探偵役が真打の落語家円紫、主人公は女子大生の私。北村薫さんのデビュー作だそうだが、もう面白くて止まらなくなった。
何気ない日常の謎、ありふれた中に混じって気が付く不思議な出来事が、胸がすくように論理的に、説明しながら絵解きをする。私をとりまく家庭も学校もいたって平和で、三人の友達も個性は違っても雰囲気が暖かい。
ほのぼのとした江美ちゃん、落語好きの私。ズバリと飾り気のない会話を返すが、心根の優しい正ちゃん。
落語の演題がいろいろ出てきて、少し噺の中身も紹介してくれるのが嬉しい。
短編が5つ
織部の霊
最近織部のエピソードを読んでいたので、最初に出てきた名前でビックリした。大学の先生がまるで覚えのない織部の夢を見ると言う。
砂糖合戦
円紫さんと喫茶店に入ったら、女の子の三人組が砂糖壷を何度もまわしていた
胡桃の中の鳥
円紫さんが蔵王で研究会を開くので誘われた、友人と三人で旅先を蔵王にした。そこの宿で可愛い女の子を見かけた。
赤頭巾
絵本作家の女性と知り合いになった、その家の前の公園の麒麟の前に、時々赤頭巾が立っているという。
空飛ぶ馬
働き者の青年が、店先に飾っていた木馬を幼稚園に寄付をした。だが、一日その木馬が消えてしまった夜があるという。
どれも些細な謎かもしれない、?が頭の上に出るようなことがあってもまぁいいかと忘れてしまっている。そのくらいちょっとしたことを、円紫さんが解き明かす。ほのぼのとして筆が暖かい。「空飛ぶ馬」はなんだかほろっとしてしまった。
勢いに乗って、シリーズの4作「夜の蝉」「秋の花」「六の宮の姫君」まで買ってそろえてしまった。
北村さんは博識で、文章も味わい深い。引用されてい本まで読みたくなる。それもいつかと思っている。
比喩や抽象は現実に近づく中断であると同時に、それから最も遠ざかる方法であろう。現実に苦しみに思いを致すときに僧考えないわけにいかない。
「元気?」
声を上げながら近づく私たちに、江美ちゃんは二人分――両手を胸の前に広げて、夜を迎える前に現れた気の早い星の輝きのように振ってみせた。
「そういえば――」
「何よ」
「稲花餅、食べるぞ」「あら、忘れてた。感心するわね、凄い執着」
「執着のないところに達成はない」
笑ってしまう正ちゃんのせりふより
知で情を抑えることはできるのに、その逆は出来ないのです。そこが知で動く人間の悲しさではありませんか。そういう意味で知は永遠に情を嫉妬せざるを得ないのでしょうね
「赤頭巾」解決後の円紫師匠の言葉