空耳 soramimi

あの日どんな日 日記風時間旅行で misako

「空飛ぶ馬」 北村薫 創元推理文庫

2015-05-29 | 読書

    

探偵役が真打の落語家円紫、主人公は女子大生の私。北村薫さんのデビュー作だそうだが、もう面白くて止まらなくなった。
何気ない日常の謎、ありふれた中に混じって気が付く不思議な出来事が、胸がすくように論理的に、説明しながら絵解きをする。私をとりまく家庭も学校もいたって平和で、三人の友達も個性は違っても雰囲気が暖かい。
ほのぼのとした江美ちゃん、落語好きの私。ズバリと飾り気のない会話を返すが、心根の優しい正ちゃん。
落語の演題がいろいろ出てきて、少し噺の中身も紹介してくれるのが嬉しい。



短編が5つ

織部の霊
最近織部のエピソードを読んでいたので、最初に出てきた名前でビックリした。大学の先生がまるで覚えのない織部の夢を見ると言う。

砂糖合戦
円紫さんと喫茶店に入ったら、女の子の三人組が砂糖壷を何度もまわしていた

胡桃の中の鳥
円紫さんが蔵王で研究会を開くので誘われた、友人と三人で旅先を蔵王にした。そこの宿で可愛い女の子を見かけた。

赤頭巾
絵本作家の女性と知り合いになった、その家の前の公園の麒麟の前に、時々赤頭巾が立っているという。

空飛ぶ馬
働き者の青年が、店先に飾っていた木馬を幼稚園に寄付をした。だが、一日その木馬が消えてしまった夜があるという。


どれも些細な謎かもしれない、?が頭の上に出るようなことがあってもまぁいいかと忘れてしまっている。そのくらいちょっとしたことを、円紫さんが解き明かす。ほのぼのとして筆が暖かい。「空飛ぶ馬」はなんだかほろっとしてしまった。

勢いに乗って、シリーズの4作「夜の蝉」「秋の花」「六の宮の姫君」まで買ってそろえてしまった。

北村さんは博識で、文章も味わい深い。引用されてい本まで読みたくなる。それもいつかと思っている。






比喩や抽象は現実に近づく中断であると同時に、それから最も遠ざかる方法であろう。現実に苦しみに思いを致すときに僧考えないわけにいかない。

「元気?」
声を上げながら近づく私たちに、江美ちゃんは二人分――両手を胸の前に広げて、夜を迎える前に現れた気の早い星の輝きのように振ってみせた。

「そういえば――」
「何よ」
「稲花餅、食べるぞ」「あら、忘れてた。感心するわね、凄い執着」
「執着のないところに達成はない」
笑ってしまう正ちゃんのせりふより


知で情を抑えることはできるのに、その逆は出来ないのです。そこが知で動く人間の悲しさではありませんか。そういう意味で知は永遠に情を嫉妬せざるを得ないのでしょうね
「赤頭巾」解決後の円紫師匠の言葉
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「九月が永遠に続けば」 沼田まほかる 新潮社

2015-05-27 | 読書


読んで気分のいいものではない、気が滅入るような出来事が続く。子供の失踪、浮気相手の事故死、別れた夫の娘の自殺未遂、個々の出来事は探せばいくらでもあるだろうけれど、こう不幸な出来事が重なるというのも珍しい。
前に一度読もうと手に取ったが置いてあった、「ユリゴコロ」の不思議な雰囲気に惹かれて読み直すことにした。
気持ちが沈んでない時に読んだので何とか読みきることが出来た。



佐和子は離婚してから8年、一人息子と二人暮らしだった。夫からは時々気にかけているような電話が来る。失効していた運転免許を取り直すために教習所に行ったが、そこでであった教官は、夫が電話で話していた、娘の冬子が付き合っているという犀田だった。
そのうち彼とラブホテルに行く仲になる。

息子の文彦は高校三年生で、近所の同級生のナズナと親しくしていた。ナズナの家は父親だけで、喫茶店を開いていた。文彦と二人で時間があると手伝ったりしていた。
寒い夜、文彦がごみを捨てに行ったままふっといなくなった。寒い夜にサンダル履きのままいなくなってしまった。
不安が増して落ち着かない日々が過ぎていった。別れた夫にも電話で知らせるが何日経っても行方が知れなかった。

突然犀田がホームから落ちて轢死した。冬子と大声で言い争っていたが、誰かに押されたように落ちたという。
目撃者もはっきりしないので冬子が何度も呼び出されて事情を聴取されるが、事故として処理された。

夫は再婚していた、娘の冬子は下校時間に文彦の学校に来て、二人でしばしば逢っていたという。文彦は冬子が連れ子で血がつながっていないことを知っていたが、冬子は異父兄妹だと思っていたらしい。犀田に付きまわれた冬子を助けるために冬彦がやったのではないだろうか。

