暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

楽美術館 特別鑑賞茶会

2012年09月30日 | 献茶式&茶会  京都編
今宵は中秋の名月です。
台風で名月鑑賞は無理のようですが・・・。
稽古、茶事、北海道旅行と、珍しく大忙しでして
しばらくご無沙汰しておりました。

9月16日に楽美術館で行われた特別鑑賞茶会へ
初めて行ってまいりました。

この茶会は当代・楽吉左衛門氏が席主をつとめられ、
茶道具には楽家歴代の作品が登場し、それらの茶碗で茶を頂戴できる・・・
という夢のような茶会で、どうしても参席したいと願っていました。

茶会の前に秋期特別展を見ておきたいと思い、早めに伺いました。
楽美術館は、展示品はもちろんのこと、展示スペースの構成が好ましく、
静謐を感じる空間づくりにいつも魅せられます。

               

最初に当代・楽吉左衛門の焼貫黒楽茶碗(2004年制作)を鑑賞しました。
「巌上に濡光ありⅢ」
 巌裂は苔の露路 老いの根を噛み
 当代 吉左衛門(昭和24~ )と記されています。

それは力強い造形の、私の手には納まり切れない大きさの茶碗でした。
巌上に濡光あり・・・と表現されている釉薬の流れは、
白や黄色やグレイが混ざったり離れたりして、濡光を生じ、
黒楽の巌列の肌と対照となって、不思議な雰囲気を醸し出していました。
しばらく見ていると、最初の力強さとはうってかわり、悲哀のような感覚、
そう!サーカスのピエロのような悲哀を感じたのです。
ますます茶会での御目文字が楽しみになってきました。

長次郎の今なお艶やかな黒楽「村雨」、
始めてみる「鐶付はじき」の車軸釜や優美な鷺蘆地紋車軸釜(二代大西浄清)、
初代中村宗哲作で藤村庸軒好の「望月棗」、
初代飛来一閑作の詫びた味わいの張抜棗(宗旦在判)が印象的で、
特に古釜好きの暁庵にはワクワクする展示でした。

                            

待合で会記や箱書を見たり、席がご一緒の方々とお話したりしました。
川崎市からこの茶会を目的に京都へいらしたご夫婦、常連らしい大阪の殿方、
そして、なんと!茶事へお招きくださったご亭主様と偶然お会いしました。

床の掛物は、大徳金龍悦叟和尚の明月画賛で、円相にも見える明月と
「取之不得捨之不得咦」
これを取りて得ず これを捨てて得ず、い(あれっ!の意味)。
席主・当代楽吉左衛門氏の明月に寄せた心境のようにも・・。

秋海棠と紫の花が桂籠に入れられていました。
紫の花の名前は雁がね草、楽家の庭に咲いているそうです。
主菓子(雁月、聚洸製)が運び出され、薄茶点前が始まりました。
薄茶は一保堂の丹頂の昔です。
すぐに席主が席へ入り、いろいろなお話を伺うことが出来ました。

秋期特別展へ出品中の、茶の湯に欠かせない道具である
釜、茶碗、薄器のお話は、それぞれの作品が生まれた時代背景と作者、
千家との関わりに言及され、聴き応えがありました。
合間に客と交わされる質問や感想などにもきちんと応えてくださって、
当代の誠実なお人柄が滲み出ていました。

               
             「姨捨月」 (月岡芳年「月百姿」より)

なかでも茶会に使われた六個の茶碗は興味深いものでした。
主茶碗は、黒楽で「姨捨(おばすて)」という銘です。
「姨捨」伝説の舞台、長野県千曲市の「田毎の月」を連想させます。
六代左入作、二百之内、如心斎書付が添ってます。

「姨捨」といえば、木下恵介監督の映画「楢山節考」(深沢七郎原作)が
すぐに思い出されました(ご存知の方は少ないかもですが・・)。
ラストシーン・・・息子は老母を山へ置き去りにして山を下りたものの、
途中で母への想いがつのり、夢中で引き返します。
山には雪が降ってきて、念仏を唱える老母に容赦なく降りそそぎます。
「おっかあ~」・・・雪に埋もれる老母に取り縋る息子。
老母は気丈にも戻ってきた息子を追い返すのでした・・・。

