空耳 soramimi

あの日どんな日 日記風時間旅行で misako

「神様のカルテ」 夏川草介 小学館

2020-01-30 | 読書


本好きは一度は目にし、手にも取るほど、話題の本だった。


主人公の栗原一企は信濃の国、本庄病院に勤務する5年目の内科医。愛読書の漱石「草枕」をはじめ彼のすべての著作の影響をうけて、言動がいささか現代向きでない、見方によっては変人に分類されるような人柄である。

外面はそうであっても、こころの奥は柔らかな熱い医師魂を秘め、患者第一で、過酷な生活に身をおいている。
結婚一年目の記念日を忘れて、妻に申し分けなく思うような愛妻家であり、いまだに松本城に近い、古いアパートに住み続けている。
外から見れば奇態な住人たちも、それぞれ付き合ってみれば、深いつながりが生まれていて、酒を酌み交わしているだけで心地よい。

患者には死を迎える高齢者も多い。死に向かい合う姿勢もそれぞれで、一企は、仕事とはいえ人生の終末を迎える人たちにどういう治療をすればいいのか悩んでいる。

延命治療と自然死の境目で苦悩する姿が、彼が誠実であるために、現代の高齢化する社会の悩みを反映していて、他人事には思えない。

いい妻と友人、先輩に囲まれた栗原一企という新進の医師が、直面する今の医療と、死に向かう終末医療の問題も考えさせられる。

患者とのエピソードが暖かい。
彼の誠実な悩みが受診者側にも希望を持たせる。福音書だ。


人気の本は、図書館にすぐに予約しても今になる。 限られた時間でいい読書が出来るよう、目を開けて耳を澄まさねばと思う。


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「熱い読書 冷たい読書」 辻原登 マガジンハウス

2020-01-27 | 読書


本好きは、自分の好きな本を大好きと言ってくれる人に会うと「でしょう、ねっ!そうでしょう」と肩をたたきあって、瞬間、本友になる。そんな一冊。

ここには79冊の本が紹介されている。その79の本にまつわるエッセイを集めたもので、2000年のものが一番新しい。だから今読むと少し時代をさかのぼるけれど、読んでいるうちに、時の境があいまいになり、いい本はいいのだと感動が蘇る。そう、そうなんだと。

辻原さんの子供時代から作家になった現在まで、本の底には自伝的な連想、交友の思い出、忘れられない本との思いが、本に寄せて底辺に詰まっているのが親しみ深くていい。詩的で美しい文章もすっかり好きになった。

ここで初めて読んだ本は作家の眼でも、そんなに面白いのか、興味深いのか、名作なのか、なら必ず読んでみようと思う。
読んだことがある本は、神髄はそこにあるのか、と新しい眼が開く。
とにかく選ばれた本がいい。まだどこの本屋さんでも置いてあるようなよく知られたものが多いのもいい。
順に、一部を紹介

*四十九日の物語 カフカ「変身」
 
友人の四十九日をきっかけに思うこと、過労で死んだザムザを家族は驚き悲しみそして嫌悪する。ザムザが冒頭で死んでから話の終わりまで一か月半、彼の精神も死を受け入れる時間だ
と日常に照らし合わせて読んでいる。興味深い。

*チャーミングな女子大生
もう出た(^▽^)/ 北村薫さんの「円紫さんと私」から「夜の蝉」 会話が素晴らしい。「わたし」が楽しみながらやたらと読む本を、次に読むときは栞もなしにパッと開く、これに辻原さんはちょっと嫉妬、とか。 だからわたしはスピンの付いている新潮文庫の大ファンなのかも。それだけじゃ無いけど、、。
*歴史の「イフ」が牙をむく ケン・フォレット「針の眼」
「鷲は舞い降りた」もまだ読まないで積読、発酵してこの話になったのかな。
名作「針の眼」を本棚に入れる。
*彼はいったいどこから来たのか? ゴーゴリ「外套」
襤褸でもよかったアカーキイ・アカーキエヴィチの外套。この話には裏がありそうだ「死せる魂」のように。