前夫・雄一郎は精神病院の院長だった、佐和子は勤めていて知り合い結婚したが、雄一郎は患者だった亜佐美と再婚した。亜佐美は少女の頃から何度もレイプされ精神が崩壊していた。初めて患者で入院したとき佐和子もその場にいて、目を覆うような亜佐美の異様な姿を目撃していた。だが夫は優しく治療を続け、ついに亜佐美にとらわれたように結婚した。
連れ子の冬子もそうだったが、親子ともにオーラが射すような蠱惑的な美しさを備えていた。雄一郎もその美貌に惹かたのだろうか。

亜沙子は結婚後徐々に回復しているように見えた。妊娠もしたと言う。冬子の話で、雄一郎と亜佐美の異様な結婚生活の様子が暴かれる。どこか常に精神状態の危うい亜佐美と、雄一郎の生活は破綻して、亜佐美が兄の家に帰ることも多くなり、不在の日も長期化していたという。

文彦はどこにもいない、消えてしまった。亜佐美も兄のところに行ってしまった。
冬子が睡眠薬をに飲んで危篤状態になった、雄一郎は自分の病院を避けて近くに入院させた。

佐和子は心労で衰弱してきた、ナズナの父が無神経に入り込んで世話を焼きだす。



読者はこんな中に放り込まれるが、読むうちにそれぞれの運命から目を離すことが出来なくなる、闇の暗さが増してくるような物語に引き込まれる。
暗い中ので々は異形にも見えるくらい美しく恐ろしい。そして生きている。

結末は不幸のなかからも、薄い光が射すようだった。

震えるような、恐ろしさと暗さから目を離なすことが出来なくなる、不幸までも心ならずも共有させられる、謎が謎を積み重ねて文章を追いかけていく、沼田さんの力の入った作品だった。
やはりこれもミステリだとしたら飛びきりのイヤミスだった。
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「ユリゴコロ」 沼田まほかる 双葉社

2015-05-27 | 読書

話題になった「ユリゴコロ」は題名が意味不明なのがかえって面白そうに思った。前に「九月が永遠に続けば」を読み始めて、これは合わないと思って止めた。本欠乏時代は活字なら何でも読んで、きちんと最後まで読むと何かしら面白いところが見つかった。それが今では、部屋に本が溢れて山崩れがおきそうな有様になっている。読みたい本が多すぎるので、よく味わいもしないで止めるのに心が痛まなくなった。
この「ユリゴコロ」はとても面白かった。それでもう一度読んでみようと「九月~~」を探したが、もうどこにも無かった。たまに片付けるとこうなる 泣



二ヶ月前に母が亡くなり、祖母はケアハウスに入っていて、父が世話に通っている。その父も膵臓がんなのだが、治療を拒んでいる。
亮介には弟の洋平がいる。
亮介は家を出て、ペット同伴の、シャギーヘッドと言う喫茶店を開いている。
たまたま実家に帰ると押入れが開いていて、雑に出して片付けたようなダンボールの箱が見つかった。父のものだったが、底の方に茶封筒に入った4冊のノートがあった。

日記と言うか手記というか、誰かが書いたらしい文字がびっしりと詰まっていた。最後に空白が残っているものもあった。父のものだと思うと気がとがめたが、読んでみた。

タイトルはユリゴコロと読めた。そしてひどく特異な出来事が記されていた。
 私のように平気で人を殺す人間は、脳の仕組みがどこか普通と違うのでしょうか。脳の中ではいろいろなホルモンが複雑に作用しあっていて、そのバランスがほんの少し変化するだけで、気分や性格がずいぶん変わるのだとか (略) 私の診察はすぐすみましたが、そのあとで母はいつも、家での私の様子を長々と医師に話しました。医師は毎回同じ、低い声で話す、眼鏡をかけた人でした。ときには涙も混じる母の話を、根気よく頷きながら聞いていましたが、必要になればぼそぼそと説明をさしはさみます。言い訳めいた口調でよく言っていたのは、この子には・・・のユリゴコロがないからしかたがない、というふうなことです。・・・の部分はときによってちがうので覚え切れませんでしたが、ともかく、いろいろな種類のユリゴコロがあって、そのどれもがわたしにはないらしいのです。
書き出しがこうだった。

怖くなってダンボールを押入れに戻して、そのうち忘れるだろうと思ったのだが、最後まで読まずにいられなかった。

父が出掛けたすきに押入れを開けて、誰が書いたのかわからないまま、ノートを読み進んでいく。

亮介は幼いとき肺炎で入院したことがある。母はベッドのそばで優しく看病をしてくれた。そんな事をおぼろげながら覚えている。退院してうちに帰ると住んでいた前橋から奈良の駒川市に引っ越していた。入院前と後ではなんとなく母の印象が違っていたように思ったが、子供心の思いなどは当てにならない。

そういえば母が亡くなる前、何かにおびえているように見えなかっただろうか。

それにしても、亮介にとっても内容が重たすぎる。弟に協力してもらって、気になるところから解決しようと思う。

父に直接は聞きづらいし、弟は軽い気持ちで聞き流しているようだ。

見つけた手記も気になるが、店のシャギーヘッドでは結婚の約束をしていた店員の千絵が出て行ってしまう。なにも言わないで消えてしまった。店員なので手を抜いて採用時の書類もない。亮介は気力がうせてしまう。
だが店で何かと気に掛けてくれる年配の店員の細谷さんが、一番の支えだった。
細谷さんは千絵のことを自分のことにように調べだす。
そして行方を突き止めてくれた。

