”その1”では、アメリカの起源となる西部開拓に大きく寄与した6つのネイションを長々と紹介しました。
アメリカ史においては、19世紀前半のアメリカが”ヴァージニア王朝”とも呼ばれる様に、1800年に第3代大統領となったトマス•ジェファーソンを皮切りに、建国初期の30年ほどの間、連邦政治の中核を占め、建国後のアメリカの基礎を築く上で重要な役割を果たしました。
それに、1803年にジェファーソンが仏領ルイジアナを購入しなければ、”西方拡大”は起こらなかった。
そこで今日は、残りの5つのネイションを紹介です。前回同様に"超大国を考える必読書"(gendai.ismedia) から抜粋です。
レフトコーストとファーウェスト
⑦レフト•コーストは独立後、西方拡大により新たに誕生したネイションだ。
地理的には、太平洋岸の北カリフォルニア以北の沿岸地域であり、サンフランシスコ、ポートランド、シアトル、バンクーバーを含む地域。太平洋岸の交易拠点として始まっていた所に、ヤンキーダムの人々がピューリタン的情熱をもって、海路で乗り込んできた。
でもなぜ?レフトコーストが単純に、ヤンキーダムの”西方飛び地”にならなかったのか?
それは、陸路で西方を目指した大アパラチア人の文化的特性もその地に流入してきたからだ。その分、ヤンキー的な公共善を目指す理想主義に、”大アパラチア”的な個人主義がブレンドされた文化が生まれた。
この公共善志向と個人志向の微妙な混淆は、北カリフォルニアに位置する今日のシリコンバレーにも影響を与えてる。
⑧ファー•ウエスト(極西部)は、レフト•コースト同様に建国後に新たに生じたネイション。
ロッキー山脈を抱える山岳地帯で、西方拡大に積極的だったヤンキーダム、ミッドランド、大アパラチア、ディープサウスの人びとも、容易には定住できないほど自然環境が過酷な土地であった。
そんな土地に入植するには、灌漑設備や鉄道などの社会インフラの整備が不可欠であり、住民が生存するには、大企業や連邦政府による資本や技術の供与が欠かせなかった。そこから大企業や連邦政府に依存しつつも、反感を覚えるという捻れた住民感情が生み出された。
実際、極西部が栄え始めたのは、太平洋岸に米軍基地や関連施設が建設された20世紀前半以後。その意味では新しい”人工的”なネイションでもある。冷房や空調設備の発明により、20世紀後半に大々的に都市化が進んだ地域でもある。
以上の8つのネイションが、アメリカ合衆国に直接的に関わるものであり、以下で述べる残り3つのネイションは間接的なものだ。
ヒスパニックの北進とイヌイット
⑨エル•ノルテは、アメリカ南西部のメキシコとの国境地帯に広がる地域であり、ヒスパニックの流入が続く事で急速に拡大した。
”ヒスパニックの北進”といわれる現象であり、それはまた、”カトリックの北進”でもあった。
この”北進”の源泉であるエル•ノルテは、トランプ大統領が”メキシコ国境沿いに壁を設けろ”と強硬に公約を示した様に、一部の(白人)アメリカ人にとって、彼らの生活や生存をおびやかす脅威として映っている。
しかし元々、南北アメリカ大陸への植民はスペインが始めた事であり、その点でエル•ノルテは、”11のネイション”の中でも古参である。
⑩ニュー•フランスは、フランスの植民地として始まったネイションで、今日カナダのケベックにその姿を残してるだけだ。
合衆国内ではミシシッピ川河口に位置するニューオリンズだけが、ニューフランスの飛び地であり、仏領時代にはメキシコ湾の商都•金融都市として栄えた。
その港町にカリブ海からクレオール文化が流れ込む事で刺激になり、ニューオリンズでジャズが栄えた事は、アメリカ文化史的に重要な出来事の一つでもある。
⑪最後にファースト•ネイション(インディアン)は、その名の通り、北米大陸への植民が始まる前からその地にあった”最初の/原初の”ネイション、すなわち原住民たるネイティブアメリカンを意味するが、本書の中ではカナダの北方に住む”イヌイット”の話にほぼ限定されてはいる。
故に、アメリカ合衆国には直接、影響を与えないものの、イヌイットの持つ強い環境倫理や共有志向の資源保有のあり方は、既にカナダの各種制度にも影響を与えている。
その為、回り回ってゆくゆくは合衆国にも影響を与えるのかもしれない。
