暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

萩遊居の茶事へ

2016年02月02日 | 思い出の茶事
                    

18日に降った残雪が所々に見られる21日に茶事へ伺いました。

むらさき茶会でご案内をお願いした茶友Hさまのお招きでした。
横浜へ帰ってから初めての茶事のお招きだったので、心が飛び立つような思いです。
・・・同時に、先にお招きできずに申し訳なく思いながら、
総勢5名(Iさま、Kさま、Aさま、Oさま)で萩遊居へ押しかけました。

あたたかな香煎で冷えた体を温め、茶室・萩遊居へ席入です。
マンションの一室を改造した三畳台目の茶室ですが、創意工夫して作られていて、
伺うたびに発見があり、新たな感動を覚えます。

躙り口から席入すると、壁床に
「松 無古今色」、大亀老師筆が掛けられていました。
向切の炉に好ましい風情の釜が掛けられており、あとでお尋ねするのが楽しみです。

                    
                            藪椿 (季節の花300)

ご挨拶を交わし、初炭手前となりました。
釜は真形、般若勘渓造。
シンプルな形と釜肌ですが、深遠な思考の淵へいざなう趣きです。
炉縁へ近寄ると、一斉に感嘆の声が・・・「あっ!」「まぁ~!」「綺麗!」

ほの暗い炉中に今まさに咲き誇っている菊のように炭が明々と浮かびあがっています。
今までにこんなに美しい菊炭を見たことがあったでしょうか?
この一瞬に懸けたご亭主の心意気を感じながら、皆で魅入りました。
そして、私も今度の聴雪の茶会でこの一瞬を大事にしよう・・・と良き刺激を頂戴したのです。

久しぶりに拝見する向切の炭手前が新鮮でした。
炭の置き方は本勝手と同じですが、炭の組み方は逆勝手、羽根(右羽)や香合の位置がいつもと違い、頭の中がパズル状態です。
最後に、御手製の白鳥の座箒がサラサラと舞い納め、一同またも垂涎のまなざしで見守りました。
布袋香合(大樋焼)を古帛紗に乗せて拝見させて頂きました。
練香は花暦(薫玉堂)です。

別室にて向付、点心と煮物椀、そしてカラスミ(絶品!)で一献、美味しく完食しました。
主菓子は「雪餅」(Hさま製)です。

                        
                             蕗の薹 (季節の花300)

後座へ席入すると、壁床にミズキと蜀江(椿)が竹一重切に生けられ、
大ぶりの釜から湯気が勢いよく立ち上り、濃茶への期待が膨らみます。
私(正客だった・・)のすぐ横で、茶碗、茶入などが整然と並べ清められ、
緑の抹茶が回し出され、茶が練られ、茶香が・・・。

その様子は自分が点前をしているような臨場感があり、亭主と客がとても近く、自ずと親しみが増すものでした。
その昔、台子から台目向切の点前へ移行していった様子が興味深く想像されます。
濃茶が出され、はっと我に返ります。
口に含むとまろやかな味と芳醇な香りが広がっていきました。
客五人でアツアツの濃茶と素晴らしい時空間を共有でき、言葉にならないくらい幸せでした。

続いて三種の干菓子で薄茶をワイワイ楽しみ、あっという間に幸せな時間が過ぎていきました。
居心地抜群の萩遊居にて完成度の高いHさまのおもてなしに感激し、今回も良き刺激をたくさん頂戴しました。
拙い正客ですが、気心の知れたご連客さまに助けられて一座建立でき、感無量です。 
Hさま、ご連客さま、ありがとうございます。これからも仲良くお付き合い下さいませ。

                                (明日は節分の日に


謝茶の送別茶事

2012年03月06日 | 思い出の茶事
3月3日、長屋門公園ひな祭り茶会のあとに、スタッフの一人Hさんが
ご自宅で送別茶事をしてくださいました。

「茶事形式で・・・」と伺っていましたが、茶会の後なので夕食と茶飲み会くらいに
考えていました(茶会だけで精一杯だったので・・・)。
ところが、本格的な茶事をしてくださり、びっくり!

