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米国が外国の領土を、単に条約ではなく金銭取引で手に入れたのはカリブ海の西側バージン諸島が最後で、1917年にデンマークから購入した。それから100年以上が過ぎた今、トランプ大統領が世界最大の島グリーンランドをデンマークから買い取ろうと企んでいる。
勿論、デンマークは拒否したが、同島を買おうとした大統領はトランプが初めてではない。1946年に当時の大統領トルーマンが購入を提案したが、デンマークはその時も応じなかった。243年の歴史の中で、米国は何度も外国の領土を購入してきた。
例えば、現在のアリゾナ、ニューメキシコ両州の大半はメキシコから、フロリダ州はスペイン、アラスカ州はロシアからそれぞれ購入した。しかし、それは何世紀も前の事で列強が戦争し、条約交渉をし、新大陸の領有を争っていた開拓時代の話である。
”今やそんなのは通用しない”と、歴史学者で「How to Hide an Empire(帝国の隠し方)」(2019)の著者ダニエル・イマバールは断言する。
今では”フロンティア(辺境の地)はもはやなくなった”と認識でき、所有権のない地域は殆ど残っていない。別の言い方をすれば、”領土の拡張は他の強大な帝国の犠牲の上でしか成立しなくなったのであり、その地の先住民が犠牲になって勝ち取ったのではなかった”と彼は語るのだ。
略奪と買収のアメリカ史
某フォロワーの記事に”何でもお金で書ってしまう”アメリカの事が紹介されていたが、検索すると、イマバール氏の記事に辿り着く。
彼のこの著作は、未だ和訳は成されてはいない(多分)が、多くのアメリカ人ですら知らない”アメリカ帝国の隠し方”は(実質のアメリカの隷属である)日本人には必読の書と言えるのかも知れない。
領土を拡大し、帝国建設を進めたいとする野望が第1次世界大戦と第2次世界大戦の引き金になったのは言うまでもないが、イマバール氏は”第2次世界大戦後、世界地図は以前よりずっと固定化された”と述べ、”各国とも<広大な地続きの土地を併合しないまま世界に影響力を及ぼす方がより簡単に済む>事に気づいたのだ”と説く。
そこで、米国の主だった領土購入例を取り上げる。以下、「・・外国を何度も買ってきたアメリカの歴史」より一部抜粋です。
①1803年、ルイジアナ購入
米国は82万8千平方マイル(214万4510平方km)のルイジアナの広大な地をフランスから1500万ドルで購入。現在の価値で3億4千万ドル(1ドル=155円換算で527億円)に相当する。
この地はミシシッピ川からロッキー山脈に及ぶ、現在のアーカンソー・コロラド・アイオワ・カンザス・ルイジアナ・ミネソタ・ミズーリ・ニューメキシコ・ダコタ・オクラホマ・テキサスなどの15の各州に跨って広がっていた。
当時の大統領ジェファーソンは、ニューオーリンズだけを買い取る予定だったが、ナポレオン・ボナパルトはルイジアナ領全部を売却すると申し出た。
②1819年、フロリダ購入
1819年には、スペインとの間でアダムズ=オニス条約が調印され、スペインはウェストフロリダとイーストフロリダをアメリカへ割譲したが、両フロリダは現在のアラバマ・ルイジアナ・ミシシッピとフロリダ州北西部に跨る地で、かつてはスペインの植民地だった。
1810年、ウェストフロリダのアメリカ人植民がスペインからの独立を宣言し、大統領J・マディソンはこの反乱を好機と捉え、領有権を主張。15年には交渉を開始し、アダムズ=オニス条約では、米国は反乱の代償として500万㌦(現在の価値で1億100万㌦(同約170億円)を支払う事で同意。
また、ルイジアナ購入で得た地域の西側国境が画定され、スペインが領有権を主張していた太平洋岸北西部を放棄させ、代りにテキサスの主権を承認した。
③1848年、メキシコ割譲
