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空耳 soramimi

あの日どんな日 日記風時間旅行で misako

「バカのための読書術」 小谷野敦 ちくま新書

2014-12-25 | 読書



打ち合わせで出た席で勧められた本を読んでみた。
読書好きな人で「今何読んでる?」といつも聞かれる。手にしているのが大江さんの論説集のようなものだったので、またかと思いながら考える。文芸書にしようかな?ミステリかな?SF? ホラー?
私の上げた本はどれも腑に落ちない顔で、勧めてくれたのがこの本「バカのための読書術」
「前に読んでとても面白くて参考になった」そうで、それなら読んでみよう。
たぶん私には「学問」を勧めてくれたのかもしれないが。


まず 序言 バカは歴史を学ぶべし

「諸学問の中核になる学問は何かという問題がある。」という書き出し。

私は楽しみと好奇心で本を読む。宿題はない、予習も復習もない、ましてテストや提出課題もない。こんな平穏な毎日に学問とはもう遠い距離があるのに。

それでも、学者の書いた本はどういうものか読んでみた。
親切に、学問に向かう心構えが書いてある。それを読書を通しての指南書と思えば、役に立つ。
特に難解な本について読まなくてもいいというのは、本音をついた意見だった。額にしわを寄せて難解な内容を読もうとするよりも、易しい解説本がいい。
「難解でなくても面白い」と書かれている。

面白くなってきた。

第三章 入門書の探し方 

☆ 新書版はかならずしもいい入門者ではない
☆ 「解説」は使える
☆ 「バカだと思われたくない」インテリ病
☆ 「経済学」入門書
☆ 「通俗心理学」は怪しい
☆ これからは統計学の時代である
☆ 宗教「学」というのもおかしい

第六章 「文学」は無理に勉強しなくてもいい

☆ 「バカ」もこじらしてはいけない

読むと「バカ」になりそうな本やテレビの版組、携帯電話依存が「バカ」になってそれをこじらせると書いてある。

「読んではいけない本」ブックガイドがある

私家版小説ガイド がついている

☆ 難解なものは入れない
☆ マンガも居れる
☆ 国籍・時代を問わない
☆ むやみに長いものも入れない
☆ 現代日本の人気作家は入れない
☆ 読者の年齢・性別で分けてみる

という方針で紹介されている。参考にして「バカ」に向かっての直滑降状態を少しでも抑制しようかな。





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「一瞬の光」 白石一文 角川文庫

2014-12-24 | 読書

大手企業の出世頭として嘱望されていた橋田浩介は、派閥抗争に破れた。それはトップに君臨して会社を牽引していた人物の裏切りだった。彼の手腕を認めた反対派の誘いがあったが、彼はそれまでの闘志も意欲も失ってしまっていた。
面接官として出会いバーで二度目の出会いをした香折が、男に絡まれているたのを助けたことでかかわりが出来る。
辞表を出した後も、複雑な生い立ちをした香折が気にかかり、何かと面倒を見る羽目になる。
浩介には上司の縁続きの女として完璧な彼女、瑠衣がいた。人が振り返る美しさと聡明さを持ち絶品の料理まで作る。ひたすら愛し続けてくれる彼女はいたが、孤独で人生を投げたような香折が常に気になっていた。

彼は、辞表を出した後でも、理想的な家庭を築けそうな瑠衣との人生を選べば、社内でも安定して昇進していけただろう。別の道を選んでもそれでも着いて行くと瑠衣はいっていた。

作者は瑠衣の美しさ純粋な愛情を浩介にぶつけてくる。そして親と兄からDVを置け続け、欝に悩み、今でもおびえて暮らす香折が常に心にある浩介を書く、女として愛しているのではない、瑠衣を置いてでも香折には手を差し伸べねばと思っている。

エリートとして抜擢された地位が揺らぎ、会社経営の暗部を見てしまった、確かに現代社会には明るい面は少ない、彼はそれを是として飲み込んできたが、わが身に及んだ深い人間不信の感情は、拠って立ってきた大きな柱を微塵に砕くものだった。

