空耳 soramimi

あの日どんな日 日記風時間旅行で misako

「特捜部Q 吊るされた少女 」ユッシ・エーズラ・オールスン 角川ポケットミステリ

2016-08-30 | 読書


シリーズ6作目、これで既刊は全部読んだ。まだ解決してない事件があるしアサドの過去も少しずつしか明らかになってない。話は続くしかないので楽しみに待っている。

映画化されているというので、ビデオを借りに行った。8月3日に並んだばかりで、あまり残っていなかった。1話の 一檻の中の女一 が目当てだったが全部貸し出し中で、二話の 一キジ殺し一 しかなかった。
貸し出して残ってないと言うのはQのファンが多いのかなと密かに嬉しかったが、
「ミレニアム」のスタッフ製作ということで、隣り合うスエーデンとデンマーク、同じ様な色調の海や森の匂いがした。
映画になるとやはり「ミレニアム臭」というのか、原作にあるチームの雰囲気作りか猟奇的で、グロテスクで、暴力的なシーンが多い、これが見せる技術かもしれないが。
原作もそういった犯罪がテーマなので、ストーリーを損なってはいない。読んでいるときよりも映像で見ると生々しく、原作はこういうことだったのかな、違うのではないか、自分は作者の意図をただ辿っっただけで謎解きやチームの働きに付いてきただけだったのか、などと映像から受けたショックが大きく考えてしまった。映画の出来は悪くなく面白かったが、それでも改めて心地よい文字の世界を見直してしまった。
ただ漠然と想像していた、カール・マーク、アサド。ローセが俳優であっても実体として感じられ、見る目的それでよかった。特にアサドは、削ったような細身のアラブ人で、ラクダの例えもぴったりな人だった。

観光客もよく訪れるという、今回は風光明媚な史跡も多いボーンホルム島が舞台だった。山道で美しい少女が木から逆さ吊りになった形で死んでいた。事件は20年近く前で地元警察でもすでに捜査の手は離れていた。カールのところにボーンホルム警察の警官から電話がかかる。「私が捜査してきた件をぜひ特捜部Qに引き継いで欲しい」そういってきた警官ハーバーザードは、マークに断られたこともあり、退官式当日に職場の上司やわずかな列席者の前で拳銃自殺をした。彼は今までコツコツと調べていて、済んだ事にしたい仲間からが爪弾きにされていた。

「放って置くのですか」腰の重いカールをいつものようにアサドとローセが立ち上がらせる。
未解決事件を扱う特捜部Qは、常に過去に遡ってわずかな手がかりから出発しなくてはならない。推理して、調べて動かぬ証拠を見つけ出さないといけない。だが調べる価値があるのだろうか。「警官が命をかけたんですよ」

まず自殺した警官が集めに集めたガラクタやメモの箱を地下室まで運び入れる、地下にある特捜部Qの部屋に入れると身動きがとれないくらいの量があった。
しかし、アサドとローセ、それに押し付けられてきた新米のゴードンの手で、殺された少女とその頃関わりがあった人たちなどが次第に浮き彫りになって来る。だが時間がたっている、少年は大人になり。大人は初老になり、手掛かりは消えかかっていた。

ひき逃げ事件だった。そうとなれば誰が犯人でどういう経緯だったか。やる気のなかったカールは少女殺人事件と決まり俄然やる気が出てきた。「罪もない少女を無残に吊るしたのは誰だ」そして、複雑な背後に群がる人々の中に入っていく。

当時少女がいたフォルケフォイスコーレというのは成人教育機関で、そこの同窓生、岬に固まっていた反戦ヒッピーたち、時間がたってヒーリング団体から一種の宗教団体になった一団とその教祖。自殺した警官の息子と一時付き合っていた男性などがいた。睡眠療法の医者も挙がってくる。カールとアサドは新興宗教の教義を知るために天文学者の話を聞く。この説はとても面白い。
古代から全ての宗教の始まりは太陽と天のめぐりだという、そこになんらかの手がかりは無いか。

一人の男が浮かぶ、今は教祖になり自然と一体になれば平和で安らかな境地に達することが出来る。それを瞑想と祈りで日々実践する団体を作っている。若い頃はハンサムで目に強い魅力があり女に不自由しなかった、死んだ少女と関わりもあった。
捜査はこの男性を目指して進んでいく。証拠はないもののカールは何らかの繋がりがあると思い、行方を捜し求める。
教団はヨーロッパでも信者を増やし続けていた。名もそれらしく変え、彼は世界の宗教を一つにしたいと大望を抱いていた。
彼の現在の名前がやっと分かる、しかし事件は複雑に絡んで、カールとアサドは命をかけて縺れを解こうとする。

ますます重くて長くなったポケミス620ぺージの終わりに来て、単純そうに見えた事件は、実はねじれにねじれていてカールとアサドを駆け回らせ、やがてこれまでの幕切れのように、2人は負傷しつつ犯人を追い詰める。ねじれて絡んだ人間関係がミソ、予想外な部分は、書けないけれどあっと驚く。

新興宗教が、それなりに古代の信仰といかに結びついているか、人間の生命が宇宙のめぐりにどんなに関わりがあるか、複雑さはハンパではない。
学者に教わり、医師に訊き、Qの三人は睡眠療法の患者になり三日ほど後まで宙にさまようような副作用に悩まされたりする。
どの作品も社会に関わる現代生活を描いてきている。
多くを占める作者の宗教についての語りを読むことは、ミステリの要素として、深い動機を抜きには語れないけれど、この作品を読むと、他の作品にもあるように北ヨーロッパでも例外なく人は悩み、やはり宗教に救いを求めているのかと感じる。宗教活動か、金集めか、1歩間違えば詐欺か、危ない境界で起きた事件は、執拗な調査とチームの活躍で死んだ警官が関わった人々とともに悲劇的な幕を下ろした。

アサドのラクダのたとえが、真面目に真剣に思いやりがあるだけに聞いたときは噴き出してしまう。
書き出しおこうかと思ったが余り多くて書ききれなくなった。
ユッシ・エーズラ・オールスンさんは、大きな賞を受け欧米だけでなくアジアでも大ベストセラーになり、勲章もうけたそうだ。お忙しいでしょうが次を早くを待っている。ラクダの数は多ければ多いほどいい。





