空耳 soramimi

あの日どんな日 日記風時間旅行で misako

「夜よ鼠たちのために」 連城三紀彦 宝島社

2015-02-27 | 読書

連城さんの名作「戻り川心中」が何かの全集に入っていたのを読んで名作だと思った。その後大衆文学、恋愛小説のジャンルで見かけるようになったので遠ざかっていたが、「幻の名作ベストテン」という名前で復刊され、そこに旧作の短編ミステリが9編が収められていた。
それぞれが、見事なトリックとどんでん返し、二重三重に縺れたストーリー、どれを読んでもこの短い枚数の中に納まっていた。

二つの顔
妻の契子を殺して埋め終わったとき、警察からの電話で、ホテルで妻が死んでいるという、奇妙なアリバイが出来た男の驚愕。

過去からの声
退職した警官が一年後に語る、誘拐事件の真相。

化石の鍵
進入してきた男に、下半身麻痺の少女が襲われた、取り替えたばかりの鍵がなぜ開いたのか。管理人の鍵では開かなかった鍵のからくり。

奇妙な依頼
興信所に勤める俺は夫から妻の調査を依頼された、だが尾行しているうちに妻に気づかれてしまった。ついに夫の意図にも気がついた。

夜よ鼠たちのために
孤児院にいた俺は、寂しさの余りこっそり鼠を飼っていた。信子と言う名前までつけていた。朝行って見ると針金で無残に絞め殺されていた。やったのはダボだ。俺はダボにナイフで切りかかり、右腕にL字型の傷をつけた。半年間、病院に入り矯正教育で二人は変わった。
俺は結婚した妻をそっと信子と呼んだ、だかあっという間に信子が白血病で死んだ。俺は白血病の権威だという主治医を殺すことにした。めぐり会ったダボも一緒に。

二重生活
水商売に出ている牧子とマンションに住んでいる修平は、荻窪に屋敷を持っている上に都内にも不動産があった。屋敷には彫金が趣味の静子が居る。二人の女にはそれぞれ修平が知らない愛人がいた。女たちは修平を殺す事にした、その男たちもそれぞれ協力した。二組の男女は実行に移したが。

代役
紹介された男はアメリカからやってきた、実に全く俺と瓜二つだった。俺は妻と別れたかった。そこで男を利用した。男は妻と愛人に近づいたが、女たちは違いがわからなかった。俺は考えた、男は金さえ払えば後腐れなくアメリカに帰るだろう。

ベイ・シティに死す
当時恭子という女と暮らしていた、弟分の征二も二人の生活に溶け込んでいた。だが縄張り争いで相手の組員を撃ってしまった。二発の弾丸のうち俺が撃ったのは確かに外れていた。だが一発は心臓に命中していた。裁判で恭子と征二は俺が犯人だと証言した。俺は無実の主張を断念した。刑務所から出たとき復讐を誓った。二人を捜し当てて呼び出し征二を撃ったが、後で真実を知った。

開かれた闇
暴走族は、仲間の叔父が持っている夏の別送に来た、そこで一人が殺された。高校の音楽教師である麻沙に別荘から悲鳴に似た声の電話がきた。麻沙はマザーと呼ばれてこの5人組に慕われていた。彼女は仲間の行動を聞き出し、現場を調べ、名探偵振りを発揮する。




だまされた! 謎解きは面白かった! 短編なのに本格の凄さを見た。三十年以上も前の作品だが古さを感じなかった。







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「愛に似たもの」 唯川恵 集英社文庫

2015-02-26 | 読書



先に読んだ本が年代的にしっくりしなかったので、これはどうだろうと選んできた。
唯川恵さんという作家について知らなかったが直木賞や柴田錬三郎賞を受けている。実力があって読み外れないだろう。
初めて読む作家は好みにあってほしいと祈るような気持ちと、少しの好奇心が道連れで、読んできた。
女の気持ちをテーマにした8編の短編だった。どれも女(に限った事はないが)の心の奥底の思いだ。どうしようもない日常に蝕まれていったり、気がついていても引き返さない思いが詰まっている、真実に近ければ近いほど、距離を置いて、静視しないでいれば(結婚生活はそのような部分も多いので)出来ないことでもないだろうと言う程度で読んだ。