アカーキイは悲しみのあまり幽霊になるのではなく、もともと歪んだ暗い世界から派遣された幽霊だったのでは?
  それらの話の展開も興味深い。

*「錦秋」の別かれた男女の愛、この感想を読んで、それだけで感動した。
*「高野聖・眉かくしの霊」 「語り」の妙を充分に尽くした傑作。
*「免疫の意味論」多田富雄

われわれの近代、その進歩もヒューマニズムも、自己が自己を攻撃しない免疫系という善なるネットワークの上に築かれていたのだ。
そして、多田の論述は、もともと自己と非自己から守るなどというそんな王国は一度も存在したことはなかった。砂上の楼閣に過ぎなかったのだ、とまで及んでわれわれを混沌の中に宙吊りにする。


読んでいる本はさすがその表現に脱帽、読んでない本はすぐにでも手が伸びそうになる。

79編、で一編が約三ページに収まっている。到底引用できないので、同じ本を買ってしまった。その上「冬の旅」「遊動亭円木」も読むつもり。
こうして本が溢れてくるのね (´;ω;`)ウッ…


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キーパー」 マル・ピート 池中耿訳 評論社

2020-01-22 | 読書


スポーツが好きでその上厳しい練習経験があり試合を重ねたことがあれば、そうでなくても、主人公ガトーが、流行りで言えば神コーチの指導でみるみる才能を開花させる過程にワクワクする。#海外文学vol.4
自他共に許す南米一のスポーツ記者が、一昨日ワールドカップをとったばかりのガトーにインビューを開始する。

192センチの巨躯に恵まれたガトーは軽々と動いて記者の前に座った。そして生いたちからワールドカップを手にするまでを淡々と語りだす。

手足ばかり細長いコウノトリと呼ばれた子供時代。父は木こりで家はバラック、町を挙げてサッカー狂。
彼は仲間はずれで深い森を、森と呼ばれるジャングルの中をさまよった。
それまで足元ばかり見ていた、サッカーを離れて初めて広々とした空や森の生物を見た。
森の匂いを嗅ぎそこに住む様々な生き物を見ながら踏み込んだ道の先に、あるはずのない広い空き地があった。そこに三本のポ―ルに古いネットを結び付けたサッカーゴールがあった。そこで見たことのないユニーホームを着たゴールキーパーが不思議な雰囲気を纏って現れた。帽子が顔半分を隠しサッカーボールを抱えていた。

キーパーは口と音がずれているような声で「そこだ。そこが、君の場所だ。君にはそこが合っている」といった。
彼は夢中で走って逃げて帰り夜も震え通しだった。何度も夢で同じ場所に引き戻され声が聞こえ目が覚めた、次の日、叔父が言った。「森が恐ろしいところだと教える大人たちは間違っている、木こりは森に許されて木を切る。森は恐ろしくない、森を恐れ敬わないといけない」
「ここは俺の場所だ、俺にはここが合っている」

私は「フィールド・オブ・ドーリームス」を見ていた。同じような話だろうか。しかし森の怪しい人は一体何者なのだろう。幽霊だったと彼は言うけれどそれならなぜ彼の前に、森の中に現れたのだろう。

彼は森に行った。「何のために僕を連れ出したの?」「ゴールを守るためだ。わかっているだろう」
彼はストライカーになりたかった。だがなぜかそれから二年、毎日欠かさず森に通った。

ガトーは言った「サッカーのすべて、サッカーについて本当に知っていなくてはならないこと特にゴールを守ることのすべてを、森に学んだんだよ」


ジャングルの練習について記者は聞いた。

やみくもに飛んで来るシュートなど受けられない。ゴールの真中に突っ立ってしまった。「じっとしていることを覚えたな、次はシュートがどこへ飛ぶのかみきわめろ」

そして練習時代、彼はキーパーが見込んだ通り後年の洗練されたテクニックに繋がる努力と才能があった。
次第に筋肉が鍛えられ勘が身につき、本能のように体が動き始める。13歳の彼の才能を見抜いたキーパーは天才を育てたのだった。

