僕らはみんな生きている♪

生きているから顔がある。花や葉っぱ、酒の肴と独り呑み、ぼっち飯料理、なんちゃって小説みたいなもの…

Give me more sweet…④

2018年07月13日 | ケータイ小説「パトスと…」

 

 

 

 

「これって耳がボワンとしないだろ?」
「あっ、そう言えばしなかったわ。スカイツリーの時は耳が変になった気がする」

「箱の中の気圧を調節してそうならなくしてあるんだってさ、
飛行機と同じ装置をつけた最新式のエレベーターで、まぁ実験用らしいけど」
「すごいのねぇ、もう着いちゃったのね、ほんとに速~い」


さっきと同じように3畳ほどの空間を抜けドアを開けると
2基のエレベーターホールがあり、その奥が店だった。
全体の照明が落としてあり、黒を基調にしたデザインの
シックで落ち着いた入り口になっている。

辰雄がドアボーイに小声でささやくと
ヘッドセットで連絡したのか、すぐに中から正装したボーイが現れ
お待ちしておりました、こちらへどうぞと丁重に礼をして
2人を窓際のカウンターへと案内する。


 

黒に点々と星座をあしらった装飾と控えめな照明が
窓から見える夜の都会に重なって映っている。

大理石の床は見事に磨き上げられ、これもウユニ湖の夕暮れ時のように
照明を反射し、店内のきらめきに一役買っているようだ。

ダークなワインレッドのカウンターは緩やかなカーブを描き
カーブの中心付近に小振りだがグランドピアノが置かれている。
ビロードのスツールはカウンターと同系色だ。


 

客がいようがいまいが関係ないというように
初老のピアニストがどこかで聞いたことのある曲を
ジャズアレンジで奏でている。

合わせているウッドベースはまだ学生なのではと思わせるほどの
若者で、まるで2人が親子のような印象だ。
ジャズトリオにありがちなドラムは無く、
2人だけなのも新鮮で、ベースの刻むリズムが引き立っている。


まだ店の中はまばらで、8つほどあるボックスシートに客は
一組だけだった。

辰雄はグラスを運ぶボーイに声をかけた。

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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Give me more sweet…③

2018年07月13日 | ケータイ小説「パトスと…」

 

 

 

 

辰雄は右手を挙げ店員を呼ぶと退席を告げた。

マネージャーらしき制服のスタッフに丁寧に見送られて
2人はエレベーターホールに向かった。


6台あるエレベーターのひとつは扉を開けて
客が乗り込むのを待っていたが、
辰雄は前を通り抜け STUFF ONLY と表示されている
一番奥のドアに進んだ。


ドアを開ける3畳ほどの空間があり、
右側にSTUFFと書いてある部屋のドア、
左側には何の表示もの無いエレベーターがあった。


辰雄が△マークを押すと5秒と待たないうちに
ポンッという柔らかい音がエレベーターの到着を告げた。
乗り込んだ辰雄は慣れた手つきで52階のボタンを押すと
留美子に向き直りすぐに言った。


「ここは初めてだったよね」
「ええ、初めてよ。」

「このビルは高層だけど4階から25階がオフィス、
その上がホテルなんだ。それぞれ別のエレベーターになってるけど
これだけは全階どこでも行けるし、それに速い」
「早い?」

「そう、お客を待たなくていいし、スピードは多分スカイツリーより速い」
「スカイツリーのエレベーターは乗ったことあるけど
表示される階数がすごかったわ」

 

エレベーターはドアを閉めた直後になめらかに動き始める。
最初にわずかに重力の変化を感じたが、その後は全く揺れることも無く
めまぐるしく変わり続けた階数表示は、最後の数秒で急にゆっくりとなり
目的階に静かに到着したことを告げた。

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

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Give me more sweet…②

2018年07月13日 | ケータイ小説「パトスと…」

 

 

 

 

「そうゆうものだって思っちゃっていいんじゃない。
 わざわざ不味いもの食べる事ないさ」
「そうね、そうする」

「素直だね、留美子さん。だから一緒に食べるの好きなんだ」


 

辰雄はワインを2人のグラスに注ぎ足し、
4分の1ほど残したボトルにコルクをきつく閉めた。


「今日はもういいの?ワイン」
「残りはお店のソムリエに分けてあげよう」

「ソムリエさんもお友だちなの?」
「いや、そうじゃないけど、ペトリュスはなかなか飲む機会が無いだろうから
勉強になるだろうと思ってさ。この店好きだし」


「そんなに高級なもの、私なんかが飲んじゃっていいのかしら」
「値段なんか知らなくて美味しいと思って飲んでくれる人が一番だって
ワインも思ってるよきっと」

 


 

「今日は私、いつもより沢山いただいちゃったみたい。ほんとに美味しくて」
「うん、留美子さんもワイン好きだものね」

 

 


「辰雄さんと初めて食事をご一緒した時のこと覚えてる?」
「もちろんさ。でもあの時よりずっと呑兵衛になっちゃったかな」

「やだっ、そう言われると恥ずかしいんだけど、
あの時はワインの飲み方も知らなかったし、緊張して味も分からなかったし」
「初々しい留美子さんも大好きですよ」


「まぁ、今は熟しちゃったってこと?」
「そんなこと無いけど、熟した留美子さんも多分大好きだと思う」


「ワインで乾杯した時、グラスの持ち方を教えていただいたわ」
「ボウルを持つのが正式だってこと?」

「そうなの。この持ち方にしてからワインが本当に美味しくなっちゃった」
「そう言えば最近は飲みっぷりがいいよね」


 

「気取らないでいいって言われても。このワイン何だかどきどきしちゃう」
「また美味しいもの食べに行こうね、今度何が食べたい?」

「そんなぁ、今美味しいもの食べたばっかりなのに。
考えられないわよ」
「それもそうか、確かに、料理に失礼かも知れなかったね。
じゃぁラウンジに行って留美子さんの欲しいものは何なのか
じっくり考えようか」

 

つづく

※画像はwebからお借りしたものです、問題がある場合は削除します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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