暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

五事式の茶事に招かれて(令和6年卯月)

2024年04月17日 | 社中の茶事(2018年~)

     (春雨にけむる「私のサクラ」・・・台所の窓からパチリ)

 

令和6年卯月7日、社中M氏の五事式の茶事へお招き頂きました。

あれから日が経ちましたが、随所にM氏のおもてなしの心意気を感じるお茶事だった・・・と、散りゆく桜を台所の窓から眺めながら思い出しています。

横浜市中区の茶席Kで行われ、ご亭主はM氏、半東はKTさまです。

お正客YKさま、次客OKさま、三客暁庵、四客AYさま、詰KRさまで、主客で心を合わせた一座建立でした。皆さま、ステキなお着物がお似合いで、席中で何度も見惚れました。

感激冷めやらぬうちに後礼のお手紙を差し上げました。こちらに忘備録として記します。

 

 M氏さまへ

    春風に 花を散らすと見る夢は

       覚めても胸の騒ぐなりけり     西行

 

今日は春風ならぬ春の嵐に満開の桜が散り急ぐ様子を

「これもまた好しかな・・・」と眺めています

先日は五事式の茶事にお招き頂きまして ありがとうございました

電車のアクシデントに遭遇し、席入りがお遅くなりまして申し訳ございませんでした

待合に掛けられた「喫茶去」、大好きな禅語を嬉しく拝見しましたが、Mさまにさし上げた

ことをすっかり忘れていたのに気が付きました・・・

 

本席の床に掛けられていた「七事式」の偈、須賀玄道師御筆の最後に書かれていた「関」、

M氏さまの茶の道の一つの到達点であり、また、新たな出発点のようにも思えました

我家の「七事式偈」には「喝」とあり、いつも叱られたようで背筋が伸びます

同じ「七事式偈」でも最後の一字で解釈や心持ちが違って来るのが何とも興味深いことです

廻り炭は正に主客共に修練の場でありましたが、皆さま、とても和気あいあいで、炭を上げ、

炭を置き、その置き方を味わい、何よりも埋火が無事に熾るかどうか、皆で心を一つにして

炉中を見つめました そして今回は大成功!でした  おめでとうございます!

火吹き竹で吹かなくっても大丈夫だったくらい火が残っていました

埋火で火が熾ったのは何年ぶりでしょうか、本当に嬉しかったです

ご用意いただいた練香の「千年菊方」、初めて聞く香銘でしたが、徳川家康が長寿を願い

「千年菊方」の調合を残したというお香は優しい薫りでございました

その貴重な練香をご恵贈いただきまして 有難く感謝しております

「春霞」(?)と名付けられた淡い桜色の金団(打出庵大黒屋製)も黄身餡が珍しく甘さ控えめの上品なお味で、濃茶がとても楽しみでした

 

(後座の点前座は全て亭主のお持ち出しでした・・・もう感激!)

後座になって廻り花がとても楽しかったです

花台に溢れるほど春を彩る花々が集まり、一人一人が選んで生けると、選ばれた花がいちだんと好い表情になっていました・・・それも一瞬のかがやき

折角生けられた花がすぐに上げられてしまうことに「色即是空 空即是色・・」の七事式偈を思い出し、執着を無くすことや、たった今を大事にし、精一杯生きることの大切さを教えてくださっているのかしら?・・・と

最後にM氏さまが生けられた花、それまで隠れていて水を注いでから花が現われた瞬間、皆さまも私も「あっ・・!」と嘆声がもれました

コデマリ、白い椿(「限り」という千重咲きの椿?)、もう一種が堤焼花入に見事に生けられていて、もう素晴らしかった!です

 

香になり、お正客・YKさまが焚いてくださったお香(伽羅)を嬉しく聞きました

香銘「雲い」と、香銘に因む凡河内躬恒の和歌をご披露くださり、しばし典雅な香りを皆さまと愉しみ、幸せなひと時でございました

   山高み雲いに見ゆる桜花

      心のゆきて

        折らぬ日ぞなき       躬恒

 

