象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

ゼレンスキーの正論とトランプの暴走〜会談決裂の詳細と本質を追う

2025年03月03日 14時25分16秒 | 戦争・歴史ドキュメント

 某フォロワーの「記事」”(今回の交渉決裂には)深い諦めと静かな絶望を抱いている。(もしトランプにゼレンスキーが屈してたら)世界は(力の論理が支配し)取った者勝ちの無秩序状態になる”とあった。
 全く同感である。

 今回の交渉決裂を一言で言えば、タイトルにも書いた様に”ゼレンスキーの正論とトランプの暴走”である。
 現状維持での停戦交渉とレアアース合意を画策するトランプと、安全保証の確約を得る事で領土を取り戻したいゼレンスキーの間には、最初から大きな隔たりがあった。更に、プーチンに肩入れするトランプと彼を憎悪するゼレンスキーとでは、その隔たりを埋める事は大方不可能にも思えた。
 それでも、両者がホワイトハウスで首脳会談を行ったのは”停戦”という共通項があったからだ。ただ停戦の為には、レアアース合意と安全保障の確約という相容れない重要な要素を含んでいた。


”無礼”なのはどっちだ

 結果から見れば、バンスの言い掛かりに、ゼレンスキーが正論で応え、トランプがブチ切れて会談は破綻したが、ボクシングで言えば、膠着状態に苛立ったトランプが”力の論理”で罵倒するも、有効打はゼレンスキーの方が多かった。
 明らかに、”無礼”なのはゼレンスキーではなくバンス副大統領の難癖にあり、停戦の約束を破り、一方的に侵攻したのはプーチンだ。ゼレンスキーはプーチンの非法な残虐行為を訴え、安全保障の確約を得る為にホワイトハウスに来たが、トランプのプーチン寄りの姿勢に、ゼレンスキーの”交渉が通じる相手ではない”との警告を、自らへの侮辱と履き違えたトランプがブチ切れた。

 確かに、会談終盤でのトランプの怒りの発言は全てが矛盾している。ゼレンスキーが言う様に”カードゲームをしてる”のも”数百万人の命でギャンブルをしてる”のもゼレンスキーではなくトランプであり、”第3次世界大戦を引き起こそう”としてるのは明らかにプーチンである。
 それに”相当まずい状況にあり、カードがない”という前提で言えば、”老いた”トランプ帝国も同様である。
 事実、殆どのメディアが、会談開始後40分過ぎのこのバンスの発言をキッカケに空気が一変したと見ていた。
 だが、果たして本当にそうだったのだろうか?

 そこで、(NHKが公開した)両首脳の会談中に行われた対話の全文を注意深く追う事にする。まず、序盤から中盤にかけては、両者に相違や食い違いは見られたが、双方で事前に用意されたシナリオ通りに話し合いが続いてた様にも思えた。勿論、メディアが言う様に”温度差”はあったものの”順調”にも思えた。
 ただ、正論と正直を真っ向から訴えかけるゼレンスキーに対し、トランプのコメントは無理にこしらえた苦し紛れの弁解や下手な策略にも思えた。特に、プーチンを庇い、前バイデン政権を露骨に批判する態度には異和感を覚えたし、明らかに無理があった。
 それでも、”交渉に長ける”トランプは終始饒舌だったし、ゼレンスキーの正論と訴えを上手く躱し、自分のペースで対話を進めてた様にも思えた。事実、表情にも余裕が見て取れた。
 以降の展開の詳細は「やり取り全文(前・中・後編)」を読んでもらうとして、気になった部分を抜き出して紹介する。
 それは、会談の中盤辺りの事だが、”停戦だけではだめだ・・・プーチンは25回も停戦を破った”とゼレンスキーがトランプの不足を指摘すると、”彼は私には約束を破らなかった”とトランプが返した辺りから、両者の雰囲気が怪しくなる。

 ”その時(2014年)、貴方は大統領ではなかった。それに、安全の保証は文書だけでは十分ではなく、強い軍隊がなければ国を守る事はできない。プーチンはこの会談の日も(それを知ってて)病院や学校などに弾道ミサイルを使った。それは彼は侵攻を止めないし、ウクライナを破壊するつもりでいる。つまり、合意や文書だけではプーチンを止めるには十分ではない”とゼレンスキーは正直な気持ちを訴えた上で、”全てにはルールがある。戦争を始めた者がその代償を全て払う。プーチンがこの戦争を始めたのだから、彼が修復の為に全額を支払う義務がある”と正論をトランプにぶつける。
 ここで”貴方はロシアとウクライナ、どちらの立場をとりたいのか?”と記者が意地悪に問うと、”私は中立で両方の味方だ。誰か(プーチン)の事を悪く言うのもいいが、私は解決したい”と、トランプは苦し紛れに切り返す。
 プーチンを度々庇うトランプに嫌気が差したゼレンスキーは”この戦争はロシアとアメリカの交渉ではなく、プーチンによるウクライナとウクライナ国民に対する冒涜と侵略であり、欧州全体に向かう戦争なのだ”と、今回の戦争の本質を語り、”欧州との結束が如何に重要か”を説いた。更には、”我々が踏み留まらねば、アメリカが戦う事になる”とゼレンスキーはトランプに釘を刺す。