生活はそう純粋な温室で育つようなものではない、濁った水に揉まれていると、澄んだ流れに出会うこともある。

読者としては、孤独な戦いをしてきた浩介に瑠衣という贈り物をささげたくなる。香折は兄に襲われ人事不省から回復しても意識がいつ戻るかわからない。浩介に関わって欲しくないと読みながら思う。

浩介の決断は作者の書くという姿勢が見える。

非の打ち所のない瑠衣と傷だらけの香折、どちらに寄り添って生きるか。感動的な幕切れを書いた、白石という作家が世に出た読み甲斐のある作品だった。

社内の抗争、政治がらみで経営の深部までの話は浩介の立場を現すものだろうが、結果的に人間性を探るものならもう少し簡単でもいいような気がした。

たがそれは欲張りな感想で、この作家のものをもう少し読んでみたくなった。







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「真珠郎」 横溝正史 角川文庫

2014-12-22 | 読書



これを初めて読んだのは、中学一年生のときだった。横溝正史初読みになったこの本は、何かの折には話題にしたが、いつだったか、角川の「横溝正史フェア」で見かけて立ち読みをした。妖気が漂う耽美的な文章、時代を感じさせる舞台装置や血なまぐさい殺人事件、少し思い出したが読み返す気分ではなかったのでまた次にしようとそのままになっていた。
そのとき展示されていた25冊の殆どは読んでいたし、そのときは、こどものころに受けた珍しい「真珠郎」という題名の衝撃がまだ収まっていなかった。

先日立ち寄った古書店でたまたまこの本を見つけた、古い本独特のにおいと黄色く変色した表紙が懐かしかった。

浅間山の麓の湖際に建つ、妓楼を移築した眺めのよい部屋を借りた二人の大学生が、殺人事件に巻き込まれる。
棲んでいる家族は二人だけだと聞いていたのだが、渡り廊下の先にある蔵に誰かいるらしい。夜湖畔の柳の下に立っている世にも稀な美少年を目撃する。しかし、そういうものはいないと家人が言う。
そして第一の殺人が起きる、湖の水が流れ入る洞窟で「真珠郎」名づけられた少年が返り血を浴びて、船の上で奇怪な笑い声を響かせていた。
舞台は東京に移り、また殺人事件が起きる。真珠郎が目撃されていたが、その後姿はかき消したように跡形もなく消え、事件が起きるたびに目撃される。

主人は「真珠郎」を生まれたときから蔵の中で育てた、望みどおり怪奇な殺人者に成長し、鎖を破って逃走する。その後に起きる事件が、複雑な彼の生い立ちとともに周りの人々の思惑が絡んで、話は陰惨な場面が続く。


このときはまだ金田一探偵は書かれていない。探偵役が出てきて、絡んだ糸を簡単にほぐしてしまう。
不気味な雰囲気は、当時子供だっただけに心に焼きついたものの、恐怖譚や妖しい物の怪話など嫌いではなかった。改めて読み返すと、表現や言葉遣いに時代を感じるものの、ミステリとしても面白く、読み終わって思い出す場面も多かった。

横溝正史のものでは「本陣殺人事件」が一番。仕掛けの面白さに驚いた。映画化された有名作品もいいが短編中篇の魅力が今読み返しても薄れていない。




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「チャイルド・オブ・ゴッド」 コーマック・マッカーシー 黒原敏行訳 早川書房

2014-12-19 | 読書


コーマック・マッカーシー 

「チャイルド・オブ・ゴッド」(1973)
「Suttree」   (1974)  初期三部作
「ブラッド・メデリアン」 (1979)


「すての美しい馬」 映画化
「血と暴力に国」  映画化「ノーカントリー」として、アカデミー賞作品賞ほか4部門 21世紀からの三部作
「ザ・ロード」   映画化 
  

「チャイルド・オブ・ゴッド」は初期作品だか映画化によって2013年邦訳


アメリカ、アパラチア山脈に住む貧困で、母は男と逃げ、父は自殺した。身寄りのないまま育ち、レスター・バラードが育った小屋を含め周りの土地まで、税金滞納で競売にかけられるところから始まる。
住処をなくした彼は、敗れ小屋を見つけ、孤独な自給自走の生活が始まる。それが7~10歳のころ。粗野で粗暴なので村人にも馴染まなかったが、車で森に入った若者のカップルを見つけて殺し、それから連続殺人が始まる。
以前妹に対する近親相姦から、殺した女を屋根裏に隠した死姦を繰り返し、ついには放火。孤独ゆえか、殺した女を屋根裏に上げて同居をするようになる。火事を起こし家がなくなった後は複雑な地形の洞窟にすみ。まれな大洪水が起こり犯行が現れて逮捕。弱りきった体で逃げ迷い、病院に来て自供し死ぬ。