濃茶になり、額の汗をぬぐいながら心を込めて練ってくださった濃茶の

なんと!まろやかで美味しかったこと、濃さも程よく喉をうるおしてくれました

三人分を私一人で頂いてしまいたいほどでございました 

出雲焼の茶碗がとても渋く良い味わいで素敵です

        「薄茶は花月で・・・」

花月の薄茶も和気あいあいと賑やかに進み、二人一碗で点て合ったのも良かったと思います

お持ち出しの三碗がどれもMさまお好みやこだわりを表わす茶碗たちで、薄茶を頂きながら垂涎の声がしきりでした

一二三之式ではお客さまから立派な評価を頂けて、ご亭主Mさまと半東KTさまの一会に臨む真摯なお気持ちとご苦労が報われた気がして嬉しく思いました

その昔、五回連続してお仲間と五事式を修練した熱き日々を、M氏さまの一生懸命の御姿を拝見して、再び懐かしく思い出しております

これからもお茶事に五事式に楽しみながら修練を重ねてくださると嬉しゅうございます

末筆になりましたが 半東KTさまへくれぐれも宜しくお伝えください

お疲れがいかばかりかと存じますが 寒暖差の厳しい折ご自愛ください

長文になり途中で巻紙のお手紙を諦めました どうぞご容赦ください    

本当に・・・ありがとうございました             かしこ

 

   令和六年卯月吉日             暁庵より

 

 


「海想の茶事」に招かれて

2023年07月15日 | 社中の茶事(2018年~)

 

令和5年7月2日(日)、半夏生の日に「海想の茶事」へお招き頂きました。

ご亭主は社中Iさま、席は拙宅:暁庵にて正午の茶事(11時席入)でした。

お客さまは、御正客Oさま、次客暁庵、三客松谷千夏子さま、四客KMさま(小堀遠州流)、詰AYさま(社中)です。

「海想の茶事」については後礼に差し上げた手紙を少しアレンジして記録しておこう・・・と思います。どうぞよろしくお付き合いください。

 

       (「拈華微笑」の御軸  前田宗源禅師筆)

 

 後礼の手紙より

Iさま

半夏生の季節になりました。

この度は海想の茶事にお招き頂き、ありがとうございました。

席中でも・・終わってからも・・何度もため息が出るほど、良いお茶事でございました。

茶を教える者にとって生徒さんの茶事へお招きされることほど嬉しいことはございません。

・・・それで、この度はお道具やお支度をなるべく見ないようにしていたので、次客としてIさまのお茶事を心ゆくまで楽しませて頂きました。

「先生の心臓に悪いのでは・・」と心配してくださっていましたが、そんなことは全く無く、スラスラと点前をなさり(そのように見えました)、お話も分かり易く「流石・・」と感心しきりでした。

床に掛けられた御軸「拈華微笑」

釈迦が花を一輪かざして弟子たちに見せると、その意を解した迦葉一人がただ微笑みを返したというお話が伝わっています。

「微笑みを介して互いに理解し合うこと」・・静かな茶室の中での主客の無言の会話、そして海中で素晴らしい景色に遭遇した時のダイバー同士のアイコンタクト・・・言葉だけではない、心を通い合わせるシーンが強く私の胸を揺さぶりました。

 

 

少しばかり心配していた初炭でしたが、日頃の努力の甲斐あって右手が右利きの人のように働いていました。きっと本人にとってはもどかしい思いがあるのでしょうが、左利きと言わなければわからないくらい働いていたと思います。

京都在住の時に知り合ったSさまという方は交通事故のため右手と左手の指がいくつか使えなくなってしまいました。それでもお茶がお好きで、私が茶事に招かれたときは右手と左手がそれはもう絶妙に助け合って、流れるようにお点前をされていました。

きっと長い時間を掛けて血のにじむような努力をされたと思うのですが、「お茶が好きだから出来たと思う・・・」の一言で、素敵な笑顔が今も思い出されます。

 

   (主菓子は銘「半夏生」 大宰府の藤丸製)

古染付の小壷の茶入から「不識」の茶杓で緑の抹茶(星授、星野園)が掬い出され、心を込めて練ってくださった濃茶を美味しく頂戴しました。

長い時間をかけて集められた茶道具が随所でご亭主の想いを生き生きと語っていましたし、お道具も喜んでいるように思われました。

私は中でも「月日貝香合」(上杉満樹作)にとても心惹かれました。本物の貝と伺ってびっくりし、深い海の底で赤と白の美しくも不思議な貝が生まれる神秘を思いました。

ダイビングしている海中で交わす「拈華微笑」のお話はとても心に残り、お茶だけではない一期一会の海の景色を見てみたいものと憧れます。一方で茶室での「拈華微笑」の境地は暁庵にとって永遠のテーマになりそう・・・。

