僕らはみんな生きている♪

生きているから顔がある。花や葉っぱ、酒の肴と独り呑み、ぼっち飯料理、なんちゃって小説みたいなもの…

ファミレスで泣く男

2012年08月18日 | ウォッチング
グラスの結露で濡れた指を拭こうと紙ナプキンに手を伸ばした時、向かい側の席に座るその男に気づいた。
男は泣いていた。本を読みながら泣いていた。

テーブルのコーヒーカップのすぐ横に置いた、たぶんその男のポケットに入っていたであろう縞模様で小さなタオルのハンカチに手をやると
左右の目尻を拭った。さっきからもう何度もそうしている。

まだ7時前のファミレスだからきっと近くにあるビジネスホテルの客に違いない。
そのビジネスホテルとこのファミレスは朝食の契約をしているようだ。
ウエイトレスが何人もの客に、
ホテルのお客様はこの中からお選びください、とカードを示しながらその都度笑顔で説明している。
男がその中からクラブサンドとヨーグルトのセットを選ぶのを偶然見たのだ。
その時自分もヨーグルトを頼めばよかったと思ったのでよく覚えている。

隣の席に新しい客が座る。
中年の婦人二人組だが、入り口を入った時からずっとしゃべり続けている。
ウエイトレスがすぐに水のグラスを運んでくる。
平均年齢の高いウエイトレスが多いこの店では若い方かも知れないその女は、
ただ今の時間はモーニングサービスであること、飲み物は別メニューにあること、用事があるときはボタンで呼ぶこと、
などを聞き取れないくらいに早口で説明し愛想笑いを一つしてから、立ち去る。
片足のストッキングが伝線しているのがいかにもこの女らしいと思った。
二人組は、説明を聞き取れたのかどうか、そんなことはお構いなしにしゃべり続けている。


男はページをめくるともう一度ハンカチに手を伸ばした。


ウエイトレスがコーヒーのお代わりを運んでくる。
一瞬顔を上げ、はにかんだような表情でうなづくと黙ってカップを差し出す。

何を読んでいるのだろう、本のタイトルがとても気になる。
男が夢中になって読み、朝から泣いているのだから相当なものだ。

本には書店のロゴ模様のカバーがかかっているので、男が時折持ち直す時にもタイトルは見えない。
購入したばかりのもののようでページをめくる度にしっかりと中央を押さえながら読み続けている。

しばらく見ているうちにどうしてもその本が何なのか知りたくなってきた。
いっそ直接聞いてしまおうかとも思ったが、初対面の男にいきなりはちょっと無理だろうか。

そんなことを考えていると男がショルダーバッグを手に取り立ち上がった。
帰るのではなく洗面所に行くようだ。本はテーブルに置いたままだ。

男が通路に消えるのを待ってから急いで立ち上がりさりげなく男のテーブルに近づいた。












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