広いアメリカの社会では、こういった山間部の貧困があり小説の題材になっている。この犯人レスター・バラードもそうした社会で人と交わらず教育を受けないで育つ。ライフルの腕を頼りにいつも持ち歩いて食べ物を獲る事もある。、無知と、生きるために食べ物を見つけては食べるようなその日暮らし。しかしそれに慣れ。そういった生活を続けるとなどは、殆ど本能によって生きている。危険から身を守ることを(独白で)言葉にすることが出来ても、自分自身を振り返ってみることなどまったく思いつかない。

陰惨な、犯人に関して言えば社会に見捨てられた悲惨な人生ではあったが、コーマック・マッカーシーが書く文章は、四季の風のそよぎであれ、雪すさぶ吹雪に揺れる木であれ、レスターが徘徊する足のしたの霜柱や、落ち葉にた無数の不透明なガラスのような光など、澄み切った自然の風物が、透明感を持って心に訴えてくる。
そういった青く青い高い空、澄み切った流れ、野草に吹く風の音。鳥や獣の鳴き声や羽根が風を切る音。、雪の上に残していく足跡。作者の筆致は独特の情感を持っている。
またこの作品は、ショートストーリーろ積み上げることで、シーンが違っても実に気の効いた形で、回りに雰囲気や、中でもレスターの生い立ちが徐々に判明するように話しに汲み込まれている。
会話は括弧で囲まず詩のような箇条書きで雰囲気がいい、それも大きな特徴で、こうした構成が酷薄な事件を和らげているようにも思える。

現実に起きた事件を基にしているとも言われるが、前面の露悪的な事件の周りが,こうした別世界に思えるような世界なので、殺されて無残な姿を晒す遺体の姿まで、大きな自然の中では、最後は静かに土に返るように思える。

前に方用に、非常な世界を書いて名前が出てそれが映画化され作家として安定したした。今ではノーベ文学賞候補ともささやかれているという。

今年になってマッカーシー原作の「悪の法則」を見みた。豪華キャストの競演だったが主題が弱く、原作を読んでいないのでわからないが、★3位の出来だった。




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「儚い羊たちの祝宴」 米澤穂信 新潮文庫

2014-12-10 | 読書


日常のダークな部分に少しずつ足を踏み入れていくような展開で、特異な世界が重い。

名家の女子が入る学校に「バベルの会」という読書サークルがある。入会の目的は違うが、一つのよりどころにはなっている。
5編の短編をつなぐキーワードになっているが、それが重要であったりなかったりしながらそれぞれを繋いでいる。

身内に不幸がありまして
<夕日の日記>広大な屋敷に住むお嬢様が大学生になっり「バベルの会」に入った。会は夏休みに蓼科高原の別荘で読書会が行われていた。お嬢様はとても楽しみにしていると言っていたが、毎年その日の前になると不幸な事件が起きるのだった。

北の館の罪人
屋敷の北に別館があり、そこに家督の相続を嫌った長男が住んでいた。火事に遭い身寄りのなくなった異父妹が世話をすることになった。別懇は外出が出来ない造りになっていたが、妹は許されて鍵を開けて出ることが出来た、長男の画材などを頼まれて買ってきていた。長男は引きこもって青い絵を描き心身をすり減らして死んだ。

山荘秘聞

山荘の管理人になった、隅々まで完璧に保って一年が過ぎた。全てに不足はなかったが、誰も尋ねてこなかった。接待には自信があったし接待のマナーも身についていた。前職では、子供の友達が泊りがけで来たり、接待する客もあった。誰も来ない冬だった、散歩に出て、滑落して倒れている男を助けた。山岳会の捜査メンバーがやって来た。やっと完璧な世話をすることが出来る。

