10月の或る日、YKさまから薄茶一服のお招きをいただきました。
YKさまが茶友から風流な鉄風炉をもらい受けたというのです。伺っていると、前から興味を持っていた茶飯釜に使う風炉のようです。
「是非その鉄風炉を拝見したいし、薄茶一服いただけないかしら?」とお願いしたところ、お招きのメールが届きました。
暁庵さまへ
久しぶりに爽やかな陽気となりました。その後如何お過ごしでしょうか。
10月はお忙しいとのことですが、〇〇日となれば少しはお時間が出来ますでしょうか。
簡単に栗ご飯とお漬け物でお昼を差し上げたく思いますので、正午頃〇〇駅東急のエレベーター前で茶友のYさまとご一緒に待ち合わせて頂けますか? 車でお迎えに行きます。
食後、鉄風炉で一服差し上げますので風炉の終わりを楽しんでくださいませ。
お気軽に洋服でいらしてください。 YKより
3階の茶室へ通されると、床には「水掬月在手」のお軸、心惹かれる字は大心和尚御筆です。
宗全籠に7種の名残りの花が生けられて、ご亭主様の心意気を感じます・・・。
(ススキ、野牡丹、秋海棠、ホトトギス、貴船菊、え~と・・・)
点前座は、想像していたよりも小柄な鉄風炉の中置、侘びの風情を感じます。釜が小さいので3人分の湯が入るのかしら?と心配になりました。
ご挨拶もそこそこに点心が運ばれました。栗ご飯とお漬物で・・・とありましたが、とんでもありません。
和え物、焼物、山芋の煮物、吹き寄せ、吸物など、懐石上手のYKさまならではの点心に舌も心も満たされて完食しました。ごちそうさまでした。
いつも感心するのは栗ご飯の栗がしっかりと甘いのです・・・これには秘伝があって、前にも伺いましたがすっかり忘れて、また同じ質問をしています。
食後に主菓子「秋の山里(・・だったかしら?)」、栗の茶巾しぼりでYKさんのお手製です。しっとりと程よい甘みがこれからの濃茶への期待を誘ないます。
濃茶点前が始まりました。
「だいぶ前から炭を入れたのですが、空気穴が小さいのかしら? 火の熾りが今一つで火相と湯相が難しいです」
「火床も小さいけれど小さな前瓦も入っていて、灰形もされたのですか? 炭は小さいのを選んだのかしら?」 YKさまは矢継ぎ早やの質問に答えながらしっかり濃茶を練ってくださいました。
茶友Yさまとは初対面ですが、3人で茶談義やお能(金剛流をお習いしていたとか)、懐石の話が愉しく弾み、あっという間に時間が過ぎていきました。
干菓子代わりに大好物のイチジクのワイン煮が出され、薄茶が一段と美味しいです。
陶器がお好きで、よく窯元めぐりをされたというYKさまが選んだ茶碗はどれも一味違う魅力があります。御贔屓の倉敷の作家さんのお名前が出てこないのが残念・・・。
お点前を交代して、YKさまへ一服お点てしました。
実際に釜へ柄杓を入れるとすぐに底へついてしまいますが、見た目より底は深く、鉄風炉や釜の構造だけでも話題が尽きません。そばで拝見すると「飢来飯」という鋳出があり、釜は全高20センチくらいでしょうか。
これで御飯が焚けるのかしら?
(「飢来飯」(きらいはん)の鋳出)
茶飯釜(宗徳釜の本歌)の側面にも「飢来飯、渇来茶」の鋳出があります。
腹が減ったら飯を食べにいらっしゃい
喉が渇いたら茶を飲みにいらっしゃい
なんて!シンプルで温かいお言葉なのでしょう・・・。
秋のほっこりとした一日、さらさらと自然体のおもてなしが素晴らしかった・・・です。
YKさんのおもてなしに心地よい刺激を受けて、我が家でも一服差し上げたいと思いました。
茶友Yさんといらしてくださると嬉しいです。
腹が減ったら飯を食べにいらっしゃい
喉が渇いたら茶を飲みにいらっしゃい
いいですねえ。人生の基本みたいな感じがします。こうありたいです。
「飢来飯、渇来茶」の心にて
shetland-aさまをお招きできたら・・・と思います
一番難しいのは、余計なものを切り捨てて・・・でしょうか。