暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

湧水を汲む

2010年07月31日 | 茶道楽
  道の辺の清水ながるる柳蔭
     しばしとてこそ立ちとまりつれ  西行法師

盛夏の候、連日お暑いですね。
頭の方が朦朧として稽古どころではありません・・・。
そんな時、一杯の名水が全身を潤してくれます。
西行法師の如く、しばしお立ち寄りくださり
山や里を流れる清水の話で涼んでいってください。

              

茶事に利用している湧水が神奈川県内に五ヶ所あり、
由来、味、天候、汲みに行く時間の有無によって
汲む場所を決めています。
10Lポリタンク2個と2Lペットボトル5本を車に積み、
首にタオルを巻いて、次のいずれかへ汲みに行ってます。

① 秦野市  弘法の清水 
   特徴・・・昭和60年環境省によって選定された「名水百選」の
        「秦野湧水群」(神奈川県)の一つ。
        弘法大師の由来あり、味もまろやかで美味しく、名水点によい。
        家から東名を使い片道1時間弱。

② 横浜市旭区矢指 一里山湧水 
   特徴・・・家から徒歩20分、車で5分と近くて便利。
        水道水よりましだが、金っ気(鉄分)があり、
        味は今ひとつで名水点には使えない。
        農家の直売棚があり、フキノトウ、筍、芋など
        旬の野菜が格安で入手できるのが楽しみ。

③ 厚木市 干無川湧水 
   特徴・・・車で一般道を片道1時間、味はとても好いので名水点も可能。
        ガソリンスタンドのオーナーが復活させた地元の名物湧水。
        湧水を汲んだ時にはガソリンを入れるようにしている。

④ 丹沢 護摩屋敷の湧水 
   特徴・・・神奈川県が誇る名水の一つで、水質、味は良好。
        取水施設も完備し、いつも水汲み人が行列をなしている。
        ヤビツ峠近くにあり、家から東名を使っても車で片道2時間
        かかるのが難点。

⑤ 丹沢 清滝の湧水
   特徴・・・護摩屋敷のさらに奥にあり、湧出量が凄い。
        水質、味は良好だが、護摩屋敷と違い取水施設がないので、
        バケツ、ロートなどの準備が必要。濡れるのを覚悟で・・・。

               


あなたのお好みの名水、その由来やエピソードなど、
いつか茶事でお聞かせくださると嬉しいです・・・。
                             

         名水点(1)へ         名水点(2)へ

      写真は、「山の清水」 「岡トラノオ」
           「弘法の清水を汲む」です。

名水点 (2)

2010年07月28日 | 稽古忘備録
(つづき)
「まろやかなお味でございますが、どちらの・・」

「神奈川県秦野にあります「弘法の清水」でございます。
 昔、弘法大師がこの地を訪れた時、村の娘に水を所望したところ、
 遠くまで汲みに行ってなかなか戻らなかったそうです。
 そこで、弘法大師はお礼に持っている杖である場所をトンと突くと
 清水が湧き出したというお話が伝わっております」

「名水の由来を伺って、昔から大事にされている名水、
 弘法の清水を ご用意いただき感激しております。
 とても美味しく頂戴しました! ありがとうございます」

茶碗が返されると、取り込み、総礼します。
柄杓をとって構え、右ひざの袱紗を取り、釜の蓋を開けました。
湯を汲み、最初は小すすぎして、もう一度湯を汲み茶筅通しです。
あとはいつも通りで、濃茶を練り上げ、差し上げました。

             

名水点には名水(天然の湧水)が欠かせませんが、
名水の条件を私なりに考えてみました。

① 美味しいこと
  名水が主役なので、オイシイ名水を差し上げたいですよね。
  濃茶への期待感がますます高まるでしょうし・・・。
  水温15℃が美味しさを感じる適温なので
  名水を差し上げる時に15℃位になるよう心掛けています。

② 安全なこと
  安全性を考えると湧水を沸騰させてから冷まして使うことをお薦めします。
  沸騰させると、含まれている炭酸が抜けてしまうので
  清涼感は得られませんが、15℃に冷やしてカバーしてみてください。