「姨捨」という能があることを知りました。
中秋の名月の夜、老女の霊が旅人の前に現れます。
老女の霊は、山奥に捨てられた悲しみも孤独な死も突き抜けて、
月光の精のように舞います。

能の多くは仏の導きにより成仏して終わるのですが、
「姨捨」の老女の霊は成仏してあの世へ帰ったのか、
この世の悲しみの中にあって山にとどまっているのか、
わからない終わり方になっている・・・という当代のお話を伺うと、
手に取った「姨捨」の黒楽が一層趣深いものに思われてきたのでした。

               
               (秋海棠  季節の花300提供)

二椀目、十代旦入作の赤楽茶碗「秋海棠」(惺斎書付)で、薄茶を頂きました。
黒、白、グレイの釉薬が雲海の雲のように躍っている、
豪快な茶碗で、存在感が抜群でした。銘がかわいすぎる気もします。
手に取るとすっぽりと心地好くおさまり、見た目よりも薄手に削られています。

三碗は露山焼「山里」(淡々斎書付) 十一代慶入作
四椀は赤楽茶碗 十二代弘入作
五椀は黒楽四方茶碗「四季の友」(即中斎書付) 十四代覚入作
長次郎の「ムキ栗」を連想しました。

最後は当代の若き日、惣吉時代の作とか。
赤楽の素朴な印象の茶碗で、「蒼雲」(鵬雲斎書付)という銘です。
実はこの茶碗が一番のお気に入りでした。
「素」という造詣の原点を感じさせる趣きの茶碗だからでしょうか。

「長次郎のどの茶碗がお好きですか?」とお尋ねしましたら
「大黒・・無一物・・・ムキ栗もいいですね」
どれも写真でしか見たことがありません。調べましたら、
大黒(個人蔵)、無一物(西宮市頴川(えがわ)美術館)、ムキ栗(個人蔵)
ですが、いつかお目にかかりたいものです。

                

たった1時間余の茶会でしたが、
楽家の営々と続いた歩みと背景にある歴史、
茶碗づくりにかける当代の生き様と静かな情熱を感じさせる
「静中楽有」の茶会でした。

帰りにもう一度、展示品を鑑賞しましたら、
茶会でいろいろ伺ったせいか、どの作品も輝きを増しているようでした。
とりわけ、先ほど「ピエロの悲哀」と表現させて頂いた
当代作・焼貫黒楽茶碗が「ピエタ」に変わっておりました。

このような茶会と特別展にご縁がありましたことを感謝しています。

                               



左京区カフェ探検 「猫町」

2012年09月20日 | 京暮らし 日常編
左京区カフェ探検の第3回はカフェ「猫町」です。
今回の探検隊員は、Pさん、TYさん、暁庵の三名でした。

9月15日12時半に白川通りの「ガケ書房」で待ち合わせました。
「ガケ書房」は、石垣から車が半分飛び出しているユニークな看板があり、
京都では有名な本屋さんだそうです。
外観にびっくりして興味津々で入ってみると、中は意外や、
ゆっくり本が選べるような物静かな空間を持つお店でした。
品揃えは幅広く、新刊から古書まで充実していますが、
京都造形大学が近いせいか、アートの本が多いようでした。

               

三人揃ったので、アート関係の雑誌を買ってカフェ「猫町」へ向かいました。
「猫町」は、Pさんの挙げてくれた候補から名前に惹かれて決めました。
店名は、萩原朔太郎の小説「猫町」から名付けられたとか。

               
               

道路より少し高い処に入口の木の扉があり、アプローチの階段には
草木がびっしり植えられ、金水引がまだ花をつけています。
「猫町」と書かれたユニークな看板を見ながら、中へ入りました。
奥行のある店内は思ったより広く、落ち着きと温かみを感じるのは
柔かな自然光がそそぐ窓や古風な木製の調度のせいでしょうか。
黒光りする木のカウンターの向うにオーナーご夫婦が働いています。

               

どの席にしようかしら?
窓側の席も居心地が良さそうでしたが、先客がいました。
それで、カウンターではなくテーブルの席を選びました。
1時を過ぎていたので、お腹がぺこぺこ、すぐにランチを注文しました。

