暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

長月・名水の茶事・・・(4)終章

2022年09月30日 | 社中の茶事(2018年~)

       (後炭では月形に藤灰を入れ、陰を弱めます)

つづき)

濃茶が終わり、後炭になりました。

後炭の風炉中を小堀遠州流のお客さまに見て頂くのがとても楽しみでした。

後炭では席中へ入らなかったので想像するだけですが、後炭で胴炭が割れたそうで「ヤッタネ!

後炭で釜を濡れ茶巾で浄めるのは小堀遠州流も同じでしたが、拭き方が違うように記憶しています。

そんな違いも興味深くご覧になったのではないかしら?

そうそう、もう一つ見どころがあります。後炭では火(陽)が衰えているので、初炭で「月形(陰)を切った」ところに灰匙で藤灰を入れて陰を弱めます(藤灰で白くなった月を鑑賞するのも後炭の楽しみです・・・)。

「おそれいりますが、薄茶は半東がお点て致します」とM氏がご挨拶しました。

半東T氏が干菓子を運び、薄茶点前が始まりました。

 

          (薄茶の点前座)

先ずは水指を茶道口建付けに置いて「薄茶を差し上げます」

水指は李朝刷毛目。李朝好きのお客様にはこれしかない!と、T氏と決めました。刷毛目の白い釉薬が剝がれかけていて、そこが気に入っています。その昔、刷毛目は稲わらに釉薬をたっぷり着けて描いたそうですが、そんな様子を連想させる水指です。お客さまが気に入ってくださったら嬉しいですね・・・。

半東T氏の端正なお点前で薄茶が美味しく点てられました。

薄茶は金輪(丸久小山園詰)、干菓子は銘「おりふしに」(仙台・森の香本舗)と、ふのやき「ひとひら」(美濃忠)です。ご亭主が今までの転勤先に因む美味しい干菓子を取り寄せました。      

薄茶席の主茶碗は魚屋(ととや 韓国・山清窯 ミン・ヨンギ造)、5年前に韓国の窯元をめぐる旅行で、日本で修行を重ねたという陶芸家ミン・ヨンギの作風と人柄に魅せられて購入したものです。各服点になって大きいので使えずにいましたが・・・やっと!

 

   (薄茶茶碗 銘「墨流し」 花房万紀子造)

次客さまの茶碗は銘「雨音」、三客さまは銘「墨流し」、四客さまは志野釉平茶碗、この3碗は全て花房万紀子造、斬新な中にも古典を感じる作風が魅力を放っています。

花房万紀子さんはニューヨークを中心に個展を開いている陶芸家だそうで、T氏がニューヨーク赴任の際にご縁があり求めたものとか・・・そんなお話を伺っていたら、三客SXさまが花房万紀子さんをご存じで、T氏もびっくりでした。

お詰TIHOさまの茶碗は伊羅保(飛井隆司造、小堀亮敬師(孤蓬庵)箱書)、伊羅保の渋く侘びた趣きがT氏のお好みのようです。

薄器はガラス製で蓋は錫製、ガラスの呼び継ぎが面白く、銘「暁」西中千人(にしなかゆきと)造です。

茶杓は濃茶と同じ、銘「閑日月」方谷浩明和尚作でした。

 

  (ガラスの薄茶器 銘「暁」・西中千人作、茶杓 銘「閑日月」・方谷浩明師)

 

薄茶がスムースに進行し、水屋で懐石の佐藤愛真さんとのんびりしていたら、お声が掛かり、薄茶席へ二人でお邪魔しました。

たっぷりの薄茶をT氏に点ててもらいながら、お客様、M氏、T氏、愛真さんと「閑日月」のひと時をご一緒させて頂き、嬉しかったです・・・。四客Yさま、お詰TIHOさまが佐藤愛真さんの懐石教室の生徒さんでもあり、愛真さんも嬉しそう・・・。

皆さま、本当にありがとうございます!

こうして「長月・名水の茶事」は無事に楽しく終了いたしました。

帰りにはすっかり雨が上がり、Yさま宅へ向かうお客さまをそっと見送りました。

 

追伸)

茶事のあれこれを思い出しながら書き留めていたら、ご亭主M氏からメールが届きました。

「体調不良になり特別稽古をお休みします・・・」とのこと、きっと茶事のお疲れがどっと出たのでは・・と案じています。

本当に渾身の、全身全霊の茶事でしたもの・・・感謝!感激!です。 

 

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長月・名水の茶事・・・(3)

2022年09月28日 | 社中の茶事(2018年~)

 

づき)

後座の席入は銅鑼でご案内しました。

  大・・・小・・大・・小・・中・中・・・大

雨が降り続いていたので、再び茶道口からの席入です。

        (吾亦紅、紫と薄紫の竜胆を竹一重切に)

後座の床には「四規七則」に代わり、花(吾亦紅、紫と薄紫の竜胆)を竹一重切に生けました。

前日に採取した白の芙蓉の蕾が朝には見事に咲いていたのですが、午後になると小さくしぼんでしまい使えません。急遽持ち寄った花からご亭主が3種選び、生けました(ふぅ~ 花がいつも一番ドキドキです)。