③ 由来やエピソードのある名水
  問答があるので、由来や面白いエピソードがあるといいですね。
  ご亭主の特別な思い出なども大歓迎です。

  その土地で重要な役割を担ってきた湧水には弁財天が祀られたり、
  由来や伝説が語り継がれていることがよくあります。
  話の真偽は不明なことが多いのですが、
  大事な湧水を守っていくための先人の知恵と考えています。

名水点の稽古をし、名水のことをあれこれ考えていたら、
封印中なのに茶事をしたくなってきました・・・困った病気です。

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    写真は、「睡蓮」と「弘法の清水」です。      
                                

名水点 (1)

2010年07月26日 | 稽古忘備録
盛夏ともなると、稽古でも涼しげな夏の点前が満載です。
先日の稽古で、Kさんは盆香合、葉蓋で洗い茶巾を、
私は、名水点、後炭、流し点を見て頂きました。

名水点は、名水(天然の湧水)を汲んできて
御茶を差し上げる点前で、濃茶でいたします。
名水であることを客へ示すために、木地の釣瓶の水指に
注連飾りをしておきます。
客方の心得としては、名水を用意してくださった亭主の心入れに感謝しつつ、
茶を飲む前に水または白湯を所望して名水そのものを味わいます。

稽古では先ず懐紙を使って御幣の作り方を教えて頂きました。
注連縄を釣瓶(水で湿しておく)にかけ左向こう角で男結びにし、
出来上がった御幣を前後に二つずつ、ハの字(左右対称)につけ、
さらに客付と勝手付に一つずつ、全部で六枚つけました。

              

柄杓を引いて総礼のあと、正客(Kさん)より
「名水をご用意いただいたようでございますが、
 お水を頂戴したいと思います」
と、名水の所望がありました。

亭主は受礼して、いつものように点前を始めます。
茶入、茶杓を清め、茶筅を出し、茶碗を少し引いてから
茶巾を釣瓶の蓋の左側手前に置きました。
帠紗を右ひざ横に仮置きし、釣瓶の蓋を開けました。

蓋の開け方は先ず右手で左側の蓋の向こうを手前に少し押して
手がかりを出します。次に手がかりを両手で持って
右側の蓋上に手前から沿うように重ね、手がかりを残して置きます。

名水を喫んでいただくために茶碗へ水を汲むと
先生からご指導がありました。
「教本ではそのまま差し上げますが、一度水を建水に捨てて
 もう一度汲んで差し上げてください。これは働きです・・・」

正客から名水についてお尋ねがありました。              
「まろやかなお味でございますが、名水はどちらの・・」

     (2)へつづく                               
                            
                              

木村茶道美術館 (2) 清風茶席

2010年07月23日 | 2010年の旅
待合の床に正岡子規の俳句が掛けられていました。
   夏帽や布起と者(は)されて濠に落つ

本席の床は、大綱和尚の和歌「暁鐘」です。
余白を生かすのは大綱和尚の得意とするところですが、
白と水色の掛け分けになっていて、右半分に和歌が書かれていました。

       暁鐘
   き可左りし事も阿りし可此こ路ハ
       寝佐めし天まつ暁乃可祢
   (聞かざりし事もありしかこの頃は 寝覚めして待つ暁の鐘)

つい、「私(暁庵)のための歌のようですね・・・」と申しましたら、
館長さんはにっこり笑っていました。
桂籠に斑入りススキ、半化粧、河原撫子が生けられ、
官休庵お好み桐木地蜂文香合が荘られていました。

               

席へ座ると、私たち二人のためにお点前が始まりました。
とても贅沢な気分でした。
ご亭主は表千家流の方のようで、素敵な着物を涼しげに着こなしています。
袱紗さばきのポンという音に、私も背筋が伸びる思いでした。

黒楽の馬盥にふっくらと裏流に点てられた薄茶は、
湯加減がほど良く、渇いていた喉が染み入るように潤い、
とても美味しく頂戴しました。
半分ほど頂くと、茶碗の見込みに楽の黄印が見えてきました。

