暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

秋待つ撫子の茶事-3

2014年08月27日 | 茶事  京都編
                茶籠一式を拝見に出したところです

御茶一服差し上げたく・・・茶事のクライマックスの濃茶、
亭主は美味しい濃茶を点てるべく、精神を集中させます。

何とも言えぬ緊張感を感じ、または緊張感をより高めながら、
帛紗捌きをします・・濃茶で一番好きな時間であり、清めの所作です。
一瞬、時が留まるような感覚を覚えたり、
時に「南無大師遍照金剛」と心中で唱えながら、四方捌きをし
心を平かにして、茶入を清めます。

濃茶をたっぷり茶碗へ回し入れ、湯を汲み、濃茶を練りました。
薫りが立ち昇る中、濃すぎず、薄すぎず、美味しくと念じながら・・・。

「香り佳く、練り加減も好く、美味しゅうございます」とお客さま。
いつもそのお言葉に安堵します。
茶銘は「長松の昔」、柳桜園詰です。

茶碗は高麗御本暦手、
茶入はガラス製なで肩で岩田久利作、仕覆は銀色の網袋、
茶杓銘は「秋の夕風」、後藤瑞巌和尚作です。

            
                草花文の水指は銘「黙坐」
                揖保川焼の池川みどり作です

              
干菓子を運び出し、茶籠の点前で薄茶を差し上げました。
撫子絵の盆に茶籠をのせて正面に運び出し、次いで替薄器と替茶碗を持って
建水の下へ仮置きしました。
最後に建水を運び、柄杓を構え、蓋置を出し、柄杓を置き、居前を正します。

茶籠の紐を一つ解き、御所籠の扱いのように前で結び直し、
盆を持って斜め客付へ置きます。
茶籠を勝手付に置き、蓋を盆と茶籠の間に置きました。
あとは茶箱の花点前と同様で、帛紗を捌き、盆を清めます。

薄茶を茶碗に適量入れ、湯を汲み、茶筅を振りましたが、
小さな筒茶碗なので、なかなかいつものように点ちません。
「月に叢雲」のような風情(?)の薄茶をお出しすると、
「あらっ、表千家流ですね・・・美味しいです」とお客さまのフォーロー。

筒型の茶碗で一服ずつ飲んで頂いてから、茶碗と薄器を替え、
茶筅も普通サイズにして、裏千家流の泡立っている薄茶を差し上げました。
茶銘は「丹頂の昔」、一保堂詰、
干菓子は、「貴船菊」(田丸彌)、団扇(幸楽屋)などです。

今回は、京都へ連れてきたのに一度も使う機会のなかった茶籠
どうしても使いたかったのです。
変則ですが、表千家流のお客さまに拝見しやすいよう、
撫子絵の盆に茶入、茶杓を清めて並べ、横に二つ折りの帛紗を敷き、
茶筅筒、茶巾筒、仕覆を並べ、拝見して頂きました。

              
                     (茶籠に裂を貼りました

茶籠の茶道具は豊楽焼
織部釉の陶器ですが、外側に漆が塗られ、菊絵が描かれています。
やっとお披露目が叶い、茶籠の道具たちもさぞや喜んでいることでしょう!

そんな話をしましたら、正客Aさまが
「私も以前、頂いたきり使っていなかった茶道具を総動員して
 茶会をしたことがあります。
 茶会の後、道具たちから「アリガトウ!」という声が聞こえたの・・・」
とても不思議だけれど、わかる気がして頷きました。 

こうして・・・愉しく心温まる時間が過ぎていきました。
次客のSさまを少しは元気づけられたかしら?

お茶をやっているからこそ、
素敵な茶友に出逢え、癒しや活力を与え、頂戴もする、
そんなお茶の力を大いに感じられた、秋待つ撫子の茶事でした。

                                   

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追記
お正客Aさまから和歌が寄せられましたので、ご披露いたします。

時々に、あのお茶事を思い出しては、未だに胸を熱くしております。
和歌、少し変更したものと、付け足しがございますので、お送りします。
笑ってやってくださいませ。


   灼熱の都大路を茶席へといざなふごとく赤蜻蛉飛ぶ

   辰年の客三名の席入を浄めくるるか竜の蹲

   去りては来 来ては去りぬのそのままに闇夜を侵し暁の来る

   一生のただ三年(みとせ)とて千年の 都に暮らす人羨みて



秋待つ撫子の茶事-2

2014年08月26日 | 茶事  京都編

銅鑼を5つ打って後座の席入をお知らせしました。
後座は花所望から始まりました。

茶事の前日、花屋さん(花長フローリスト)へ寄ると珍しくお休みでした。
お盆で忙しかったのだからお休みはもっともですが、
「河原撫子」を当てにしていたので・・・ガックリ。
でもまだ余裕があり、我が家の木槿を使おう・・・と。