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「サクリファイス」 近藤史恵 新潮文庫

2016-08-29 | 読書



私は自転車競技、ロードレースというものは知らなかったので、その点もとても興味深かった。

前半はf国内レースで、白石の所属する「チーム・オッジ」のレースを追っている。それで徐々に競技のルール、団体戦での選手の役目などが分かるようになる。

構成も巧みで、レース中に、選手の気持ちや過去の事故のことなどが挿入され、物語が動き出す。
白石の目を通して語る話は、徐々に緊張感を増す。
脚力も勝りチームの軸になっていくが、先頭にたつエースを盛り立て風除けでアシストするのはチームを優勝に導く白石の役目で、エースに続く位置で働きを示す、エース石尾は実力があり先頭をキープしている。

メンバーは様々な思惑を持っているが、白石は走ることだけを楽しみ、出来ればアシストとして、世界に有名なツール・ド・フランスに参加し、世界の選手と走ってみたいと思っている。

ただ走ることが好きで、ゴールを目指すこと、1位で飛び込むことは目標ではない、淡々と懸命に役目をこなす。レース中雑念を捨てたような白石は、走ることだけに夢中で回りに余り関心が薄いが、実力があるだけに雑音を耳に入れるものが多い。

やはりどの世界でも努力なしに楽しむことは出来ない。
エースの地位を守るために手段を選ばないのが石尾だと言う噂が入ってくる。しかし白石は自分の役目をこなすことだけだと単純に考えている。作者もそういう人物を主役にすえている。
そして孤高のエースに見える石尾の微妙な振る舞いが、過去の事件とともにこの先ので何かありそうな不安をもたらす。

ついに選ばれて、ツール・ド・フランスのレースに参加する。そこで次第に石尾を含むチームメイトが、レース外の動きが鮮明になり、白石もその中に巻き込まれることになる。

「サクリファイス」、題名が頭の中に次第にクローズアップされ緊張感が高まる中、レースが進行していく。

とても面白い。スピードを競う団体戦で、位置を間違えば常にクラッシュの危険がある。選手は自転車の車体にまたがりむき出しの体で走っているのだから。

事故で脊椎を損傷し車椅子で観戦している過去のチームメイトがいる、それに寄り添うのは白石が憧れた彼女だった。そういったエピソードも含め、チームメイトのそれぞれの思惑も絡んでいる。

全ての設定がとても面白かった。







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「植物はすごい 七不思議編」 田中修 中公新書

2016-08-28 | 読書


なぜ「昆虫はすごい」やこの「植物はすごい」、「雲の名前」といった自然科学、柔らかくいえば、自然の営みに目が向くのか。それは私が4歳から10歳くらいまで、人里はなれた山に中の一軒家で、大人たちに囲まれて過ごした歳月が、いつも心の底にあるからで。
山に登らずに「お~い」と叫んで帰ってくるこだまを聞いたことがあるだろうか、遠くの山が煙り、瞬く間に迫ってきた夕立に追いかけられるのを知っているだろうか。
回りに言わせれば私の元風景だと言うことだ。そこで自然の中で体験したことが、後で気がついたある寂しさとともに、一時期自然の草木や四季折々の移り変わる風景や音の中で育ち、大人が話してくれる民話などで育ったということが折にふれて甦る。
成長期にまた都会に戻り、学生時代を経て社会人になり、人にもまれた別な任健的な体験を積み重ねてきた。そうして今、やはり帰るところは全ての意味で自然の中ではないだろうかと感じる。

朝TVをつけると、「子供電話相談室」の録音風景を放送していた。学校が休みになると始まるこの放送がカーラジオから聞こえると、車を止めて聞いてきた。その回答者が書かれた本を買ってきた。
「トマトの種の周りのヌルヌルは何のためにあるの?」「それはね。すぐ芽が出たら食べられないでしょう」
種をまくには洗ってこのヌルヌルを取らなければならない(今は接木をした苗を買ってくるが)。昔は洗ってから蒔いたものだ。でもなぜ?といわれると先生の回答を待たなくてはならない。この番組は面白かった。子供の「なぜ?」にはっとさせられた。

ちょうど本屋さんで目に付いたので読んでみた。確かに何気なく見ている中に「不思議」は一杯あるものだ。

一一一 たしかに、植物のすごさ、巧みさ、アッパレさを紹介するときには、いろいろな植物のもつ”ふしぎ”をいろいろ取り上げます。そして、その”ふしぎ”に潜むしくみや工夫について、分かりやすい植物を例にあげて説明して来ました。一一一 

第1話 サクラの”7ふしぎ”
    なぜ、ソメイヨシノの開花は”はなやか”なのか ほか

第2話 アサガオの”7ふしぎ”
    なぜ、青かった花が赤紫色になるのか ほか

第3話 ゴーヤの”7ふしぎ”
    表面のブツブツは何の役にたつのか ほか

第4話 トマトの”7ふしぎ”
    トマトは野菜か果物か ほか 
   
第5話 トウモロコシの”7ふしぎ”
    なぜ黄色と白色の粒が混じっているのか ほか

第6話 イチゴの”7ふしぎ”
    タネの働きは ほか

第7話 チューリップの”7ふしぎ”
    なぜタネで栽培しないのか ほか

知っていることも知らなかったこともある。
生きていることは植物だけに限らない”不思議”に囲まれている。”不思議なこと”に気がつくことは、どんな環境にあっても、どんな分野であっても生活を豊かにし考えを深める役にたつ思う。そして
こうして回答書があり胸のつかえがおりるりることが嬉しい。







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「ブラックペアン」上下 海堂尊 講談社文庫

2016-08-24 | 読書
  
  

これがまだだったと、気分転換に、積んであった中から抜き出してきた。
設定が「チームバチスタの栄光」シリーズの20年前。薄い文庫になっていた。持ちやすくて読みやすいにしても二冊に分けたのはなぜだろう。

東城大学総合外科教室は今回も大荒れで、主人公や天才外科医が使う新兵器「スナイプAZ1988」の効果、おなじみのライバル同士に散る火花、バックボーンにある医師の使命感など話題が盛り込まれて、やはりシリーズに親しんできた故の親密感が戻ってきて、楽しみながら読んでしまった。