玉野五十鈴の誉れ

男子の世継ぎに恵まれない家だった。跡継ぎとされる純香は淋しく暮らしていたが、世話係の玉野五十鈴が来た。同じ年だったが、彼女は全てに出来がよく知識も深かった。頼りになる友人になり、学校にもついて来ていいことになった。
しかし入り婿の父の実家で犯罪が置き父は家を出された。再婚した母は男の子を産んでから、純果は厄介者になり、五十鈴は台所係にされてしまった。
だがすくすく育っていた弟が事故で死んだ。

儚い羊たちの晩餐

荒れたサンルームに入ってみると、荒れたテーブルの上に一冊の本が置いてあり開いてみた。「バベルの会」を除名された鞠絵という名の女の子が書いたものだった。
父親は世間体を気にする俗物だったので、客をもてなすために料理人を雇った。「夏」という女性は若かったが腕がよく料理は絶品だった。だが大量の食材を仕入れ、より抜きの部分だけを使うというやり方だった。けちだった父は客に自慢するために眼をつむっていた。
アルミスタン羊料理の食材探しに、蓼科に出かけていた「夏」が帰ってきた。その羊は唇を食べるのだという。

訪問者は読み終わった本を伏せて椅子を立った。そのとき「バベルの会」の後継者が生まれたのだった。


日常の中にうまく組み込まれた恐怖が最後に不気味な形になって話が終わる。解説によると、伏線は様々なミステリの一部を思い出させるような形で、アルミスタンの羊というのもミステリファンならピンと来るのだそうだ。
知らなくても楽しめるそうなのだが、私はピンとこなかった、それでも十分面白く恐ろしかった。


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「ほかならぬ人へ」 白石一文 祥伝社

2014-12-09 | 読書

第142回直木賞受賞作


初めての作家だし、直木賞というので読んでみた。題名が優しそうで、内容も楽しみにしていた。
それが余り読まない恋愛小説の形で、マァそれでも構わなかったのだが。いささか深みのない小説だった。

「ほかならぬ人へ」

生まれも育ちも恵まれた明生が、「ほかならぬ一人の女性」を求める話で、自分は家族や係累の優秀さの中で、自分は生まれそこなった凡庸な人間だと思っている。それでもコネで、世間に知られた会社に入り、真面目に仕事に精を出している。
だが、初恋の相手には「普通の生活がいい」と言って振られ、次に美人だと評判のキャバクラ嬢と結婚する。だが明生の思いとは別に彼女は初恋の人のところに逃げてしまう。
結局、頼れる上司と一緒になるのだが、彼女も肺がんで逝ってしまう。
文章も明生の言葉にすれば相応の単純さだが、直木賞作家の作品なら、少し浅すぎる。
ぴったり来る相手と結婚したというのはよくわかるが、家庭を持ち生涯を共にするという展望はない。目先の出来事を安易に受け入れ、それに振り回される様子は、読み応えがない。仕事を通した出来事も、特に必要も感じられないくらい長く挿入されておるが、社会情勢に敏感な作者の関心のあるところを述べたのだろう。
えもいわれないいい香りがするという、年上の上司と落ち着くが、先立たれてしまう、このあたりでは明生は落ち着きが感じられていい。
残された明生の悲しみが素直に伝わってくる。
この年上の、上司がさっぱりとした人柄で仕事もでき、明生を引き立てている。


「かけがいいのない人へ」

主人公の「みはる」も裕福な家の出である、頭はいいが顔立ちは平凡なのだが、社内でも人気の男性と結婚の約束が出来ている。
しかし、野生的な上司と付き合っている。彼は「みはる」に結婚相手がいることを知っているが、リュック一つで転がり込んできたり、夜になってふいに部屋に来たりする。彼はバツイチで結婚の意志はない。
ただ仕事は出来る男で、社内の主流にいたが、引きであった役員の退職で、立場を考えなくてはならなくなっている。
ここでも社内の力関係などが挿入されている。業績が不振になり赤字に転した末、吸収合併という選択をしなくてはならなくなってしまっている会社の事情が、役員の異動や進退問題、それにつながる部下の行く末などページを割いている。
こういう、男女の微妙な関係や、結婚を控えた年頃の女性の気持ちを書くのなら、相手の男性の仕事には深入りしなくてもいいように思う。背景としてあっさり書き流して欲しい。
まして、結婚相手でない男性とのアダルトまがいの性描写は、繊細さを感じさせる題名には全くそぐわない。悪趣味に感じられた。