             
                 毎朝、咲いている庭の木槿が・・・

ところが、翌朝、木槿が1つも咲いていません。
もう慌てて、お隣の庵主様にSOSしました。
「・・・宗旦木槿と祇園守りを一枝ずつ分けていただけませんか?」
すると、
「ちょっと待っておくれやす・・・」
しばらく待っていると、両手にあまるほど花を抱えて
「丁度、二度咲きの花が咲いていたので、お茶事に使っておくれやす」
「えっ!こんなにたくさん・・・あっ、ありがとうございます!」

それで急遽、花所望とし、お客さま3人に活けて頂きました。

       

Aさまが祇園守りを手にすると、中央の尺八へ。

Sさまは釣り花入に挑戦、いろいろ迷いながら楽しんでいましたが、
ブルーの久多菊(北山友禅菊とも)、白シモツケ、突抜き忍冬を入れました。
この釣り花入は白洲正子さん愛用の写しです。

Kさまは有馬籠に、矢筈ススキをダイナミックに使い、花トラノオ、久多菊、
白リンドウ、小海老草、祇園守りを入れました。

茶道口から床前へ廻ると、庵主様が丹精した花たちがイキイキと活けられて、
茶室は秋の風情でいっぱいです。

             

「撫子」の花言葉は、「純愛、無邪気、貞節、思慕、女性の美」など、
女性的なイメージですが、他に「大胆、才能、快活」もあるそうです。

3人のお客さまには「才能、大胆、活発」がお似合いのようにも、
また「純愛、無邪気、貞節」もぴったりのようにも思われて、
しばし花の話題が飛び交いました。
そして、花の力で心なごみ、元気をもらった気がします。

釜の煮えがついてきたので、茶入を水指前に置き、
花台を引いて茶道口で挨拶し、戸を閉めました。
心を引き締め、いよいよ濃茶です。
                                   

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秋待つ撫子の茶事-1

2014年08月25日 | 茶事  京都編
                 「野辺に咲く撫子」  (季節の花300)

野辺見れば 撫子の花 咲きにけり
    わが待つ秋は 近づくらしも     (万葉集)



8月20日、茶友3名さまを「秋待つ撫子の茶事」へお招きしました。

ひたすら夏の暑さに耐えて、秋の涼風を待っていた撫子たち、
茶事の間だけでも浮世の諸々を離れ、主客の心が通い合うよう務めたい・・・
とお待ちしました。

正客Aさま、京都へ越して初めて参加した茶会の席主さんで、
心意気ある茶会が忘れられず、その時以来あこがれていた方です。
遠方のため前泊して涼やかな着物でお出ましくださり、感激しました。

次客のSさま、京都へ来てすぐに自宅へお招きくださり、
思い出すと胸キュンとなる、素晴らしい茶会をしてくださった方です。
身内に思いがけない不幸があり、何とか茶事で皆と元気づけたい!
とお招きしました。

詰はKさま、Kさまの茶会が大好きで何度も押しかけていますが
「もう一度、灑雪庵の茶事へ・・」とリクエストがあり、2年ぶりの再来です。
Kさまの打つ板木の音で、「秋待つ撫子の茶事」がスタートです。

              

「去々来々来々去々」
のお軸を床に掛けました。足立泰道老師の御筆です。

「去れば来る 来れば去る」
万物に通ずる含蓄ある言葉ですが、
「去っていった」としても「来てくれた」喜びがあり、
「来た」と喜んでも、いつか「去っていく」
・・・それを心静かに受け入れる境地とでもいうのでしょうか。

              
                    「静中成友  塵裏倫閑」
先ずは香盆を用意しました。
一休宗純作と伝える、香の十徳より
 感格鬼神  清浄身心 (霊魂や神と感応をし、心や身体を清める)
 静中成友  塵裏倫閑 (静中に真の友を得、世俗の繁忙の中に憩いが見つかる)
 ・・・を願って香を焚き、聞いていただきました。

香炉の灰は菱灰、同門社中のWさまから頂戴した手づくりの菱灰です。
火持ちが良いとのことで、火加減が難しい香炉灰に使ってみました。
赤味のある菱灰が香炉釉に映えて、うっとり・・・。
香は伽羅、香銘は冒頭の和歌より「秋待つ撫子」、
心を満たすように漂う、優しい香りを深々と味わいました。

              
                   赤味が美しい菱灰 by Wさん

次は懐石ですが、夏の献立で前回とほぼ同じです

初炭となり、松山籠の炭斗、次いで灰器を運び出しました。
下火を直すと、輪胴をいれなかったせいか、もうギリギリでした(ふぅ~!)。
後座では濃茶に続いて茶籠で薄茶を差し上げる予定なので
変則ですが、釜を引いてカンを置き、風炉中拝見をして頂きました。

灰器は琉球焼、灰匙はステンレスの打ち出し・・・こちらも所望があり、
引かずに風炉中と一緒に拝見して頂きました。
香合は檜扇貝、中村湖彩作、
京都で一度も使っていなかったので、これに決めました。
香は白檀(松栄堂製)です。