もうたまらず手記を読み終え、勇気を出して父に聞いてみた。これは誰が書いたものですか。

父はもう先が永くは無いだろう、と話すことにした。

亮介は、全てについて知ることになる。



手記と亮介の生活が交互に書かれている。不思議な出来事は緊張感があり、周りの思いやりが重く、ときには暖かく、最終章に向かっていく。
変わった設定、情景の描写が続くが読後感は悪くない。と言うより、珍しいケースをテーマにした面白い話だった。

機会があればほかの作品も読んでみようと図書館に予約した。

その本が来る頃は、周りの積読本も少しは減っているでしょう、楽しみにしている。


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「武士道シックスティーン」 誉田哲也 文春文庫

2015-05-27 | 読書



今頃読んでみると、人気作品ですっかりイメージが出来上がっている、マンガにもなり映画にもなっている。安心して読み出した。

高校生、16歳、磯山香織。「五輪書」を手放さない熱血剣道少女。頭の中は剣道で一杯。
こういう世界は久し振りで、一緒に熱血してしまった。
市民大会の決勝戦で負けた、そのときの相手の動きが不思議で仕方がない。

ここから、高校で再会した甲山(西荻)早苗との長い付き合いが始まる。この二人のずれた感覚が、何かと面白い。

古武士の風格まで持つ浮世離れのした剣士と、一方ちょっと浮いた感じの天然少女、それが目標は同じ剣道。

影響しながらの三年間で、敵愾心が友情に代わるところ、ストーリーに乗せられて、ほろっとしたり、ジンとしたり、興奮したり忙しい読書だった。

余り知らない剣道の試合の形、練習マニュアルなどが身近になった。二人を取り巻く剣道部のメンバーがそれぞれ個性的で、爽やかでいい。部長や副部長の人柄も、脇の部員たちも、丁度いい緩衝材で、二人の生活に関わっている、試合になると、個性の違いが際立つところも楽しみつつ勝敗がが気になって力が入る。三年生が卒業して新体制になってから、新しい雰囲気になるところも生き生きとして新鮮だった。
親しんだ先輩が卒業したり、新入生を迎えたり、学校の部活こういう出会いや別れがあったなぁと懐かしい。

磯山香織の言う負けることは斬られること。彼女らしく全身でぶつかっているのが伝わってくる。

時代小説で、道場の代表が、御前試合に出る。息詰るような前半の山場だが、それが遺恨を残したり、友情を深めたり、後の物語に発展する。

まさに負けることが斬られること。真剣な求道心はこういうものの様に思った。

二人の成長譚、青春時代を象徴するような数々のエピソードの含めて、爽やかで、読後感のいい話だった。

続編も忘れないうちに読みたい。
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「風の陰陽師」一 きつね童子 三田村信行 ポプラ社

2015-05-26 | 読書


本棚に岡崎玲子絵、夢枕獏原作の「陰陽師」13巻がある。夢中になって読んでから10年近くになる。その間映画化されたものも見た。妖しのはびこる平安京が舞台で漫画は分かりやすいと思ったが、巻が進むにつれて文字が増えて内容も難解になった。これでは原作を読むなんてムリだろうと思ってそのままになっていた。

「風の陰陽師」と言うものが出ていると知った。図書館に行くと「児童書だから読みやすいですよ」ということで安心して二冊借りてきた。

(一)は清明の誕生から、都に戻り中納言に仕えるまでの話

父安部の保名と葛の葉の間に生まれた清明は、信太の森にいる母に会いに行く。そこは狐が守っている森だった。母は長の葛翁の子供で、大きな白狐だった。狐たちに守られて修行をする。狐たちは様々な術を使って暮らしていた。

母は清明が信太の森からでて人々の間で生きることを願っていた。

清明は母に守られ、赤い玉を思って都に帰ってくる。父が亡くなった後、屋敷は狐たちが守っていたが、陰陽頭の加茂忠行に預けられる。

京に帰る旅の途中で、多城丸と妹の小枝と知り合う。流浪の高僧知徳法師にもあう、気難しい僧だったが眼鏡にかなって弟子になる。

忠行の下から、陰陽寮に通って修業を始める。母の愛に見守られ、狐たちとの交流のなかで成長していく。
知徳の弟子だった破戒僧の暗躍、子供ながら災難は容赦なく降りかかってくるが、信太の母から貰った赤い玉は「赤眉」と言う狐だった。その術は強くて清明は何度も助けられる。

次第に強くなる清明が可愛らしくて頼もしい。

当時の京の都は様々な怪異、妖怪が跋扈していた。魔を操るものはその術で出世を目論んでいたり、盗賊だったりして、貴族たちは自衛のために強い陰陽師に守られたいと思っていた。