作者は書きたいことをまとめるのに苦労したのではないか、この題名に沿ったもう少し深い男女の心境を掘り下げ、何か別のものを作り出そうとしたのではないかという気もする。

先入観があったのもしれないが、、題名にふさわしくない、手ごたえのない作品だった。





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「カラマーゾフの妹」 高野史緒 講談社

2014-12-08 | 読書

第58回江戸川乱歩賞受賞作


読みたいと思って待っていたらやっと回ってきた。昔読んだがぼんやりしか覚えていない「カラマーゾフの兄弟」。今あらためて読んでも大丈夫解るのだろうか。先にアノ長い長い本編を読んだほうがいいのだろうか。迷っているうちに手元に来てしまった。
こういうのを杞憂と言うのだろう。読んでみたら、もう面白くて最後まで読んでしまわないと眠れない、久々に読書の楽しみを実感した。

作者がこの本を書いたのはとても勇気がある。驚いたのは隅々まで読み込んで、原作(前作)のポイントは必ず抑えてある。その上で新しい展開をたっぷり読ませてくれる。なんといっても事件の13年後。あの事件は解決済みで犯人に審判もくだり、関係者もそれぞれの生活に戻っている。そこからどうなったか。

三男のイワンは事件のときにはモスクワに発っていた。だが大審判の折には父フョードルを殺害したのは長男のドーミートリー(ミーチャ)だという判決を受けいれていた。法廷で人格を疑われるほど錯乱し暴言を吐いたことも今では「忘れられていった。
頭脳明晰だったイワンは内務省に勤め、未解決事件の特別捜査官になっている。

その後も頭痛と幻覚、記憶が途切れるという症状に悩まされ、原因は心の深いところにある何かのストレスだろう、時々現れる謎の記憶の断片も繋がりがあるのかも知れないと、うすうす自覚はしている。
次の調査地はを13年前の「カラマーゾフ事件」にして、故郷(スコトプリゴニエスク、、わたしはここが一口にいえないので故郷とする;;)に帰ってきた。
そこには以前オデッサの事件の折の通訳、トロヤノフスキーが来ていた。彼はイワンが調べ始めた「カラマーゾフ事件」に深い関心を持っていたし、心理学者として、イワンの症状にも関心があった。

そして、過去の事件を現代の捜査法に照らして、謎を解いていく。
当時この事件のゴシップで仕事を増やし、名士になってしまっているラキーチンもいた。予審判事ネリュードフ。そして今も天使のような弟、アレクセイ(アリョーシャ)は結婚して故郷に残り、教会の仕事をしながら子供たちの育成につとめ、人々から尊敬されている。

事件の発端から、13年前の時間を掘り起こし、イワンの心の底に沈んでいる出来事から、長兄ドミートリー(ミーシャ)の冤罪が姿を現してくる。しかし彼はイワンの努力で20年の刑が減刑され13年になったのだが、シベリアの過酷な生活で亡くなっていた。

悪の分身のような私生児で異母兄弟のスメルジャコフは裁判の前日に自殺していた。

順調に調査が進んでいるとき、ラキーチンと、ネリュードフが撲殺される。凶器は父親フョードルのときのもに酷似していた。

イワンは、頭痛が酷くなり時々人格が分離する、そして自覚がないままに悪魔的人格に変異する。「悪魔だ」と名乗りそばにいるトロヤノフスキーに語りかける。
一度は幼い少女の人格が出た。
以前の大審判の暴言も、他人格が現れて暴れたのではなかっただろうか、イワンは思い乱れていく。

