空耳 soramimi

あの日どんな日 日記風時間旅行で misako

「街の灯」 北村薫 文春文庫

2016-01-22 | 読書




昭和7年が舞台。まだ、戦前からの爵位が残り、上流階級という別世界が公然と世間の中に位置していた頃。主人公の花村英子もそういった家庭のお嬢様で、士族に属し社長を勤める父の元で伸び伸びと育っている。
そこに進歩的な父の計らいで女性運転手が採用された。英子の通学の送り迎えや外出の供をする、ほかにお芳さんという付き添いもいる。という生活で、この女性運転手の苗字が別宮(べっく)という。
丁度集まりで「虚栄の市」という言葉が出て、気になって、自宅にあった原本を読んでいたときで、その主人公レベッカ・シャープに因んで、彼女を「ベッキーさん」と呼ぶことにした。それがそもそもの始まり。
ベッキーさんは武芸にも秀で、文学的な素養も深い、そこが読者には謎なのだが、どういう背景を持った人物なのか好奇心をそそられる。
シリーズは三部作なので、これは面白そうだと期待した。

事件は身近に起きることもあるが、英子が日常の会話の中や事件について、ふと疑問を持ってベッキーさんに話すことから始まることが多い。

中篇三編が収められている。


虚栄の市

花村英子は麹町のうちを出て、皇族、華族、貴族の子弟の通う学校に通っている。女子ばかりのおっとりとした気風で、言葉遣いも独特なものが多い。その中で英子は軍人の家系で士族、財閥系の会社を経営している家柄で、帝大に通う兄がいる。まぁ庶民には無縁の育ちで裕福な生活の中にいる。ときにはそういった上流階級だけの季節の集いに、招かれたり招いたりという付き合いをしている。

指折りの資産家である有川伯爵家の「雛の宴」に招かれた。令嬢が英語の達者な英子に興味を持ち近づいてきて親しくなり、誘われたのだ。

華族の集まりには園遊会という名前で折に触れての集まりがある。
「雛の宴」帰り際、有川家の友人八重子姫から「花さん《ヴァニティ・フェア》って何のことかしら」と訊かれた。

ここからサッカレーの「虚栄の市」の話になる。

ここまでで、英子の暮らす上流階級のしきたりや学校生活がうまく紹介されている。
大正からの生き残りのような階級の話なのだろうか、よくある、生活に困らない別世界に住むお嬢様が、庶民の生活を珍しく監察するような物語、そんな暮らしが舞台だと距離がありすぎて面白くないのでは、というのは杞憂だった。
気風のいい美人のベッキーさん、物怖じしない英子さんは、「ベッキーさんと私シリーズ」三冊を十分楽しませてくれた。


銀座八丁
進歩的な父親が就けてくれた運転手のベッキーさんの運転で銀座に出かける。当時の服部時計店にいき、そのころの風景を描き出す。
また華族の桐原邸に招かれる、そこには軍参謀本部付けの大尉である兄がいた。健康的な人物でベッキーさんを認め世情について話したりする。
戦前ではあるが、こういう軍の階級制度には、いつしか不穏な未来を暗示させる部分もある。
ここでのミステリ部分は軽い、学校で流行っている暗号を解くと言うもの。兄にも友人の謎賭けがあって、それが銀座と関わりがあり、ベッキーさんと街の裏道を通り、貧しい庶民の生活を感じる。そういった世界も知っているベッキーさんの話から、英子の世界が広がっていく。


街の灯

表題になった三編目は読み応えがある。
夏になると軽井沢に行き恒例の避暑生活に入る。学校の友人たちも同じようなもので、道でであったりする。
招かれた映画会で人が死ぬ。今回の謎解きのテーマ。
だが、それだけではない、年頃のお嬢様が、将来を選ぶ時、しきたりや生活の安定、家同士のつりあいなど、拘らなければやすやすと手に入れることが出来ることに少しの不満と、大きな安心を感じていることもまたありがち。
検事で作家の叔父がちょっと顔を出しているところも面白い。

「街の灯」はチャップリンの映画から採っているが、そこの部分がとてもいい。話を引き締めている。

英子はどう育つのだろうか。ベッキーさんの目から広い世界が見え始めてくる。


作者の安定した穏やかな筆致を楽しみながら、「即興詩人」を引き「ブッポウソウ」について知る。様々な雑学(博学)が彩る中を読み進めることが出来る味わい深い一冊になっている。

余談だが、私が始めて持ったペンタックスの「アサヒペン」らしい描写がある、普通なら一齣分のフィルムに二枚写せる。時代が違ってもこうしてあのカメラは生まれたのかと嬉しかった。

参考にされた巻末の沢山の文献を見ながら、当時の風景を忠実に織り込みながら出来上がった小説が読めることが嬉しい。
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1月12日火曜日晴れ

2016-01-12 | 山野草

雲があるが一日晴れそうなのでほっとする。
















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1月7日曇 <春の七草を探して>

2016-01-07 | 山野草


散歩の途中、田畑の畦などで見つけていた七草を、今日こそと思って写してきた。でも花の時期にはすぐ分かるのに、ロゼットになっていると見つけにくい。

しゃがんで写していると、通りかかる人が「観察ですか」という。滅多に人が通らない道で、通勤途中らしい女性から「七草ありますか」と訊かれた。
「ホトケノザが難しいです」というと「花がないですからね」といった。こういう人と友達になりたいなと思いながら、「いってらっしゃい」というと「見つかるといいですね」といって早足に歩いていった。