居間を寄付と待合に上手に使い分け、待合の掛物は
「吾唯知足」 
今年2月に雪の龍安寺へ行ったときに出会った色紙だとか。
「足らずとも等身大の自分でがんばるぞ・・・」
と、ご亭主の意気込みが伝わってくるようでした

洗面所の蹲で身を清め、二階の茶室へ席入しました。
そこは7年前に改装された時にお招きを受けた、懐かしい茶室でした。
床には黄梅院太玄和尚の力強い筆で
「青松多寿色」
変わらぬ松の緑を讃える喜びを表わしていて、
不肖私の門出を祝って掛けてくださったのでした。

一人亭主で、懐石も全てをこなされました。
きっときっと何日にも前からあれこれ準備をされたことでしょう。
正午の茶事のように粛々と茶事が進んでいきました。
もちろん、懐石や準備の合間に私たち客三名(YさんとAkatsukiさん)は
すっかりくつろいでワインも進み、お話しを愉しませて頂きました・・・。

                 

ご亭主のHさんとはご近所で、私が茶道を再開した時にある教室で出会ったのです。
その後いろいろな茶事や茶会へお付き合い頂きましたが、
やっと茶事へ向きあってくださったご様子が何より嬉しいことでした。

「いつかお茶事にお招きしたい」と言われていたのですが、
このたび京都へ行くのでおねだりしたのが好かったのかしら?
懐石道具も今回を好機と考え、調えられたそうです。

後座の床で拝見した、扁壷に生けられた土佐水木とあけぼの椿が
春の喜びを、ご亭主のやさしさを物語っているようでした。
濃茶は伊藤園の万歴の昔が心をこめて煉られ、
美しい緑茶に「青松多寿色」を思いながら、美味しく頂戴しました。

どのお道具もご亭主の思いが込められていて、素敵でした。
「茶杓銘は謝茶、三玄院長谷川大真和尚作でございます。
 この茶杓銘に今日の気持ちを込めました・・・」

本当に、お茶の取り持つご縁、お茶の持つ不思議な力と育てあう友情など、
「謝茶」でございます。
お茶事をするお仲間が誕生して嬉しい限りです。
これからもお茶事に益々とりくんでくださいますように。

お疲れのところ、本当にありがとうございました!
また、茶事にてお目にかかりましょう・・・。

                        (間に合って良かった!)

      写真は、「青松」と「土佐水木」(季節の花300の提供)です。

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早春の柳逢庵の茶事

2012年03月01日 | 思い出の茶事
2月24日、茶友Tさんから柳逢庵の茶事へ招かれました。
当初8日の予定でしたが、ご家族全員がインフルエンザにかかり、
日程を延期して招いてくださいました。
茶事の延期がどんなに大変なことだったか・・・ありがたく感謝しています。

茶事のあれこれを書き始めましたが、何度書いても気に入らず、困りました。
Tさんに差し上げた礼状を少しだけアレンジして忘備録といたします。 
お読み頂けると嬉しいです・・・。

                                         
Tさまへ

今日は春の雨、一雨ごとに春色に包まれていきます。
先日の柳逢庵でのひと時を想い出し、余韻に浸っております・・・。
手厚いおもてなしの数々を頂戴し、誠にありがとうございました。

遠州好みを感じる広間の待合、お庭の腰掛待合、美味しい懐石など、
どれもこれも素晴らしいのですが、
脳裏から離れないのが柳逢庵(四畳向切)での濃茶のシーンでした。

向切の初炭手前から始まって、
仙叟好み柏釜(十二代寒雉作)との出合いのエピソード、
黒鉄の炉壇、香立つ蝋梅の炉縁、粋な風炉先窓から射し込む柔かな光、
そしてあっと驚く立礼席への変身など
ご亭主のお好みと茶室をつくられたMさまの力量に感心しながら
ご連客のKさま、Yさま、Hさまと、さまざまに愉しませて頂きました。

                      