記憶にないが思い出すと嫌悪感が溢れてくる遠い領地、そんな中でイワンは譲られた土地を見に行く。そこには領主用の家もあったが何の記憶もなく、やはり過去には別人格が来ていたらしい。村人は彼を見知っていて、そのときの出来事を思い出し始める。当時そこには母も生まれたばかりの妹も兄弟もいて、すぐに亡くなってしまった妹の葬儀をして教会の墓に埋めていた。その妹も彼の記憶の底の底に眠っていた。

それは彼の多重人格の証明であり、今も頭痛になって現れる根源的なストレスの痕跡だった。

こうして過去に戻り、資料に当たり、事件当時見逃していた時間のずれを発見する。

そして。当時兄弟が全員で憎み、誰が殺してもおかしくない状態の中で、父親の撲殺時間に時間的にかなう人物が浮かび上がる。


原点を読み込んでミステリにした、そもそもの原点の読み込みがすばらしい。作者の文章力にも脱帽する。

その上、アレクセイが、愛国思想の実現のために組政治犯の仲間に入り、ロケットや砲弾を作る地下組織で働く、電算機を使った速度や燃料消化に従う重量の変化や軌道演算の部分、計算上可能だと思われるロケット打ち上げ構想を実現しようとする、SF的部分も今風で面白い。

イワンがトロヤノフスキーと知り合うオデッサの事件には、イギリスからホームズも参加していたらしいという、ウフッとなるサービス記述もる。

面白かった。






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「スナーク狩り」 ルイス・キャロル 集英社

2014-12-06 | 読書

不思議で、愉快で、曖昧模糊、それでも文字を繋いで物語が出来る。不思議な面白い世界が広がって、トーベ・ヤンソンの挿絵と種村弘という訳者の言葉が踊る、そんな本だった。

一応、謎の怪物「スナーク」を探して真っ白な地図を持って船出する。乗組員の面々は

ベルマン・・・ 船長
靴磨き
帽子屋
弁護士・・・・紛争を処理するために
ブローカー・・財産査定のために
ビリヤード・マーカー・・・凄腕の彼は仲間の分け前をちょろまかさんと
銀行家・・・ところが、がっちり現金を管理していた
ビーバー・・・愛らしい姿でレース編みが上手 何度も難破船を救ったが方法は誰も要らない
肉屋・・・底抜けの阿呆に見えるが 念願は「スナーク」
パン屋・・・実は名無し 作れるのはウェディングケーキだけ

目次

第1の歌 上陸
「スナーク」のいそうな場所だ。

第2の歌 ベルマンの演説
 見渡せば底は険しい岩山ばかり、みんなに酒を振舞って、世にも奇妙なスナークのこと。例外があってプージャム、といったら途端に」パン屋が気絶した

第3の歌 パン屋の物語

伯父が言ったスナークの狩り方、であったスナークがプージャムだったらお前の詩型は消えうせて(確信してます)あとかたもなく・・・

第4の歌  狩り 
パン屋の狩り方で、みんなはそれぞれ支度した

第5の歌  ビーバーの学習
 仲の悪い肉屋とビーバーが谷間で一緒になった。甲高い叫び声「ジャブジャブの声だー」肉屋はジャブジャブについて書いて計算もした。
 ビーバーと肉屋は友情で結ばれた。冬でも夏でも変わりなくまるで二人で一人のようだ。ジャブジャブの歌が心に残り 永久の絆の解けることなし

第6の歌  弁護士の夢

 豚小屋から脱走した豚をスナークが弁護した。起訴の内容は不明、判事の代わりに事件をまとめ判決も下した。「終身追放!」しかし「豚はとっくに死んでしまった」みんなは怒鳴り、スナークも怒鳴り続け、それで弁護士は目が覚めた。
 

第7の歌  銀行家の運命
 バンダースナッチに襲われた。激しくつつかれ銀行家は失神した。一同が駆けつけた時,舌はれろれろ。一対の骨をからから打ち鳴らすだけ。
「置き去りにして急ごう」ベルマンは言った。
 