成長した医師たちの活躍は、田口・白鳥のシリーズで読んでいるが、今回は田口さんもまだ学部の二年生、同期の速水、島津とともに研修に来る。おお速水さん田口さんと同期だったの、と改めてびっくり。

教育指導に指名された世良は、国家試験前で結果待ち。
看護師の藤原婦長、空き場所を探して昼寝をする変わらない猫田、初々しい新人の花房もいる。
新人の三名はまず手洗いから、食道癌の見学で血管から噴出した血を見て田口が失神する。これで彼の将来が決まった。糸結びをみて速水は将来優秀な外科医になると世良は判断する。

佐伯教授の外科教室に帝華大から高階講師が来る、彼は食堂癌の吻合部分に使う「スナイプ」という新兵器を持ってきた。ハーバードに二年間研修にも行った俊英で、手術の腕には定評があった。見事なメス裁きで短時間に手術を終え、「スナイプ」の威力を見せ付ける。

彼は世良の指導医になり、時には助手に指名して新米の世良を驚かせる。しかしそれを快く思わない渡海がいた。
渡海は過去に佐伯教授と何か因縁があるらしい。昇進を頑固に断り、手術室の隅の部屋に住み着いている。腕は優秀で、高階講師の留守の時、世良たちの前で困難な患者を助けて見せる。

佐伯教授が学長に立候補し当選確実だと思われた日、札幌の大きな学会で講演することになっていた、そのとき教授の執刀した過去の手術の真実が明るみに出る。
教授はどうするのか、医師の良心が問われる場面で、問題のブラックペアンが登場する。
そのとき高階は、世良は、そして渡海は。
三人の心に奥深くに、その日の出来事が刻まれる。

最後は何かうら悲しい、命の継承の奥にある悲哀が残った。

親しみがあったからか、ページ数も少なく早く読みきってしまった。新米医師の世良はその後どうなったのだろう。「チームバチスタ」に名前が無い。
探してみると、世良医師が出る二つの続編が出ていた。
「チームバチスタ」シリーズもみんな読んだつもりだったが、二冊も読み残しがあった。
読まないといけない。






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「旅のラゴス」 筒井康隆 新潮文庫

2016-08-23 | 読書



ラゴスは北に向かって旅に出る。途中の出来事や目的地についてからの生活などが、軽い読み物になっている。

彼の旅の目的は、北の大陸に先人たちが残した文化を知ることだった。膨大な書物になって盆地の建物に眠っているということを学校で習っていた。

転移、同化、予知などの能力は先人が滅びた後に獲得した人々の智恵だった、そうした力を使いながら北の大陸に辿り着く。途中に出会う壁抜け男や、似顔絵書き、時には盗賊に会いながら北の大陸にたどり着く。

やっと語り部の老人にあい、その話から盆地の書物を発見する。不思議な壁に囲まれた建物の中で書物が保管されていた。先人が滅びたのは、進んだ知識があってもそれを使う機械を作ることが出来なかったからであり、知識だけでは生き残ることができなかった。発達した科学知識があっても材料資源や装置などが不足していたのが分かる。現在に照らしても発達ということが先走れば崩壊に繋がることもある。

ラゴスは書物を筆写していくが到底追いつかない、旅で知り合った子供が成長するほどの時間が過ぎ、その子供が訪ねてくる。彼は、言葉を漏らさず記憶再生する特技があった。ラゴスは朗読して彼に覚えさせる。

先人の知識は、盆地の村に革命を起こし、名もない赤い実がコーヒー豆だということを知る。それを売って盆地の国は栄え王国になる。とても読みやすく面白かった。筒井作品の濃いSF性は余り感じられず、旅をするラゴスの周りの出来事や、経済が潤い国が栄え街の体裁を整え政治も始まる。このあたりとても面白い。

北の王国を出て、南大陸の我が家に帰ってくる。そこで、旅の知識を使って文化を進める。しかし、それで得た尊敬や崇拝の裏には、嫉妬や裏切りもある。父と兄は不仲であり、兄はラゴスの知識を喜ばなかった。
ラゴスの心は世界を歩いて自由に暮らすことだった。父の書斎で見つけた放浪の画家の絵の中に、旅で心惹かれか忘れられない少女の成長した姿を見つけた。

北で学んだ知識、主に農業の知識を書物に書き残してまた旅に出る。

ラゴスは新しい国で結婚もする、帰って故郷で知識を伝えたりする。だがそれはいつの間にか窮屈な社会のしきたりや人間関係に縛られることに気がつく、そこから開放され孤独の中で生きていく自由を選ぶ、、一度限りの生き方として出来れは、勇気があればそうして生きること、成長した少女の姿を求めることがとても美しく感じられる。

丸く輪になって異動する転移、人や動物の心と繋がる同化、念じて空中を飛ぶ力などSFらしい発想も効果的でとても面白かった。






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ゆっくりさよならをとなえる」 川上弘美 新潮文庫

2016-08-20 | 読書



一編が文庫3ぺージに収まる長さで、ほっと心が休まるエッセイ集。
あ~そうですそうですと、思い当たるようなちょっとした出来事や、出先で見聞きしたことなどが書いてある。
中でも、読んだ本がうまく引用されて、読みたくなってしまう。

好きな食べ物は飽きるまで食べる、なんかそのこだわりが良く分かる。私も米粉パンを卒業して今は塩バターパンに凝っている。
どこを読んでも、川上さんの人柄がにじみ出ている。拘らない楽そうな生き方や、作家で主婦でお母さんのゆったりした毎日が微笑ましい。
身近なものに向ける視線もユーモア含みのほっとする文章が短い中に納まっている。

織田作之助の「楢雄は心の淋しい時に蝿を獲った」にふれ、そうやって楢雄は自分の不器用な生をめいっぱい喜んでいたんじゃないだろうか、その人の奥底も知らずに、と思う。
少し淋しかったので風呂場に潜んでいた蚊を潰した。

言葉で書いてある「あやとり」をやってみる。
一一そして再び小説に、もどる。安らかさとは正反対のところにある営為に。正反対にあるからこそ、いっそのこと安らかなのかもしれない、営為に。