中納言の家の陰陽師が亡くなり、腕比べをして勝てば出入りできるという。相手は蘆屋道満と言う僧だった。
強敵の道満を破り、清明は名前を知られるようになっていった。

単に清明の成長記でなく、エピソード満載で、その上読みやすい。清明はかわいいし、狐たちも無邪気でとても面白い。

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「13番目の人格」 貴志裕介 角川ホラー文庫

2015-05-25 | 読書


一時、二重人格や多重人格の本や映画をよく見かけた。この本はその頃買ったのか、作者の貴志裕介さんの名前で買ったのか覚えていない。平成10年発行で12版になっている。人気があって重版になったのかもしれないので、読んでみた。

加茂由香里は人の強い感情ををキャッチできるエンパスだった。特殊能力があるための悩みがあったが、能力を使って心に障害「を抱えることになった人々を助けられないだろうか。被災者を助けるボランティアを志して神戸に来た。

両親のない少女が、阪神大震災で怪我をして西宮の病院に入院していた。
少女・千尋の学校のカウンセラーと協力して相談相手になった。そこで千尋の中に顕著な12の人格がいることに気が付く。暫くして異質な13番目の人格が見つかった。12までの人格には辞書を参考にして名前をつけたが、13番目の人格「ISILA」は強い憎悪を秘めて、他の人格を圧倒していた。名前は「雨月物語」の、復讐する女の怨霊から「磯良」という名前だった。
幼い時の時の事故で大きなトラウマを持つ千尋を、苛めた人たちが、次々に心臓発作で死んでいく。

全ての人格を統合して千尋を救いたいと思う由香里は、「磯良」について調べ始める。
そして「ISOLA」は「R]が「L]になっていたことに気づいた。千尋に面会に来た医師の線から、彼女が「ISOLATION TANK」装置を使って、幽体離脱の実験をしていたことを知る。指導していた助教授の真部も関係した実験であった。
彼女は真部に近づいていく。

千尋に憑依した「ISOLA]が凶暴な姿を見せはじめる。


まさに手に汗握る展開で面白かったが、真実性が少し弱い。「雨月物語」から名づけられたという怨霊の「磯良」が不気味だが、由香里を迷路に誘い込んだところで、幽体離脱の話になる。後半の研究者二人の関係も、千尋の悲惨な体験を利用するような部分があったが、話の幕切れが、なにもかもなだれ込んで終わった。「磯良」はなんだったんだろう。

第3回日本ホラー小説大賞長編賞佳作。
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「利休にたずねよ」 山本兼一 PHP文芸文庫

2015-05-21 | 読書
   



1591年(天正19年)2月28日 利休70歳 朝

利休は死を賜った。――あの下司な猿めが、憤怒がたぎっている。
雷鳴がとどろく中、妻の宋恩と広縁に座った。この雨は天のもてなしであろう。
一畳半の茶室に入り、三人の見届け役とともに茶をまわし飲んだ。助命嘆願を勧められたが詫びることなどなかった。秀吉の勘気にふれたと噂が広まったが身に覚えもなかった。
金に明かした秀吉の作動には飽きが来た。
松籟の音を聞きながら、藤四郎義光の短剣を手にした。
「この狭さでは、首が刎ねられぬ」
「ならばご覧じろ、存分にさばいてお見せせん」


ここから時代が遡る珍しい構成。
利休が信長に認められ、秀吉に重用され、茶道頭に上り詰める。ただただ茶の湯にのめりこみ、侘び,寂び、幽玄の世界を追い求め続けてていく。その美に対する天才的に備わった感性と、修練で、茶道具を見分けていく。

堺商人の間で侘茶が広まった頃、信頼の置ける見利きになった利休は、財を蓄え、美を求めて身の周りをしつらえ、そのためには恐れるもののない物言いと行いで、茶道を極めていった。
秀吉に重用されながらも、金に明かした低俗さに、頭を下げながらも心の声が表ににじみ出ている。それを秀吉は憎悪していた。
天下に並ぶもののない権勢を誇っていたが、利休の審美眼の深さには及ばなかった。

利休は若い頃、忘れられない恋をした。思いつめて、高麗から買われてきた女と駆け落ちしようとした、だが捕まる前に毒の入った茶をたてて心中を図った。女は高貴な生まれで下恐れなかった、利休は果たされず生き残り、女の持っていた緑釉の香合を肌身離さず持っていた。噂で知った秀吉が譲るようにいったが頑として受け付けなかった。

大徳寺に寄進した礼にと、僧侶たちが、利休の等身大の木象をつくり山門に立てた。それが秀吉の逆鱗に触れた。
自刃の原因はそのことになってはいるが、利休の厳しい求道の心と、美に対する天性の感、意に叶わないものを認めない頑固な意地、それが、茶道の奥義を窮めたといえ、凡庸であったり、ただわずかに優れているというおごりを持つ人たちの生き方に沿わなかった。
金と権力が全てに通じ、世の中全てを手に入れることが出来ると思う秀吉。ただ戦いの技に優れ、強運と時には卑屈さも使い分ける計算高い秀吉とは相容れない生き方だった、利休は誇りとともに運命に殉じた。