米国が1845年にテキサスを併合するも、メキシコは外交交渉を拒否し、アメリカ=メキシコ戦争(米墨戦争)が勃発したが、米軍が圧勝し、48年にグアダルーペ・イダルゴ条約に調印し終結。メキシコは52万5千mile²(約135万9744km²)の領土を1500万㌦(現在の価値で4億8700万㌦(同755億円)相当で米国に割譲。
割譲した領土は、現在のカリフォルニア・ネバダ・ユタ各州とアリゾナ・コロラド・ニューメキシコ・ワイオミング各州の一部となるが、これらの地域に残ったメキシコ人に自動的に米市民権を付与し、メキシコ系米国人はそれまでの財産を所有する事を許された。
④1854年ガズデン購入(ラ・メシリャ売却)
米国は現在のアリゾナ州とニューメキシコ州の一部を取り囲む3千万mile²(約7769万9643km²)近くの地域を買い取る為に、メキシコに1千万㌦(現在の価値で3億500万㌦(同約550億円)相当を支払う。
米墨戦争は終結したが、両国間では緊張が続いていた。両国ともニューメキシコ南部からテキサス西部にかかるメシーラ渓谷(ラ・メシリャ)の領有を主張していた。だが、J・ガズデンによる交渉の結果、米国の南側国境が策定された。
”笑えない”アメリカ帝国の支配
⑤1867年、アラスカ購入
米国は60万mile²(約155万3993km²)近くのの地域をロシアから720万㌦(現在の価値で1億2500万㌦(同約193億円)相当で買い取った。アラスカ購入はロシアの北米への領土拡張に終止符を打ったが、ピョートル大帝は1725年にアラスカの探検に乗り出すも、永住植民者数が400人を超える事はなかった。更に、ロシアはアラスカの天然資源に関心を持っていたが、植民地政策の資金に事欠いてたから、後のクリミア戦争(1853~56)に敗れた後、大帝は59年にアラスカ売却を申し出た。
買収は南北戦争(1861~65)の為に遅れ、67年に米大統領A・ジョンソンが条約に調印したが、1959年まで州にならなかったという。
但し、これにはユニークな逸話がある。クリミア戦争から回復する為、ロシアは領土の一部を売り払ってお金に変えようとしたのは解るが、なぜ、お隣のカナダに売らなかったのか?それは、当時のカナダは自治権はあったが外交権はなかったし、もしカナダにアラスカを売ったら宗主国である(クリミア戦争で辛酸をなめさせられた)憎きイギリスに売るも同然の事態になるからだ。一方、当時の米露関係は今ほど厳しくなかったので、売るに支障はなかった。
ロシアはクリミア戦争が終わってすぐに話を持ちかけたが、アメリカは南北戦争中だったから交渉は進まない。8年掛かりやっと売却が決まったと思いきや、”いくら安くとも、あんな遠くのバカでかい冷蔵庫みたいな土地買やがって・・”と散々だったという。
売却額は1エーカー(4047m²)で僅か2セントというから、当時の金欠ロシアの苦悩も判るが、売却から約30年後にアラスカで金鉱が見つかったとの(笑えない)オマケ付きである。
この様に、アメリカ合衆国の領土は、他国から買った地域が半分程で、独立当初は東海岸側だけで、現在の合衆国領土の1/4程度だった。つまり、独立から80年ほどの間にこれ程の領土が広がれば、何らかの革命や紛争が起きそうなものだが、先住民殺害と南北戦争くらいで済んだのは、ある意味で運の良い話でもある。
一方、ヨーロッパでは互いの国が戦争を繰り返し、潰し合いをしてたのだから、その隙をついて大きくなった様な気もする。島国の資源に乏しい日本からすれば、羨ましすぎる話ではある(「アメリカから遠く離れたアラスカ・・」より)。
⑥1898年、フィリピン諸島
1898年には、キューバの独立闘争に介入した米国とスペインとの間で米西戦争が起き、スペインが敗戦して終結。パリ条約が結ばれ、スペインは3世紀以上に渡り植民地にしていたフィリピンを米国に譲渡。結果、キューバの独立が認められ、グアムとプエルトリコも米国に割譲。米国はフィリピン譲渡に関してスペインに2千万㌦(現在の価値で6億1800万㌦(同約958億円を支払った。