真珠の雫
男運のない母は、二度目には整った顔立ちの男を選んで、サチはそれを受け継いで生まれた。次の男は保険金のいくばくかの母の金を目当てにして近づき、金がなくなったので消えた、その娘(妹)は不器量だったが、サチがやっと持った店で手伝わせていた。そして気にも留めないほどに見下していた妹にしてやられた。

つまずく
離婚してもフラワーアレンジメントで食べていけた。懇意にしていた花屋の店員が配達の折には、細々した男仕事をこなしてくれたので重宝して可愛がっていた。彼に恋人ができたのも気にならなかったので祝福した。だが彼に頼みたい仕事もまだあったのに、周りの女たちの興味本位の噂が広がった。

ロールモデル
少女の頃から何でも良く出来た友人が居た。理美は憧れをこめてなんでも藍子に尋ねて従ってきた。結婚も子供も。
藍子の夫が亡くなった、藍子がこんな不幸に合うなんて……。
やっと理美が自立し始めたのは優越感か。そのごの理美の変化が怖い。

選択
選択を間違えた。優秀で非の打ち所のない私が……、夫の選択を間違えて、今では実家のものを当てにしたりしている。友人たちより不幸になってしまった。かっての恋人の方が良かった。
女の男を看板にしたプライドは身を滅ぼす。

教訓
とり得もない、目立ちもしない、別に結婚願望もない、だがまわりが婚約だの結婚だ、妊娠だ、子供が出来たと言って来る、フト考えた、祝うだけの人生か。全てを取り戻すのだ!
今付き合っている男と是が非にも結婚したい、経験を生かして、男とは何度か付き合ったがなぜか破局に至ってきた。そのときに言われた言葉を教訓にした。こまごまと、あれもこれも。
遠まわしでは埒があかないと思った今度の男はついに言った「ごめん、ほうっておいてくれ。うんざりだ」

約束
編集プロダクションに勤めて居る幾子は、友人の葉月に得意先の機関紙の表紙のためにイラストを頼んだら、評判がいい。だが葉月は余命宣告を受けて入院してしまった。「頑張る」といって書き続けている。
葉月の夫は何もかも幾子とぴったり会う理想的な男だ。葉月がなくなりその夫と結婚したが、約束どおり葉月の書いた絵を見ることになった。

ライムがしみる
久し振りに馴染みのバーに行った。ママは相変わらず気さくで身の上話などをした。
私は猫好きの男とは別れた。
最近ママの機嫌よく猫の子を抱いてきた。男が出来たらしい。

帰郷
母を見舞いに帰郷した。いい思い出のない故郷、離れるために、母のように生きないために、顔を変えた。自己啓発セミナーにのめりこみ、今はその会の会長の愛人になっている。希望通り母とは違った生き方だ、結婚などはしない。
夫の横暴に耐え、親を介護し、今は入院している母。しかし母のところにはいつも誰かが付き添っている、これは幸せなんだろうか

解説は 
あ!「わたし」のことが書いてある……。

と言う出だしなのだが、読後感はこれと全く違った。
「愛」のようなもの と言う安易な題名も好きににならなかった。ようなものだったらこれはなんだろう。もちろん恋愛小説とはいえないし愛に溢れてもいない。
ちょっとした女の日常、勝手な生き方の典型を切り取っただけと言う感じだった。
「愛」や「恋」について話せばこういうものではなくなるに違いない。
 残念だった。
もう一冊、「雨心中」を買ってきたが、実力を知るには受賞作が良かったのか、決めかねている。


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「陽だまりの彼女」 越谷オサム 新潮文庫

2015-02-25 | 読書


くっきりしたかわいらしい表紙が見えたので手にとってみた。

――その秘密を知ったとき、恋は前代未聞のハッピーエンドへと走りはじめる!

と裏表紙に書いてあった、その秘密ってどの秘密?前代未聞って?

ハッピーエンドにチョット飢えていたし、女子が男子に読んでほしい恋愛小説No1……なのか
映画化、、上野樹里、松本潤。 可愛らしい、春らしい と思って読んでみた。

中一のとき転校してきた真緒は幼女だった、裸で公園を歩いていたという、同級生になったが分数も出来ないバカで、回りはあきれ、ついでに苛められてもいた。
苛めの汚さに僕は切れて、真緒の髪に塗られていたマーガリンを取り上げて真緒を守った。それ以来真緒になつかれた。

