「赤かぶ検事」など沢山の作品で親しんできた、和久峻三さんの作品をみつけた。1984年刊のずいぶん前のものだけれど、全く時代のずれを感じないで読了。
美貌には恵まれたが、倫理観の欠如で奔放すぎた生活の結果、誰の子供かも分らない息子がいる。
そんな母親の下で、上の20歳の息子が、溺愛されている3歳の息子にポットの熱湯を浴びせ、顔を無残にやけどをさせ、片方の目まで失明させてしまったという事件が起きる。
病院長をしている男が母親の浮気相手で、男には子供がない。妾宅で生まれた3歳の息子を、喜んで認知したことで、その子供は彼の相続人になり、将来が約束されている。
すでに20歳になっている息子が異父弟に対する嫉妬のために犯した罪だと、法廷で証言する母は、彼に対しては、一片の愛情もない。
弁護人の萩野は言った。
「一般的にいって、母性愛と言うのは、どういうものでしょうか?」
証言にたった、息子のかつての担任の女教師はいきなり疑問をぶつけられ、一瞬、戸惑ったかに見えたが、的確な言葉を選ぶのに、さほど時間はかからなかった。
「内外の心理学者の見解を総合しますと、母性愛と言うのは、犠牲と献身に裏打ちされた愛情だと考えられています」
「犠牲と献身ね」
彼女は言葉をつないだ。
「母性愛は、言うなれば、大人の愛でしょう。もっと、わかりやすい表現をすれば、捧げる愛とでも申しましょうか・・・・・・」
「捧げる愛? これと対照的なのは『奪う愛』と言うわけですか?」
「その通りです。自分が愛してもらいたいと、そのことばかりにとらわれているのが、『奪う愛』であり子供が親に愛されたいと思う気持が、これです。俗な言い方をすれば、未熟と言うか、未発達の愛なんです。若い人たちの恋愛感情も、これと通じるものがあります」
「要するに、積極的に自分を投げ出して、献身的に愛する、これが母性愛と考えてよろしいですか?」
恵まれない青年は苦しみながら生きてきた。彼を助ける弁護士と彼が愛する美しい教師。
法廷のやり取りも緊迫感があり、最後まで気を抜けないスリルがあり面白い。
虐げられた青年の悲哀が重く、最近読んだ中ではベストに入れてもいいくらいだった
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HNことなみ