ランチを待っている間に、PさんやTYさんと出逢ったときのこと、
京都の隠れた名所旧跡やイベントなどの情報、趣味や仕事のこと・・・
いつも楽しい時間です。
お話に熱中しているうちにランチが運ばれ、今度は食べることに熱中しました。
この日のランチは、琵琶湖マスのムニエル、野菜のスープ、夏野菜のサラダ、
ご飯、漬物です。量もちょうどよくお味も大満足で、1050円でした。
食べ終わってからランチの写真を撮るのを忘れたことに気が付きました。

               

店内が広いので、他に数組お客様が居らしても気兼ねなく、
ゆっくりできるのが最高でした。
帰りに気になっていた木のカウンターのことをお尋ねしたら
「何の木かわかりませんが、旧家の梁に使われていた古材をそのまま使いました。
 それで、木枠の穴を木材で埋めてあります。
 十年使い込んだら、だんだん好くなりました・・・」

今度来店したら、このソファ(下の写真)で本を読もう・・と思いながら、
店をでました。ごちそうさま!

                          

「猫町」へ行ってからインターネットで小説「猫町」を読んでみました。
とても短い、朔太郎の夢と倒錯に満ちた、詩のような小説ですが、
次の部分がまるで左京区の「猫町」界隈のようで気に入っています。

小説「猫町」より一部転載します。 

   ・・・私は道に迷って困惑しながら、当推量で見当をつけ、
   家の方へ帰ろうとして道を急いだ。
   そして樹木の多い郊外の屋敷町を、幾度かぐるぐる廻ったあとで、
   ふと或る賑やかな往来へ出た。
   それは全く、私の知らないどこかの美しい町であった。

   街路は清潔に掃除されて、鋪石がしっとりと露に濡れていた。
   どの商店も小綺麗にさっぱりして、磨いた硝子の飾窓には、
   様々の珍しい商品が並んでいた。珈琲店の軒には花樹が茂り、
   町に日蔭のある情趣を添えていた。

   四つ辻の赤いポストも美しく、煙草屋の店にいる娘さえも、
   杏のように明るくて可憐であった。
   かつて私は、こんな情趣の深い町を見たことがなかった。
   一体こんな町が、東京の何所にあったのだろう。

   私は地理を忘れてしまった。
   しかし時間の計算から、それが私の家の近所であること、
   徒歩で半時間位しか離れていない、
   いつもの私の散歩区域にあることだけは、
   確実に疑いなく解っていた。
   しかもそんな近いところに、今まで少しも人に知れずに、
   どうしてこんな町があったのだろう?
                                        

「どうしてこんな町があったのだろう?」を京都へ置き換えて読んでいます。
 さて、次はどんなカフェ探検が待っているのやら・・・楽しみです。

                          &  & 

      左京区カフェ探検 前へ       次へ


    grill&cafe猫町
     京都市左京区白川北大路下ル二筋目西入ル
     Phone 075-722-8307  
     営業時間 12時~23時
     定休日 火曜日 月一回定休           


初めての朔日稽古

2012年09月15日 | 稽古忘備録
朔日(ついたち)稽古に初めて行ってまいりました。

自転車から転倒し左手を強打してしまったので、
当日の朝に伺えるかどうか?を判断するような状態でした。
でも、きっと夢中だったのでしょうね。
それに、先生から参加のお許しを得ていましたし、
東京から来られるOさんと待ち合わせていました。

8時頃に茶道会館へ着き、身支度し、2階の広間で受付しました。
受付が始まるのは7時半~ですが、点前を希望する場合は先着順ですので
早くに並ぶようです。(参加資格など詳しくは今日庵へお問い合わせください)
受付でエントリーシートを頂き、住所、氏名、先生のお名前、
最終許状の日付、点前の希望などを書いて提出しました。

ちらっと他の参加者のシートを見てびっくり。
お稽古の日付を示す欄がびっしり埋まっているではありませんか。
急に心細く思っていると、まもなくOさんが到着し安堵しました。
怪我で無理もできませんが、せっかくの機会なので午後も見学したいと
お弁当を注文しました。

                             

それから、襟を正し、気持ちも新たに兜門をくぐり、
咄々斎にて9時に朝礼が始まりました。
朝礼で伺った坐忘斎お家元のお話はとても心に残るものでした・・・。

昨日(8月31日)まで夏期講習会があり
お家元も若い受講者の指導に当たられたそうです。
ところが、夏の暑い時期に子弟が膝を交えて茶の道を切磋琢磨する
という講習会の目的とはほど遠い気持ちの方がいらしたそうです。

