル•グロスマン(1878−1936)だったんじゃよ”
”しかし彼は、物理学者が深入りする問題ではないと、はっきりと忠告したんだよね”
”ああ、君にはリーマン幾何学は重荷過ぎると言ったんだ。内心バカにすんなって思ったよ”
”それでどうしたの?諦めたのか?”
”いや、必死に勉強したさ、幾何学と解析学をね。それでアインシュタイン方程式を編み出したんだ”
”先程言った、万有引力と重力場を記述する「場の方程式」の事だね”
アルバートは葉巻を横においた。
”ああ、でも大変難解な方程式なんだぜ。アインシュタイン•テンソルや宇宙定数Λ(宇宙項)、リッチテンソルにスカラー曲率に時空の計量テンソルと、てんこ盛りの計量についての連立偏微分方程式なんじゃ”
”それに、エネルギー•テンソルもね。友人(グロスマン)の気持ちも痛いほど判るな”
”ああ、リーマン以外の数学者だったら匙を投げてるかもな。何せ4次元2階の対称テンソルだからな、成分毎に分解すれば10本もの独立な方程式が得られるんじゃよ”
”そのうち4本はエネルギー保存則と運動量保存則に対応するものだし、残りの6本が時空の運動方程式に相当するのだったかな?”
”おおよく覚えてるな。作家にしちゃ感心感心”
”つまり、君の頭脳は10本のマルチスレッドが瞬時に働くんだね”
アルバート•アインシュタインは、得意そうに私の方をチラリと見た。
”テンゾーさん?アンタは理解できたかの?少し難しすぎたかな?”
私は強がった。
”一般にアインシュタイン方程式は、Gᵤᵥ+Λgᵤᵥ=8πG/C⁴*Tᵤᵥで表現されます。左辺は時空の歪みを表す幾何学量で、右辺は(重力)場の分布を表す量です。特に、Gᵤᵥ=Rᵤᵥ−1/2*Rgᵤᵥはアインシュタイン•テンソルと言われてますね。
Rᵤᵥはリッチテンソル、Rはスカラー曲率、共に計量テンソルgᵤᵥの微分で表示される幾何学量ですね。一方、右辺のTᵤᵥはエネルギー運動テンソルで、Gはニュートンの重力定数です。
つまり、星の様な物質のエネルギーを右辺に代入すれば、その物質の周りの時空がどんな風に曲がってるかを数字(計量)で読みとる事が出来ます。
故に、空間の歪みが決まれば、その空間中を運動する物質の運動方程式(測地線方程式)が決まるので、物質分布も変動しますね。
この様に、テンソルの概念と多次元の多重方程式を理解してれば、何とかイメージ位はクリアできますよ”
アルバートは微笑んだ。
”おおう、それはよかった。強がりも知能のうちさ。君は葉巻は吸うのか?ここで一服しようぜ”
かなり理屈っぽくなったので、今日はここ迄です。
ややこしい筈のアインシュタイン方程式も1つ1つ噛み砕いて見ると、意外に理解しやすいですかね。
ジョブスがバカに見えてきたよ〜(@_@)
結局、時空の歪みを数字で表現したってこと?
そのためには、リーマン博士が必要だったってこと?
アタイのバカな脳みそが燃えそう🔥
ああそれと先日は言いすぎたかな?
色々とゴメンね^_^;
ではバイバイ👋
転んだサンの集大成を見てるみたいで。
Hoo嬢が言ってるように、アインシュタインに比べれば、ジョブスはただのヤクザなペテン野郎です。
でも測地線の微分方程式は難解もいいとこで理解するだけでも大変です。宇宙が膨張すると漠然と信じられてた時代に、宇宙の果てを数式で記述&証明したんですから、アインシュタインが人類史上の大天才と言われるのも当然ですね。
それ以外にも色々と相対性理論には疑惑はあるんですが、後編で述べることにします。
私の脳みそも燃えそうです。
ではバイなら(^_^)/~
本当に天才だったんだろうか?超天才だったとしてもそこに何か大きな謎はないのか?
アインシュタインの真相を知れば知るほど、宇宙の深い闇に吸い込まれていく感じがします。
何だか視界がパァーっと開けてきた感じ。
測地線と重力場の方程式はサッパリですが。時空の歪みを数式で表そうというアインシュタインの試みはなんとか理解できます。
友人で数学者のグロスマンの存在がとても大きかったんですか。
リーマン幾何学→テンソル→偏微分→アインシュタイン方程式ってとこかな?=_=?
まさにリーマンとの間にグロスマンの存在があったんです。
つまり、時空の歪みを数値化するには計量テンソルの概念が必要だったという事ですかね。
一応サイトで調べたんですが、テンソルとは線形的な幾何概念を基底を選ぶことで多次元の配列として表現できるモノとありますがね。
全く解りましぇーん(-_-;)
m行n列(m,n)の”位置の歪み”を全て計算するには、これらの配列を纏めて掛け合わせる必要があります。リーマン幾何学(歪んだ空間の幾何学)がガウスやリーマンにより”位置の幾何学”と呼ばれてたのはそのせいで、この”位置の歪み(幾何学量)”を計算するツールが”テンソル”なんです。
”リーマンとガウスとアインシュタインと、その1”も参考にして下さいな。