さて、コールガールも3年目の春を迎えます。5月になると、学生達は勉強から遠ざかり、夏休みの計画やスポーツに集中する。当然講義の出席者も減る。
そんな中、ジャネットが持つ”精神病棟”のクラスは、人気があった。一人の学生がイーグルスの名曲”ホテルカリフォルニア”を話題にした。
”全くあの歌の通りだ。「鏡張りの部屋、冷えたロゼのシャンパン・・・」”
”でも、あの曲はドラッグを使った状態の曲では”
”その通りです。ただ、法に適った処方した薬なんです。助手として神経科病棟に勤めてたんですが。全ての病室の壁や天井に鏡がありました。中にいる子供をチェックする為です。そこで使われる薬はロゼのようなピンク色でした。それに注射器は冷たいイメージがありますし。故に精神病棟を歌ったのではないかと思うんです”
”貴方は現代のアライサムで働いてたのね。皆にその事を話してもらえる?”
”残酷に思われるでしょうが、時には拘束というのも理に適ってると”
”具体的に、どんな時に?”
”子供は自分をコントロール出来ないと暴れだし、危険な時があります。誰かが、その子に代ってコントロール出来る事を示す必要があるんです。実際、彼らは拘束されてようやく大人しくなるんです”
”あんたが暴れても、ファシストはそうするだろうな”と別の学生。
”いや、子供は拘束される事を安全だと感じるんです。守られてる事に子供は気付くんです。つまり、拘束によって子供は安心するんです”
議論をそのまま続けさせるままにした。
拘束とSEXと
その間、ジャネットはガンで死んだ母親の事を考えてた。
あの時、私はベッドに突っ伏し、泣き叫んだ。ピーターの前に付き合ってた恋人ルークが、もがく私を後ろから抱え込んだ。
あの夜、彼がいなかったら、私は何をやってたか。つまり、時には外部からの”拘束”が必要なのだ。
学生達は議論を続けていた。
”正当な手続きなしには、監禁・拘束されないのは基本的人権よ”
”入院患者達は、しなくていい選択を迫られてるわ”
しかし、私のもう一つの仕事においても、この”拘束”はとても身近なものだ。コールガールの仕事で逮捕される事に、常に危惧を抱いていた。私にとって”安全なSEX”こそが生命線なのだ。
故に、プレイ中の手錠も堅縛も頑なに拒んだ。もちろん例外もある。ある常連の客は、決まって私を手錠で”拘束”した。透明なエレベータの中で。そして、そこで彼は射精した。拘束とはする側にとっては、最高の興奮状態をもたらすのだ。
堅縛と調教プレイと変態行為
堅縛と調教プレイを実践する人々にとって、手錠は入り口に過ぎない。コールガールの仕事は”スパンキング”を受ける機会が多い。馴染みの客であれば、堅縛も悪くない。正直、一寸した変態行為は仕事の退屈を紛らわした。
事実、SM行為にものめり込んだ時があった。恋人のルークがご主人様で私が奴隷。こうした自己コントロールを抜け出す為の言い知れぬ開放感に酔い、圧倒されるのだ。
そして、それを通じ、ありのままの自分を理解した。自己という存在、私の内なる”核”を。過去に受けたどんなセラピーよりも、心理学の講義よりも、多くを私に教えてくれた。つまり、健全なSMには強力なパートナーシップが必要って事。
一般の客が求めるのは、いわばバニラSEX(=普通のSEX)である。現場の経験から言えば、客の性的願望や欲求の殆どは想定内のものだが。変態・倒錯・逸脱行為、こういったものに関しても、それなりの心構えを持ち、知らない事は資料を読めば何とかなった。
そういった想いから覚めると、自分に言い聞かせた。”相手の立場に身を置かずして、他人を裁く事なかれ。人生を諺で語らず”
全くですな。金八先生なんか、諺で生徒を諭す事が多いんですが、アレはイカンですね。でも、学校の先生って殆ど社会経験がないから、仕方ないのですが。教科書や参考書で人生を教えるべきではないんですよ。
客が求めるもの
私の私生活には刺激に欠けていた。元恋人のルークやピーターとの激しくアブノーマルなSEXとも無縁になっていた。自分の客に一寸した性的錯誤や逸脱がないのを残念に思ったほどだ。しかし、その刺激を客に求めるなんてお門違いだが。
そもそも、お客が求める事って?むしろ、私はお客が求めない事の方をよく理解した。彼らはコールガールの容姿に驚く程拘り、自分の狭い好みの範疇から外れる女を、求めようとはしない。
興味深い事に、大多数がピアスをした女を好まない。乳首や陰唇だと尚更だ。