後座になって張りつめた気色の中、濃茶点前をなさるお姿は
一幅の絵のようでございました・・・

台目床には白椿と紅梅が高取の花入へ生けられ、
柏釜から吹き上る湯気の動き、
小振りながら時とともに存在感が増す大樋の水指、
形と釉薬の景色が心惹かれる茶碗、
そして優しい色合いの間東の仕覆が脱がされ、朝鮮唐津の茶入が・・・

群青色の御召し物のご亭主が捌く紅の帛紗、
形、色、気・・・すべてが一体となって「妙」なる空間を感じました。

アツアツの濃茶が出され、無事に皆で回し飲むシアワセを噛みしめました。
金沢の御茶は、香高く甘みと苦味が程よく美味しゅうございました。

虎屋のうぐいす餅(最終販売日だとか・・)もさすが絶品ですね。
きなこを口の周りにいっぱいつけたままだったらしく、
中立で三客Yさまがやさしく拭いてくださいました・・・。
                   

「茶事は濃茶にあり」という先人の言葉が素直に心に響いてくる、
そんな茶事を体験することができました。 ありがとうございます。

いつも感心することですが、半東Hさまや水屋Tさまとのチームワークが
素晴らしく、うらやましく思いました。
故郷からお取り寄せの食材や自宅で丹精された旬の野菜が並ぶ懐石や
八寸(手づくりカラスミと自家製フキノトウ天ぷら)を舌鼓を打ちながら
賞味させて頂き、感謝申し上げます。 

京都の拙宅へも皆さまお揃いでいらして頂けたら、嬉しゅうございます。
天候不順の折、くれぐれもお体に気を付けてください。

   平成24年2月吉日         暁庵      


     雨上りいずこも優しき春の苑
          尾長鳥舞ふ茶事の朝かな    

      
      (写真は季節の花300の提供です)

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如月の茶事へ招かれて (3)

2012年02月25日 | 思い出の茶事
銅鑼の音色に気を引き締め、後座の席入です。

躙り口で覗うと、正面に花が浮かんでいます。
近づくと、福寿草が三つ、今大地から目覚めたように顔を出していました。
さきたま古墳の一つ、稲荷山近くに住むご友人からの早春の贈物です。

花入は信楽の蹲(うずくまる)、大きめの形といい、土の肌合いといい、
健気な福寿草にお似合いでした。
作者は杉本貞光さん、名前と顔が一致する数少ないお一人です。

点前座にまわると、高取の水指に仕覆を着た茶入(古瀬戸肩衝)が荘られ、
湯相もよく、はや濃茶が喫みたくなりました。
座が鎮まり、点前がはじまりました。
長年稽古を積まれてきたご亭主は春風駘蕩の風情で、濃茶を点ててくださいました。

とても美味しゅうございました。・・・が、茶銘を失念しました。
たしか柳桜園の・・・うーん! 思い出したら追記しますね。
前席で頂いた練きり「鶯」は塩瀬総本家製ですが、
林和靖の子孫が日本へ渡り、奈良で塩瀬饅頭の製法を伝えたというお話があり、
興味深く拝聴しました。
茶碗は今高麗の井戸茶碗、銘は「忘れ水」です。

後炭になり、炭手前で苦労した後なので、しっかり拝見させて頂きました。
炭斗が初炭と違っていて、唐物かしら?
釜が浄められ、濡れ釜の風情が一段と鉄肌の美しさを惹きたてています。

後炭が終わり、少しほっとして座が賑やかになり、
談笑しながら薄茶を二服、趣きの違う茶碗で頂きました。
ご亭主にご自服をして頂きたくって、お勧めしました。
干菓子も懐紙にとって差し上げ、自服前にとりわけ賞味して頂きました。
「自分で言うのもなんですが、とても美味しかったです!」
・・・お勧めして好かった。

              