不思議な男との深い絆は、ガトーと呼ばれるようになってプロ契約をし、世界で名を知られ、ついに四年前に逃がしたワールドカップを手にする頃には、少し距離が開いていた。

記者は質問を続けようとした。
「ついに、カップを手にしたんだ」

しかし彼は引退を宣言し、記者が振り向くと。ガトーもカップも消えていた。

彼はカップをもって急いだ。もう昔の姿が残っていない森を奥深く進んでいった。
そこにキーパーはいるのだろうか。



練習は過酷なもので、キーパーは天才的なストライーカーだった。「自分の何を知っている?できないのは想像力が足りない、信念の不足だ」

プロ入りのきっかけになった地元のアマ試合に森のオーナーが一人プロ選手を紛れ込ませて実力を試した、「君は最高のゴールキーパーだ」
そして初めての契約金を家族に渡してサッカーの世界に出て行った。

それから14年。最後の試合で、カップをかけたPK戦の息詰まる攻防。



読みどころを外さない展開にワクワクした。

そして彼がキーパーを探して森をかき分けて広場を探す。あのゴールポストはあるだろうか。キーパーはまだ来てくれるだろうか。

キーパーの正体を知る最後のページは感動で胸が震えた。

練習方法、試合シーンの的を得たスリリングな描写は作者が大のサッカーファンだからとか。
海外文学のご紹介に感謝します。

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「噂」 荻原浩 新潮文庫

2020-01-21 | 読書


ミステリ部分は軽いノリで、荻原さん得意の滑らかな味のある作品。軽いといっても独特の雰囲気があり、重々しい警察小説に比べて親しみやすかったということで。
ユニバーサル広告社を舞台にした「オロロ畑でつかまえて」は小説すばる新人賞をとり、デビュー作ながら絶妙な舞台装置と語り口だった、続く「なかよし小鳩組」までも鮮烈ユーモア小説だった。

こういった話(地球を回すギャングとか三匹のおじさんとか)大好き人としては、完成度の高い作品でデビューしたのだから、続きがでるだろうと期待して待っていたが「シャッター通り」までで、路線変更するとは思わなかった。まだ続きを諦めてはいないけれど。

荻原さんを気にしていると耳に入ってくる。
「明日の記憶」山本周五郎賞。「二千七百の夏と冬」で山田風太郎賞「海の見える理髪店」はとうとう直木賞。それからも次々に新刊が出ている。うれしい。

私は「オロロ畑」が忘れられず、といって続いて出る作品も追いかけられず、「明日の記憶」の映画化の評判を聞いていたが原作を読みもしないで、そのうち読もうと積んできた。

これを読む機会が来たのは♯新潮文庫夏の100冊に入っていたから。よぉし読むべし読むべし。
裏表紙にはサイコ・サスペンスとある。嫌いなジャンルではないし。荻原さんのその後はいかに。


のこぎりで足首を切られた女子高生の遺体が見つかった。目黒署管内は小暮の縄張りで、本庁から応援の戸高が来てコンビになった。むさいおっさんの小暮は妻に先立たれていて娘が高校生。家に一人で残しているのが気が気でない。応援できた戸高は若く見えるがバツイチ子持ち。小暮の上司に当たる階級だが周りには逆にみえる。

さて、本題は
香水のミリエルを売るために、集めた女子高生からクチコミ、メール ネットを使って噂を拡散させようという広告社の企画で、渋谷でモニターを集める。つけていると恋がかなうとかレインマンに襲われないとか、聞いたような話だがうまく広がっていく。それで商品は大ヒットするという話がプロローグ風に始まる。

それを狙ったように女子高生の猟奇殺人が起きる。
暫くしてもう一人足首から先のない殺人が起き、すわ、連続殺人事件か。レインマンの仕業か。

小暮と戸高のコンビは、目黒署に立ち上がった捜査本部で地味な敷き鑑捜査に当たる。このコンビが面白い。人物造形の上手さに乗せられた。
くたびれた中年とバリバリの美人刑事。二人の家庭事情も話を和らげていて読みやすい。
暗い猟奇殺人に凝った固さがない。

このあたりが、荻原さんがミステリに参入した時にインパクトに欠けたのかもしれない。この「噂」の噂はこのミスでも見なかった気がする。

それでも、ちょっとありきたり感もありながら、相手が今時の女子高生。渋谷あたりで群れている連中、知り合ってみると個々にポリシーもありつつ、個性的でちょっとアホでかわいい。