しかし翌年、フィリピンの民族主義者らが独立を要求し米軍に反乱を起こし、アメリカ=フィリピン戦争に発展。戦争は3年間に及んだが、抵抗は米軍に武力鎮圧され、米国がフィリピンの独立を承認したのは1946年だった。
⑦1917年、バージン諸島
130平方mile²(約337km²)に跨るカリブ海のバージン諸島はデンマークから2500万㌦(現在の価値で5億100万㌦(同約790億円)で米国が買い取る。当時、デンマーク領西インド諸島として知られてたが、米国は同諸島を獲得しカリブ海に影響力を及ぼしたいと1867年から画策。1917年になってウィルソン大統領が購入条約に署名し、バージン諸島は正式に米国の領土として移管された。
以上、「NYタイムズ世界の話題」からでした。
”隠された”アメリカの奇妙な二重支配
「How to Hide an Empire(帝国の隠し方)」の副題”the Greater United States”ですが、これは掛け言葉であり、”より偉大な”というより、皮肉をこめて”より広大な”との意味となっている。
つまり、如何にアメリカの植民地が歴史から隠されてきたか?例えばフィリピンであり、プエルトリコである。両国は純粋な意味で植民地ではなくとも、アメリカとは対等ではない”雑多の土地”との意味では、立派な植民地扱いとも言える。更には、日本もその一角を担っているのでは・・と意識させられる。
以下、「帝国の隠し方~より広大なアメリカの歴史」より簡単に纏めます。
上述した様に、プエルトリコは1917年に、ヴァージン島は1927年に、そしてグアムは1950年に市民権が与えられるが、それは単なる法令であって憲法で保障されたものではない。つまり、”いつでも剥奪可”という事になる。
一方で、フィリピンは47年間アメリカの統治下にあったものの市民権は与えられず、アメリカン・サモアは1900年以来アメリカの統治下にあり、”国民であるものの市民権はない”という奇妙で複雑な世界に生きている。にも拘らず、サモアの人たちは885ヶ所もある軍隊のリクルートサイトでは、一番のリクルート率なのだ。まさに”市民権はないのに兵士にはなれる”という不思議な国とも言える。
次に驚くのは、真珠湾攻撃の後、アメリカ統治下のフィリピンでも日本人が短期間とはいえ収容所に入れられた、という事だ。
つまりアメリカは、従来の世界から非難された植民地型支配をやめ、基地を置き、諸島を要塞化する事で他国を支配してる事がよく解る。かつてプエルトリコが大きな実験場だった事やハワイとグアム地域が軍事基地として存在する事、その延長にある沖縄。
そう考えると、日本列島自体が基地・要塞化していく事は驚く程の事ではないのかも知れない。
こうした市民権の2重性やフィリピンが植民地であった事を知るアメリカ人はいなかったし、アメリカ史の専門家以外では、大学教員でも知らないという事だ。
以上、chicago no yukiさんのコラムからでした。
まさに、戦争による略奪と買収のアメリカ史である。私達は教科書でアメリカを”西部開拓”と言う名の”フロンティア国家”としてアメリカを認識させらてきたが、その実態は単なる帝国支配に過ぎなかったのだ。
そして今、トランプ大統領が再選した事で、その”略奪と買収”に依るアメリカの帝国支配が蘇りそうな勢いである。
この「How to Hide an Empire」はまだ翻訳は成されてない筈だが、英語がが読める人はこれからのトランプ政権の出方を占う為にも、是非とも読んでほしい良質な新書の1つである。
つまり”雑多の土地”との意味では、立派な植民地扱いとも言える。
とありますが
もう、この一言に尽きますよね。
英語さえ読めれば、ぜひ呼んでみたい一冊です。
色々検索しても、残念だがこれほどの良書に和訳がないとは・・英語が読める人が羨ましいです。
何らかの圧力が日本に掛かってるんでしょうか?これも奇妙な二重支配となるんですかね。
アメリカの帝国主義を逆から見つめたら、”二重支配”という実質の植民支配という奇妙な所に行き着く。
著者の見事な考察には頭が下がります。