博物館に行ったり、古本屋をめぐったり、昼顔を見たり、漫画の欠けた巻が近所ではどこにもないので、電車に乗って探しにいく。
一一あてもなくのんびりと電車に乗って隣りの町に行くことを信条としている私の人生が、立った一冊のマンガによってすっかり血走ったものになってしまった。

一一「田紳有楽」という本を借りた。仰天したままその日のうちに本を読み終えた。「すごいね」とマリ子さんに言うと、マリ子さんはエヘへと笑った。以来私は「田紳有楽」という本を愛してやまないのだが、いまだにその全貌をうまく把握することができない。なんだかわからないけれど、小説ってものは、やはり凄いな、と私は思ったのだ。

数えてみれば全部で59編あった。218ページにそんなに入っているのに、楽しく暖かい。

最後に詩のように日々の生活から切り取った言葉が並んでいる。
(略)今まで言ったさよならの中でいちばんしみじみとしたさよならはどのさよならだったかを決める(決まったら心の中でゆっくりさよならをとなえる)
一一 連載エッセイを書いていて、最後の回になると、私はさみしくてたまらなくなってしまいます、表題作も欄さいの最後の回に書いた文章です。


辛い本もあればこんなにゆったり、ほっとする本もある。




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「いのちなりけり」 葉室麟 文春文庫

2016-08-19 | 読書


備前小城藩ゆかりの咲弥は才色兼備の評判の女性だった。藩内の変事の後、佐々木宗淳(通称介三郎・・助さん)の後見で水戸藩江戸屋敷に預けられていた。光圀の側室との願いも断る。咲弥のは待っている人がいた。二番目の夫間宮蔵人である。歌を返さなかった夫のことが次第に分かってきていた。
最初の夫がなくなり、蔵人が夫に決まったとき、格下の家柄が問題になった。周囲から蔵人の従兄弟の右近なら申し分ないのだがという声に、父親の行部は彼の人柄を見込んでいた。
だが祝言がすみ、床入りの前になって咲弥が蔵人に尋ねた、「あなたの心を表す好きな歌を一首」
しかし無骨者で素養のない蔵人は答えられず、それ以後寝所に近づくことがなかった。

小城藩の本藩佐賀鍋島藩は、キリシタンの動きを禁じる江戸幕府とともに、原城攻めを開始した。だが信綱の命を無視して不意に夜攻めを行い、先駆けをした。
信綱もそれに続かざるをえなかったが、大きなしこりが残った。
鍋島藩では後の世に伝わるような内々の紛争が続いて、小城藩でも跡を狙う行部の暗躍があった。

蔵人に舅の行部を討てと命が下った。彼は引き受け、多少の迷いがあったものの、討たなくてはならない窮地に追い詰められる。行部は死んだ。藩外に出ることが出来ない決まりを無視し、彼は山越えで出奔した。
そして、彼が求める「心の歌」を求め続ける。
途中で知り合った牢人に世話になり教えを受ける。

湊川で咲弥と会うことになったが、原城責めの折から遺恨のある果し合いを挑まれ、同行していた右近は腕を落とされた。蔵人は彼を縁のある伏見の円光寺で看病する。傷が癒えた右近は世を捨てて出家する。
円光寺は由緒があり格式の高い寺で、京都の内裏と和歌の道で繋がっていた。右近は祐筆を賜る。
蔵人は、放浪生活で様々な辛酸をなめ、生来の豪放でまっすぐ心をさらに深くしていく、自分の生き方を定め、人にも言い、生きる指針にする。

「歌はつまるところ、雅とはひとの心を慈しむ心ではあるまいか」
「わしは桜も好きだが、ひとは山奥の杉のように人目につかずに、ただまっすぐに伸びておるのがよいと思う」
と右京改め清厳にいう。
「ひとが生きていくということは何かを捨てていくことではなく、拾い集めていくことではないのか」
「わしは祝言の夜、すきな和歌を教えてくれといわれて答えられなかった。それで、たったひとつわかったことがある。それは、わしには咲弥殿に伝えたいことがある、ということだ。わしの生きた証は咲弥殿に何かを伝えることだ」

再び約束の両国橋に向かうと、執拗に遺恨を晴らしたい侍に囲まれる。蔵人は咲弥に向かって命がけで血路を拓いていく。

解説でも「蝉しぐれ」を引き合いに出している。どことなく雰囲気が似ている。
佐賀藩は非常に複雑な内情を抱えている。前半まではその藩制やごたごた、江戸屋敷で光圀の「大日本史」編纂の話など長い。だがあの時代の地方と江戸のつながりは、葉室さんの得意の分野かも知れず、面白い

一方そんな時代に、制度や窮屈な武士の世界切り拓いて、武芸で生きるおとこがすがすがしく、武術に秀でているために自分を救うがそれで他を傷つけてしまう時代に、人に仕えず天地に仕えるという生き方を通した男と、それを信じた女の純愛物語だった。
冒頭にある咲弥に送った、一行だけの西行の歌。

春ごとに花のさかりはありなめどあひ見むことはいのちなりけり







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「完全なる首長竜の日」 乾緑郎 宝島社

2016-08-16 | 読書



第9回『このミステリーがすごい!』大賞の大賞受賞作。
全員一致で決まったとのことで、そろそろかなと積読の山から下ろしてきた。
テーマが「胡蝶の夢」。読んでいくうちにそれらしい雰囲気も感じられるようになってきたが、時代が違うので夢を探る機器も現代的で、夢なのか現実なのか、作者の意図はとても面白い。

主人公は漫画家の女性。奄美の島で幼い頃弟を亡くしている。

西湘にある病院で、技師が立ち会って昏睡状態の弟の意識と繋がる実験(セッション)を受けている。そこで弟が強い自殺願望があるのを知る。
一時的に頭にチップを埋め込むSCインターフェイスを採用して、脳を刺激してお互いの感情を呼び出し、ドリームボディを共有する(センシング)、技師は記録をとっている。