もう中年のおじさん刑事は、揉まれてなつかれてちょっと嬉しかったりする。殺されたのはモニター仲間だったし、この子たちがいい感じの機動力で核心に近づいていく。
取調室に、関係者として呼んだ少女たちを集めたら
「ドラマと違ぁう」
「お腹減った」
「早くしようよ~」
仲間同士で来たものは勝手に大声で喋りあっている。そうでなければ携帯で誰かと話をしている。ポテトチップスの袋を抱えている少女もいた。小暮はホワイトボードの前に立ち、咳払いをしてから話し始めた。
「あ、今日はどうも。ごくろうさまです。え~みなさんに集まっていただいた理由は、もうわかっていますね……あの、携帯は後にしてくれないか……言うまでもないが君たちに何かの嫌疑がかかっているわけではないし、迷惑をかけるつもりもない……トイレ?……この部屋を出て右の突き当りだ……え~いま捜査中の事件に関係したことで、いろいろ話を聞きたいんです。君たちの証言が犯人逮捕の決め手になるかもしれない」
おだてたりすかしたり苦労して話をしたのだが、気にするほどのことはなかった。誰も話を聞いちゃいない。

  「みんな、静粛に!」
  小暮が声を張り上げると、ようやく全員がこちらに顔を向けた。
  「セイシュクってなぁに?」
  「静かにしゅくしゅくすることだ」
  「しゅくしゅくって?」
  「知らん、いいか静かにしてくれ」少し取り調べ口調になってしまう。
  「分かっていますね?」
  「わかんなぁ~い」
  「じゃもう一度説明する、いいか……いや、いいですか」

でもこれから話が解決に向かって雪崩こむのだが。
隅で名高がちいさなガッツポーズで励ましている。

このおもしろいミステリがなぜ軽い印象を受けるか、後からなら何でも言えるが、どうも最初の部分で伏線らしい部分が見え見えの人物の動きが気になる。そして犯人のそれなりの事情はあるけれどサイコ独特の語りが長い。
あれ?この人という意外な人物の消え方が少し唐突かな。始まりは存在感のあるいいキャラクターだっただけにこの人の心理描写も少し遅すぎた感じがした。
でも荻原さんは好きなので映画化もされた話題の本を読みたくなった。


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「隠し剣孤影抄」 藤沢周平 文春文庫

2020-01-19 | 読書


短編8編 まず題名に惹かれる。
それぞれが避けがたい運命の重さを背負っている。
剣を交えなくてはならなくなる武士の生き方に、現代にも通じる哀しみがある。
「女人剣さざ波」がいい。 




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「夏目漱石読んじゃえば」 奥泉光 香月ゆら  河出書房新社

2020-01-18 | 読書


表紙をよく見ると、これは14歳の世渡り術シリーズの一冊で、《知ることは生き延びること。未来が見えない今だから「考える力」を鍛えたい、行く手をてらす書き下ろしシリーズ》だと書いてある。その上 中学生以上大人まで。よし、この本を読んでみよう。
14歳で世渡りか、シリーズなら他にもあるのかな、「行く手を照らす」か、ぴったり来るような気持ちは考えてみれば、この(どの)年になってしまうと悲喜こもごもかなぁ。

奥泉さんの書き下ろしというので喜んで開いてみた。漱石好き、漱石狂の様子も見えるが、やや距離がある視野から書いている。照らさないといけないからか。
漱石を少しは読んだつもり。残りもそのうちと思って積んであるが、漱石がそんなに面白いなら読み方を習おう。
すぐ読むのではなくて申し訳ないけれど。

漱石の面倒な読み方ではなく、小説の世界はどう楽しむのか。

それは文章を楽しむこと、飛ばし読みでもいい、小説を面白くするのは自分自身だからという。
繰り返し読むことなども勧めた肩のこらない案内書で、なんとなく知っていた漱石の世界が親しく見え始める。奥泉さんの読み方を習って、漱石本と併読していきたくなった。

