ベーブ•ルースが登場するまで、本塁打という概念すら存在しなかった。
しかし、ルースがメジャーデビューし、ハンマーみたいな重いバットを豪快に振り上げ、本塁打を面白い様にかっ飛ばすと、第一次世界大戦の影響で冷え込んでた観客動員が、一気に激増した。 それまでは1試合平均で4000人以下だったのが、4万も5万ものファンが詰めかける様になった。”たかがルースその5”も参照です。
それは何故か?ファンは皆、投手戦ではなくホームランを見たいのだ。
”インサイド•ベースボール”と言われた旧来のスタイルは、ルースの出現により覆され、現代の飛ぶボールの”ライブ•ベースボール”に生まれ変わったのだ。つまり、人間と歴史は何時の世も正直なのだ。
”飛びすぎる”ボールの登場
そして今、MLB離れは加速し、メジャーの観客動員は冷え込みつつある。その最後の切り札としてのステロイドに代わる、”飛び過ぎるボール”の登場がある。
メジャーの試合を見てて思うのだが、とにかくボールがよく飛ぶ。データが物語る以上にボールはよく飛ぶ。野球というよりピンポンを見てるみたいだ。
因みに、飛ぶボールの事を当時は”ライブボール”と呼んだ。そして今、飛び過ぎるボールは”ラピッドボール”と呼ばれる。
ルースみたいな神の領域の選手が毎年のように輩出する筈もない。それに唯でさえ、他の娯楽やプロスポーツに押され、メジャーのレベルと質は、観客動員と共に年々落ち込んでる。
かつて、国民の娯楽と持て囃されたベースボールは、今や時代遅れの”オールドボール”と見下され、アメリカのプロスポーツを支えた黒人からも見放されつつある。
ある子供はこう叫んだ。
”野球は動きが少ないから詰まんない”と。
つまり、MLBが”飛び過ぎるボール”に縋るのも無理はない。かつてルースが成し遂げた本塁打革命を、”飛び過ぎるボール”を使って、成し遂げようとしてるのだ。
歴史は繰り返すのか?それとも野球に見切りを付けるのか?
個人的には後者の予感がするが、それにしても、コミッショナーのやり方は露骨すぎた。
マイナーでは本塁打が急増
昨年までマイナーリーグでは、メジャーとは違うボールを使用してきた。ところが今年から3Aに限り、メジャー公式球を使用する事にした途端、かってない程のホームランが飛び交ってる。
今季からマイナーの3Aでは、メジャー公式球と同じコスタリカ製のローリングス社のボールを使用し、2A以下では従来の中国製のボールの使用を決定した。
これは、メジャーリーグにより近い3Aの選手たちのパフォーマンスを、メジャーの環境(ボール)で分析するのが目的であった。
因みに、メジャーの公式球は、マイナーのそれと比べ、縫い目が小さく、コルク芯を巻く糸や革の質が優れてる。その違いは、ピッチャーが投球する時の指のかかり方やバットに当たった時の反発力、そして打球の飛距離の差となって表れる。
一方、マイナーリーグのボールは性質で劣る分、飛ばないが、低コストで長持ちする。
つまり、品質のいいボールほどよく飛ぶ。
結果、3Aでは本塁打数が前年比135%に増え、それ以外の2Aでは86%、1Aアドバンスでは85.4%、1Aでは84%と軒並み数字を下げてる。
メジャーではここ数年、リーグ全体の本塁打数が増え続け、かつて“ステロイドの時代”と呼ばれた1990年代後半から2000年代前半をも上回る勢いだ。
”されど大谷、その8”でも述べた様に、ステロイド全盛の2000年が5693本に対し、2017年にはそれを塗り替える6105本。
そして、今年の2019年は何と6776本。前年(5562本)比で21%増。もうここまで来ると、アホ臭さとなる。
つまり、マイナーでの実験データがそのまま、メジャーの現実となってしまった。
MLBによるローリングス社買収の裏側と
この様に本塁打が激増している原因を、打者たちが意識してフライを打つ”フライボール革命”だとする説もあるが。MLBサイドが飛ぶボールを敢えて使用しているからではないか?という声も多い。
MLBは、“飛び過ぎるボール”の存在を否定してきたが、その主張を続ける事は明らかに限界がある。
事実、メジャーNo.1の投手であるジャスティン•バーランダーは、公にコミッショナーの批判をした。 ”MLBはゲームを台無しにした。事実、彼らは(公式球製造元の)ローリングス社のオーナーなんだ。もしその会社が4億ドルで買収され、製造されるボールが劇的に変化したとしたら?何が起こったかというのは推測じゃない、当然だ。
つまり、MLBがローリングスのオーナーになって、ボールが飛ぶ様になったって事さ。そんな事は誰だって判ってる、俺たちはバカじゃない” 勿論、コミッショナーはこの発言を否定している。
しかし、2018年6月5日にMLBはローリングス社を買収してたのだ。ローリングスは言わずとしれた野球用具の老舗メーカーで、1887年創立で130年以上続いている会社だ。
そして、ローリングスの買収の裏側とは?