漫画を描くには様々な行程があり、阿蘇が敷くなったので助手を雇い、指導をうけた編集者もいる。だが時代の波で漫画雑誌が刷新され連載が打ち切りになった。時間が出来るがマダ仕事が残り後始末の段階になっている。リビングに不意に弟が現れる。そして部屋でピストル自殺をするが、気がつくと夢か現実か弟は既に跡形もない。
編集者は、実験の様子をまるで「胡蝶の夢」のようだねといった。私の意識か、弟の意識か、現実なのか、幻なのか。

繰り返し思い出す、奄美の海。そこの磯で満ちてきた潮にさらわれていく弟を助けようと繋いだ手を離したのだ。
父は母と別れて去り、母は死んだ。時々現れる弟は、カウンセリングの終わりに自殺をして消える。弟はなぜ自殺したのか。

そこに新たな人物が介入する、憑依(ポゼッション)なのか。
そしてついに、それが日常にまで入り込んでくる。
関わった多くの人たち、現れては死んでいく弟。

ついに奄美のあの島に行ってみる、歳月の影響はあるが確かに記憶の場所に家があり、海岸は護岸工事で形は変わっているが海は満ち干を繰り返し、若い両親や伯父たちが周りにいる。そしてついに過去の風景から逃げて帰ってくる。

病院のそばの海岸で、首長竜の置物を見つける。仕事部屋にあったあの置物なのだが。

この物語は様々なモチーフがちりばめられている、それらの作品が何らかの形で、テーマを繋ぎ、弟や周りの人たちとの意思疎通の形をささえ、強め、読者を物語の中に引き込んでいく。まず最初に「胡蝶の夢」サリンジャーの「ナインストーリーズ」マグリットの非現実的な風景画等々。こうして登場人物を取り巻く現象が終盤になって、大きな展開を見せる。

「胡蝶の夢」のようでもあり、また夢から醒めてもまた夢の世界のようでもあり、現実はどこにあるのか、うまく構成されて最後まで興味深い作品だった。
ただ、登場人物を語り終えるには、ちょっと多すぎて、それぞれの存在理由を一気に閉じることは、無理があるように感じる部分があり終わりに向かって失速気味なのはとても残念だった。



随分前に「胡蝶の夢」らしい映画を見た。モノクロで、老人(荘子だったのだろうか)が若返って美女に会いに行くというようなストーリーだったように思うが、記憶もあやふやになってしまっている。あれはなんだったのだろう。どこにも記録が見当たらなくて、もやもたしている。ビデオを探してみたい。
ポロックのそれとは大幅に違っていた。。








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なかよし小鳩組」 荻原浩 集英社文庫

2016-08-15 | 読書
 



またも切羽詰ったユニーバーサル広告社、のんきなのはバイトの猪熊エリカ(姓が気に入らず結婚願望が強い)。
杉山は久々のクライアント、結婚式場の鶴亀会館のコピーだが、頭を男にしたり女にしたり悩んでいる。
村崎はなめこの味噌汁にハンバーガーのいつもの朝(昼?)飯中。出来上がったイラストは、<鶴亀>だが彼好みの図柄で、鶴亀が空に舞っている、かと思えば火を噴くキングギドラvsガメラだ。真面目にやれ!!
社長の石井はよたよたと出勤。「冬来たりなば春遠からじ、大丈夫だといって、ナ、ナ」いよいよ会社の危機(らしい)

石井が張り切って言う「きたで、CIや」 CI(企業イメージ統合戦略)
小鳩組?本当にヤクザだったりしてね。村崎は言う。「ウホホホ」石井は笑ったがおかしくもなんともないことに気づく。

さて小鳩組。ピース・エンタープライズ・スクエアビルに居を構える、指定暴力団だった。三人は借りてきた猫、三すくみの「見猿聞かざる言わ猿」で、窓に鉄板を貼り付けた薄暗い応接室に座っている。周りはスキンヘッドや紋紋のおにいさん。
しかし、組にはインテリが控えていて追い詰められ(経済的危機でもあり)断るつもりが引き受けてしまう。

杉山は元妻の入院で娘の早苗を預かる。この子、サッカーフリークで、昼メロのファン。父性に目覚めた杉山は仕事を家に持ち込む。早苗の「鳩」の落書きがなかなかいい、村崎の妙な「ひょうたん」もいい。というので、紆余曲折、侃々諤々の脅しをあびながら、小鳩組長の鶴の一声でシンボルマークが決まる。

しかしCM、スポットにしても莫大な費用と時間が要る。社長の石井が何の考えもなく先払いの手形を使ってしまった手前、予算内で何とか納めたい。

市民マラソンがあるという、チャ~ンス!!杉山が閃いた。ゼッケンとひょうたん、鳩マークのシャツが5分映ればどうだ。いい宣伝になる。
さて、エントリーしたのは健康マラソンで少し体を作った杉山。高校時代驚異の記録を持つチンピラの勝也。
招待選手の横に並んでテレビに映らねば。
小鳩組挙げての応援と、2メートル近い村崎に肩車された早苗の声を背に走り出す。
でもこの際は、私、杉山より再生をかけた勝也を応援する。


いやまたまた面白かった。笑あり涙(?)あり。で一気読み。
娘の早苗がいい。組員のヤクザたちが、過去もありつつ何気に怖いを越える愛嬌もある。猪熊エリカさんは猪熊組の組長の娘だった!?、いいのこんなこと。でもこちらは小鳩組と対照的な事理と人情の統制の取れた集団(面白し)
ユニバーサル広告社、崖っぷち。
次の作品で落ちていなければいいが。






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「望郷」 湊かなえ 文春文庫

2016-08-14 | 読書



なんとなく買ってきたら、最近は短編集が多い。なんとなくと思っているが、どこかで見たり聞いたりして手が伸びているようだが。
昔は余り読まなかった女性作家や短編にも馴染んできた、読むのも買ってくるのも、読みやすくて作家の特徴が分かるような短編集が多くなっているのかな、編集者の意図通り軽く楽しめる。

短編6編を集めたこの「望郷」はとても面白かった。

読みやすい、分かりやすい、そして共感する部分が多い。言葉は余計な修辞を抜きに、ストレート伝わってくる、そんな作風に素直に向き合えて、共感する部分は自分で納得できて気持がいい。

