夢の中で、私はある老人のそばにいた。
その老人は100歳近くになるというのに、元気そのものだった。まるで権力の申し子の様な男で、半永久的に生き続ける生命力の塊のようにも思えた。
事実、日本はその老人を中心に回っていた。
その老人は私を含めて3人の世話人を雇っていた。1人は巨漢のボディーガードで、もう1人は身の回りの華奢な世話男で、3人目の私は運転手である。
給与は私と世話人が一番低かった。
私の友人でもある世話役は、常日頃からこの老人を気に食わないでいた。勿論、私も同じだったが、この世から消すには、老人の横に常にピタリとくっついて離れないセキュリティガードの存在がとても邪魔であった。
老人は毎日3回、ある薬を呑んでいた。
それは強心剤の類のもので、殆ど機能してない筈の心臓を強制的に押し動かす原動力となるものである。カプセルの中身はウコンの粉みたいな黄色い粉末であった。
その薬を差し出す世話をする友人は、大胆で安直な考えを私に打ち明けた。
”カプセルの中の薬を入れ替えよう。俺は何年もあの老人にこの薬を提供している。絶対に見抜かれる事はない筈だ”
絶対にバレるって!
私は同意できなかった。
”絶対にバレるって!ガキでも考え付くような無謀なプランは止めた方がいい。確実にアンタは殺される”
友人は首を振った。
”俺はあの老人から信頼を得てる。じゃなかったら、俺が差し出した薬を疑う事なく飲む訳がないじゃないか。3年以上もその信頼関係は続いてんだぜ!”
私は首を振った。
”たかが3年くらい、信頼とは言えないね。それに信頼と契約は(ある日突然)打ち切られる為にある様なもんだ”
友人は笑っていた。
”今回ばかりは君の提言は受け入れる事は出来ない。だって、老人にピタリとくっついて離れない大男は外敵の脅威に神経を尖らせてるから、目の前の当たり前の脅威には気づかない筈だ”
私は笑えなかった。
”300%見破られる。絶対に止めた方がいい!身内を一番最初に疑えって諺もあるだろう。あの老人もそろそろ俺たちをクビにするいい機会だと思ってるかもしれん”
”だったら、このままあの老人を好き放題にのさばらせておくのか?権力の中枢に一番近い俺達が今に手を打たなかったら、誰が正義の剣を振り落とすんだ?”
”いや、まだ時期が早すぎる。もう少し衰えてから、セキュリティガードの大男が老人の背後に回りこみ始めた頃こそが、ジャストタイミングだと思う”
”あの大男に殺されてからじゃ遅いじゃないか!その前に始末しないと”
私は友人の暴走に嫌な予感がした。
”もう少し時が経てば、あの大男にも欲が出る筈だ。そうすれば、老人は男に警戒が拡散し、我らは手薄になる。その時、二人を一度に始末する方がより効率的だし、火の粉が降りかかる心配もない。そうは思わんか?”
友人は顔をしかめた。
”いや、そうは思わんね。今がそのチャンスだと思う。とにかく俺を信じろ!お前よりも俺の方がこの仕事は長いし、あの老人の事もよく知っている。とにかく心配するな、冷静に事を進めれば絶対に上手く行く”
”大男が動く前に、こちらが仕掛けるのか?”
”いや、すでに動いてるかもしれないし、そういう噂も耳にしている”
”つまり、今動かなかったら、全てが水の泡になるとでも?”
暗殺計画
友人は少し微笑んだ。
”その通り。僕のプランが少しは理解できたようだな。とにかく少しのミスも許されない”
私は彼を見つめた。
”計画は完璧なんだな?”
”ああ、ほんの少しのミスもない”
友人は強心剤の黄色い粉末の成分を徹底的に調べ上げていた。そして、それに近い匂いと色の粉末状の劇薬を用意していた。つまり、毒薬ではなく劇薬を使い、心臓を停止させるプランである。
回りから見れば、心臓発作による死亡と判断される確率が高い。それに劇薬は希釈すれば、普通のカフェインやインスリンらと何ら変わりはなくなる。
つまり老人の死後、胃の中に水を入れて希釈すれば、劇物の証拠はなくなる。
これが友人の考え抜いたプランだった。
私は少し疑う部分もあったが、今すぐにでも腐った権力を抹殺したいという動機では、友人の方が純朴で強かった。故に、多少の不安や疑問もあったが、友の”正義の剣”に賭ける事にした。
その日がやってきた。
老人はいつもの老人だった。3度の食事のあとに友人が薬を差し出すのだが、この日に限っては老人は私を指名した。
私は、友人が予め用意していた劇物入りのカプセルを手渡した。
老人の隣にいた大男が私を睨みつけた。
すると老人は、カプセルをこじ開け、黄色い粉末をテーブルの上にばらまいた。
”こんなんで、この俺様を殺せるとでも思ったか?この間抜け野郎どもが!”
老人の横にいた大男は私の方へ向かってきて、左右のメガトン級の重たいフックを私のこめかみにガツンと見舞った。何も抵抗できなかった私はその場で倒れ、そのまま気を失ってしまった。
意識が回復すると、友人が血みどろになって死んでいる。顔や身体の原型がなくなる程ボコボコに潰され、まるで大きな合挽きミンチを眺めてる様だった。
私は膝が震え、何も言葉を発する事が出来なかった。権力の真の怖さを知った瞬間だった。
その時の老人の眼差しは、恐怖そのものであった。そしてその時、夢から覚めた。
最後に
”祖国か死か”の発言で有名な、20世紀最高の革命家とされるチェ・ゲバラ(写真)が、ボリビアの奥地で(CIAの命令で)政府軍兵士に銃殺された後、両手を切り取られ、その場に埋められた。
ゲバラは右脚と左胸と首に計3発の銃弾を受けたが、まだ生きていた。
銃殺される間際、彼は呟いた。
”よく狙いを定めて撃て!この臆病者めが!お前の目の前にいるのは英雄でも何でもない、ただの男だ”
ゲバラはこの時、何を思ったであろうか?権力の恐ろしさに慄きながら死んでいったのか?それとも、権力の愚かさと臆病さを見下しながら死んでいったのだろうか?
そう思うと、私は100回怖い目に遭ってもゲバラみたいに勇敢に振舞えそうにもない。
つまり、権力に怯えたまま、哀れな人生を終えるのだろうか?
少なくとも夢の中では、権力に怯えたまま何も出来ないでいる自分だったのだから。
お元気でしたか?
ブログ更新されてほっとしましたよ~
葬儀後の名義処理や接待が結構面倒で、
香典返し以外は一通り済んだので
ボチボチ再開しようかなと
これからも宜しくです。
ビコさんの記事にコメント載せてましたから
気分転換にはなってました。
毎日は無理としても
出来る範囲で書いてきたいと思います。
これからも宜しくです。