「はじめに」 に続く「目次」

第1章  「我輩は猫である」 小説は全部読まなくてもいいのである
漱石作品の中でもとくに細部が面白い。

第2章  「草枕」 小説はアートだと思うといいよ。
漱石がこんな風に語っている。
  
私の「草枕」は、この世間普通に言う小説とは全く反対の意味で書いたのである。ただ一種の感じ、美しい感じが読者の頭に残りさえすればよい。それ以外に何も特別な目的があるのではない。さればこそ、プロットもなければ、事件の発展もない。

第3章  「夢十夜」 「夢十一夜」を書いてみよう
もし夢の話が面白いとすれば、それはセンスのよさのなせる業。
百閒の「冥途」はまさに夢の話。「ただなんとなく」とか「ぼんやりして解らない」とか「はっきりしない」とかいうフレーズがたくさん出てきて、夢の中特有の辻褄の合わない感じを表現しているのがおもしろい。 百閒と漱石とはまた違った形で夢の世界を描いている。

第4章  「坊ちゃん」 先入観を捨てて読んでみたら
威勢がいいのは、坊ちゃんではなくて文体にある。坊ちゃんはちょっとコミュ障で神経質。そして孤独。
「孤独」というのは漱石の小説全体のテーマだ。

第5章  「三四郎」 脇役に注意するといいかも
美禰子は都会派で三四郎は田舎出。そのギャップを読む。「迷える羊(ストレイシープ)という言葉は、解ったようでもある。また解らないようでもある。解る解らないはこの言葉に意味よりも、むしろこの言葉を使った女の意味である」

第6章  ”短編集” 作者の実験精神を探ってみよう

第7章  「こころ」 傑作だなんて思わなくてもいい
自分自身を苦しめ自縄自縛に陥っていく先生の姿がとても残酷にえがかれている。

第8章  「思い出す事など」 「物語」を脇に置こう

第9章  「それから」 イメージと戯れよう

第10章 「明暗」小説は未完でもいいのだ
明暗には未完であることを越えた、小説としての高い完成度がある。  

コラム1 漱石とお菓子 ―― 漱石はだいの甘党だった!?
コラム2 漱石と動物 ―― 漱石は犬派だった!?

とこういう具合に奥泉流漱石の読み方を指南している。
悩む漱石をこうして軽く読んでいくのも一興かな。
漱石好きなのか奥泉好きなのか、本を手にしてこれでいいのだと感じるところが、読書好きの端くれというのを実感した。


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「マンガ 日本の古典 1」 中公新書

2020-01-17 | 読書
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面白かった。新聞広告で東大生のクイズ王が推薦、それもそうだが、最近漫画で勉強というのを知って、受験生でなくてもいいかもいいかもと思っていた矢先、これは凄くいいかもとさっそく図書館に予約した。
すぐに読めて面白かった。長い長い神様たちの名前はカナ表示で、それでも長いが、漢字で読まないので簡単な逸話なども分かりやすい。

「古事記」は文字通り古いというので、習ったのもすっかり忘れて、日本書紀との区別もおぼろになっていた、大和朝廷の頃に書かれたことも意外に感じた。
天武天皇がみずから検討を加えて稗田阿礼に誦習させ、それをのちに太安萬侶が筆録した。和銅五(西暦712)年成立

まず世界の始まりは、混沌としていた。「混沌は世界だけでなくて人の世も同じでな」と稗田阿礼が話し始めるところから。

油のように柔らかい大地から“勢い”の神が生まれる。ギリシャ神話のカオスから様々な神々が誕生するのに似ている。古事記の始まりも「混沌」でまず天を支える神が生まれる。

神々誕生のあと国造りのイザナキ イザナミが水をかき混ぜ島を作り降り立ったところで人を生み出す。

神々の世も跡継ぎ争いから今に通じる様々な習慣や自然の摂理まで生み出された様子がユーモア交じりに書かれていて、昔々の物語ではない。神といえど生まれた時からすでに悩み苦しみを背負っていたのかと、なんだか可愛らしい。

乱暴者のスサノオが黄泉の国の母に会いたいと泣き叫び叱られること、八岐の大蛇退治とお姉さんの天照大神の岩戸隠れなどエピソードが面白い。大国主命と赤裸の因幡の兎の話もある。
ところどころでその後の物語の登場神物(人物でなくて^^)紹介が役に立つ。