ブチ切れたトランプと苦し紛れの弁解

 その後、”ウクライナを訪問する気はあるのか?”との質問が飛ぶと、”オデーサについて話す必要はない。交渉を纏め、平和を得る事しか考えていない。それに多くの都市が破壊され・・”とトランプがウクライナ訪問に消極的な姿勢を見せると、”我々を破壊したとの情報を伝えてるのはプーチンだ。逆に、彼は70万もの人々、70万の兵士を失った。いま彼は全てを失ったのだ”と、ゼレンスキーが切り返し、トランプに傾いてた対話の流れが完全に逆転する。
 追い打ちを掛ける様に、”プーチン大統領が平和を望んでると確信させる様な事を言ったのか?”と、懐疑的な質問が襲う。
 ”それが私の仕事だ。私はプーチン大統領の事を本当に長い間知っている。彼はロシアの偽装に苦しんでいたが、それは全てバイデンのせいだ。プーチンには何の関係もないし、彼は取引をしたいだけだ”と、追い詰められたトランプは苦し紛れの弁解に必死だ。

 更に、”レアアースの一部はウクライナ東部にあり、ロシアが占領している地域にあるが、その地域からロシア軍を撤退させるようプーチンに言えるのか?”と、現実的な質問が飛ぶ。
 ”まあ、様子を見てみよう。合意はそれらを守る筈だし、我々は合意に署名すると、トランプが何とか切り返すが、”もしロシアが侵攻したらどうするのか?”と、意地悪な意見が重なる。
 ”そんな事は起きないだろうと言ったばかりだ。もしそうなるなら私は取引をしない。こんなバカげた質問をすべきではない。視聴率が非常に低いCNNは生き残る事にに集中しろ”と、トランプは完全に機嫌を損ねた。

 会談開始から約40分後、”プーチン氏に肩入れし過ぎてるとの声もあるが”との質問が飛んだ時から、会場の雰囲気が一変した。
 ”中立の立場でないと取引は成立しない。私がプーチン氏について酷い事を言うのを望んでる様だが、それでは上手くいかない。
 勿論、プーチン氏に肩入れなどしてはいない。誰にも肩入れしないし、アメリカに世界の為に肩入れしてるのだ。私は戦争を終わらせたいし、誰かに肩入れするという問題ではない。勿論、あなたがこれまで見た事ない様な厳しい人間になる事も出来る。が、それでは交渉は成立しない”
と、トランプの饒舌にも陰りが見え、ゼレンスキーの正論に圧倒されていくのが見て取れる。
 これから以降は、多くのメディアで報道されてる様に、バンス副大統領の余計な言い掛かりが、いやイチャモンが場の空気を大きく変える事になる。本人にしたら、トランプ大統領に助け舟を差し出したつもりだが、既に後の祭りであった。

 これ以降は、上述した様に追い詰められたトランプがブチ切れ、会談は破綻。
 だが、終始一貫して、正論と正直を冷静さを失わずに訴え続けたゼレンスキーは、戦時の大統領らしく誇らしげにも思える。
 一方、トランプと言えば、会談の最初の30分ほどは上手く躱してはいたが、取ってつけた様な薄っぺらな交渉術では、最初から限界と矛盾は見え透いてた。勿論、これこそが老いたトランプ帝国の現実かもだが、ルールを無視した”力の外交”の限界を感じさせた瞬間でもあった。
 

最後に

 一方で、非常に気になってたのがトランプの発言が相手国によってコロコロと変わってる事た。正直、今回の決裂は想定外であったし、トランプのプーチン寄りが加速してたのも意外だった。と言うのも、トランプにはディールに関するカードと余裕があり、冷静に対処するだろうと思ってたからだ。
 更に言えば、ゼレンスキーがバンスに言った事は全くの正論で、プーチンに交渉による外交は全く通用しない。つまり、これ以上プーチンに”力の行使”を許せば、世界秩序はバラバラになる。
 そのバンスだが、今回の会談の前に、ウクライナと結束する欧州の民主主義にケチをつけ、亀裂を入れる足場を作ってもいた。つまり、バンスは口を出すべきではなかったし、トランプは彼を養護すべきでもなかった。それだけ、トランプ一人では心元無かったと言えば、それまでだが・・・