12年後再会した真緒はバリバリのできるキャリアウーマンに変身、その上取引先にいた。

出会ってからは、真緒は昔のように僕に近づいてきた。可愛いかった。

二人は付き合いだして、「駆け落ち」と名づけて一緒に住み始めた。ところが。


ほのぼのとした話で、仕事場でもうちでも、わがままだが憎めない二人は、春らしい話だった。


ところが(また笑)とんでもないことが起きる。

これまで読んで、この結末で若い読者はキュン死するという(キュン死と言う言葉を覚えたので早速使ってみた笑)

おばさんは びっくりした。何でこうなるの、これがハッピーエンドなのか。

マァむつかしい人生イカにタコにを離れると、とても爽やかで、映画になったとき、ノダメの上野樹里ちゃんならこうだろうと思える展開だった。






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2015 咲き始めの梅 

2015-02-25 | 山野草

春らしくなってきたので 梅の咲き具合を見に行ってきました。山すそなのでまだ咲き初めでしたが、三々五々お弁当を持った人も見かけられて、穏やかな梅見日和でした。


2015







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「その言葉を」 奥泉光 集英社文庫

2015-02-24 | 読書

奥泉さんの初期の秀作。読みたかったのでとても満足した。ジャズがらみの一編と、もう一編の「滝」は鬼気迫る表現で若者の純粋さを書ききった一編(芥川賞候補作)、ミステリ感もある不思議な空間を体験した。


その言葉を

高校時代同級生だった飛楽俊太郎は、田舎の秀才が集まるという進学校でも飛びぬけた、桁外れの秀才だった。 理論家で行動派、自由研究で作った読書会を牽引する、白皙で痩身の男だった。僕は同じクラスだったし、読書会でも繋がっていた、一度訪れた飛楽の部屋は一面が書棚で重厚な本に圧倒された。
だがいつも噂の種になっていた飛楽家の跡継ぎは、アカかぶれたらしい、右翼らしいという話を裏付けるように、卒業を前に姿を消した。
僕は大学に入って、ボロ下宿に落ち着き、近所のジャズ喫茶「キャノンボール」に通いつめ入り浸っていた。学校ではジャズ研に入りドラムをたたいたりしていた。
三年後「キャノンボール」で飛楽を見かけた。すぐに声を掛けるのはためらわれたが飛楽のほうは気がついていたようだった。
油に汚れたつなぎ姿は近所の工場ででも働いているようだった。僕はおずおずと近づき話しかける間柄になった。飛楽は言葉を忘れたかのように寡黙な男になっていた。
常連から、飛楽が河原でテナーサックスを吹いているという話を聞いて見に行った、彼は下手な音を出して、同じ音階を繰り返し繰り返し吹いていた。
およそテナーサックスに似合わない孤独な姿は印象的だったが、僕のこだわりはその程度だった。
同じ常連の、太めで開放的なビリーさんと言う女性と付き合っているとのことで、時々二人連れで現れた。
ビリーさんに誘われていった飛楽の部屋はビリーさんのせいで殺風景ながら綺麗に片付いていたが。実家の本棚を覚えていた僕は一冊の本もなく押入れに束になったマンガ本の山を見ただけで、寒々とした印象だった。
店で初めて飛楽の大声で怒鳴るのを聞いた次の日、ビリーさんが顔に絆創膏を貼っていた。

僕は渋谷に引越したが、ふと思いついて荒川河川敷に行ってみた。飛楽はやはりそこで吹いていた、はなれてから三年間、痩身に大きすぎるようなテナーサックスを抱えて、同じ音階練習を繰り返し練習していたが、明らかに進歩した音色が聞こえてきた。僕は驚いた。

ジャズ研のコンサートを、閉店するという「キャノンボール」で開いたが飛楽は最後に現れた。軽薄で騒々しく彼を持ち上げて紹介した僕をじっと見ていたが、手にしたグラスを床にたたきつけて去っていった。飛楽が拳銃所持で捕まった、あの時しっかり縄で縛ってあった漫画本の中に隠していたらしい。
それから暫くして駅近くのアーケードで出合った、僕は行き過ぎようとしたが近づいてきた飛楽が手を見せた、左手に三本の指の先がなくなっていた。
「やっちゃったよ」と言い照れくさそうに言って去っていった。


秀才といわれた男が酷い凋落振りで現れる。高校生の折には輝いた将来を思い描き、将来の目標にしていたらしい運動にも身が入らず、河川敷で疲れたように音階練習を繰り返している。何か物悲しい風景が心の中に沈んでくるような不思議な話だった。
最近読んだ「虫樹音楽集」で「イモナベ」と言う男が河川敷でテナーサックスを吹くシーンが出てくる。原点はここにあったのかと思った。