ネイション間の格差
長々と11のネイション(国家)を紹介してきましたが、注意すべき点は、アメリカ史から見た時、この11のネイションが全て対等ではない事。
複数の州にまたがるネイションは、最終的に”投票”という形で連邦政治にも影響を与えた事を考えると、建国当初から存在し、西方に拡大したヤンキーダムやミッドランドや大アパラチア、ディープサウス(深南部)の影響はやはり別格だ。
勿論、レフトコーストやファーウエストの新ネイションにしても、この4つの西方拡大ネイションの衝突による、意図せぬ交配から生まれた新種だった。
一方で、アメリカの文化的多様性を知る上で、移民たちの文化的起源を辿るという議論の組み立て方は、著者のウッダードの定番中の定番でもある。
例えば、デヴィッド•フィッシャーの「イギリスの種」(Albion’s Seed=1989年)はその代表でもある。
フィッシャーは、アメリカに根付いた”イギリスの種”として、イギリスの4つの地域(東アングリア、イギリス南部、ミッドランド、ボーダーランド)から、それぞれアメリカの4つの地域(マサチューセッツ、ヴァージニア、デラウェア、バックカントリー)へ移民した人びとの習俗を事細かに追っている。
このうち、マサチューセッツが”ヤンキーダム”に、ヴァージニアが”タイドウォーター”に該当するのはすぐにわかる。
しかしデラウェアは、”ミッドランド”の人々が上陸した場所であり、バックカントリーは”アパラチア”の背後を意味する。つまりフィッシャーは、ウッダードが本で取り上げている地域については既に扱っていた事になる。
その上で、ウッダードのこの本がユニークなのは、従来なら”南部”という言葉で一括りにしてたものを、”タイドウォーター”と”ディープサウス”に分けた事であり、ディープサウスの文化•慣習の由来を、カリブ海のバルバドス領に求めた所だろう。
つまり、イギリス本土の文化ではなく、すでにプランテーション経営が成り立っていた入植地時代の社会の文化が、アメリカの起源の雛形になっているという所だ。
この点は今日のアメリカにて、サウスカロライナやアラバマなどディープサウスの”頑なさ”が際立っているだけに興味深い。
最後に〜国の集合体としてのアメリカ
長くなってきたので、今日はここまでです。2回に渡り、11のネイションのアメリカを紹介してきましたが、アメリカを州(ステイツ)ではなく、国(ネイション)の集合体として考えると、アメリカという巨大国家の奥行きと末広がりを感じますね。
独立して僅か240年余りと、我々長い歴史を持つ日本人はこの新大陸をバカにしがちですが、独立前後のその歴史は濃密で複雑でとても奇怪なものです。
「アメリカは食べる〜アメリカ食文化の謎をめぐる旅」(東理夫 著)という本で、アメリカの全てを知ったつもりでいましたが、文化圏(ネイション)で振り分けたアメリカは別の一面を表しています。
人は地理的なものや、民族や宗教や人種のみで存続してるものではなく、共通の理念や思想や思念に哲学など、そういうものでも強く結びつくんだなと痛感させられますね。
最後の”その3”では、アメリカ合衆国(ステーツ)という名の仮面に隠れたアメリカ連合体(ネイションズ)について纏めたいと思います。
地理や人種や肌の色などのハード的なものよりも、思想や趣味や哲学などのソフト的なものがネイション間の結びつきを強くするとはユニークな視点です。
その3も期待してます。
一度参照されるとイイと思います。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB%E5%90%88%E5%B7%9E%E5%9B%BD
著者は、”The Divided Nations of America”と言い表してますから、分離独立国家となりますが、何れにしても何を基準にして分けるかというのも興味深いです。
最初はあまり興味なかった記事ですが、書いてる内に深く興味を覚える様になりました。その3では、新たなアジア系移民で纏めるつもりです。
わざわざ著書とサイトの紹介と有難うございます。とても参考になります。
肌の色か宗教か思想か
新大陸とはもはや死語で、今や単なる帝国支配型の旧大陸ですもの。