題名のように湊さんの出身地の島が舞台で、その閉塞感から抜け出ようとする人たちの、様々な家族や人間関係、環境が綴られている。閉塞感というのは島だけに限らず、人々が混生している都会と違って、昔の風習が残る地域には、若い世代にとってこの感じは身近なものだろう。
窮屈な思いはどこにでも転がっている、環境を島にしたところに実感があり重みを感じる。

中の「海の星」が日本推理作家協会賞を受賞している。

6編すべて完成度は高い。結末になってそうだったのかという部分がうまく織り込まれて、ストーリーの感動とともに、そこに意外な事実が隠されている。
暗い話が多いが、明るい未来が拓ける(た)結末が多く、読後感もよくてほっとするところから、湊さんは評判どおりの書き手なのだと納得した。

* みかんの花
都会に出て行き、25年間便りもなかった姉が、作家になり島の行事に招かれて帰ってくる。冷たい姉に隠された過去。

* 海の星
父は失踪していまだに行方が分からない。母は待ち続けているが、そこに親切なおじさんが訪ねてくるようになる。おじさんは貧しい生活の中に、海で取れた魚や時にはクッキーなども持ってくる。釣りを教えてもらったとき、海で青い星のような光を見せてくれた。
ある日正装したおじさんが母の前に手を着いた。

* 夢の国
子供の頃、東京ドリームランドがオープンした。行きたかったが封建的で世間体を気にする祖母や母が反対してついに機会がなかった。
東京に住むようになり、娘を連れ夫婦で東京ドリームランドへ行った。過去との繋がりが思い出される。
人魚姫、白雪姫、シンデレラ姫、でもオーロラ姫って。
すぐに浮かばなかったが眠れる森の美女、眠り姫のことだった。夢の国、東京ドリームランドにいるお姫様は沢山いるようだ、一度も行ったことがないけれど。
6篇で一番心に残った。

* 蜘蛛の糸
飛行機雲を見上げて、この島から連れ出してくれる、空から下がるひと筋の綿のような糸を連想した。
島を出てついに歌手になって、島の行事に招待される。貧しかった子供時代に戻りたくなかったのに。

* 石の十字架
目立たない不遇らしい同級生と友達になった。彼女は博識でいろんなことを教えてくれたが、島を離れてから疎遠になっていた。娘を連れて島に帰った来た、台風で家が浸水したとき助けてくれた人がいた。十字架にまつわる暖かい話。

* 光の航路
教師になって島に戻ってきて、はじめて担当したスラスに苛めがあることを知った。解決法に悩み、怪我をして入院した。
亡くなった父も教師だった、造船業で栄えた島に陰りが見え、最後の進水式にいった。約束した父は痩せた生徒を連れて罰の場所からその式を見ていた。
病室に見慣れない見舞い客があった。父が連れていた痩せた生徒だという。
心にジンと来る。









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「円卓」 西加奈子 文春文庫

2016-08-12 | 読書



公団住宅に住む「琴子(こっこ)」は小学校三年生。家族は三世代8人が仲良く暮らしている。琴子は祖父母、両親、三つ子の姉に大切にされて伸び伸びと育っている

六畳の部屋に中華料理店から来た大きな円卓があり、料理がくるくる回ってくる、家族もいささかユニークな個性を持っている。

ユニークといっても琴子はこの年頃からはみ出ているわけではないが、周りが気になり始めた年頃で、そのあたりがとても面白い。憧れの同級生がモノモライが出来て眼帯をしている、いいなぁ眼帯。
発見に満ちた日常をジャポニカ学習帳に書いている。

元気がよく、孤独好きの硬派である。隣りの棟に住む同級生のぽっさんがまたいい、琴子の少し過激な心を、吃音気味の言葉でゆっくり解き聞かせる、将来が楽しみな男の子だ。

気になる同級生を観察したり、知らない家庭を訪問したりて、琴子の少しずつ広がっていく世界がユーモラスにしみじみと綴られる。

珍しい中学生の三つ子のお姉ちゃんたちは健康的で個性的で優しい。両親に似て揃って美人ナところがまた楽しい。

西さんの直木賞受賞作「サラバ!」が積んであった時がある。違った感動があるようで期待が膨らんでくるが、そのうち読んでみなければと楽しみにしている。

積読が少し減ったら。




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「赤刃」 長浦京 講談社

2016-08-09 | 読書



久し振りに時代小説を読んだ。まず、日本は漢字の国だな、とつまらないことに感心した。

徳川の幕藩制度もほぼ完成に近づいていた頃、三代将軍家光の時代、下克上を目指して戦った群雄たちも、関が原の働きに応じて与えられた身分や領地を治め、徳川足下の江戸の町並も徐々に平常の暮らしを整えていた。
だが、戦国時代の余韻はまだくすぶっていた。武芸を頼み一旗上げようと命をかけた武士の魂のかけらがまだくすぶっていた。
戦いのやまない頃に若く血気盛んだった人たちが、老いの身をもう一花咲かせたいと思う一団があった。

理由のない人斬り、辻斬り、美男を好んで誘拐凌辱の上切り殺すという事件が頻繁に起き始めていた。傾き者のなりをし、往来の邪魔をするものを斬る若者が闊歩し始める、死人は300に上った。

名だたる使い手を集め掃討人という名前でこういった謀反人一派を捕らえるよう家光は命じたのだが、ことごとく返り討ちに会い二名は行方不明一名は捕らえられるという手ごわさだった。
そこで島原の乱で群を抜いて見事に働き、当時松平信繁、のちの松平伊豆守の目に止まった小留間逸次郎を江戸の呼び寄せることになった。

小留間逸次郎は当時の長崎奉行の次男で、本家は兄が継ぎ、部屋住みの身だったが、父親の片腕として任地に随行していた。
彼は伊豆守を後ろ盾に、巷で人々を襲っている反逆者狩り、掃討人を命じられる。

敵は赤迫という老人を首魁にして名だたる武人が集まっていた、武士という身分だけで目標を失った武家の子弟も、赤迫の言う、新しい生きがいを求めて集まってくる。
小留間逸次郎は腕もたつが頭も切れる、選り抜きの30人の護衛人と中でも優れた4人、ともに戦ってきた一人に手綱を取らせて、馬上から探索を開始した。