宗教団体の若者組は恒例の行事で、白い装束に地下足袋をはき、奥日光連山に指定された7つの社を周り山岳行を行うのが決まりだった。
それぞれの社に着くとリーダーの勲が榊の枝についた神籤を引く。精進がよければ白い布がでるが、心がけが悪ければ黒い布がついている。その後は、峻険な坂を下り、邪気をはらい神気を充実させるために、滝壷で結跏趺坐を組み、禊祓の滝行を行って心身を正常に戻す、高い崖を上っていって道の続きから次の目標に進む。若者組は事前に行われた剣道試合の成績順に、5人で一つのグループを作り、グループごとに、時間差で出発するが、一番に出発できたのだから、どこよりも早くつきたいと15歳の祐矢は思っていた。冷静でたくましい勲を心から崇拝していた。しかし5の社まで神籤は黒が出続ける。

これは裕矢の兄の属する、青年組みの罠だった。
勲は、開祖の側で発展に寄与し今でも長老の筆頭に地位にいる。その孫で将来が約束されていた。
だが先触れになり仮社をつくり若者組みを迎える準備をする裕矢の兄たちは、勲のひく神籤を全て黒にした。
次に封筒に並んでいる榊の中の、白の位置をしたためる手紙を入れた。社に着いた勲は手紙を無視し、また黒を引く。
少年たちは雨に降られ、野営し、限られた食料で山を歩く上に、滝への上り下りに苦行を強いられていた。疲労も極限状態で、白い神籤がでることを祈り願っていた。
だが5の社で黒が出、滝行に降りたところで、もう一度上るには体力がつき、体を壊すもの風邪を引くものがではじめる。勲は寡黙に、負ぶったり介抱をしながらここまでたどり着いた、だがその時に脱走者が出た。
揃って行を終えなければ意味がない、勲が探しに行っている隙に、裕矢は体力をふりしぼり、走りに走って6の社で神籤を引く、白が出た。知らせようと引き返してしてみると、勲は一人6の社目指して出た後だった。道を探してすれ違ったのか、社に着いて見ると勲の姿がなく、枯れた滝の下に黒い神籤を握った勲の姿が見えた。


荒行の途中、元気に空を見、通り雨の後の虹を見て歓声を上げた若者たちは、行くたびに滝に打たれ、火を囲んで野営する、それが重なるごとに疲弊していく。道の上に覆いかぶさってくる木々たちやさまざまな山の声、自分たちの心の声。勲の俗世間から遊離したような清純な行い。組織の厳しい規則に縛られながら、勤めを果たそうとする少年たちの苦行、それらが限界に近づきやがてそれも越えてしまう。あるべき人の姿は信仰の中にあるのか、人の争いはどこにあっても静まることはないのか。ただ純な世界を持ち続けるものが生き延びるには汚れすぎているのか、様々な問いの中で、美しい自然描写と過酷な修行を対比させた壮絶で美しい物語だった。





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「月と蟹」 道尾秀介 文春文庫

2015-02-23 | 読書
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道尾さんの作品を読むのはこれで8作目になる。ミステリを読むことをメインにしてから、作家は見聞きした中で幅広く読んできたが、一人の作家をこんなに読んでいるのに初めて気がついた。好きでつい手が伸び読んでしまっているのは、小説の世界に共感する部分があるからかもしれない。

進一という父親を亡くし、母の行動に不安を感じている少年、彼は漁で片足をなくした祖父(昭三)と同居するために鎌倉の浜辺の町に来た。
春也も同じ頃に転校してきた。
鳴海は祖父が怪我をした事故に巻き込まれて母親をなくしている。

主人公の二人の少年と一人の少女の結びつきが、小学校5年生というには危なく、すこし背伸びした感がある。無邪気な周りの子供たちに馴染まない心の中の隙間を埋めるように、行動をともにしている。
だがその三人にしても、育ってきた環境の違いや、貧しさや、個性の違いで一人ひとりになると、それぞれ違った悲しみや苦しみを抱いている。

山の上にある岩のくぼみで、海辺で捕まえたヤドカリを飼い始める。あぶりだして殺すこともする。貝殻から這い出したヤドカリを殺して、それに願いをこめる。偶然100円が手に入り祈りが叶えられたように思った時から、ヤドカリは供物の姿からヤドガミ様という形で子供たちの日常を越えたものに変形していく。