ご亭主様の思い出が詰まったお道具を愉しみつつ拝見しました。
清々しい茶杓だけ、ご披露させていただきますね。
濃茶の茶杓は無節の白木でした。

東大寺二月堂お水取りの日、厳しい行を修めた練行衆は、
牛玉箱をくくりつけた牛玉杖を手にし、童子らの松明に照らされて、
満行の下堂をします。
牛玉杖は柳、それを削った茶杓を東大寺元管長より譲られたそうです。

柳の茶杓は、「素」を連想する、神々しいものでした。
銘は「好日」です。

こうして和やかに、如月好日の茶事が終わりました。
・・・正客としてご亭主の御心をしっかり受け止められたかは疑問ですが、
皆さまの温かく、さりげないフォーローに助けられ、
楽しく一座建立できましたことを感謝いたします。

京都への旅立ちの好い思い出になります。 ありがとうございました!
(ご連客さま、またいつか、ご亭主にお願いして、ご一緒したいですね!)
                                   


     荒川の春野に遊ぶうぐいすも 
          明日は何処を指して飛ぶらむ    暁庵
 

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        写真は、「福寿草」と「梅一輪」 (季節の花300提供です)


如月の茶事へ招かれて (2)

2012年02月23日 | 思い出の茶事
床の掛物をお尋ねすると
「林和靖(りんなせい)と梅の画と和歌(狂歌)が書かれていまして、
 小堀権十郎の手によるものでござます」

林和靖は中国・宗時代の詩人、
長く山中に隠棲し、梅を妻の如く愛で、鶴を子どもの如く可愛がった風流人
として知られています。

小堀権十郎(遠州の三男)の狂歌をお詠み上げ頂き、
しばし梅の花と香りを愛でる林和靖その人になってみました。
この画賛を遠州流の表装で仕立てられ、一文字と中回しは時代裂のようで、
一入のお心入れを感じました。

初炭が始まりました。
釜が上げられ、羽箒で掃かれ、炉縁へ寄って中を見ると、
湿し灰は乾き、下火にはジョウがついていて、先ほどの緊迫感のある景色と違い、
時の移ろいを映し出しています。 色即是空  空即是色 

初代畠春斎造の透木釜は、荒木村重由来の平蜘蛛写(・・と記憶?)。
羽根のゴツゴツした荒肌が魅力的で、古武士のような味わいのある釜は
私のお好みです。
炭が置かれ、香が焚かれ、香合の拝見をお願いしました。

マンションなので気密性が良すぎて、熱を敏感に察知して警報が鳴りだすそうで、
すぐに障子を開けてくださいました。
火伏の効果も狙って、透木釜を選んでくださったご亭主に感謝です。

                

香合は、鶴・・・でした。
首が細く、立っている優美な姿は、林和靖が愛でた鶴のイメージにぴったりです。
尾張藩お庭窯の御深井焼(おふけいやき)ですが、
一瞬、大阪・藤田美術館で見たデルフト窯のハクチョウが頭をよぎりました。

「すてきな鶴の香合がないかしら? と念じていたら、
 茶事の直前に偶然出会ったのです」 と、にっこりのご亭主。
こちらまで嬉しくなってしまいます。 香は松栄堂の加須美です。

                

懐石が運ばれた頃、ちょうどお腹が鳴り始めました。
プロにお願いしたという懐石は、品よく美しく美味しかったです。
アツアツの一文字の甘味、ご亭主手作りのなますがつぼつぼで出され、
貝と分葱の酢味噌和えが春を運んできて、シアワセでございました・・・。

ご亭主やご連客とお話ししながら時季のものを食し、酒を酌み交わす(呑めませんが・・)。
後座の濃茶への備えながら、いつも楽しく、主客の親しみが増していく貴重な時間です。
茶室を造る際に一札を入れたエピソード、雪の山形や茶所名古屋のお話し、
名席茶会の思い出などいろいろ伺えて、楽しゅうございました。

食するのを躊躇するような、かわいらしい鶯の練きり(赤坂の塩瀬総本家製)を頂戴しました。
鶯はまだ笹鳴きかしら?
長屋門公園・正午の茶事で鳴らしたウグイス笛を想いだしながら、中立しました。


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