第62回江戸川乱歩賞受賞作(平成28年)
読了後に改めて帯の惹句をしみじみと眺める。作家の方々(選考委員)の書いた帯のなんという煽り方だろう。
応援体制があからさまで、ほほえましいともいえる。
選評の言葉も興味深い。今回は辻村深月さんに同意した。湊さんもそうだが、女性委員の評が面白かった
冒頭から、長女が家族の惨殺死体を発見する。衝撃的でグロテスクな幕開けで、乱歩賞らしい趣向かと読み進んだ。
これが「家族全体が殺人鬼」ということなのだろう。その犯人捜しならそれでよかったのだが。
途中から幻想の世界が入る。心理的な逃げかなとも思えたが、そうではない。
作者のまじめな筆のせいか、もの悲しい部分を加えて影の部分を少しばかり醸し出してはいたが、あまり効果はなくてミスリード感も、重厚感も少ない。
ついに、これはというところで叙述性に気が付いたが、それもストーリーの流れの一部になって消えてしまう。
凝った構成は面白いが、モザイクのようにはめ込んだ伏線らしいシーンが浮いている。長女の現実が生々しく横たわるところこの話の面白さのポイントかもしれない。
幻想世界が広がっていけば、直面する家族の喪失感、存在感がミステリアスで、深みが出たのではないだろうか。
広がれば面白い着想なのにとても残念だ。
ネタとして様々な伏線は優れているがその組み合わせたストーリーがいささか物足りない。
題名の「QJKJQ」も、意味ありげな「Ca→Ab」も、ふたを開ければそうだったのかという程度で終わった。