オオクニヌシという神様は、大きな袋を提げて歩き兎を救うだけでなく、国づくりをした偉大な神で国の平和と統治について悩んでいたのか。
相棒は小さなスクナビコナの神だと助言するカカシ(クエビコの神)はまるで伊坂幸太郎の「オーデュポンの祈り」だ。

炎の中から生まれた海サチ山サチが道具を取り換える話もよく知られているしワタツミは海の神で「きけわだつみのこえ」で学徒兵の遺書を読んだことを思い出す。
連想が広がり読書の楽しみも広がる。

エピソードが多い「古事記」のマンガ化は難しい神々の相関関係もよくわかり、石ノ森さんが書かれたイメージ通りの姿が印象的だった。
明るいユーモアにあふれた古事記を楽しんだ。

このシリーズは有名な漫画家が参加した日本の古典32巻になり平成9年度文化庁メディア芸術祭でマンガ部門大賞を受賞している。

思い出したので追記
私は神前結婚で祝詞を聴きました(神社になったのは単に式場が空いていたからですが)
そこで高天原にかむづまります神漏岐(かむろぎ)神漏美(かむろみ)の命 うんぬんと榊をもって神主さんが祝詞を唱えてくれました。
というのがどうも神社のお経のようなもので七五三でも神社にお参りすると聞かされるのです。ところが高千穂方面に行ったときに所縁のある神社の立ち寄りました。
帰って「神漏岐(かむろぎ)神漏美(かむろみ)の命」について調べてみました。
この神様は火の玉になって天から降りてきた、人々の先祖の神様だということで、ずいぶん不思議な気がしていましたが、古事記以前の物語としてこんな神話も存在しているようです。
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「兎の眼」 灰谷健次郎 角川文庫

2020-01-16 | 読書



ハエを飼う話は塵芥処理場が舞台では仕方がないかもと読んでいるうちに慣れて来た。世間知らずの小谷先生だから、こうして無邪気に子供の仲間になれるのか。今ならどうかな。


ほとんどストーリーは忘れているくらい昔に読んで、こんなに感動した本は他に知らない、とその時思った。胸がいっぱいになり、読みながら涙が流れて止まらなかった。そんな事があったなと今まで時々思い出していたが、今年のカドフェスのリストで見つけて、読んでみた。

新任ほやほやの小谷先生が、小学校一年生の担任になって、悪戦苦闘しながら成長していく話だった。
学校のそばに塵芥処理場がある。高い煙突からは焼却炉の煙が灰を四方にまき散らす。うずたかく積まれたごみの周りは生ごみの腐敗臭に覆われている。
処理所で働く人たちは、近くに立てられた長屋風のプレハブ住宅に住んでいる。
住民鼻つまみの処理場と、そこから学校に通ってくる子供たちは、非衛生で給食当番を外れてほしいと言われる。特別扱いが当然で、先生も生徒もそういった出来事は環境のせいにして小競り合いくらいの喧嘩は見逃してきた。

さっそく小谷先生がショックを受けて泣き叫ぶような事件が起きた。処理場の子供鉄三が、クラスで育てていた蛙を踏みつぶした。餌にするハエを瓶からとったというのだ。次に起きたのは蟻の巣を観察するために瓶に黒い布を巻こうとしたその時、鉄三が先生にとびかかり、瓶を持っていた子供に襲い掛かった。小谷先生は驚き子供の血を見て卒倒した。

一人娘でぬくぬくと育ち新婚ほやほやだった小谷先生にも、担任の児童それぞれが持っている暮らしが少しずつ見えてくる。

無口で誰とも馴染もうとしない鉄三がどうしてあんなに暴れたのだろう。処理所を訪ねてみて、鉄三がハエを育てていることを知る。
話しかけても「う」と答えるのが精いっぱいの彼に、体の汚れを落とすのに湯を汲んで、たらいで洗いながら話かけてみた。
鉄三は両親がなく祖父が育てていたが、戦争経験がある祖父は心に深い傷を持つインテリだった。
祖父は孫がハエを育てていることは誤解を避けるために隠していたが、少しずつ心を開いてきたように思えて鉄三に図鑑を与えてみた。種別に瓶に入れて育てているハエの名前を調べてシールに書かないといけない、そのために初めて文字を勉強するようになる。
図鑑を見て観察し驚くほどの細密画を描き始める。ハエの習性は見ている先生まで引き込むほど興味深いものだった。