花入は半東T氏の自作です。茨城県古河市の竹林から自ら伐り出した竹から作ったそうで、産地に因んで「古河」と名付けています。

茶道口に座り、座が静まるのを待って、亭主は茶碗を持ち出し、濃茶点前(名水点)が始まりました。

名水点では濃茶を練る前に、客から名水所望があり、先ず名水を味わいます・・・もちろん、亭主から説明し名水をお勧めしました。

名水は「日本水(やまとみず)」、埼玉県大里郡寄居町風布地内に湧出している水で、その昔、日本武尊(ヤマトタケルノミコト)が東征の折、戦勝を祈願し御剣を岩壁に刺したところ、たちまち水が湧きだし、この伝説から「日本水」と呼ばれています。とても冷たく一杯しか飲めなかったとの伝説から「一杯水」とも言われています。

・・・それで、冷たい名水を各服点で味わっていただきましたが、いかがでしたでしょうか?

(「日本水(やまとみず)」の湧出地)

    (埼玉県大里郡寄居町風布地内にある「日本水」の水飲場)

ご亭主が先ず各服で濃茶を2碗、いつものように丁寧に練って、お正客・前田さまと次客・S氏へお出ししました。「お服加減はいかがでしょうか?」

各服点の仕方は盆を使ったりいろいろですが、暁庵の茶事では三客または四客さまからは各服で水屋で練ったものを半東がお出ししています。

濃茶は坐忘斎家元好みの「松花の昔」(丸久小山園詰)です。

       (主茶碗の御本三島)

 

濃茶の5つの茶碗は、ご亭主がお客さまのお好みなどを考えながら一つ一つ・・・選んだものです。

特にお正客・前田さまが李朝好きなので李朝時代の茶碗を2つ、お詰のTIHO様の茶碗は仙台藩の御用窯だった堤焼で、先の転勤先・仙台で出合ったご亭主の思い出のある茶碗です。

主茶碗は御本三島、次いで御本雲鶴(小堀篷雪(権十郎)の歌銘「玉帚(たまははぎ)」)、呉器(山岸久祐和尚 銘「 富久音」 加藤錦雄)、出雲焼 11代長岡空権、堤焼 4代針生乾馬)でした。

 

茶入は古高取写で11代 高取八仙造、仕覆は花鳥紋うんげん錦です。

この度の茶事が初使いと言う侘びた風情の茶杓は、銘「閑日月(かんじつげつ)」方谷浩明師作(紫野12代管長)です。

「のどかに穏やかな一日を皆で過ごしていただければ・・・」というご亭主の願いが込められていました。(つづく) 

 

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長月・名水の茶事・・・(2)

2022年09月26日 | 社中の茶事(2018年~)

 

つづき)

小堀遠州流のお客さまに炭手前についてどのようなお話をしたらよいか、迷いましたが、次の3つに絞りました。

〇 灰形・・・9種類の灰形と鱗灰を真行草に分け、裏千家では真は鱗灰のみ、行は二文字押切、丸灰押切、遠山灰など7種。草は二文字掻上灰、丸灰掻上、藁灰の3種です(茶道大辞典より)。その日の灰形は二文字押切、一番よく使う灰形でした。

〇 炭・・・炭は風炉なので、風炉中に胴炭、丸ギッチョ、割りギッチョ、丸管、白い枝炭、点炭が入っています。炭の大きさや種類、継ぎ方が小堀遠州流とは全く違うので、実際の風炉中を拝見して流儀による違いを見て欲しいです。

〇 「月形に切る」・・・灰器を持ちだし、中掃きの後に灰匙で風炉灰正面の前側の灰を軽く掬い取ることを「月形に切る」と言います。「月形に切る」のは陰陽思想から来ていて、燃え盛る火(陽)に対して月(陰)を切り、陰陽のバランスを保ちます。また、藤灰を炉中に撒きますが、これは雪の景色を表わしていて、風炉を使う暑い時期の涼しさの演出だけではなく、雪は溶けて水(陰)になるので、これも火(陽)に対しての陰ということになります。

 

(写真が無いので、某先輩の素晴らしい風炉中を参考に掲載しました。

 初炭前の写真で、灰形は二文字押切、下火の丸ギッチョ3本が入っています)

 

亭主M氏が炭を置き、月形を切って、香を焚き、香合を拝見に出しました。それから釜を風炉近くへ引いてから

「どうぞお正客様から順番に風炉中をご覧ください」

風炉は面取唐銅で一ノ瀬宗和造。釜は糸目桐文車軸釜、釜師・長野新氏に特注し、桃山時代の伊予地方で造られたお気に入りの古釜(写し)を造ってもらいました。

香合は「桐絵埋もれ木香合」(道場宗廣作)です。亭主M氏の先の転勤先であった仙台市、市内を流れる名取川(広瀬川)産の埋もれ木で作られています。漆黒の埋もれ木は手に取るとずっしりと重く、川に沈む流木古材が数百年数千年を経て埋没樹木となった歳月を感じます。

香は沈香(松栄堂)です。

     名取川(広瀬川)の埋もれ木

初炭が終わり、再び茶道口から待合のテーブル席へ動座して頂き、そちらで懐石と菓子をお出ししました。

懐石は佐藤愛真さんです。亭主M氏から注文された食材(今までの転勤先に因むもの)を巧みに取り入れてくださって、きっとお客さまも堪能したことでしょう。私たち3人も水屋で相伴し、舌鼓を打ちました。暁庵は湯葉真蒸の煮物椀、かますの幽庵焼、八寸の仙台麩に感激一入!でしたが、いかがでしたでしょうか?