 事実、今回の決裂はEUや(米露を除く)世界の結束を生み、トランプがこれ以上ロシア寄りになれば、中国はEU寄りになる事もあり得る。勿論、超大国の論理がまかり通り、米中露が結束する可能性も排除できないが・・ 
 事実、ウクライナ援助に関し、欧州と米国に亀裂が入るのは大方予想された事でもあり、関税対策で孤立化するトランプ政権を睨み、中国がEUに急速に接近するのは合理的戦略でもある。一方で、大国の論理で見ても、中国経済はロシアの遥か上を行くし、”老いた”アメリカを凌ぐ勢いである。故に、米中露が結束する確率はかなり低いと見れる。

 仮に、ゼレンスキーが事前に米中を天秤にかけ、ホワイトハウスに向ったとすれば、オッズ(期待値)で見れば、トランプが言う様にウクライナは不利だが、ディール(駆け引き)で見れば、終始冷静に振る舞ったゼレンスキーが優位に立った様な気がする。
 勿論、トランプが切れた事でウクライナへの援助を停止する口実は出来るし、米露だけで停戦合意を結ぶ事も不可能じゃない。
 しかし、物事にはルールがあり、政策には論証と論理が必要だ。
 これも結果論だが、”交渉人”トランプは老商人らしく賢く振る舞うべきだったが、役者のゼレンスキーが台本に忠実に巧く演じた様にも思えた。

 因みに、会談の決裂を受け、メドベージェフ前大統領(露)はゼレンスキーの事を”恩知らずな豚”だと語ったが、”キレた豚”はトランプであり、”狂った豚”はプーチンとも言える。


補足〜老いたトランプ帝国の孤立と限界

 米大手ファンドのBWアソシエーツ社の創業者レイ・ダリオ氏は自著「The Changing World Order(変わりゆく世界秩序)」の中で、”時の覇権国は同じ様な衰退パターンを辿ってきた”と分析する。
 ダリオ氏は”覇権国はその繁栄の絶頂期に基軸通貨の強みを活かし、世界中から資金を集め、圧倒的な軍備を構築し、その一方で、国民に豊かな暮らしを提供する為に世界中から膨大な物品を買い集める”としている。
 その結果、①巨額の財政赤字と貿易赤字に苦しみ、②その為に貨幣を大量に発行し、③無理な金融・財政政策の弊害が露呈し、経済的な苦境が深まり、④貧富の差が拡大して国内の分断・内乱を抱え、新興勢力の挑発(戦争)を受け、最終的には⑤経済的に破綻し、基軸通貨発行国としての地位を失う事で覇権の座から引きずり落ちる”と指摘。

 確かに、上の分析は現在の米国にピタリと当てはまり、①貿易赤字と財政赤字に苦しみ、②巨額の国債発行により世界中から資金をかき集め、③リーマンショックなどの経済危機を乗り切る為、大規模な金融緩和を繰り返し、④貧富の拡大から国内では分断が進む中で、⑤中国などの新興勢力の挑戦に直面している。
 そこで、改めてトランプの政策を再確認すると、その多くが”老いる帝国の衰退”を食い止める処方箋となってる事に気づかされる。
 事実、大統領就任の前から、関税引上げや不法移民の強制送還を訴えてたトランプだが、”カナダの併合”や”パナマ運河の奪還”に加え”グリーンランドの割譲”などにも言及し、その実現には”軍事的行使も排除しない”と発言し、関係国を当惑させ、自らを孤立させている。詳細は「衰退する帝国のトランプ」を参考にしたい。

 だが私的には、不法移民対策やパナマ運河やグリーンランドの件に関しては、トランプの巧妙な駆け引きと言うより、”老いた米国”の合理的戦略にも思えた。だが、関税の大幅引上げやカナダ併合は、トランプの強欲やエゴに近いものに映る。
 一方、日米の相互補完的な互恵関係との見方は、あまりにも楽観し過ぎると言うか、プラスの面ばかり見て、大局的な視点に欠けてると言えなくもない。
 他方、トランプの経済政策だが、①規制緩和や減税で米国経済の成長・競争力を高め②関税による国内産業の振興や資源エネルギーの増産・輸出により貿易赤字を削減し、③同盟国に応分の防衛負担を求める事で軍事費・財政負担の軽減を図り、④大胆なリストラ策で知られるマスク氏を起用し、大幅な財政赤字の縮小に取り組み、⑤覇権に挑戦する新興勢力である中国に対峙し、米ドルにも対抗できる準備通貨の候補として仮想通貨に注目し、米国の金融・経済システムに取り込むとする。
 以上がトランプの掲げる5つの政策だが、私には”老いる”アメリカの覇権を維持する為の苦し紛れの戦略にも映る。勿論、これこそが今のアメリカの致命的な弱点なのだが、トランプと同じで、人も国家も老いには勝てない。