映画化されたときの利休役の、海老蔵さんのカバーが付いている。死を前にして端然と座った姿が美しい。
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市大植物園の「白い花」 2015.05.10

2015-05-21 | 山野草


初夏の木の花や草の花を写してきました

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「ぼくのメジャースプーン」 辻村深月 講談社文庫

2015-05-20 | 読書



辻村さんの作品は考えさせられることが多い。本の厚みと内容の重量に耐えて、読みきれば平凡な生活の中で、考えることもなく通過しているあれこれに気が付く。

可愛がっていたウサギが無惨に殺された。
クラスで交代に餌をやり世話をしていたが、僕が風邪を引いて休んだ日、当番を変わってくれたふみちゃんが手足を切られて死んでいるウサギを最初に発見した。
校門で様子を見ていた犯人ともすれ違っていた。罪の意識などなく、うさぎを殺してもただ一時の気晴らしだと言う20歳の引きこもりの男だった。
うさぎは殺しても器物損壊で軽い刑だという。可愛がっていたウサギの姿を見てふみちゃんは心をなくしてしまった。自分の中に閉じこもってしまった。
僕が休んだからだ。自責の気持ちが深く深くなって、僕は憂鬱の中に落ち込もうとしていた。
心配したお母さんは秋先生に相談する。

ぼくは言葉に不思議な力を持っていた。秋先生とは親戚だったが、時々血筋の中にそういう人が生まれてきたのだという。
一人に一声だけ「若し~しなければ~の結果になるぞ」まず原因になる言葉を掛け、次にその結果を知らせる。その力は相手の気持ちとは関係なく効果を発揮する。
ぼくは、ふみちゃんを救いたかった。ぼくも救われたかった。それには、犯人に罪を自覚させて償わせなくてはならない。言葉の力を犯人にぶつけたかった。
しぶる先生方を力を使って動かし7日後に犯人に会うことになる。
それまで、相談相手の秋先生に指導を受けに行く。
先生と力に付いて話し合う。原因と結果、因果関係について秋先生の話を聴く。力を使うことについて、犯人を懲らしめてふみちゃんを治すことについて、僕と先生は考える。
言葉の力は、正しいと信じられるのか、犯人に使って反省させられるのか、気休めではないのか、憎しみをぶつけて復讐しようとしているのか。それは正しい使い方なのか。秋先生も結論を出さない。
僕は考えた。そしていよいよ犯人と対面するに日になった。僕は秋先生とともに部屋に入った。そこには平然と座っている若い男が居た。



僕の出した結論に感動する。可愛がっていたウサギを見たふみちゃんの姿に涙が出る。小学4年生に重たすぎる苦悩の一週間、読む時間を遅らせたいような結論を知りたいようなじりじりした思いが続き、最後で報われた。



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「Nのために」 湊かなえ 双葉文庫

2015-05-20 | 読書
  

杉下は瀬戸内の小さな島から進学のために東京に出て、ボロアパートに住んでいる。たまたまとなりに作家希望の西崎が居た。台風が来て床上浸水のため世話になった二階の部屋に、安藤が住んでいた。

暫くぶりに島に帰省して同窓会に出た。そこで成瀬に出会う。彼はアパート近くのレストランでアルバイトをしていた。

殺人事件が起きるのだがそれも「N」がつく野口夫妻が死ぬ。
主要な人物の名前には姓か名に「N」が付いているので、「N」のためにというタイトルは、誰が誰のために行動したかという、読み方が最終的な課題になっている。

杉下と安藤は清掃会社でアルバイトをしていたが、その会社はスキューバダイビングの資格を取らせてくれるというので、二人で申し込んだ。安藤は就職活動中でそれが大きなスキルになると思った。
資格を取り、仲間と出かけた石垣島で野口夫妻と出会い、偶然に将棋好きの杉下と安藤は、野口氏と趣味が合う。帰ってからも自宅に招かれるようになった。安藤は希望通り大手商社の内定を受けたが、そこに野口氏が居て、希望の部署に推してもらった。

野口夫妻宅で妻が刺刺され夫が撲殺された、そこに西崎が居合わせ、撲殺犯として逮捕された。彼も自分からそれを認めた。

野口夫人が夫からの暴力で逃げることも出来ず、外から取り付けたチェーンで閉じ込められていた。顔見知りになった杉下、西崎は幼馴染の成瀬を加えて布人を救出する計画を立てた、が失敗、婦人と付き合いがあった西崎が逮捕され10年の実刑を受けた。

警察の事情聴取で行動を述べた。犯行時の行動はつじつまが合って、全員が開放された。


そして10年後。杉下は余命わずかと宣告されて療養中だった。
それぞれ、の真実がここで明らかになる。一人ずつの過去、野口夫人救出計画の際の4人の動き。
表立った計画的な行動は、警察で述べた。だがその裏に、お互いの真実が隠されていた。


湊さんの作品は、「告白」をまず読んだが、本屋大賞と知っても、自分とは合わない作家だと決め付けていた。
今回広告や批評でもうう一度と思って読んでみたら面白かった。
技術的なストーリー展開がいい。ます表向きの話で切り抜けた警察聴取。野口夫妻の家庭事情と、職場が同じだった安藤の立場。急遽計画にい加わった成瀬。