敵の赤迫も武士の誇りがあり、小留間逸次郎と出会ってみたい、いわば相手にとって不足はないと思っていた。

そして攻防戦が始まる。日々何所かで起きる血生臭い陰惨な戦いの様子が、これでもかと描き出され、今までにないリアルな刀や槍での切りあいは、負ければ、その致命傷から体は壊れ命を落とす、勝者の後には死屍累々の有様がこれでもかと続く。こういったものを書く作家は新しいと言おうか。確かに力のある新人に違いない。

老人たちの言う果し合いの流儀も若者には届かず、覚悟の浅い若者の思いがけない死様も痛ましい。
武士の狂気が、ここまで来ると、小留間逸次郎にしても体を張って役目を果たさなくてはならない。
既に策もつき、仲間も失い、わずかに残った心を許せる仲間とともに、赤迫と対することになる。

テロにはテロリストの論理がある。
赤迫には
--- 武士とは敵を殺すことを生業とし、敵を多く打ち倒すことで功を得て、なりあがっていく生き物だ。しかしその敵を殺す戦がなくなってしまった今、武士はどう生きる、本能と本文を捨て、別の生き物になるか、なれるならそれでいい。だが、なれぬなら、武士同士互いの本能のまま殺し合い、華々しく自滅していくのが美しかろう。武士など乱世会っての生きもの。生きる場を失ったものは滅ぶのが自然の節理。あぶれた武士は死に絶えるのがを野ために一番よいのだと ---

さてこの中に人として間違っているところはいくつあるでしょう。と自分にも読みながら問う。

この時代、まだ未熟な制度の中に納まりきれない、幕府や藩や地方の小さな支藩までもひとつの法度という縛りで絡められてしまった時代。厳しい罰は命で支払う時代に、流されず自分を見失わず、こういった虚無感の中から生き方を見つけようとあがいた物語は読後も二組の悲哀と惨劇だけが残っていく。
事実を追って、あるいは武士の滅びを書こうとしたためか、作者は小留間逸次郎という若者が使命を果たすために、策を練り命を賭して戦う姿だけを見続け、その心理にまで筆が届かなかった。
妻と子を失い、菩提を弔う気持が湧いてきたところなど、彼は魅了的な主人公になっていたかもしれないところが、少し残念に感じた。多生人柄に触れた部分があれば全体がもう少し救いのある話になっていただろう。





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「オロロ畑でつかまえて」 荻原浩 集英社文庫

2016-08-05 | 読書



荻原さんを読むなら、受賞作「海の見える理髪店」なのだが、日々うかうかと暮らして読書もなんとなく選んできていると、こうしてすれ違いが生じる。

少し前に読んだ「母恋旅烏」も荻原さんだったと今頃知った。文庫本の中でひときわ変な題名で「タビドリってなに?」「タビガラスでしょう」と突っ込まれ、あぁ~…と読んでみただけですっかり忘れていた。
生活に行き詰った父親が擬似家族が要る人に、自分の家族を貸し出すというのが始まりだったような。(レビューがないとこうなる)
それが、立ち読みをしてみて、コミカルな文章がすっかり気に入って買った中の一冊がこれ。
後に「仲良し小鳩組」が残っている。

さて、この本にかける期待は、三浦しをんさんの素晴らしい青春小説「神去りなあなあ日常」が源で(ただ表紙の雰囲気で)田舎のほのぼの、わくわく話しだろうと見当をつけた。

ところが主役は、東京の広告代理店で、資金繰りに切羽詰って、東北の奥の奥にある村おこしをするという話だった。
社長とは名ばかりの総勢4人の会社で、一人はアルバイト。みんな一癖あるがコピーライターの杉山だけがややまとも(過去はあるが)

そこで現地を見に行くと。着くまでに一日かかり、過疎地らしく青年団も8人だけ。

「たった八人で祭りはどうすべ。」「おはよう野球が塩梅悪ぃだな、ライトさカカシでも立たせっか」

言葉には通訳が必要だ。そこに東京で4年間大学に行ってUターンした慎一がいた。気のいい人たちにほだされてと言うか、現金に目がくらんで引き受けてしまう。
何の当てもないところで、偶然見つけた湖で閃いた、恐竜見つかる!!でいこう。
カメラも入らない道を、村人だけが知っている場所から望遠レンズで写した。それでマスコミが湧いた。

村は大騒ぎ、巫女さんも、鎮守さんも、首が折れてちょっと傾いた狛犬も、崖から転げ落ちそうだった家も、旅館も、人がどよめいて押しかけ、地場野菜の筆頭「おろろ豆」も売れ出した。アンテナショップを作って野菜を売ろうか、通販はどうか。小躍りどころか祭のみこしも踊りまくった。
世間は飽きやすい。そうなっても素朴な村人は、めげない。
ささやかなハッピーーエンドもあり、それが夢の後に来た夢でも、前向きにやる気は失せない素朴さに少し涙。

風刺が効いたうえに、また作家がコピーライターだったとかで、ユーモア満開で、楽しかった。
冒頭では、ちょっと会社紹介。
ゴム会社のコピーを考え、プレゼンでは…、読んでいておなかの皮がよじれる。いい滑りだしだ。


だが「神去り~」に比べると、ここぞという盛り上がりが弱い。なんか聞いたような話で、人々が善良で心地よい分、内容にアクやクセがうすく、読みやすいがもの足りない。
でもユニーバーサル広告社の中で特異なイラストレーターの村崎が気になって、続編でも彼に会えるなら読んでみようかなと思う。ミーハー魂だけが残った。


余談
「オロロ畑でつかまえて」を検索したら「ライ麦畑でつかまえて」も出た。
さすが「ライ麦」「オロロ豆」より強し。




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「女王陛下のユリシーズ号」 アリステア・マクリーン 村上博基訳 角川文庫

2016-08-03 | 読書



読み始めは、なれない艦の種類や役目。当時の階級制度。ユリシーズ号の艦内配置図を見て、乗組員、総勢725名もいる仕事場に驚いたり、日付ごとの航路図を眺めたりしながら、海戦の描写にも、自分の無知で読むのにどんなに手間隙がかかるか、我ながらこれは大変だと思った。

