蛍草(露草、月草とも) 真夏の花、凌霄花(ノウゼンカツラ)
(季節の花300 写真提供)
(つづき)
「薄茶を一服差し上げます」
小堀遠州流は武家茶道なので帛紗は右に着けています。
千鳥茶巾2枚と茶筅(裏千家と反対で持つ手が下で向うに入れます)、茶杓を仕組んだ茶碗2碗が重ねられ、薄器と共に運び出されました。
久しぶりに拝見する遠州流のお点前なのでNさんと食い入るように見つめます。建水を持つ手は右でした。
帛紗捌きも裏千家流とは違いますし、棗や茶杓の清め方も違うのが新鮮でした。
「清め方がとても丁寧ですね」とNさん。
茶筅通しでギャマンの水指から水が一杓汲まれ、氷が奏でる音が涼やかに響き渡りました。
柄杓で水を汲むたびに、ガラスと水と氷と柄杓の絶妙なハーモニーが静かな茶室に氷奏交響曲を奏でます。「次はどのような音かしら?」と耳をそばだてて楽しみました。
ちょうどその時、微風が線香の香りを運んできました・・・私には音楽大好きな音楽院さん(Yさんのご主人の戒名)が茶室へ入って来られて、奥さんの奏でる氷奏交響曲を一緒に聴いているような幻想を抱いたのです。
お菓子は2種、”鬼灯(ほおずき)”(練きりで石井製)と金団(きんとん、寿々木製)です。
茶碗に抹茶が入れられ、先ず少量の水で練るように混ぜ、それから水が足されて、今度はしっかり茶筅が振られました。2回に分けてしないと、だまが出来てしまうそうです。
薄茶は一保堂の「蓬莱の昔」(・・・だったと思う)、しっかりと点てられた薄茶は冷たく、のど越しが爽やかで、とてもまろやかなお味です。
「冷たくまろやかなお味でおいしゅうございます・・・」
ガラスだと思っていたお茶碗を手に取ると、薄手の玉(ぎょく)の茶碗でした。かざしてみると、薄緑色の中にたなびく雲のような模様が踊っていて、幻想的な空間が広がっていました。
Nさんはガラスの平茶碗、こちらもたっぷりと綺麗に点ててくださいました。
Nさんがお点前を交代して、Yさんと暁庵が一服ずつ頂戴しました。Nさんは初めての水点前だったみたいですが、とても美味しく上手に点ててくださいました。次に再びYさんがNさんにお代わりの一服を玉の茶碗で点てて、お仕舞となりました。(コロナ禍なので各服点です。お代わりの茶碗は水屋で洗い直して対応してくださいました)
お道具拝見のタイミングを教えて頂き、蓋置(金属の蟹)に柄杓を引いた時に拝見のお声掛けをしました。すると、柄杓を長板に添って横に置き直し、拝見の所作に移りました。
拝見物が出され、茶碗や建水が引かれてから、Yさんはガラスのピッチャー(花瓶?)のようなものを持ち出し、氷水が水指へ注がれました。
「氷が入っているので薬缶は使えず、いろいろ試行錯誤してこの水次に辿り着いたの・・・」説明するYさんの輝く笑顔がステキです。
薄器は竹製、河太郎のように蓋にへこみがあります。溜塗になっていて石川塗だそうです。
作者も銘もわからないという茶杓は形や景色が味わい深く、Yさんのお気に入りだというのも頷けます。
「お茶杓の本日のご銘は?」
「蛍草でございます」
蛍草は露草の別名で、他にも藍花(あいばな)、月草(つきくさ)とも呼ばれています。一日花ですが、束の間の命が愛おしく清楚な花です。
・・・こうして、水点前を堪能した茶会が終わりました。その後、リビングで少しお話をしてお暇しました。全部で1時間半くらいでしょうか・・・。
めくるめく夏の幻想に充たされた、素晴らしいひと時をありがとうございました!
「Yさん、お茶を心から楽しんでいらして、とてもステキなお歳のとり方をされていますね・・・」
茶会の途中でポツリとささやいたNさんの一言に大きく頷きながら、私もかくありたい・・・とつくづく思うのです。これからも仲良くお付き合いくださいまし。
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