10年後に明らかになるそれぞれの気持ちが、「N」というイニシャルだけで、想い合う悲しみが迫ってきた。
湊さんをもう少し読んでみたい気持ちにさせる、良く出来た作品だった。


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「文車日記」 田辺聖子 新潮文庫 (レビューその一)

2015-05-19 | 読書


長い間探していたが、母の蔵書の中に紛れていた。67編のエッセイがある。見出しに丸がつけてあるのは気に入ったものだろう。
ざっと読んでみると、想い出すものとそうでないものがある。ジャンルも古典に限ったものでなく落語まである。さすがお聖さんだ、面白い!
二編ずつ読んで考えよう、「その一」と言うことで今日から始める。



額田女王の恋(万葉集)
 奔放な歌と物語を残した万葉の星。少女の頃に中大兄皇子に従ってきた大海人皇子と恋に落ちた、厳しそうなお兄さんより優しい微笑と優雅な弟の方がいいわ。
おおらかな歌で斉明・女帝に愛され、有名な歌を読んだ。

 熟田津に船乗りせむと月まてば潮もかないぬ今は漕ぎいでな

彼女は宮廷の華、周りの人々の心を惹きつけていた。
兄の中大兄皇子に求められた。斉明帝が崩御し天智天皇が即位し、その男らしい統率力を見て愛人になった。
ある初夏の一日、蒲生野で狩りがもようされ、大海人皇子をみかけて歌った歌。

 あかねさす紫野ゆき標野ゆき野守は見ずや君が袖ふる

大海人皇子の返歌

 紫の匂える妹を憎くあらば人妻ゆゑにわれ恋ひめやも

周りは大喝采。
座興とはいえ実におおらかな歌だった。
何十年の前の記憶が浮かび、恋の記憶も、馴れ合いの歌の中にはあったのかもしれない。

その後も天智天皇の愛人であり続けたが没年は定かではない。

 君待つとわが恋居ればわがやどのすだれ動かし秋の風吹く

晩年の

 いにしえに恋ふらむ鳥は時鳥けだしや鳴きしわが恋ふるごと

どちらの天皇を深く愛したのか、巫女の身分でお后になることはなかったが、聖子さんはどちらも同じウエイトで愛したのではないか、と締めている。






むかしはものを

百人一首の中で人気がある歌。

あひみてののちの心にくらぶればむかしはものを思はざりけり

あなたにあってから物思いが増えました、と私などは読み取ってきた。

だが聖子さんは「あひみての」に複雑で皮肉な響きがあるという。
あい見るとは、ただ出会ったのではなくて、既に一夜をともにした。その後男はひょっとして白けてしまったのかもしれない。
あぁ昔思っているだけの日々の方が良かった。恋は萎んだ。

――作者の藤原敦忠は男女の愛の微妙なながれのゆくすえを早逝者の直感で洞察していたに違いありません。――

こういう読み方は初めて知った。聖子さんの洞察も興味深いものだった。

  
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「神様」 川上弘美 中公文庫

2015-05-18 | 読書


解説で、佐野洋子さんが無意識と意識下と言う言葉を使っている。川上さんの作品はそういう世界なのだろうか。
また「そんな事考えてない」と言うのに対して「無意識の思いが出たのよ」と言い返すこともあるという。
だが意識、無意識とは別に、川上さんの作品は、夢でもうつつでもない世界が共有できる人だけに通じる、情感がある。
その世界では、まるで現実に広がる日常と分かちがたい、境界の見えない時間を、感じることができる。
川上さんの書いている宇宙に、その時々の悲しみや喜びの広がりの中に、誘い込まれていく、それが読書のひと時の快感だと思える。



神様
くまと散歩に出たり、河原の草の上でならんで寝転んで空を見たりした。熊の神様のお恵みが…とくまはいった。

夏休み
梨畑でアルバイトをした。足元に三匹の小さなものが走り回っている。くず梨を与えるとおいしそうに食べた。

花野
事故で死んだ叔父が時々出てくる。話をするが、叔父が思ってもいないことを口にすると影が薄くなって消えて行く。

河童玉
ウテナさんとお寺に精進料理を食べに行った、池から河童が出てきて、恋の悩みの相談を持ちかけた。恋と言うより性の悩みであった。霊験あらたかな河童玉でも効かないという。

クリスマス
ウテナさんが壷をくれた。こすったら「ご主人さまぁ」とコスミスミコが出てきた。チジョウノモツレでこうなったんです、と言う。ウテナさんが旅から帰ってきた、クリスマスだから三人で酒を飲んだ、酒がなくなったらコスミスミコさんが壷を逆さにして飲み物を出した。

星の光は昔の光
コスミスミコが憂鬱そうで余り出てこなくなったら、となりの部屋のえび君が時々来るようになった。部屋で話したり散歩をしたりした。夜空にホシが出ていた。
「星の光は昔の光なんでしょ。昔の光はあったかいよ、きっと」といって少し泣いた。
「昔の光はあったかいけど、今はもうないものの光でしょ。いくら昔の光が届いてもその光は終わった光なんだ、だからぼく泣いたのさ」しっかりした声で言った。