それでもつっかかりながら、ユリシーズとともに錨地を離れ北極海に乗り出した。

何度も航海を成功させた無傷の伝説の船が、何とドイツの戦艦をおびき出す囮だった、艦長はそれを伝えるが、もう疲れ果てた乗組員は、休む間もない朝の全員配置の呼集ラッパに叛乱を起こしかねないほど苛立っていた。

戦術家ティンドル司令官。ユリシーズの魂のようなヴァレリー艦長。ブルックス軍医と副軍医のニコルス。乗組員の名前や、配置図や航路が分かったころには、ソ連向け船団と護衛官総数32隻はソ連のムルマンスクに向かっていた。

北極海の異常気象に襲われ、ER77という船団は苦難の連続であった。
ユリシーズは4個のスクリューで39ノットを越すスピードと、360度回転する最新型レーダーアンテナを装備、爆雷、魚雷の必殺戦闘火薬を積み、特殊迷彩で濃い霧の中から救世主のように現れ、長い甲板に積んだ砲台が火を噴くと、護衛船団はそれだけで常に伝説を作った。

商船団、ER77の32隻はドイツのUボートの攻撃で次第に数を減らし、応戦した補助空母も戦闘不能で帰路に着いた、駆逐艦、巡洋艦も魚雷を受けて沈没、ついに13隻から生き残ったのは7隻だった。油送船を中に商船、左右にユリシーズとサイラスを配置、背水の陣を敷く。

あと少しでソ連の援軍が来る、しかし最新のレーダーを搭載した爆撃機に対して、ユリシーズは誤爆した自己の魚雷で艦尾は水に沈み、マストが折れる。もう砲弾も残ってなく、砲手も被爆した。
沈没船から救助した後組員で 船室を満タンにしたサイラスを見ながら、ユリシーズは高く戦旗を上げて敵艦めがけて高速で突っ込んでいく。

戦いの模様は、敵はドイツ軍だけでなく、雪も嵐も身を切る凶器になる、5分で凍りつく気温と艦の頭上をで砕ける波頭の先の泡が氷片になって降ってくる。甲板は波を被るたびに凍って厚みを増し滑る。激戦と極寒の気温との戦いは酸鼻を極わめ、乗組員が撃たれ、または凍って死んでいく。

これは「熱い男たちの物語」、ヴァレリー艦長の死で甦る乗組員魂が、最後まで読ませる。それぞれのエピソードにも泣ける。そして登場人物たちの勇敢だったり悲惨だったりする最後の姿を読むと、さすがに長い年月、読み継がれてきたことに感動する。

そして本を置いて我に返ると、やはり歴史の流れは、ユリシーズも例外ではないと感じる。既にミサイルの時代、進歩したレーダー、コンピュータによる人工衛星などの高性能の探知力は、あの頃のように目視で砲弾を発射する時代ではない。
アニメやSFで見る戦闘場面や、海戦であってももう宇宙規模である。
第二次世界大戦、最後の戦艦ユリシーズが戦闘旗を掲げて十数名の乗組員を載せて疾駆する、命がけの姿に胸が躍るが、我に返るとそれは、そうしなければならなかった戦争のドラマの追想という思いも少し混じる。

そして、戦争の悲惨さ人命の軽さを改めて感じる。



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「幽霊たち」 ポール・オースター 柴田元幸訳 新潮文庫

2016-08-01 | 読書




オースターの著作を発見したのは「孤独の発明」だった、それからは底に流れるテーマを読み続けてきたが、著作順でなく、この「幽霊たち」を自分なりに初期作品の区切りとして最後に持ってきたことを、自分で誉めたい気分になった。これはどの作品にも流れている「孤独」というテーマの究極の姿を著したものだと感じたからで。

解説で伊井直行さんは、

三部作はそれぞれ単独で読んでもなんら支障のない作品群なのだが、他の二編をあわせて読むと、一作だけ読んだときとは随分印象が違ってくる「幽霊たち」は特にそうだろう。だから却って、真っ先のこれを読んで、奇妙な小説世界を堪能してみる手がある ---といっては強引に過ぎるだろうか。
全く、私と同じ読後感をもつ人ではないかと、僭越ながらひそかに喜んだ、先に読んで、スタイルのヒントにするのは勿論いい、そして「幽霊たち」を最後に読んで、初期からの作品と三部作はこうしたテーマで繋がっている、と感じることも、オースターの作品を読む楽しみ方のひとつであってもいいのではないだろうか。

「幽霊たち」は奇妙な話で、世界がごく狭い。色の名前のついた人物たちが登場する。まず探偵のブルー、その師匠のブラウン。仕事として見張るように言われた対象のブラック、最初は謎の人物として現れるホワイト。脇役のレッドとゴールドもちょっとした彩を添えている。

ブルーはブラックを見張り続けている。定期的に報告書を送ればいい楽な仕事で、真向かいのマンションの部屋から見ていると、ブラックは一日机の前で何か書いている、作家らしい。

ブラックの生活パターンは見張る必要もない単調なもので、ブルーは変化のない時間に倦んで疲れて、次第に見張っている自分について考えるようになる。そしてついにたまりかねてブラックに接触を試みる。

彼と四方山話をするが、なかでも彼の作家の緒孤独についての話に心を引かれる。
会うことが重なってくると、ブルーはブラックの窓越しに感じる孤独が自分のものと同化してくるのを感じる。

お互いに身分が同化しお互いが裏返しのように分かちがたくなったと感じ始めた朝、彼はブラックの部屋に入っていく。

長く見張るだけの生活はブルーの精神を現実生活から遠ざけ、存在の曖昧な時間を作り出していた。

こうして、奇妙な二人の人間が出会って別れる。ブルーはブラックを打ち倒し、現実であって非現実な感じのまま生活の中に戻ったが、いつか彼はブラックの世界に入ってしまっている。



色の名前のついた人たちは、ある意味人間の最大公約数であって裏返せば最小公倍数でもある。数字というものの意味を生物に置き替えれば、目にする複雑な色は突き詰めれば単純ないくつかの混色であり、違ったように見えても非現実的な世界でそれを見たり感じるとすれば、共通する感情や数字に変換されたものが絡み合っていることに過ぎず、いつか全ての根はゼロが虚数になるかも知れない、などと思いながらこの三部作を締める自分なりの感想にした。
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