お家元や業躰先生が普段の稽古の、その奥を教えたい・・・と思っても、
受講者がその覚悟を持って準備して臨まないと、
「はい、右、はい、左、前・・・」という順番を教えることで
終始してしまうのはとても残念に思う。
講習会、朔日稽古、そして大寄せの茶会、どんな場合にもそれに応じた
覚悟を持つことが大事である。
「覚悟」を持って臨めば、そこで得ることは大きい
・・というようなお話しでした。

初めての朔日稽古で、大変耳の痛い、しかし素晴らしい示唆に富むお話を
伺うことができました。

                

第一席は茶道会館で、G先生のご指導のもと、行之行を見学しました。
稽古のその奥の、はっとするようなお教えがたくさんあり、有難かったです。

それからI先生のお部屋へ移動し、真之行を見学、
お客様の真ん中に入れて頂いて、濃茶を頂戴しました。
午後は心花の間で大円之真を見学しました(再びI先生でした)。
三人の方のお点前を見学させて頂き、業躰先生はたぶんお点前を一目見て(?)、
その人の覚悟のほどがわかるのでは・・・と思います。

特に大円之真をなさった方の歩き方、そして点前に見惚れました。
堂々とした中にもしなやかさがあり、きちんとした所作が美しく(もちろん順番はすらすら・・)、
完成度の高いお点前を見学させて頂き、先生のご指導も熱の入ったものでした。

「奥伝」の点前はこのように多くの人の前ですることはないけれど
(茶事では真の茶事や引次の茶事がありますが・・・)、
大勢の人前で点前することによって得られるものがあるので、
その覚悟でチャレンジしてください・・・という激励がありました。
朔日稽古の一つの意味(見学も含めて)が見いだせたような気がしました。

いつの日か、覚悟を持ってお点前が出来る日を夢見て精進します
・・・と、今は思っています。

                                



萩の寺と怪我

2012年09月13日 | 京暮らし 日常編
 山上臣憶良、秋野の花を詠む歌二首(万葉集)

    秋の野に咲きたる花を指(および)折り
       かき数ふれば七種(ななくさ)の花

    萩の花をばな葛(くず)花なでしこの花 
       をみなへしまた藤袴(ふぢばかま)朝顔の花

秋の七草のトップを飾る、萩の花の名所に
「常林寺」(じょうりんじ)が載っていました。
住所を見ると、京都市左京区川端通今出川上ルとあったので、
8月末の或る日、自転車で買物のついでに訪ねてみました。

              

出町柳駅近く川端通に面した小さなお寺ですが、
一歩門を入ると、境内中が萩に埋め尽くされています。
紅萩が花をつけていましたが、見頃にはあと10日でしょうか。
見頃に少し早かったおかげで、萩を愛でる人は誰もいません!

トンネルのようにたわわに茂った萩の道を歩き、
門の石段に腰掛けて、ひそやかに咲いている萩の花を眺めて、
穏やかな午後の一時を過ごしました。
想像力を逞しくすれば、野分に吹きなびく秋野の趣があり、
大いに楽しめます。

              
              

              
              
・・・そして、カナートというショッピングモールで
本屋、雑貨&衣料のお店をぶらぶら覗いたあとに
食料品を買い込んで、自転車の前かごへ載せました。

常林寺近くまで来たとき、帽子が風に飛ばされそうな気がして
一瞬バランスを崩し、転倒!!
とっさに荷物の重さで傾いた右側ではなく、左側へ身体を投げ出しました。
(たぶん右側に倒れると頭を打つと判断したのだと思う・・・)
その時、無意識に左手で受け身をしたみたいです・・・。
左手と左足を打撲して、しばらく起き上がれませんでした。

憶良の歌と違い指(および)は折れず、打撲だけで済みましたが
2週間たった今も指2本を動かすとまだ痛みが残り、力が入りません。
もう少しだけ時間が必要なようです。

そんな訳もあり、夏休みをとっておりましたが、
秋風とともに戻ってまいりました。 宜しくお付き合いください。

                                       
              


常林寺(萩の寺)

京都市左京区川端通今出川上ル

拝観料金 無料 ※静かに参拝のこと
通常拝観時間 9~16時
萩の見頃時期 9月中旬~下旬
萩供養  敬老の日