知り合った頃から長くなるにつれ少しずつ三人の心に齟齬が生まれてくる。それは三人の苦しみの形がわずかに違っているからで、口に出していえないお互いへの思いがずれはじめたことでもある。

短い間に揺らぎ始めた三人の心は、進一の祖父が亡くなり、母と鳴海の父との関係がわかり、春也は隠していた父親からの虐待が見えるようになる。

ヤドカリの儀式は三人揃って続けられないことも多くなっていく。

誰しも、大人になれば陰のようにしか浮かんではこない、当時の世間や友人と自分の関係が、成熟していない分不安不安定な時期。誰もが持っているそんな苦しさも交えた郷愁を誘うような思いが、苦しくも悲しく迫ってくる。


「ひまわりの咲かない夏」の小学生の世界のように、越えられなかったその頃の心のゆれを書いてある。道尾作品の中の少年たちは、この「月と蟹」が一番完成度が高いと思う、将来のことはわからないが。
繊細で美しい風景描写は物語の背景を新鮮に描き出している。

病室の天井を眺めながら今日は月が明るいといったのだ。
――今日の蟹は食うんじゃねえぞ。(略)
――月夜の蟹は、駄目なんだ、食っても、ぜんぜん美味くねえんだ。(略)
――月の光がな、上から射して……海の底に……蟹の影が映ってな。
――その自分の影が、あんまり醜いもんだから……蟹は、おっかなくて身を縮こませちまう……だからな、月夜の蟹はな……。
そこまで言って昭三は眠りに落ちた。
そして、その日の夜に死んだ。


あとがきを伊集院静さんが書いている。道尾作品の描写の的確さ繊細さ、情緒のある文章について。
作品の持つ”危うさ”のようなものについて、人間であることの戸惑いについて、

”危うさ”の果てにあるのは”喪失””死”の他にない。道尾の文章表現が、的確で、繊細であるのは彼が見つめ続けている対象の果てにあるものを予期しているからではないだろうか。

伊集院さんの解説も、(下手な引用をしたが)心に残った。
名作といわれる「白秋」を読もうと思った。




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「鳩笛草」 宮部みゆき 光文社文庫

2015-02-22 | 読書

本屋さんにふらっと寄ってみると、ミステリーフェアの棚にこの本が並んでいた。宮部さんだと間違いないだろうと思った。
中篇が三作収まっていて読みやすく面白かった。どれも特殊能力のある女性が主人公で、それによって助けられるというより、その能力があるために、会わなければならなかった悲しみがにじみ出ていた。
あとがきによると’95年から’96年に発表されて、ドラマにもなったという。一篇が100ページ以上あるので、読み甲斐もあって面白かった。

朽ちてゆくまで
今はその能力はなくなったが、予知夢を見ていた時期が幼い頃にあったらしい。それに気づいた両親が…。
祖母は知っていて隠していた、でも知ってしまった智子は、亡くなった両親が隠していたビデオを見つける。

燔祭
河川敷で見つかった4人の焼死体。彼は予知できた。暫く一緒に住んだ青木淳子を思い出す。彼女に妹の事件のことを話した。そして彼女は自分には発火能力があると告げた。その彼女がふっと消えて、この事件を新聞で知った。

鳩笛草
心が読める貴子はその能力を役立てるために刑事になった。確かに事件の解決率は上がったが、刑事としての実力について彼女は悩み始める。



「燔祭」は後の「クロスファイア」に繋がっているという。S・キングの「キャリー」ほどの迫力はないが、非凡な力を持つ重みと、それをつきぬけた後の彼女の生き方が興味深い。

迷いもしないで選んで、読んでみたが、やはり宮部みゆきは面白い。それぞれが何か物悲しさを感じさせて、読みやすさとともに忘れられない面白い作品に満足した。

旅の供に、少し時間があるときにはこの中篇をお勧めしたい


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「井上ひさしの作文教室」 井上ひさしほか文字の蔵編 新潮社

2015-02-19 | 読書

井上ひさしさんの発行されている文章関係のものは、読んですぐ書架に入れてあるはずが、見当たらないものがある。
勉強のためにまたこの本を買ってきた。
「文章」というより、初歩の「作文」を書くということについて書いてある。原稿用紙を使うことも少なくなったが、作文教室ということで、そこから始まっている。