「茶碗は黒楽の馬盥で、慶入作です。
 楽印が二ヶ所ありますので、それぞれ楽しんでください」
主人も小振りの三島茶碗で美味しそうに喫んでいます。

抹茶は小山園の吉祥、菓子は最上屋製の白山の里という練切で、
蕪のイメージだそうです。
あっという間に至福の時が過ぎていきました。

               

・・すると、ご亭主から
「会記の裏に替茶碗が書いてございます。
 ご希望があればお持ちしますので、どうぞご覧ください。」

  飴釉茶碗   九代大樋長左衛門
  青白磁茶碗  塚本快示(人間国宝)
この二碗の拝見をお願いしました。

飴釉は程良い大きさの薄づくりの茶碗で、意外な軽さに驚きました。
青白磁茶碗は青みがかかった白磁に近い茶碗で、
これも手にとって拝見できて嬉しい出会いでした。

口縁にへたの地紋がある茄子釜は大西浄林造、
水指は絵唐津、十三代中里太郎右衛門造です。
拝見に出された棗は内田宗寛の作で、時代を経た赤漆が
何ともいえない落ち着きと味わいがありました。

茶杓は、松浦鎮信の作で、共筒だそうです。
時代を経た風格のある茶杓は意外にも華奢な作りで、
平戸・鎮信流の風雅な茶室を思い出しました。

館長さんも唐津、有田、伊万里へ最近行かれたとのことで、
しばし茶道具や窯元めぐりの話に花が咲きました。

次のお客さまが大勢見えられたので、
「こちらへいらしたら、ぜひ又お寄りください」
という言葉に送られて、お暇しました。

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木村茶道美術館 (1)

2010年07月22日 | 2010年の旅
夏休みの旅行で、新潟、長野方面へ出かけました。
7月18日、柏崎市にある「木村茶道美術館」を訪ねました。

木村茶道美術館は昭和59年11月、柏崎市の松雲山荘内に
故木村寒香庵(かんこうあん)の篤志により開館されました。
寒香庵遺愛の書、絵画、茶道具などが主な収蔵品ですが、
各界からの茶道具の寄贈品もあり、さらに発展している美術館です。

実は「木村茶道美術館」は知る人ぞ知る美術館でして、
館蔵品の茶道具を実際に使用して、
席主が説明しながらお点前してくださる茶席(清風茶席)が
毎日楽しめるのが、最大の特長です。

これは木村寒香庵の
「使ってこそお道具であり、使わなければお道具が死んでしまいます」
との考えからだそうです。
それで今回、この茶席をとても楽しみに伺ったのでした。

                

長岡を出発して10時に着いたので、最初のお客さんでした。
館長さんが展示中の「寒香庵好展」と「掛物展」の説明を
丁寧にしてくださり、いろいろお話が弾みました。

お好み展らしく、寒香庵が考案した富士棚が目を惹きました。
下村観山が描いた富士山の絵を生かして特別に作らせたそうです。
他にも繊細で優雅な四方卓や冠卓があり、黒漆の艶やかさに魅せられました。

茶道具では、黒楽茶碗 常慶作 銘「常盤」や
古帖佐 小服茶碗が印象に残りました。
慶長の役で薩摩の島津義弘が朝鮮から連れ帰った陶工が
帖佐村(現・鹿児島県姶良市)で焼物を始めた事から、
その当時のものを古帖佐焼と呼ぶそうです。

                

「掛物展」では、
書に興味を持ち始めた主人のお気に入りが二つありました。
一つは加賀千代女の鶯の画賛です。
字も美しく、鶯が今にも飛び立ちそうに描かれていました。
えーと、俳句は・・・メモするのを忘れました・・。
もう一つは、魯山人が良寛の書と共に絶賛したという
副島種臣が書いた「龍」の一字です。

私は松花堂筆の布袋の画賛がお気に入りです。
余白、墨の濃淡の表現が枯淡の味わいです。
布袋らしくない修行僧のような布袋さまでした。

館長さんに案内されて、お待ちかねの清風茶席へ向いました。

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   写真は、「木村茶道美術館入り口」、「松雲山荘の東屋」、
        「茶席の花」です。