街の食品工場で一種類のハエだけがどうしても駆除できないと、鉄三の噂を聞いて調べてほしいと言って来た。先生と二人ででかけて、工場のそばにある農家の堆肥から発生していることを突き止める。
鉄三はハエを飼っていることが公になったが、処理所の子供たちは喜んだ。鉄三もハエ博士と呼ばれて少し話せるようになった。

その後、塵芥処理場が埋め立て地に移転することになり、長く移転を望んでいた近隣住民と、小学生の通学には少し遠いという問題を解決するために、住民は元の土地に住宅を新設するように要求した。

だが問題は紛糾した。移転はいいが住居をどうするか。


元気のいい先生がハンストをはじめた。
ビラ配りをして注意を受けたりもする。
鉄三の祖父バクじいさんが戦争時の出来事について深く傷ついていることも、親しくなって生々しい話を小谷先生は聞く。
そしてけた外れの侍おじさんが部外者の眼で正論をやじり飛ばす。
窮屈な教育現場で、先生たちは声には出せないが少しずつ歩みをそろえてくる。

今読んでみると、時代の流れもあって、こうした問題が起きても、自己都合な勢いに巻かれるのが当然のようになってきた。すべてが。
中に飛び込むよりは何とかなるだろう、間をおいた方が賢明で、目立たず騒がずかかわらず、最小限の義務を果たし不満は小声で、それがいいと思っても変なつけがストレスになってたまっていく。


こういう暖かい爽快さは改めて心に響く。初めて読んだときのようなこみ上げるものがなかったのは世知辛い経験を重ねたせいだろうか。

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「手のひらの音符」 藤岡陽子 新潮文庫

2020-01-07 | 読書




まず、新潮文庫100選を読んで抽選に当たった本です。ありがとうございます。前向きで暖かい、幸せな気持ちになれるこの本から新しい年を始めます。


服飾業界のデザイナーの夢を持ち続けて実現させてきた。実績もある35歳の水樹。突然会社が方向転換して業界から撤退することになった。中途採用で難関を切り抜けてきたがまだまだ愛着がある。仕事は好きだ。

落ち着かない将来の方向に、迷いに迷っていた時、京都の母校から連絡が来る。水樹の困難な夢の実現に後押しをしてくれた恩師が入院している、治癒の難しい病気で、命が残り少ないかもしれない。クラスで集まってお見舞いに行こう。

まだ30代半ばでまた将来の道に迷っている、才能を見つけてくれた。上京し好きな道に進むきっかけを与えてくれた美術の先生に、間に合ううちに会わなくてはならない。

そうして水樹の記憶の底から懐かしい時間が蘇ってくる。
集合住宅の真上、二階の家族とは特に親しかった。年が近い三人兄弟との思い出。中でもいつも気にかけてくれて、前向きで元気をくれた同級生の信也はどうしているだろう。
お見舞いの連絡が彼一人だけが取れないらしい。どこでどう暮らしているのか、心を寄せ音符を刺繍したシュース入れを渡した、淡い思い出恋しい心が蘇る。

多感な頃、経済的にも苦しかった。それでも頑張って服飾の道に進んだが。あのころ信也の家庭はより苦しかった、頼りになる秀才の兄が弟をかばって事故で死んだ。母親は入院していた。あの苦境からどうして暮らしているのか。

思い出の地で先生は重い病にやはり衰えも見えたが、秀才で将来を嘱望されていた同級生が地元に残って公務員になり先生に付き添っていた。二人の親密な様子に先生との絆が見えた。

水樹はそれぞれの苦悩と希望が織り込まれたあの時代、将来の進路に悩んだ時代を思い出し、信也を探すことにする。

節目を過ぎるとき同じ悩みを持つ、青春時代をどう生きたか、懐かしさと戻りたくない思いがある。その中からもう一度やり直せたらと思うことがある。あの時代をどう生きたか、埋もれていた時間に帰ってもう一度歩みだすことができるとしたら。今からでもまだ間に合う。