 その一方で、日本は老いたアメリカに今までもこれからも巨額の投資を続け、不都合で不公平な、かつ期限切れに近い日米同盟を維持していくのだろうか?
 それこそ、トランプの政策と同じく”不確実”で”予測不能”な日本政府の政策に思えてくる。勿論、”老いた”とはいっても”寝たきり”ではなく、未だ”アメリカ1stの”残像と存在感が残る超大国ではあるが・・
 故に日本は、いつアメリカに見切りをつけるか?の心の準備も必要だろう。つまり、老いたトランプが寝たきりになる時、その時こそが覇権国家アメリカが朽ちる日になるのかも知れない。

 ”国の成り立ちは小さな発展から始まり、次第に力をつけて大きくなり、ピーク時には借金が膨大になる。その後ゆっくりと衰退し、更に衰退が加速し、最後は借金が立ち行かなくなり、戦争とインフレで覇権国は没落する”と前述のダリオ氏は予見するが、今のアメリカがまさにそれである。
 トランプが掲げる”アメリカ1st”はその裏返しとも言えるが、”アメリカは死なずただ消えゆくのみ”だとしたら、日本にとってはこれ程の皮肉もない。

 


4 コメント

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ボクシングで言えば (paulkuroneko)
2025-03-03 18:32:34
前半はともかく
中盤から後半にかけてはゼレンスキーが着実に正論をぶつけ、ポイントでもトランプを圧倒したように思えました。
終盤には、トランプに不利と見たバンスが自爆覚悟で応戦し、トランプもパワーゲームを仕掛けますが、ゼレンスキーは終始冷静でした。

言われる通り、メディアはバンスが横槍を入れた終盤の会話しか報道しませんでしたが、全体としてみてもゼレンスキーが圧倒してた様に思えました。
ボクシングと同じで、1つ1つのラウンドを商才に振り返ってみると、両陣営の駆け引きがよく見て取れます。
特に、ウクライナ側はゼレンスキー1人で徹底抗戦したのが、結果的にも印象を良くしました。
NHKもたまにはいい仕事しますね。
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アメリカは大丈夫か? (タック)
2025-03-03 19:59:08
トランプさんがやっていることを素直に受け止めると、アメリカの国力を下げることしかしていないように見えますね。自由貿易を放棄したら、国は衰退するのが、今までの歴史でしょうから。
4年辛抱したとして、民主主義の自浄作用に期待したいところですが、今はSNSのノリで変な方向に突風が吹きますから、どうなるかわかりませんね。
日本はアメリカの衰退に巻き込まれないように上手に舵をとってほしいものです。
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paulさん (象が転んだ)
2025-03-03 20:28:26
結構、記事を纏めるのに苦労しましたね。
特に、開始序盤でゼレンスキーがトランプの外交辞令を遮り、プーチンが殺人者でありテロリストで、”(奪われた)領土に対し妥協する事はできない”と釘を刺し、ロシアに誘拐されている2万人のウクライナの子供達や収監されている数千人の兵士達の事にも触れ、”私は幾つかの画像を貴方と共有したい・・1分、1分でいい。プーチンの態度(や蛮行)がどれほど酷いものかが理解出来ると思う”とトランプに訴えたのは、感動的でした。

勿論、トランプも必死で躱しますが、彼の弁明には限界と矛盾が見え隠れしてました。それでも自らのペースに引き込む辺りは、流石の交渉術でしたが、薄っぺらでゼレンスキーには見え見えでしたね。
そう考えると、勝つべくして勝ったゼレンスキーと切れるべくして切れたトランプの明と暗がハッキリと分かれた気がします。
プーチンは今回のトランプの失態を鼻で笑ってるでしょうが、中国やロシアの出方次第では、アメリカの孤立は一層深まるような気がします。
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タックさん (象が転んだ)
2025-03-04 03:24:39
真夜中に失礼します。
噂によると
会談の途中で
身内から交渉にストップが掛かってたみたいで・・それにバンスとトランプがキレたんでしょうか。

言われる通り
今のトランプ政権では、関税対策による自由貿易の冷え込みによってアメリカ経済が衰退する可能性も十分に考えられますよね。
逆に今回の決裂により、民主主義の自浄作用に期待したいんですが・・
この先、不透明感が強くなっていく様にも思えます。
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