初めて読んだ火村シリーズは「乱烏の島」だった。こういう本格密室ものを書く人だと思っていたし、最近絵画を題材にしたタイトルが目につくので、気になっていた『ダリの繭』が文庫になったので楽しみに読んだ。
有栖川有栖さんはちょっと親しみを感じる大阪弁の人で、最近は上町台地の七坂を書いた「幻坂」がある(まだ積んでいるが)だからか火村助教授も相棒のアリスさんも親しみがある。
タイトルは、ダリに心酔している宝飾会社の社長が使っている、リフレッシュ装置のエポジウム溶液が入ったフロートカプセルを繭にたとえたもの。それは鉄の器にも繭にも見える。
その社長が、六甲にある六麓荘の別荘でカプセルの中に浮かんで死んだ。額に傷があり他殺だった。狭い容器には開閉口があり、使うときは蓋を引き上げて出入りするが狭い。
側の脱衣籠は空だった。その上奇怪なことに世間に知られているダリ髭がさっぱり剃り落とされていた。
創設者の父よりも経営手腕の優れた現社長がテナントを増やして会社を拡大してきた。ダリに心酔するあまり鼻の下にひげを蓄え両端は固めて跳ね上げて、それをトレードマークにしている有名人だった。別荘はダリの模写やレリーフで飾り、仕事を離れると付き合い下手で終末は別荘で一人静かに過ごすことが多かった。
社長が長男だったが、三人の兄弟は皆母親が違っていた。
次男は副社長で店を手伝い三男は広告会社にいた。
三男は姓が違っていたので、付き合いがあるアリスも宝飾店とのつながりを知らなかった。兄弟はそれぞれ仕事も順調で資産もあり、兄を殺す動機は薄かった。
独身の社長は秘書の鷲尾優子を愛していたがプロポーズの機会がなく、優子の方は仕事上の付き合いと割り切っていた。
しかし二人の関係は周りがやきもきして見守っていた。
だが勝手な勘繰り以上のことはよくわからず、事情聴取ということで優子の線を当たり始めたところ、彼女は社内の宝石デザイナーと婚約して間もなく結婚する予定だったことがわかる。
火村とアリスは科捜研の調べで殺人現場はリビングで、遺体をカプセルまで運び衣類は処分したことを知る。
しかし、それなら犯人はどうやって見とがめられずに来て帰っていったか疑問が残る。
なくなっていた二足の靴と凶器の人形が、道筋の河原に捨てられていた。
火村が見ると凶器になったできの悪い人形の眼に、歪なパールがはめ込んであった。社員旅行の折に土産物屋で買った者がいたそうだ。しかし彼は人形を自宅にそのまま飾ってあった。人形は二体あった。
回りの人たちはみな曰くがありそうだがアリバイがあり、遺産相続がらみというありふれた原因は兄弟ともになく、恋敵の仕業でもなく、といって決して自殺ではない。凶行時間に別荘に来ていた三男がカプセルに入っていたが、彼も入るのは二度目でタイマ―がいつもより長い50分にセットされていた。その間に凶行が行われたと思われる。彼は音を聞いていない。
多分血に染まっていただろう衣類は?
火村は終盤まで混乱していた。
一体だれがなぜどこでどうやったのか。
手がかりは血に染まった衣類か、それはどこにあるのか。
人形から出た指紋は?
読みやすいが謎は取っ組みにくい。
火村さんの手引きで終盤になって一気にケリが付いてしまったが。そこまでのこんがらがったストーリーは面白い。地理がよくわかるのもいい。
謎解きは楽しいし、火村助教授とアリス、二人の関係がほほえましいので次作も楽しみ。
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HNことなみ