ホント、ホトケノザは見つけにくい、ジシバリに似ているしタンポポでもないし。まぁこれだろうと言うところで手を打ったけど、ここは住宅地に隣接していて人やイヌの散歩道だし、家庭菜園の畦だし、食べられはしないけれど、昔の人は七日にはお粥に入れてビタミン補給をしていたのだろう。

いつものようにスーパーに七草が出ていたが、野菜ジュースが朝食に定着したのでお粥は作らないことにした。
でも、袋に入らないで並んでいたら「ホトケノザ」をしっかり見てこよう。





西に少し青空が見えるが、小雨が降ってきた。




セリ


ナズナ


ゴギョウ(母子草)


ハコベラ(はこべ)


ホトケノザ(かなぁ)


スズナ(大根)


スズシロ(かぶ) 家庭菜園を探したがなかなか見つからなかった。
もう時期外れなのか、スーパーには沢山並んでいて買って来ているのに。





昨年見つけていたヤブ椿も咲いていた。
なんだか今年は早い気がする。














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1月6日曇 <初歩きで素心蝋梅発見>

2016-01-06 | 山野草


一日は初詣でしっかり歩き二日も用があって出かけたりして、今日が近所の歩き初めになった。
暖かい日が続いていて、予報では一日曇天ながら雨なしの一日だといっていた。
洗濯機を三回回し、干し終わったら日が射して来た。ラッキー。

今日は右回りのコースで、満開に近い「素心蝋梅」を見つけた。香りに引かれて探してみると、綺麗に咲いていた。素朴な花だが香りがいい。
そういえば、うちでも新年早々一つ二つ開き始めていた。

近所の人に出会って話していると、近くの公園の梅林では紅梅も白梅も咲き出したとのこと。今年はうかうかしていたら花時を見逃すかも知れない。






予報では三日ほど雲マークだった。太陽もぼんやり出ていたが。


花暦の始まりは「蝋梅」それから「マンサク」「サンシュユ」
だったが今年の暖かさで一斉に咲きそうだ。


ネコヤナギの銀色が目立ってきた。


ブロコリーも花が開いた。







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「あなたが消えた夜に」 中村文則 毎日新聞出版

2016-01-05 | 読書




図書館に予約したのがやっと来た。
著者のあとがきでこれが16冊目の本だと書いてあった。好きで読んだつもりだったが数えてみると、まだ4冊目なので驚いた。
「スリ」「なにもかも憂鬱な夜に」「去年の冬、きみと別れ」そしてこの「あなたが消えた夜に」。
ただ」「教団X」は読みきらなかった。
主人公の心理についていけなかったし、ストーリーの粘着性につかれた。

それまで読んできたのは、異質な暗部を探るようなテーマ、それを現実に結びつける文章力があり、反面ユニークなユーモアにも興味があった。


前置きはこれくらいで、この作品について。

書き出しの部分は、中村さんらしい表現で、現実と乖離した過去の幻想と夢を今でも引きずっているらしい男、これは面白そうだと楽しみだった。

一転、通り魔の連続殺人が起き、それを捜査する警察官の話になる。目撃者の証言は「コートの男」。これが犯人だろうか。
連続殺人なので被害者も多くそれぞれ何かしら陰のある過去があり、性的な繋がりがある。

似たような名前の女が出てきて整理しながら読まないと少し混乱する。そこで読者のためにうまく登場人物と事件のメモがある。
新聞小説なので、このあたりで整理するのは読者に親切だ。

連続殺人の様であり、模倣犯らしい事件もあり、事件同士繋がりがあるようなないような、話の進展は整理できない段階に入り、捜査中の二人は、地元警察官のため地どりに回されて地道に歩き回り、それぞれの被害者の過去に迫っていく。

この二人の会話が、事件の重さと対照的に軽くユーモラスで気が利いている。

中村さんに珍しい警察物だが、このミステリも納得が出来る。
犯人の動機や、そんな方法を選んだ人間の暗い現実が独特の世界を感じさせる。

こういう心の部分に興味がある読者には面白い作品になっている。
だが、連載小説のためか、密度にむらがあり傑作だとは思えなかった。

登場人物のそれぞれの背景は書きこまれているが、生活の分野としてはそんなに多岐にわたるものではない。だとしたらもう少し整理できないだろうか。

警察機構にも少し触れてるが、溢れている警察小説に比べて、それが重要な部分でないにしても味が薄い。

最終的な印象では少し詰め込みすぎて、逆に読後感の重厚さにかける感じがした。

特殊な環境で隔離されたような生活観が、煎じ詰めれば人間の持つ心理の一部として共感を持ち、重い作品はそれなりに重く、軽妙なリズムもこなす作家なので、この作品はそのどちらともいえない未整理な部分を感じた。

ただ、小理屈をはかなければ、エンタメ小説としては読んでよかった、味わい深い部分ではお得感もありさすがだと思わせてくれた。


「あの人のこと、私尊敬してるんです」
「何で独身なんだろう、モテそうなのに」
「モテるからですよ」
小橋さんはそう言い不適に笑う。



「フロイトが言ってることだけど」
「”錯誤”は人間の単純な過ちではない可能性があるって。その無意識による行為かもしれないって」



ア痛! 面白いフロイトさんをまた読んでみようかな。






  歳が明けた、今年はどのくらい本が読めるだろうか、崩れそうな未読の山を見ながら、日常の時間は整理できても、気分の向きまではなんとも難しいものだと思う。
  それを知った友人がコンサートに誘ってくれた。  
ウィーン・ヨハン・ショトラウス管弦楽団。新装なって初めてフェスティバルホールに入った。階段横にはエスカレーター完備、ついでに歩いてみたお店も明かるく食事もおいしかった。
  ワルツやポルカに少し気分も軽くなり、今日は中村作品の感想を書く元気も出てきた。
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