チェ・ミンシクの演技ばかりを高評価する声が殆どだが、彼の世界の全てを包み込む様な暖かさと、丸みを帯びたシリアスな演技力には私も脱帽する。
先日もブログにした「不思議な国の数学者」でも実に人柄のいい理想の数学者を演じきっていた。だが、私の中では今回の「沈黙、愛」での主役がもう1人いる。
それは、巨大ゲーム会社の代表を務め、様々なビジネスへの投資も行うブローカーでもあるイム(チェ・ミンシク)の婚約者で、美人で有名歌手のユナを演じる(イ・ハニ)という女優(兼モデル)さんだ。
このアバズレ女が・・
母の死に大きく心を痛め、父の再婚相手を”アバズレ”呼ばわりし、嫌悪感を顕にする娘のミラ(イ・スギョン)に対し、この女優さんは高潔で柔和な美人と狂気の女という2面性を見事に演じている。
”アンタはお金目当てで私の父を奪ったのよ!”と娘は再婚相手に、元カレとのSEX動画を見せつける。
”これはお父さんも承知の上だわ。それにお父さんはアナタの事をとても愛しておられるし、私も大好きよ”とユナは娘を上品に諭す。
”ウソばっかり、アンタは唯のSEX好きな淫売女よ”と娘は突っぱねた。
”私はアナタが心配なの。それに、お父様の事も考えて頂戴!”と、ここでもユナは何とか冷静さを保つ。
”このアバズレ女が・・・”
この瞬間、高潔な美人女はウォーっとお叫びを上げ、狂った狼の様に豹変する。
”アンタなんかね、あの人も言ってたけど邪魔者なんだよ。それに私にとっても大きな迷惑なんだ”
この言葉に娘の心は大きく抉られ、心底ブチ切れた。すぐに2人は壮絶な取っ組み合いになるが・・この後に起きる事は言わなくても想像できるだろう。とはいえ、私にとってこのシーンが、感動が集結したエンディングよりも、卓越したクライマックスだったのは言うまでもない。
権力と富を支配し、更に愛さえも手に入れ、輝かしい人生を送る筈のイムだったが、彼の婚約者ユナが無残に殺され、娘のミラが殺人容疑で逮捕されるという最悪な事態に陥る。
娘の潔白を証明する為、イムは自身で極秘に事件の調査を開始し、チェ(パク・シネ)という弁護士になりたての若い?女を雇うが、この女は情に脆く、オツムも弱い。
つまり、イムは最初から事件の決着を自分自身の力でつけようと考えていた。言い換えれば、計画達成の為には、自分の意のままに操れるアホな弁護士が会長には必要だったのだ。
但し、私利私欲に塗れた権力者を演じるチェ・ミンシクもまた、愛と情に脆い男という2人の人物を上手く演じきっている。
当然、検察当局と弁護側双方の証言は食い違い、法廷闘争はヒートアップするが、イムからすれば、この様な泥沼の裁判劇も子供のお遊びみたいなものである。つまり、全ては彼の掌の上で転がっていただけなのだ。
但し、娘の殺人を自分の殺人に置き換える為に、用意周到かつ緻密なまでに計画を練り上げ、証言の決め手となる監視カメラの映像を作り上げるシーンだが、娘と婚約者のソックリさんを利用する事自体、流石にやりすぎであるし、映画的にも現実的にも無理がある。
つまり、婚約者はイム会長により殺されるべきだったし、”愛”を描くのなら、そっちの方がスムーズに伝わったのではないか・・少なくとも娘が殺すべきではなかったし、殺す必要もなかった。
最後に〜才色兼備と熟成された妖艶さ
そうした不足や余計も指摘できなくはないが、そんな不満も美人歌手を演じたイ・ハニさんの高質な魅惑と鬼気極まる演技に、すっかり見惚れてしまう自分がいた。
女は表層上の薄っぺらな見かけではなく、内面を奏でる高貴な気品さが最後には決め手になるのだろう。そう思わせてくれる女優さんである。
因みに、この女優さんだが、父は元国家情報院第二次長で、母は国家無形文化財に指定されている梨花女子大学校教授。更に姉は伽倻琴演奏者という札付きの名家の出身である。
本人も梨花女子大学院の出で、2006年ミス韓国の優勝者である。07年ミスユニバース世界大会では第4位に輝き、才色兼備を地で行く様な韓国美女である。