三点リーダ(…)は2箱使うことなどは忘れていた。

日本語は語彙が多いことについても。
常に辞書で調べよ。

「て・に・を・は」が代表する、助詞、助動詞で悩むことがあるが、これにも明解に答えてくれている。

助詞「を」については
湯・を・沸かす
飯・を・炊く
穴・を・掘る
ズボン・を・縫う
この「を」は材料というより、出来上がったもの必ず指す決まりにいなっている。だから「水・を・沸かす」ではなく「湯・を・沸かす」

「は」と「が」についてはよく知られている「象は鼻が長い」から
理論的に「は」と言うのは、もう明らかになったことに付き、「が」は未知――まだわからないことにつける。
前触れの副詞を使うこと 「まだ」の後には否定が来る「さぞ」「けっして」「たいして」など無意識に使っている言葉がある。

段落について
点(、)のうちかたについて等々も

文章に接着剤を使いすぎるな
「にもかかわらず」「にくわえて」「とともに」「とどうじに」「につづいて」「のほかに」「ものの」「だけに」「うえに」「するいっぽう」「しつつ」などと言う接続詞
「――ので」「――ために」「――から」「――ことにより」などの接続詞。
「――が――」はつながりのないものを繋いでしまう「今日は雨だったが、私は元気に生きた」となることがある。
接続詞、接続助詞は「理屈をこねる」のに使われてしまう、注意しよう。


言葉に興味を持ち、極めようとする人が、文章を書く上での注意点に何度も頷いた。


いきなり核心から入る
自分を指す人称代名詞は、ほとんどの場合、削った方がよい。
意識をなるべく研ぎ澄まして、観念的に、じゃなくて具体的に。理屈ではなくて、具体的に。
自分にし書かけないことを解りやすく。

「誠実さ」「明晰さ」「わかりやすさ」――これが文章では大事なこと。


270ページの中身は、作文教室で学んだ人の宿題添削もふくめ、自分を見直すことがばかりだった。
読み返して反省しよう。

もっと書いて教えていただきたかったのに、あとがきが予言したかのように亡くなってしまった。
ご冥福をお祈りいたします。


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「永遠のとなり」 白石一文 文春文庫

2015-02-17 | 読書


「永遠のとなり」と言う題名は二人の男の生き方ばかりでなく、理想と現実、自由と束縛、健康体であった過去と、現在の病身、故郷と異郷、もろもろに反するものを自己の中に抱えて生きる人間の象徴かとも思える。

<青野精一郎>
大学入学と同時に上京して、東京の大手損保会社に入った、花形部署にいたが、合併とともに片隅に追いやられ、部下の自殺の責任も感じてうつ病になる。退職後は離婚して故郷の福岡に帰る。
<津田敦>
大学卒業後は東京にとどまって起業したが、肺がんに罹り事務所をたたみ、二度目の離婚後福岡に帰郷する。
初めての手術が成功し、抗癌治療も効果があったが再発、二度目の手術後に福岡で再婚したが、今は別の女のところで暮らしている。

ふたりは中高と同窓で同じ美術部に入り、同じように東京の大学に入った旧友だった。

青野が帰省すると、先に帰っていた津田との付き合いが復活する。

津田はがんを抱え、二人の女の間を行き来しながら、独り暮らしの老人たちと親しく付き合ったりしている。


青野と津田の途中下車したような人生が、福岡の言葉でつづられている。荒れた都会生活と距離をとって、自分を見つめなおしていく過程が、ゆったりとした日々になって流れていくが、それぞれに生活の中では抱えた問題もあり、時には酒を酌み交わし、津田の妻を交えての話し合いや、同棲している女との付き合いに関わることもする。
青野はその中で少しずつ自分を見つけ出し再出発を考え始める。津田もがん治療に希望の兆しを見つける。

一度挫折した男たちが、親友と痛みを分け合って、将来に向かって踏み出し始める話だった。

経済的に追い詰められてもいない二人はどことなく余裕も感じられる。そう言うこともあるだろうという読後感あだった。
欝で衰えるという男性機能回復に協力すると言う津田の愛人の行為は唐突で、全く好感が持てなかった。これで減点。

