象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

「蟻の兵隊」〜いま日本人が読むべき負の歴史

2023年01月15日 13時00分33秒 | 戦争・歴史ドキュメント

 日中戦争とは、”日中”と一言ではとても言い表せない戦争である。
 現実は日本対中華民国という単純な構図ではなく、共産党軍vs国民党軍や馬賊、軍閥も割拠し、日本軍も含めて互いに合従連衡して戦闘していた。
 「蟻の軍隊」の悲惨さとは、まさにそこにある。勿論、軍や政府が敗戦処理をしくじった事は明らかだ。

 昭和20年8月、日本は無条件降伏した。だが、彼らの帰還の道は閉ざされていた。
 北支派遣軍・第1軍の将兵約2600人は敗戦後、山西省の王たる軍閥・閻錫山の部隊に編入され、中国共産党軍と3年8カ月に及ぶ死闘を繰り広げた。結果、550人が戦死、700人以上が捕虜となる。
 ”上官の命令は天皇の命令”
 そう叩き込まれた兵に抗う術はなかった。こうした「蟻の兵隊」に対し、国は”敵前逃亡”扱いで軍籍を抹消、”自らの意志で残り、勝手に戦争を続けた”とし、彼らが求める戦後補償を拒み続けてきた。
 戦後60年経って、元残留兵らは軍人恩給の支給を求めて最高裁に上告。この戦争秘話を池谷薫が映画化する。
 映画「蟻の兵隊」(2006)は、捕虜となり戦後9年経って帰国した残留兵士の奥村和一氏が“日本軍山西省残留問題”の真相解明の為に孤軍奮闘する姿を追ったドキュメンタリー作品で、破格のロングランとなった。
 因みに、この作品中では、終戦記念日に靖国神社で演説をした小野田寛郎に対し、”小野田さん、侵略戦争を美化するんですか?”と尋ねると、小野田から”侵略ではない!だから言ったはずだ!開戦の詔書をよく読め!”と怒鳴られるシーンがある。
 これを見ただけでも、戦時の日本軍の極端な縦社会と恐怖政治を窺い知る事が出来る。
 ”国に2度とも棄てられた”との奥村氏の話は、日本人の無責任な集団心理をも象徴する。

 そこで、日中戦争終結をめぐる各国の思惑を整理すると、米国は”共産党は抑えたいが、矢面には立ちたくない”し、国民党は”共産党を抑えたいが、その為には強い日本兵が必要”だ。一方で日本は、”受け身”なままで責任を問われるのだけは絶対に避けたい。
 この思惑の中で、国民党は日本に”残留兵を使いたい”と迫り、日本は”気持ちは理解出来る。ただ、公式にはできないので、一旦除隊という形をとりたい”と苦し紛れに切り出し、お陰で米国は”見て見ぬふり”を決め込んだ。
 裁判所の判決は、”敗北を認めたくないとの意思に基づいて残留を継続したものというべきであるから・・・除隊として取り扱われてもやむを得ない”であった。
 浅田次郎の「終わらざる夏」(2010)でも語られるが、戦争は8月15日には終決せず、北はソ連(スターリンの捕虜50万人移送と強制労働利用)、オホーツク(千島列島の先端での日ソ軍の戦後の戦闘)から、台湾海峡・中国国内、或いは東シナ海などでも長く続いた。
 そして、この夏は今も終わっていない。

 以上、アマゾンレビューを参考に纏めましたが、(私も含め)日本人が目を逸らすべきではない歴史上の負の真実が、本書には深く濃密なまま埋まっている。
 生きて帰れる筈の命を失った「蟻の兵隊」たちだが、この悲劇の真相が全て明らかにされない限り、彼らが報われる事はないだろう。



4 コメント

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象が転んだ様へ。 (りくすけ)
2023-01-15 13:52:31
お邪魔します。

「蟻の兵隊」
「終わらざる夏」
両著未読でした。
近々読んでみます。

教えてもらい、感謝です。

では、また。
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りくすけサン (象が転んだ)
2023-01-15 18:26:26
太平洋戦争も悲惨ですが
日中戦争は泥沼で悲運の連続ですよね。
日中戦争類の本は僅かしか読破してないんですが、読むのがとても辛いです。
「蟻の兵隊」は映画の方から見ようと思ってます。
コメントありがとうございます。
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おもしろそう (タック(takx007))
2023-01-15 21:09:47
日中戦争のカオスに巻き込まれていく部隊の話のようですね。
列強の中国進出により無政府状態になった中国で、戦国時代のように権力が乱立し、さらに外国勢力が進出しているのだから、わけがわかりません。
特に軍閥や馬賊の動きに興味があるので、読んでみたいと思います。
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タックさん (象が転んだ)
2023-01-16 02:19:56
カオスに無政府状態
言われる通り、まさに何でも”アリ”の戦国時代そのものです。
そういう視点で見れば、痛みや辛さを忘れて読めるかもですね。いや、そうでもないか。

タックさんの様に、様々なジャンルの本が自由自在に読めれば、苦労しないんですが・・・
こちらこそ、いつも読書ブログを楽しみにしてます。
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