ヴァランダー刑事に代わって主人公は、ボローズ署のステファン・リンドマン。
彼は舌癌に罹り、検査や治療のためにに入院することになっているが、それまで暫く休職している。
定年で引退した先輩が殺された。彼は北部の森の中で訪れる人も無い山奥に隠れるように住でいたが、リンドマンにはすでに過去の人になっていた。
訪ねてみると現場は凄惨で、無残に殺され、タンゴを踊ったような血に染まった足跡が残っていた。
地元警察の捜査とは別に、先輩の過去を追っているうちに、彼は次第に警察に協力することになる。
そして森の中でまた一人殺された。
二つの殺人に、つながりがあるのかないのか、手がかりを求めるうちに、次第に過去の出来事、戦争中のドイツとスウェーデンの関わり、などが明らかになっていく。
ここで犯人が登場する。彼は復讐のための警官殺しは成功したが、その隣人は殺してない。復讐はやむなしとしても、犯行は元警官を殺しただけ、二件目まで疑われるのは納得できない。
そこで犯人は、帰国を延期し、次の殺人犯を追うことにする。
この犯人の心理も巧くて面白い。
昔の出来事につながる糸が見つからない。警察は手詰まりになるが、次第に縺れた糸がほぐれてくる。
読みなれると、ストーリー展開に新味はないが、癌を恐れながらも事件に引きずり込まれる警官の心の揺れが細かく実感がある。
また管轄の違う警官同士の付き合いもなかなか味わい深くいい感じがする。
立場を競って、神経を削りあうような日本の警察小説とは肌合いが異なる。
タンゴを踊ることが好きだった孤独な警官になぜ人形を相手に踊らせたのか犯人(作者)の意図がなんとなく不明。
裏社会で密かにナチの精神を受け継ぐ人がいる。
当時はどうであったかわからないにしても、今になってはコントロールされたというわけでない、ドイツ近隣諸国にまで広がったナチスムがまだ生きていて題材になっていることに驚いた。
島国でない、多くの国々と国境を接する欧州の国には、同じ地球上に住みながらも人々の意識に大きな相違があることに、驚きを感じることも多い。
★3.5