第8の歌  消えちゃった
 日が暮れてきた。「名無しが何か叫んでる」「狂ったように叫んでる」パン屋こと名無しの英雄が崖っぷちで叫んでる。狂ったように谷底に飛び込んだ。
「スナークだ!」声が聞こえ次に「ブー・・・・」次に「・・・ジャム」と聞こえたと。
狩りを続けたが、そよ風が吹きすぎパン屋がスナークとあった証拠も見つからなくて。音もなくいきなりパン屋はきえちゃった。そうスナークはプージャムだった。



そんな備忘録よりも、なんと面白い、めちゃくちゃそうでおかしくて、スナーク探しの筋道はなんとなくわかってくる。トーベ・ヤンソンの絵を見ても、恐ろしいしょうな可笑しいような、不思議な不思議な物語。読んで味を確かめれば、忘れられないような節回しで、繰り返す言葉が頭に残る。

種村さんが苦心した古歌、長歌の七五調に乗って珍しい世界が広がった。





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「100万回生きたねこ」 佐野洋子 講談社

2014-12-05 | 読書



この絵本は、沢山の人に読まれていることを知りませんでした。読んでみて、これは読む人の年代や経験などで、様々な感想があるのもわかりました。
トラ猫は100万回生まれて、時には王さまに飼われ、船乗り、サーカスの手品つかい、泥棒には利用され、おばあさん、小さな女の子に可愛がられました。
でもいつも飼い主が大嫌いでした。

なぜだろう、ねこは大嫌いな飼い主に可愛がられながらも、思いがけない悲惨な死に方をしました、唯一自然に死んだのはおばあさんの膝の上でしたがこのおばあさんも嫌いでした。飼い主はねこの死を悲しんで泣きました。でも猫は生まれ変わっても、また飼われて死んだのです、生まれても生まれても大嫌いな飼い主に出会いました、ねこはただ可愛がられるだけというのは望んでいませんでした。

この話は何度も生まれ変わって、飼い主からどんなに愛されていても、満足できない、やはり愛することを知らないと生きたことにはならないという話でした。

ねこは100万回生まれ変わって、いやな世の中で好きでもない人に可愛がられ、庇護され、かごに入れられ、負ぶわれ、膝の上で一生を終えました、悲惨な死を迎えたこともたびたびあります。生まれた数だけあります。死が悲惨であっても、飼い主は大切に埋葬して悲しんでくれました、それでもまた生まれ変わって望まない一生を送りました。

満足し納得できる、望むような生きかたではなかった。いくら生まれ変わっても可愛がられ、保護される境遇から抜け出ることが出来ませんでした。

やっと、野良ねこに生まれ変わって、自由を手に入れました。いくら雌ねこが寄ってきても、もう彼は自由に生きることを選び、自分が自分である誇り高い矜持をもっていました、どんな愛も受け入れることはもうなかったのです。白猫にめぐり合って可愛がられるだけの仮の姿ではない本物の自分を見つけました。白猫とともに一緒を終え、もう生まれ変わることはありませんでした

どんな環境に生まれても、選択できる人生が広く開いていても、わずかな隙間しかなくても、自分の生き方は自分で選び、与えられた命を全うする、そういう生き方が自分も回りもともに愛することだと猫を通して感じました。可愛がることと愛することは本質が全く違うことだったのです。





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「不祥事」 池井戸潤 講談社文庫

2014-12-04 | 読書


ドラマにもなった花咲舞が活躍する。読後感のいい愉快な連作短編集。
舞台はやはり銀行。
納得できないことには、真正面からぶつかっていく、男気があるといえば聞こえはいいが女性、それも綺麗な人らしい、狂咲とあだ名されるように、時には口でわからない相手には平手で殴りつける、「よくやった」と声を掛けたくなるシーンもある。

「激戦区」
自由が丘支店。他行に負けている付けを人件費で埋めようとして、ベテラン女子行員をいじめてやめさせていた。舞は銀行不振の原因を突き止めて、上司と対峙する。

「三番窓口」
一億円を入金した途端に他行で出金するが、振込みは中止として金を持ち帰る、という詐欺計画をたてた。だが振り込みに使った三番窓口には新人に変わって花咲がいた。