先ず2016年に、ニューウェル•ブランドがローリングスを買収した。更に2018年6月、ニューウェルはサイドラー•エクイティー•パートナーズに、340億円でローリングスを譲渡。
実は、サイドラーは投資ファンドで、そこに投資してる組織の1つがMLBだという。
つまり、サイドラーがローリングスを持つという事は、MLBがローリングスを持つも同然だ。実質ローリングス社は、MLBの傘下となったのだ。
ローリングスにとって、親会社がニューウェルからサイドラーに変わった事で、求められるものも違ってくる。
”飛びすぎるボール”は、純粋なMLBの意向によって作られたものである事は、これで明らかとなった。
最後に
勿論、MLBも商売であり興行(見世物)である。見る人がいなくなれば、いくら歴史と伝統があっても、簡単に潰れる。
MLB自体は、公平性を売りにし、公共性のある組織とはいえ、様々な子会社を持ってる。
収入源も様々だから、投資ファンドに預けてお金を膨らませるのもアリかもだ。 しかし、公共のスポーツであり、娯楽という立ち位置を考えれば、ボールの規格変更は堂々と述べるべきだろう。
コミッショナーのマンフレッドは色々と物議を醸し出してますが、見方を変えればそれだけ、MLBが興行面で追い詰められてるという事なのか。
確かに、ホームランは野球の華かもですが。ピンポンみたいに弾くボールを見てると、野球というより羽子板を見てる様で興ざめである。
日本が”野球の国”と言われた頃の昭和のプロ野球は、球場のサイズが90mあるかないかの時代だった。勿論、あの頃は”飛ばないボール”だ。
故に、球威あるストレートに対しては、完璧に捉えてもフェンス際で失速した。故に、力と力の、投手と打者の真剣勝負を堪能できたのだ。
しかし、飛びすぎるボールのお陰で、現代野球のプレーの質は大きく落ち込み、打者は振り回すだけ、投手はやたら変化球に頼り、昔の野球の醍醐味はとっくに失われた。
事実、ステロイド全盛の2000年のメジャー平均打率は、2割7分を超えてたが、昨今は2割5分を大きく下回る。飛び過ぎるボールなのにこのザマである。
この惨状をルースが見てたら、嘆くだろうな。”神様はとうとう人類から野球を奪い去った”と。つまり、野球という国民の娯楽を商売道具にしちゃアカンのだ。
もし”飛びすぎるボール”を敢えて使うなら、球場のサイズとストライクゾーンを大きくすべきだろう。メジャーが生き残るプランは、それしかない様な気もする。
コメどうもです。
野球の醍醐味は三振でもホームランでも無く打って走って守ると言う基本にこそあると思うね
なぜこのスポーツの名が「ベースボール」なのかと言う所にもう一度立ち返って欲しいね
マネーボールにはウンザリですね。