春立つ
カナエさんというおばあさんの店で酒を飲んで話をする、そこには猫が6匹いる。カナエさんは雪の深いところで若い男に出逢って暮らした話をする。春になっていってみると店が閉まっていて張り紙がしてあった。「……雪の降る途方で、これからの余生を過ごすつもりです。違うように出来るような気になりましたので」

離さない
エノモトさんが小さな人魚を浴槽で飼っていた。留守にするので預かった。帰そうということになったが二人ともなかなか帰せない。人魚が「離さない」といった。

草上の昼食
熊が作ったお弁当を持って散歩に出た。熊は料理が上手だった。ワインを飲んで話をした。「故郷に帰るんです」とくまがいった。

  
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「ヒトリシズカ」 誉田哲也 双葉社

2015-05-17 | 読書

誉田哲也さん得意の警察小説から幕を開けるが、一つの事件が解決したかのように見えて、その背後にいる影が姿を現し、続く事件が次第に怪奇な様相を見せてくる。そんな連作短編が最後に繋がる構成が面白い。
題名と表紙の清楚な花を見、作者にも関心があって、読んでみたが、やはり多くの代表作に比べて、少しライトな感じがした。

題名は漢字になると少しホラーじみている。


闇一重
小金井交番の管内で銃による死亡事故が起きた。被害者は組員で、少女を集め薬を使い売春をさせていた。しかし銃痕に不審な点があった。一度止まった銃弾が心臓まで押し込まれた形跡が見つかったのだ。
現場から逃げた男が逮捕された、だがそこにひとりの少女がいた。調べが進んでいくと、その子は現場捜査に加わった警官が世話になった上司(伊東)の娘らしい。彼女はその前から家出して行方不明になっていた。
この件については、何も聞かず見なかったことにしてくれ、警官仲間はそういって頼んだ。

蛍蜘蛛
梅島の路上で刺殺事件が起きた。西新井署の巡査二人も捜査本部を手伝うことになった。巡査の山岸はストーカー相談を受けたことがあった。相談に来たのは、彼の行きつけのコンビニ店員で、ストーカーというのは死んだ男だった。だが再度の聞き込みをすると、コンビに店員はすでに姿を消した後だった。一方少女と居たと言うアリバイが崩れた水野と言う男が、犯人に挙げられ自殺。

腐屍蝶
警察官をやめ探偵になった青木のところに、伊東と言う男が家出した娘の捜索を依頼してきた。しかしその娘は市原市の山林で白骨化していた。一方、家出人のサイトで娘の写真を見た西新井署の山岸巡査は、コンビニで働いていた澤田と言う娘が家出した伊東静加に似ていると思った。一方青木は女に浮気調査を頼まれた。相手の南原は組員崩れの不動産屋で、青木は追跡中に見つかってしまった。


罪時雨
伊東が行きつけの理髪店のインターン(深雪)が、DV被害にあっているという、聞いてみると若く見えた彼女には内縁の夫がいて、若いときに生んだ娘もいるという。その同居人が刺されて死んだ。そのとき八歳になる娘が通報してきた。時が経ち、伊東は深雪と結婚した。

死舞盃
南原が撃たれて死んだ。組のフロント企業だった南原が銃と薬を奪ったのが元で襲われたらしい。内通してきたのはアキという女だった。捜査をしているうち青木という探偵の行方も明るみに出た。

独静加
死んだ女性の戸籍が使われていた。容疑者を逮捕したが、彼女には子供がいた。容疑者の本名は伊東静加。


ねたバレになりそう、というかすこしねたバレ。伊東静香の足跡が浮かんでくるにつれ、事件の真実が明らかになる、と言う仕組みになっていてる
物悲しい生き方の一方で、罪を犯しつつ、人間らしさから外れていく、シズカが哀れにも見える。
優しい花の名前がついた題名で買った本が、犯罪小説だったことに少し驚いた。


  

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「キネマの神様」 原田マハ 文春文庫

2015-05-14 | 読書



自他(主に家族)ともに許す子供時代からの映画好きなので、この本ははずせないと思っていた。題名が嬉しい。出てくる名画がいい。
まず「カッコーの巣の上で」「ニューシネマパラダイス」「ライフイズビューティフル」抵抗がないラインナップから。
だが単に映画礼賛の小説ではない。そこのは映画好きの魂、映画を愛する人たちの熱い思いが溢れている。

生活者としては落第に近い父、ギャンブルにのめりこみ借金を作っている。そしてしっかり物の母、そこに前途洋々に見えた会社を辞めた私が、ビルの管理室で両親と同居を始める。
名画を守り、儲からない映画館を二本立てにして、細々と経営する館主。
始まりはこういうところから。

父が心臓病で入院、バイパス手術をした。
父は強運である。たまたま名医にあたり無事退院した。

管理人室で仕事を手伝っていて、父親のノートを見つける、ビル管理の日誌だったか、映画の感想も書いていた。
素朴な映画日誌は難しい評論ではなく、映画好きの心に響くような、映画への愛が溢れたものだった。
私もちょっとした感想を書いてそのノートに挟んで隠しておいた。