縁高を運び出し、中立をお願いしました。
主菓子は「西湖(せいこ)」和久傳製、しっかり冷やしてお出ししました。

                                    その日は 
 
            秋待つ撫子の茶事-2へつづく


行く夏  2014年大文字

2014年08月18日 | 京暮らし 年中行事
                  NTTビル屋上からの「大文字」

「五山の送り火で夏も終わり・・・」
と京都のお人はよく言わはります。

今年のお盆は天候不順でした。
「大雨でもするの?」
「あの雨の中を松明を運び、積み上げたのかしら?」
担当者のご苦労を思いながら、実行されるのか、直前まで心配でした。
前日からの時間雨量数十ミリ(最高83ミリ)の豪雨が夕方までにあがり、
どうやら五山の送り火ができそうです。

  
               東大路の北に初めて「妙」を見ました

今年は吉田山の山頂広場ではなく、NTTビルの屋上から初めての見物です。
毎年、NTTでは五山の送り火を見るために
ご近所さんへビルの屋上を開放していたのですが、諸事情で今年が最後とか・・。

最初こそ見物人が少なかったものの、点火時間の8時頃には
ものすごい人が集まりました。数百人はいたと思います。
NTT職員の方が総出で、安全確認や説明に対応してくださいました。

              
                    「大文字」の火勢が増して

8時に如意ケ嶽の「大文字」が点火されました。
煙が上がって燃えにくそうでしたが、みるみる火勢が増し、
見事な「大」の文字がくっきりと浮かび上がり、思わず手を合わせました。

京都在住のMさんからお盆のことを次のように伺っていたからです。
「子どもの頃からの習わしで、盆の入りには六道の辻にある六道珍皇寺へ行き、
「迎え鐘」を撞いてお精霊さんをお迎えします。
 仏前には蓮の葉を敷き、果物や盆菓子などを並べ、お接待します。
 盆中にお寺さんが来てくださり、お経をあげてくださいます。
 16日夜には「五山の送り火」で京都中が一つになって、お送りするんです」

                            

「五山の送り火」は8時の大文字を先頭に、約5分おきに点火されていきます。

「妙」と「法」の「妙」(松ヶ崎西山・万灯籠山)だけが東大路の北方に見えましたが、
「法」(東山・大黒天山)は建物の陰で残念見えません。

次は「船形」(西賀茂船山)、これも船の上の方が少し見えただけでした。
次に「左大文字」(金閣寺大北山(大文字山))が西の方にくっきりと見え、
合計4つの送り火が見え、盆送りのクライマックスでしょうか。

             
               小さいですが「左大文字」がくっきりと

最後は「鳥居」(嵯峨曼荼羅山)なのですが、これは心の中で見ることにしましょう。

もう一度、「大文字」へ手を合わせ、お精霊さまを見送りました。

             
                   最後はいつもモノ悲しく・・・

京都で過ごす最後の夏が急ぎ足に行こうとしています・・・。

                                    


残暑の茶事支度  茶籠の点前

2014年08月15日 | 茶事  京都編
                夏の酷暑に耐え、秋待つ撫子の花
                    (季節の花300 写真提供)


   野辺見れば 撫子の花 咲きにけり
      わが待つ秋は 近づくらしも
    (万葉集 詠み人知らず)

撫子の如き茶友3名さまを8月の茶事にお招きしています。

7月と8月の茶事を避けていたのに・・と、我ながらびっくり!
出来るうちに・・という事情と、忙しいお客様のご都合の両方で、
残暑の茶事支度にあいなりました。

大山登山から帰り、急ぎ茶事のご案内をしたため投函すると、
やっと茶事モード(全開ではありませんが・・・)へ切り替わりました。
茶道具を取り合わせてみたり、懐石や和菓子の本をパラパラしたり、
茶事次第をシュミレーションしたり・・・亭主の楽しみを満喫しています。

              
                 郡上紬の着物裂で作った茶籠の仕覆

残暑厳しき折、茶籠点前で薄茶を差し上げたくなりました。

平和島骨董市で出合った茶籠・・・京都まで連れてきたのに
まだ一度も使っていませんでした。
茶籠に入っていた豊楽焼の茶道具に合わせて仕覆を作りましたし、
岩渕祐二さんにお願いした茶巾筒と茶筅筒の修理も完成しています。
やっと時節到来でしょうか。 

             
                  

・・・ところが、茶籠の点前に悪戦苦闘しています。

古びた小さな茶籠なので、茶箱のように器据えとして扱えませんし、
替茶碗や替茶器も使いたいのです。
茶箱の花点前を基本にして、あとは創意工夫することにしました。

一番悩んでいるのは、拝見の出し方でしょうか。
流派に関係なく、お客さまに拝見しやすいように・・・を目指しています。

今日は、宗偏流茶会にヒントを得て、拝見盆(水屋から長盆を持ち出す)に
茶籠以外すべて並べ、茶籠も添えて拝見に出してみました。
明日は、盆(最初に茶籠が乗っている)を拝見盆にしたらどうなるかしら?

あと数日、思考(試行)錯誤が続きそうです。