完治の見込みはないだろうと思われる津田も今を受け入れ、青野も職につこうとする。

真の安寧、幸せを求める日々だったろう、だが余り深い感動もないうちに話が終わった




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「何もかも憂鬱な夜に」 中村文則 集英社

2015-02-09 | 読書


読んで楽しい話ではない。今までの作品に感じられる、心の底の暗部が露呈したような特殊な日常が、今回は明確な形になって、人物や、境遇に見出される。人なり仕事なりに具体性があり、読みやすく実在を感じることが出来る。
すこし印象が変わってはいるが、テーマはやはり、重い感じに閉じ込められてしまう作品になっている。

施設育ちで、刑務官になった僕。同じ施設育ちの真下が自殺しそのノートが送られてくる。
家族も兄弟もなく自分の求める小さな幸福の当てもなく、真下の持つ憂鬱や混沌が彼を水に誘う。水に入り流された真下が理解できる。

僕も施設で身を投げようとした過去があって、だが、施設長によって心身ともに救われて成長する。本や音楽をあたえられ人生の深さや広がりを感じるようになっていく。

しかし、いまでも僕の心の底には暗い川が流れている。
交代制で収監者を看、罪について語るのを聴きながら、自分をもてあます事もある。

山中と言う一月の差で、少年法が適用されなかった男が入ってくる。二人の男女を意味もなく殺害した罪で、二週間後に処刑されることになっていた。説得してもがんとして控訴をしないと言う。
今まで生きてきて虐待にはなれてはいたが、ついに逃げ出して熱が出て倒れ、夜空の月を見たとき、深い深い孤独を感じた。気がついたとき二人の人を意味なく殺した。彼は死にたかった。殺した後は「死ぬのが俺の役割だ、なるべく早く」と刑務官に言っている。
僕は、「控訴をして心情を話せ」と言う。彼の死刑は変わらないが。今ある命というものについて、お前は使い方を知らない、お前は知るべきだ。控訴してみるべきだ。死刑は変わらなくても。

僕は、何も知らない彼に、昔施設長が貸してくれた 本や音楽や映画のことを話しかった。彼は何も知らないまま死ぬ。
死刑という制度とは別に自分に与えられた命について考えて欲しかった。

遺族と死刑囚の間にある死刑制度について、」刑務官も考える。そして囚人も考える。刑務官と言う仕事は、命の重みにじかに接する仕事である。

控訴した山中から、本を読み音楽を聴き、罪について考えをめぐらし始めていることを知る。そして自分と殺した人たちの本当に人生について考えるのが遅かったが、やはり罪は死で購いたいという気持ちは変わらないと書いてあった。

大雑把な書き方では現しきれない、僕と真下の関係、何も持たない身軽さとそれゆえに孤独に死を求めた真下と、命の世界の重みと広がりを施設長から受け取った僕。
何も持たないどん底で虐げられて生きてきた山中の孤独。時に闇の世界に迷う込みそうになる僕の夜。本書は特殊な世界でありながら、人の持つ自分だけの命のを行き続ける寂しさや支えられている周りの人々との繋がりが、ありふれた生活の中に潜んでいることを考えさせられる、名著だと思った。





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「独楽吟」 橘曙覧 グラフ社

2015-02-03 | 読書


今日は節分で、毎年の習慣で巻き寿司を作る。「恵方巻き」などと言う言葉が出来てから、ちょっとした行事になった。面倒なので海苔を残さないように10本作る。具を切って煮ながら、ふとこれも楽しみかなと思った。

巻き寿司を作ると祖母と母の懐かしい手料理を思い出す。


そして三好達治の「乳母車」と山奥の祖母の家の風景を思い出して、立原道造の「のちのおもひに」を口ずさむ。

今日は少し風邪気味なので気分転換に「楽しみは」の短歌を思い出して覗いてみた。
そうだったそうだった、清貧の中ででささやかな楽しみを歌った「独楽吟」の52首
今でも読むたびにその時々に合った、昨日と違う歌が見つかる。☆今日の気分にぴったりな歌(^^)