状況は違っても時間の流れは様々顔を変えながら過ぎていく。初心という言葉がある。
そういうこと。
そんな話だった。
迷いながら生きていくこと、埋もれてしまっていた時に還り、新たに希望を見つけた水樹の、過ぎてしまったと思っていたあの時代の思い出が、厳しく優しく、暖かく胸に迫る。
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「彼女がその名を知らない鳥たち」 沼田まほかる 幻冬舎

2020-01-02 | 読書



病的なわがまま女とまとわりついて離れない男の話。しかしこんな生き方もあるのかと思う。まほかるさんは読んでおかないといけないと思ったのは正解。


よくできた姉と崩れた妹。でもどこにでもあるように、出来た姉でも何か抱えているものがある、それを見せまいという姿勢がやりきれないと同時に痛ましい。

妹の十和子が、同じ親から生まれたのかと疑うほど、自分勝手でだらしなく汚い。それに不思議なことに身を粉にして尽くす男が付いている。
そりゃ見ていてどうしてこの人にこの人がと思う夫婦は多い、いくつになっても仲がいい。他人事なので自分のことは棚に上げて。

こうして小説に立ち入って読む分には夫婦のことは微に入り細にわたってわかってしまう、世間一般の夫婦はそうはいかないのが普通だが。

それにしても、汚れに耐えられなくなると掃除機だけはかけるらしいが、料理はしない、洗濯は自分のものだけ、男は風呂場で地味に洗っているのがはた目にもみじめ。男がレジ袋を提げて買ってきて食べ物を並べると食べる。働かないで一日レンタルビデオを見て、夕方になって疲れて帰ってくる男のことを、見た目やしぐさをあげつらって心底嫌っている。
エリート社員からどん底に落ちてよれよれになった男を一段と嫌う、すさまじい。

その上邪険に殴られ放り出されるように捨てられた男を、見かけだけで未練たっぷりに思い続け、反動だろうか同居している尽くす男は憎むほど嫌う。

読んでいても辟易する。なにしろこの部分が長い、ここらで読むのをやめようかと何度も思いつつ読んでしまった。
最近時間欠乏で読む途中でやめることができるようになった。本の枯渇感病が人並みに治りかけているのかな。ただまほかる病の後遺症で何が出るのかと期待しながら我慢して読んだのだが。
忍耐の陰からひょっこり顔を出した最終章。あぁそう来るのか。

この十和子という女、捨てられた反動か本能か、口実を作って若い男に近づきたびたびホテルにも行く仲になる。
同居している男には養われている負い目で、自覚はないが、つけられ探られているのではないかと疑心暗鬼に陥りながらそれでも若い男と離れられない。

その上捨てられた昔の男の妻に会いに行ったり、電話をしたり。
こういう女もいないことはないだろう、昨今考えもしないような犯罪がニュースになっている。しかし傍迷惑も自覚したとたん自分に返ってくる。十和子はそうした生活でますます壊れていく。

十和子だけが知っている前の男の本性とその後が次第に明らかになって、十和子の自己欺瞞の底が割れてくる。
このあたりまほかるさんの筆も静かに冴えて面白い。

だらしない甘えた女に、尽くして尽くす男の話は、何かありそうなほのめかしも、真実なのか思い過ごしなのか。
最後まで読んで男の本心を知る。

私は十和子に言いたい、「あなた生まれてきてごめんなさいといいなさい」
そういいながらもうら哀しい。

こなれた大阪弁が身に迫ってくる、うまい。


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令和2年元日

2020-01-01 | 日日是好日

明けましておめでとうございます!今年も他愛ないことや読んだ本など、あれこれつづります。よろしくお付き合いくだされば嬉しいです。

早速今日のあれこれです。


キッチンの窓べで出番を待っている小さな三つ葉です。


庭には山茶花今年はつぼみがいつもより多い。


例のボリジは秋にたくさん芽を出しました。さすがに我が家の二代目は血気盛んに茂り始めています。





新聞や書籍のキャッチは前向きで気合いが入ってます。
私に有効なのは約半年かも。効き目はいかに。




今年の始まりの内外の風景でした。

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