コールガールの若い世代には、金属による全身装飾は避けられないが。故に、自然と客の選択が狭くなり、限られてくる。客は若者のように開放的でもないのだ。むしろ女を買う連中は、意外にも保守的な人種である。
客の殆どは、支配者になる事を好む。自尊心や自負心の現れでもあろうが、彼らは全てにおいて優位に立とうとする。しかし、私達はこの種の駆け引きは、ラクラクと処理する事が出来た。例外を除いては。
娼婦の弱みに付け込む客
心臓病を患い、体重が180キロを超え、重いハンデを抱えてたエイブもその一人。彼は自分の弱みを最大限に活かし、コールガールの弱みに大胆に付け込む”達人”だった。心優しい女は皆引っかかった。
ある日、彼とは4百ドルで一晩を過ごした。エイブは金を渋り、私にトコトン奉仕させた。その気になれば一日中付き合わせるつもりだったろう。私は4百ドルを強引に受け取り、そのまま逃げた。
しかし、その後しつこく電話が掛かってくる。彼は私の情報を、他のコールガールから盗み出してた。つまり、彼は情報屋だった。情報を逆手に取り、女たちをエサにしてたのだ。
その上、エイブは優秀な探偵でもあった。既に知ってるという態度を装い、コールガール達から本人や仲間の情報を次々と聞き出した。タクシー会社と裏契約を結び、大量の鎮静剤と引き換えに、女たちの情報を報告させてたのである。彼は狭いアパートにいながら、様々な情報を得ていたのだ。
フィリップ・マーロウも真っ青の、超デブ探偵であったんですな。私が思うに、デブというのは至極マメなんですね。こういった器用なデブに騙された女って、結構いるのでは。
確かに、ブロガーも器用でマメな方が人気ありますね。
”ブギーマン”というサイコ野郎
しかし、そのエイブを逆に利用し強くなった女もいる。もうこうなると、チャンドラーの「湖中の女」状態ですな。
アンというコールガールは、ピーチの下で働きながら音楽活動を続けた。しかし、彼女もこの”ブギーマン”に引っかかった。
アルコールとドラッグに引っ罹った彼女をエイブが救った。恋人から殴られたのも彼に傾く一因となった。彼女は体も心も許し、多くを語った。
しかし、結果として、エイブの助力のお陰で、彼女は前よりも強くなった。夜の早い時間に客を取り、エイブのアパートで夜の10時には寝るという、健全な生活を送った。
エイブは自分を求める女を求めた。コカインでハイになる彼女を鎮静剤で冷ました。結果、アンはエイブに従順になり、彼なしでは生きていけなくなったが。
アンが強くなった事で、エイブは彼女を失った。彼女は王立歌劇場で大きなチャンスを掴み、心身ともに健康になった。それでも、エイブはアンを脅かしにかかった。
全くここら辺は、アメリカ特有の”ヤラれたらやり返す主義”が徹底してますね。裏切りは絶対に許さんと。
エイブは経営者のピーチにも脅しを掛けていた。ピーチにとって、彼は常連中の常連で”金のなる木”であった。彼は障害者手当の殆どをピーチの組織につぎ込んでたのだから。
勿論、彼女は彼のわがままに耐えた。しかし、彼(ブギーマン)は哀れな人間だが、非常に危険な生き物でもあった。この世界には、このような憐れなサイコ野郎は少なくない。
そんな”ブギーマン”に比べたら、堅縛や調教ごっこや小道具への嗜好は、程度の差こそあれ、彼と同類だと考えれば納得がいく。
コールガールを支配できたらと、何時も客は考えてるが。娼婦は所詮、SEXという甘いお菓子にかかってるシロップみたいなもの。
しかし、当然客が思う程に女を支配できる筈もない。要はカネ次第。結局、この狭い世界において、常に支配権を握ってるのはピーチだった。他は全てまやかしで、暗に定められた手順に従うゲームに過ぎない。
ブギーマンの絵が可愛いです。身体的弱点を生かし、相手の弱みに付け込む達人ですか。アメリカにはこんな伝説の怪人が存在するんですね。ありとあらゆる変態に囲まれ、ジャネットさんも大変だったでしょうに。
アメリカのコールガールって、客も好みも千差万別で、恐ろしくタフに出来てんでしょう。それに比べれば、日本の風俗系の女性なんてほんと恵まれてますね。
ブギーマンは、実は私の大のお気に入りで、イラストのイメージもピッタリだと思います。
女性はこういった母性本能をくすぐる様な、滑稽な弱みを持つ男に、直ぐに騙されますね。巨乳に騙される親父と同じ論理なのでしょうか。
でも、tokoさん言っておられる様に、アメリカは人種のるつぼで、客の人種や趣味も千差万別&十人十色で、それらに迎合するコールガールも、相当にタフな女性じゃないと、やってられんでしょう。
そういう意味では、日本の芸者や水商売なんて、屁みたいなもんでしょうかね。