 たのしみは草のいほりの筵(むしろ)敷(しき)ひとりこゝろを靜めをるとき

☆たのしみはすびつのもとにうち倒れゆすり起(おこ)すも知らで寝し時

☆たのしみは珍しき書(ふみ)人にかり始め一ひらひろげたる時

☆たのしみは紙をひろげてとる筆の思ひの外に能くかけし時

☆たのしみは百日(ももか)ひねれど成らぬ歌のふとおもしろく出(いで)きぬる時

 たのしみは妻子(めこ)むつまじくうちつどひ頭(かしら)ならべて物をくふ時

 たのしみは物をかゝせて善き價惜(をし)みげもなく人のくれし時

 たのしみは空暖(あたた)かにうち(はれ)し春秋の日に出でありく時

☆たのしみは朝おきいでゝ昨日まで無(なか)りし花の咲ける見る時

 たのしみは心にうかぶはかなごと思ひつゞけて煙草(たばこ)すふとき

 たのしみは意(こころ)にかなふ山水のあたりしづかに見てありくとき

☆たのしみは尋常(よのつね)ならぬ書(ふみ)に畫(ゑ)にうちひろげつゝ見もてゆく時

 たのしみは常に見なれぬ鳥の來て軒遠からぬ樹に鳴(なき)しとき

 たのしみはあき米櫃に米いでき今一月はよしといふとき

☆たのしみは物識人(ものしりびと)に稀にあひて古(いに)しへ今を語りあふとき

 たのしみは門(かど)賣りありく魚買(かひ)て煮(に)る鐺(なべ)の香を鼻に嗅ぐ時

 たのしみはまれに魚煮て兒等(こら)皆がうましうましといひて食ふ時

☆たのしみはそゞろ讀(よみ)ゆく書(ふみ)の中に我とひとしき人をみし時

 たのしみは雪ふるよさり酒の糟あぶりて食(くひ)て火にあたる時

 たのしみは書よみ倦(うめ)るをりしもあれ聲知る人の門たゝく時

☆たのしみは世に解(とき)がたくする書の心をひとりさとり得し時

 たのしみは錢なくなりてわびをるに人の來(きた)りて錢くれし時

 たのしみは炭さしすてゝおきし火の紅(あか)くなりきて湯の煮(にゆ)る時

☆たのしみは心をおかぬ友どちと笑ひかたりて腹をよるとき

 たのしみは晝寝せしまに庭ぬらしふりたる雨をさめてしる時

 たのしみは晝寝目ざむる枕べにことことと湯の煮(にえ)てある時

 たのしみは湯わかしわかし埋火(うづみび)を中にさし置(おき)て人とかたる時

 たのしみはとぼしきまゝに人集め酒飲め物を食へといふ時

 たのしみは客人(まらうど)えたる折しもあれ瓢(ひさご)に酒のありあへる時

☆たのしみは家内(やうち)五人(いつたり)五たりが風だにひかでありあへる時

 たのしみは機(はた)おりたてゝ新しきころもを縫(ぬひ)て妻が着する時

 たのしみは三人の兒どもすくすくと大きくなれる姿みる時

☆たのしみは人も訪ひこず事もなく心をいれて書(ふみ)を見る時

 たのしみは明日物くるといふ占(うら)を咲くともし火の花にみる時

 たのしみはたのむをよびて門(かど)あけて物もて來つる使(つかひ)えし時

 たのしみは木芽(きのめ)煮(にや)して大きなる饅頭(まんぢゆう)を一つほゝばりしとき

☆たのしみはつねに好める燒豆腐うまく煮(に)たてゝ食(くは)せけるとき

 たのしみは小豆の飯の冷(ひえ)たるを茶漬(ちやづけ)てふ物になしてくふ時

☆たのしみはいやなる人の來たりしが長くもをらでかへりけるとき

 たのしみは田づらに行(ゆき)しわらは等が耒(すき)鍬(くは)とりて歸りくる時

 たのしみは衾(ふすま)かづきて物がたりいひをるうちに寝入(ねいり)たるとき

 たのしみはわらは墨するかたはらに筆の運びを思ひをる時

 たのしみは好き筆をえて先(まづ)水にひたしねぶりて試(こころみ)るとき

☆たのしみは庭にうゑたる春秋の花のさかりにあへる時々

 たのしみはほしかりし物錢ぶくろうちかたぶけてかひえたるとき

 たのしみは神の御國の民として神の(をしへ)をふかくおもふとき

 たのしみは戎夷(えみし)よろこぶ世の中に皇國(みくに)忘れぬ人を見るとき

 たのしみは鈴屋大人(すすのやうし)の後(のち)に生れその御諭(みさとし)をうくる思ふ時

☆たのしみは數ある書(ふみ)を辛くしてうつし竟(をへ)つゝとぢて見るとき

 たのしみは野寺山里日をくらしやどれといはれやどりけるとき

 たのしみは野山のさとに人遇(あひ)て我を見しりてあるじするとき

 たのしみはふと見てほしくおもふ物辛くはかりて手にいれしとき





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