昨日に引き続き、”鏡張りの部屋”ブログです。前回”その27”では、重症のレオニーに凶悪犯の写真を見せ、該当者がいなかった事で最悪を免れた所まででした。
マーロウは車の中で思いを巡らせた。
”レオニーは必死で抵抗したに違いない
だとすれば、彼女の爪か何かに
犯人の皮膚か髪の毛が付着してるに違いない”
マーロウはすぐに老支配人に電話した。
”支配人ですか?マーロウです
急な事で恐れ入りますが
レオニーさんの身体はもう洗いましたか?”
老支配人は寝てる所を叩き起こされ、要を得ない。
”えええ?レオニーの身体を洗ったって?
いやそんな事はない筈じゃがの
それにまだ、傷口が完全に
塞がってる筈がないじゃろうし
ちょっと待ってよの
カミーユを呼んでくるからの”
起きたばかりのカミーユが慌てて電話に出る。
”いいや、まだ洗っちゃいないわ
お医者さんのOKが出るまでは
洗っちゃいけないと言われてたから
そのままよ、何かマズい事でも?”
マーロウはホッとして息を呑んだ。
”ああ、良かった、それは良かった
では、今から言う事を行動に移してくれ!
レオニーの指の先の爪を全部切って
ビニール袋に入れるんだ
爪の先に何か付着してるかもしれないから
それも残さずに丁寧にな
爪を切る時はゴムの手袋をはめて
下にはテッシュを敷いとくがいい
今から、それをもらいに行く
わかったな、絶対に自分の指紋は付けるな”
カミーユはレオニーの爪を見た。
”何か泥みたいなものが付着してんだけど
それもビニール袋に入れておくのね
つまり、犯人の手がかりってこと?”
マーロウは再確認する。
”必ずゴム手袋を付けて行うんだぞ
今からすぐにそこへ向かう”
カミーユは薄手のゴムの手袋を付け、下にテッシュを敷き、レオニーの爪を1つ1つ切り始めた。泥と言っても赤黒い粘着物に見えた。
目を覚ましたダーレムが、カミーユに近づく。
”何やってんだ?LA捜査官のつもりか?
大げさに、ゴム手袋なんぞはめちゃって”
カミーユは神経質そうに呟く。
”バカ言わないでよ!証拠よ証拠!
レオニーさんを襲った犯人の証拠よ
向こうに行っててよ、邪魔なんだから
異物が混入すると、捜査がオジャンだわ!”
すると、マーロウが老支配人と共に姿を表した。
”夜分にすまない、俺とした事が!
一番肝心な事を忘れてたなんて
偉そうな事ばかり言いすぎた罰だな?”
カミーユはレオニーの爪が入ったビニール袋を差し出した。
”こんなんでいい?
何か血が混じった泥の様に見えるけど?”
マーロウは煙草を取り出した。
”必死で抵抗したんだろうな
満身の力を込め、10本の爪で思い切り、
犯人の首や顔を引っ掻いたんだろう
よく生き延びてこれたよ
犯人の顔か何処かに大きな傷跡かなんかが
残ってれば、一目瞭然なんだがな”
老支配人はポツリと呟いた。
”意外に早く、レオニー殺害未遂の犯人は
捕まりそうじゃの、でもないかの?”
ダーレムは叫ぶ。
”そんな簡単じゃないだろ?
プロの殺し屋だったら、一撃であの世行きさ
多分、雇われ?かもしれないね
映画に出てくる様なアサシンとは違うかな”
マーロウは煙草をゆっくりと蒸した。
”そう焦るなって
プロだろうと、雇われだろうと
しくじった事は事実なんだ
そこには証拠ってもんが残る
殺し屋を雇うにしてもだな
雇う側と雇われる側の
微妙な駆け引きってもんがあるんだ
映画なんて所詮、マンガや御伽話に過ぎんさ”
老支配人はマーロウに食事を進めようとした。
”カミーユ!悪いが
何か簡単なものを作ってきてくれんかの
マーロウさんもお腹ペコペコだろうし
ダーレムも何も食っとらんじゃろ?”
立ち上がろうとしたマーロウは、静かに腰を落とす。
”今日はここで非番とするかな
最近は張り込みが多くて
車の中での食事が殆どなんです
支配人のご好意、甘えさせて頂きます”
老支配人はふとため息を漏らす。
”大麻が合法化されて、
ますます薬物犯罪が地下へ潜るの?
いつからこんな国になったんじゃの”
ダーレムが首を横に振った。
”多分、薬物犯罪は減ると思うよ
しかし、精神薬を処方する
医者の犯罪は増えるんじゃないかな”
マーロウは頷く。
”結局、毒性の高い禁止薬物を
闇ルートで手に入れるか、
処方させて手に入れるか、の違いだもんな”
カミーユがサンドイッチとフライドポテトを運んできた。
”こんなものしか作れなかったけど
お口に合うかしら?マーロウ様?”
その時、探偵の携帯が派手に鳴り響いた。
マーロウの表情が一瞬曇った。
”わかった、今すぐ行く
遺体はそのままに、誰にも一切触らせるな”
ダーレムが呟く。
”マーロウさん、まさか”
マーロウは頷いた。
”ああ、そのまさかが起きたみたいだ
アンタが言った様に、降り出しに戻ったかな”
カミーユが言い放つ。
”悪い事ばかり考えてもキリがないわ
死んだ者は生き返る筈もないし
ここでゆっくりと食事でもしましょ?
せっかく作ったんだから、
一口くらい食べてってよ”
老支配人も頷く。
”その通りじゃ、マーロウさん
カミーユ嬢の言うとおりじゃ
ここは一息入れようじゃの”
マーロウは再び腰を落とした。
”今回は私の負けですね
ある程度予想はついてたんですが
逃げ切れなかったんだな、殺し屋からは”
ダーレムは尋ねた。
”という事は、レオニーを襲った雇われ犯は、
最初から始末される運命にあったと?”
マーロウは頷く。
”ああ、ただ頭部をキレイに撃ち抜かれてる
ひょっとしたら、スナイパーの仕業?かもな”
カミーユは呟いた。
”ますます迷宮入りになっちゃったわ
探偵さんの仕事も大変ね
何だか同情しちゃうな”
マーロウはサンドイッチを口一杯に頬張ると、静かに部屋を出ていった。
老支配人が別れ際に何かを囁いたが、マーロウには聞こえる筈もなかった。
”全く、嫌な世の中じゃの
こんな世に時代に、長生きしたくはねぇ〜
ああ早くお迎えが来て欲しいのよの”
カミーユがすかさず遮る。
”何バカな事言ってるの?
お酒でも飲んで、気分を変えましょ?”
ようこそ、
我がホテルカリフォルニアへ
🎵ここは素敵な場所でしょ🎵
🎵ここは素敵な人達でしょ🎵
でも運び屋のチンピラみたいですね。
犯人がギリギリで上手く逃げた所を見ると
少し複雑な展開になりそうですが
でも死者が出た事だけでも良しとするか^_^;
29話は書き上げたんですが、展開が早くなりそうです。ただ、殺された運び屋をどう生かすかですが。今後期待です。