「腐魚」
新宿支店、大手得意先のオーナーの息子が融資課にいた。親元をかさにきた非人情なやり口に花咲のビンタが飛んだ。

「主任検査官」
武蔵小杉店に突然金融庁の審査が入った。まずい書類を隠せ!! だが内部の誰かがリークしていた。凄腕の青田主任検査官は余裕たっぷりに地下にあったダンボールを探し出す、だが「まだあるはずだ!」青田は女子ロッカーを開けさせる。さて花咲舞の振り開けたこぶしは? いやぁスカットした。

「荒磯の子」
胡散臭い風体だが、お得意様の武内、彼は「荒磯の子」と言う子ども会の世話をする慈善事業家だと言われていた。
しかし、花咲はその入出金になぜかひっかる思いがあった。支店長の慇懃ぶりにまで不安を覚える。今度は支店長を怒鳴りつけて危機を救う、なんとも気持ちが良い(^∇^)

「過払い」
窓口の支払いがすんだ。だが残高計算が100万円合わない。恥を忍んで目指すお得意様に確かめに行き、怒鳴られて帰ってきた。
しかし、あのお客の、あのときに過払いしたのに違いない。そこで花咲の推理が見事に真相を突き止める。

「彼岸花」
エリートーコースを順調に歩き始めていた行員が、当時の噂では苛められ閑職に追いやられ、はては退職したと言う。ある日彼岸花の花束が送られてきた。宛名は過去に出世競争に勝ち残ったと言う上司だった。つき返すのも後味が悪いし銀行のマナーにも反する、そこで当時のことを調べてみる。送り主は自殺していたが、どうも妻が送ったらしい。妻は銀行のパートの仕事をしていた。花咲は一言声を掛ける。

「不祥事」
大得意の給与を記録した光ディスクが紛失してしまった。空前の不祥事に顔色をなくす。9千人分の給与支払いが遅れてしまう。本格ミステリを掠めるような捜査が面白い。


硬い印象の銀行にもミスはある。それを解決する花咲の正道を通すやり方に、快哉を叫びそうになる、面白かった。





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「八朔の月 みをつくし料理帳」 高田郁 ハルキ文庫

2014-12-02 | 読書


年末に近くなると、何かと雑用で出かけることが多く、読書の時間がなくなった。読みかけの厚めの本が三冊あるが置いておいて、この読みやすい本を読んだ。増える一方の積読を減らしてさっぱりしたい。大急ぎでメモをする。

上方で水害に会い両親を失った「澪」は天満の料理屋の夫婦に助けられる。味覚の優れた澪は調理場を任されるようになるが、火事で店が焼け、主人の息子が江戸で店を出しているのを頼って神田に落ち着く、が頼りにしていた肝心の息子は行方が知れなくなっていた。気落ちした主人が亡くなり、女将だった芳と二人暮らしになる。

近くの荒れた稲荷の世話をしていて、蕎麦屋「つる屋」の主人と知り合う。亡くした娘(つる)の面差しに似た澪が気に入り店の手伝いをさせる。
澪はそばだけでなく、上方の味を江戸風に作り変え、季節の料理も考えて「つる屋」を盛り立てていく。

店主の種市が腰を痛め、澪が代わりに店主を務めることになる。蕎麦うちが出来なくなった種市の店は、上方風の料理屋に衣替えをする。何か目玉商品がいる。そこで戻り鰹を混ぜた「はてなの飯」を考案、名前と味で評判をとる。その後同じような献立を作った噂の名店「登竜楼」に嫌がらせを受けながら、次々に新しい料理を作り出して、料理番付で「大関」に格付けされて評判になる。

何度も嫌がらせや災難に出会いながら、女将の芳を母親のように慕い、つる屋の主人を守りながら周りの人たちの暖かい人情に支えられて成長していく。稲荷神社で知り合った医師の源斎、味にうるさい浪人小松原も何かと力になる。

常に前向きで、純に素直に生き抜く澪を通して、暖かい人の生き方が、周りにも伝わる、読者までも引き込んで読ませる明るい話だった。

水害で生き別れになった幼馴染が、元気でいるらしい。そんな暖かい余韻が、次に続く物語を待つ気持ちになる。




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