求職活動も巧くいかなかったところに電話が来た。映画雑誌のサイトにあるブログに投稿した記事が、目に留まったのだそうだ。
映画界で功績を残したその会社は今では少人数で発刊する売れない映画雑誌にわずかな足跡を残していた。
そこに採用された。

ブログが認められたのはいいが、ちょっとした感想だったので、投稿人は父の名前から「ゴウ」になっていた。
ところがそれでアクセスが飛躍的に伸びたと言う。
退院後も,ギャンブル、映画を止めない父の「再生改革」に利用することにした。
父はサイト名「キネマの神様」に「ゴウ」と言うニックネームで投稿を開始した。
父はs喜び勇んで書き始めた。
予想外にブロガーの反響が大きく、雑誌の売り上げが、伸びてきた。
そこに退職前の会社でアシスタントをしていた後輩がアメリカで結婚していたが、英語版もどうかといって来た。
彼女の協力で英語版が世界に広がった。
突然、アメリカから辛口の投稿が来た、ニックネームは「ローズバット」と言う。
父は張り切った。それが実に的を得た心に響く記事で、PV数がうなぎのぼり。
本は売れスポンサーがつき大騒ぎになった。

映画を愛する人たちの心温まるてんやわんやは、ちょっとジンとくる。投稿記事は「ゴウ」はもとより「ローズバット」の映画愛が人々の心を動かし、二人の意見は異なることもあったが、それも受けた。
二人は顔を見ないままに心が通うようになる。


面白かった、半日も繋らず読んでしまった。
出てくる映画は、サービスなのかよく知っている物ばかり。

時間があればちょこっと読むにふさわしい、楽しい暖かい本でした。  




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「出署せず」 安東能明 新潮文庫

2015-05-12 | 読書


これより先に「撃てない警官」があったが、しまったと思っていたら、解説が丁寧で読んだ気になれた。
そしてあれやこれやで、柴崎が左遷されたのが綾瀬署の警務課、課長代理だった。
間の悪いことが重なって、現場経験の少ない女性キャリアが署長になった。下で働く柴崎の署員との板ばさみ状態と、ついつい現場に足を踏み入れてしまう性格が、数多い警察小説の中でも物語を面白くしている。

折れた刃
職務質問をしてカッターナイフの携帯を見つけた。刃が6センチ未満なら軽犯罪法、6センチ以上は銃刀法違反になる、担当した警官二人は刃を折って短くしたがそれがリークされ、関わった巡査と警部補の取調べを開始した。難航したそれが終わったと告げると、署長はあっさり明るい声で「良かった」といった。

逃亡者
ひき逃げがあった、最近の車は塗料などの進歩で手がかりが残っていなかった。
被疑車両が見つかったが所有者は貸し出していたものだという。しかし借りた本人は行方が知れなかった。
犯人なのか、冤罪なのか。
柴崎が活躍するちょっといい話。

息子殺し
課長代理さんのレビューでこれが読みたかった。
保護司として人望もあり、世間に認められている人格者がなぜ息子を殴打して殺したか。
他人の子を更正させることに心を砕いてきたが、自分の息子にはどうだっただろうか、自問しながら父親は罪を認めている。酔った息子の乱暴を止めるために犯した罪で、正当防衛は認められるのか。状況は確かに父親のいうとおりなのか。


夜の王
事件が起きると、上司も飛び越えて初動捜査の手配をする、その指揮の巧みさで城田は「夜の王」と呼ばれていた。
9年前の事件もなんなく解決したが、新たに発生した窃盗事件で逮捕した犯人のタバコの吸殻が、9年前の4本のうちの一本のDNAと一致した。
どういうことなのか。そのときの捜査官、城田が呼ばれた。

出署せず
23歳の矢口昌美が失踪した。失踪事件として片付けていたが、5年後転勤先から戻った父親が捜索ビラを撒きはじめた。警察としても放っておく訳にはいかなくなった。当時、昌美が付き合っていた人たちから調べ始めると、複雑な人間関係が分かってきた。
昌美を可愛がっていたという南部は、今では周りの塀を高くして家に引きこもり、住居を要塞状態にして世間との交わりを絶っていた。中はごみ屋敷だというネットの写真も公開され、ついでに庭にごみを捨てる者も出る始末。係累のない南部は遺産相続人の甥、古山が何度訪れても門は閉ざされたままだった。
だが、可愛がっていた昌美に相続させるという遺言を書いたという噂があった。
古山は?付き合ったいたと言う横江は?昌美は無事でいるのか?
この最後の中篇は面白く纏まっている。

特に新味はないが、読みやすい。
署内の人たちの関係も、よくある軋轢や意志の疎通や、人事異時期の思惑なども良くわかる。
しかし、警察物というジャンルでは読者も手ごわくなっている。
キャリアの美人署長、柴崎の人柄や彼の家庭の様子などもあり、無難な出来だった。


 
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