映画の撮影当時(2017)は34歳と、熟成と豊穣を感じさせる非常に魅力ある女優さんだが、つまり、私の女を見る目はまだまだ錆びついてはいなかった事になる。
という事で、私の欲望を満たしてくれた映画であった事は言うまでもない。
追記〜夢の中で
私には、ある映画を見るとその作品に登場する女優が夢に出るという、珍しいジンクスを持っている。
いつもの様に夜中に起き、この記事を書いてたら急に眠くなったので、床についた。
夢の中で私は超豪華ホテルの駐車場にいた。男4人と女1人のある怪しげなグループだったが、その紅一点の女性がイ・ハニさんだったのだ。
彼女は映画で見るよりも少しは若く、30前後といった所だろうか、私には全てが理想の女性に映った。
夢の中で私と彼女はデキていた。
連れの1人が”お前らいつ結婚するんだ。早くしないと賞味期限が切れちゃうぜ”とぶっきらぼうに叫ぶ。
女は恥ずかしそうに下を向いてたが、気を利かした私は”ただ付き合ってるだけだ。そんな仲じゃない”と敢えてウソをついた。
皆は判っていた。こんな強盗紛いの仕事をしてれば、まともな結婚なんてできやしない事を・・・だから、景気づけに言ったのだろう。
心の中では連れの言葉に感謝したのだが、態度に出す事はタブーである。つまり、悲しいかな俺たちは一生を警察に追われる犯罪者なのだから・・
彼女は非常に落ち着いた知的な女性で、私の要求を全て満たしていた。しかし私から求婚する事は避け続けていた。つまり、彼女には男を選ぶ権利と大切な未来がある。
それに彼女をこの世界に引き込んだのは私なのだから・・
しかし、そう思う程に2人の関係はより深く濃密になっていく。彼女と一緒にいる時は全てが暖かく感じられたし、私の全てを包み込む彼女の独特の抱擁感に、私は何も抵抗できなかったのだ。
”このままでは仲間から確実に潰される”
私たちは、この仕事から足を洗う事を計画した。その内容は、仲間3人を闇組織に売り飛ばし、彼らを始末してもらうのだ。
”本当に上手く行くのかな?”
”でも、それしか他に方法はないでしょ?”
”あの時、俺たち出逢っていなかったら・・・”
”今さら遅いわよ”
”前に進むしかないって事か・・”
”そういう事ね”
空を見上げると、私たちの後ろめたい心境を察するかの様に、真っ黒な雨雲が急速に覆ってくる。
”急ぎましょ”と彼女が走り出すと、私もそれに続いた。
その時、夢から覚めた。
これも偶然なのか?彼女が麻薬捜査班の刑事として紅一点で大活躍する映画「エクストリームジョブ」(2020)がある。
犯罪組織を検挙する為に、鶏の唐揚げ屋に扮した麻薬捜査班の奮闘を描くアクションコメディだが、韓国で歴代興行収入1位を、観客動員数も歴代2位を記録した大ヒット作でもある。
但し、この映画では、5名からなる麻薬捜査班が買い取ったチキン屋に国際犯罪組織が潜り込み、逆に麻薬の秘密流通計画を企む。全く、私が夢で見た真逆の展開だが、面白い程に似通っている。
原題が”極限職業”(극한직업=雞不可失)とは思わず笑ってしまうが、夢の中で見た私が追い詰められた状態も、同じ様に”極限”ではあった。
こうした空前の大人気作は、コメディと割り切って見るべきものだが、ドラマとして見ても魅入ってしまう。流石に終盤はネタが尽きたせいか、トンチンカンなコメディに傾倒した様に思えなくもないが、大いに笑える傑作でもある。
一方で、今ではすっかりオバサン系中堅女優に落ち着いた感のあるイ・ハニさんだが、今回は控えめで渋い演技が目立ったにも関わらず、私にはとても魅惑的に映った。
昨晩は、夢を挟み、3つたて続けに私が望む多くを満たしてくれる物語を見れた事は非常にラッキーでもあった。
という事で、韓国映画に乾杯である。
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