今回も急なしめ縄づくりで忙しく・・・写真がありませんが、懐石献立を記します。

お献立 

  向付   鯵の昆布〆め  緑おろし 花穂 山葵 加減酢

  飯    一文字

  汁    菊白玉団子  仙台味噌仕立  辛子

  煮物椀  湯葉真蒸  車海老  つる菜  青柚子

    焼物   かますの幽庵焼

  強肴   車海老  帆立  胡瓜  黄身酢和え

  箸洗   岩梨  梅酢仕立

  八寸   焼き唐墨  仙台麩(無花果 田楽味噌)

  香物   仙台茄子の浅漬  生姜の守口漬  瓢箪

  湯斗

  酒   「生酒」 晴雲酒造(埼玉県比企郡小川町)(名水「日本水」由来の酒を亭主が用意)

 

 

初秋の薫りと彩りに満ちた主菓子は銘「よそおい」。亭主M氏が最初に裏千家茶道の手ほどきを受けた思い出の地、名古屋市にある菓子舗「美濃忠」製です。 (つづく) 

 

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長月・名水の茶事・・・(1)

2022年09月25日 | 社中の茶事(2018年~)

 

9月18日(日)に長月・名水の茶事が暁庵で行われました。

今年1月の和楽庵の茶事に始まり、5月の風薫る昔ばなしの茶事、そして文月のお祝いの茶事と3回も小堀遠州流の茶事へお招き頂きましたので、何とか小堀遠州流の皆さまを暁庵の茶事へお招きしたい・・・と思っていました。

9月になってやっと機が熟し、社中M氏が「長月・名水の茶事」にて皆さまをお招きくださることになりました。亭主は社中M氏、半東は社中T氏、暁庵は水屋、そして懐石は佐藤愛真さんです。

「小堀遠州流には名水点がないそうなので、名水点でおもてしはいかがでしょうか?」とM氏の提案に異存はなく、すぐにテーマが決まりました。

もう一つ、小堀遠州流の仕儀の中で炉や風炉中の景色と炭手前に鮮烈な印象を持ったので、今度は裏千家流の初炭と後炭の手前を見て頂きたいし、初炭と後炭で風炉中を二度拝見をしていただいてはどうだろうか・・・と話が決まりました。

 

席入りは11時、板木が5つ打たれ、茶事のスタートです。

待合の掛物は「瀧 直下三千丈」、前大徳・紹尚和尚の御筆です。

半東T氏が白湯を志野の汲出しに入れてお持ち出しし、席入りのご案内です。その日は生憎の雨・・・迎え付けと蹲を省略し、茶道口から席入りしていただきました。

亭主がお客様お一人お一人とご挨拶を交わしています。

お正客は和楽庵主・前田宗令さま、和楽庵社中のS氏とSXさまが次客と三客、四客はYさま、詰はTIHOさまです。S氏は和楽庵の茶事の時に炭手前をしてくださった方で、その折の美しく繊細な所作は今でも心に残っています。SXさまは日本に留学中のイギリス人女性で小堀遠州流をお習いしています。近くイギリスへ帰国するので日本の思い出にしたい・・・と参席してくださいました。

 

     (Yさま宅の萩が満開です)

     (「利休居士四規七則」のお軸を掛けました)

床のお軸は「利休居士四規七則」で、紫野・小林太玄師の御筆です。

利休居士は四規「和敬清寂」に茶道の精神を端的に示されました。

  ・・・お互いに心を開いて心を通わせ親しくすること(協調性を大事にすること)

  ・・・お互いに敬い合い尊ぶこと

  ・・・心清らかであること

  ・・・どんな時にも動じない、心静かで穏やかなこと

七則は、利休居士が「茶の湯の極意とは?」と問われた時に答えたものです。

  炭は湯の沸くように

  花は野にあるように

  降らずとも雨の用意

  刻限は早めに

  相客に心せよ

  夏は涼しく冬暖かに

  茶は服のよきように

利休さまの七則に魅せられ、実践を試行錯誤しながら思うことは、なんて!奥が深く素晴らしい七則なのだろう・・・と、いつもため息ばかりです。

亭主M氏が炭斗(ミャンマー籠)を運び出し、初炭が始まりました。

風炉の正午の茶事では懐石が先ですが、待合の椅子席で懐石を食べて頂く都合上、先に初炭になりました。ここで裏千家流・炭手前のお話をするために暁庵が席中にお邪魔しました。(つづく)

 

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