御正客Oさまもきっと十二分に楽しまれたことでしょう。Oさまのお人柄もあって終始なごやかな雰囲気で、詰のAYさまにもいろいろ助けて頂きました・・・。

ご友人の日本画家の松谷千夏子さま、お茶人の雰囲気がおありの素敵な方ですね。小堀遠州流のKMさま共々これからも親しくお茶のご縁が続くと嬉しいです。

(待合いの「夏待ち」の掛物  松谷千夏子画)

最後の挨拶で申しましたように「Iさまはご自分のお茶事を立派になさった・・・」と思いました。どうぞこれからも一つ一つ丁寧にお茶事を続けてくださいませ。

お茶事をすると、成功も失敗もあるかと思いますが、それが全てIさまの糧になると思います。そしてお茶事を通して素敵なお茶人さんと交流を深めて、お茶を大いに楽しんでください。

 私もいつまで出来るかわかりませんが、一生懸命にお茶を生徒さんに教え、同時に今自分に出来る「立礼の茶事」に取り組んでいこう・・・と覚悟を決めて踏み出したところです。

そのこともあって、Iさまのお茶事に邁進している御姿からたくさんの元気とエールを頂きました。

ありがとうございます。

 

(煮物椀に舌つづみ・・・海素麺、鮎の一夜干し、茗荷、青柚子)

    (焼物の鰻のけんちん焼きと青楓麩)

末筆になりましたが、半東を務めてくださった社中KTさま、美味しい懐石を作ってくださった佐藤愛真さまにくれぐれも宜しくお伝えくださると嬉しいです。    かしこ

   令和五年文月吉日                                  

                     暁庵 拝                        

 


箱根・水無月の茶事に招かれて・・・(2)

2023年07月06日 | 社中の茶事(2018年~)

つづき)

懐石が終わり、初炭になりました。

すぐにパチパチと火がはぜる音が聞こえ、安堵しました。M氏は火の扱いが上手でいつも感心 していたので、そのことをお尋ねすると、

「最初にお習いした先生が男性は火の扱いを任されることが多いのでしっかりと修練するように・・・」と厳しくご指導してくださったそうです。それにしても入門したての若い男性によくぞ厳しくご指導なさったこと! 本当に素晴らしい先生だわ・・・と尊敬しきりです。

初炭手前がスラスラと終わり、香合が拝見に出されました。

香合は手に取ると石のように重い埋もれ木香合。埋もれ木は川底に数千年を経て堆積した樹木が炭化したもので、M氏が転勤途中で滞在した仙台市を流れる広瀬川の産でした。桐の葉と花の蒔絵が描かれていました。

縁高で主菓子が運ばれました。紅白の金団で金箔が載っています。

出来立てのように柔らかく、中のつぶ餡が絶妙な味わいの金団でした。菓子銘は「寿ぎ」です。

後でお伺いすると、石川県小松市の行松旭松堂へ特注してくださったそうです。お茶の不思議なご縁でM氏は行松旭松堂のご主人と親しいことを伺っていたので、嬉しいサプライズの金団でした。

再び先ほどの腰掛待合へ中立しました。

 

しばらくして幽かに銅鑼の音が聴こえてきました。その響きの良さにしばし魅せられ、再び蹲を使い後座の席入りです。

立礼席は片づけられていて、床には花が活けられていました。

青紫の桔梗、笹百合、利休草が竹一重切(池田瓢阿作)に生けられ、壁に露が清々しく打たれています。

間もなく濃茶点前が始まりました。

「喫茶去」の御軸の如く、しっかりお心を受け止めようと、客3人が静かにお点前を見詰めます。端正なお点前にいつも見惚れてしまうのですが、指先まで神経が行き届いているような所作で茶入や茶杓を間合い好く浄めていきました。

絶妙な柄杓の扱いで適量の湯を注ぎ、濃茶をしっかり練ってくださいました。茶の馥郁とした香りが茶室を満たしていきます。

茶事では濃茶の時間が一番大切で、客にとっても色々な味わい方が出来るのですが、この時は心を込めて練ってくださった御茶を半ば夢の中にいるような気持で頂戴しました。

「美味しゅうございます!」 (ちょっと胸がつまる思いで・・・)

美しく練られた濃茶は甘くまろやかに舌や喉を潤していきました。濃茶は「青葉の昔」(仙台市・大正園詰)です。

          (後座の点前座・・・萩焼の水指)

茶碗は黒楽。出身地に近い名古屋市の津島窯だそうで、小ぶりで口づくりや黒釉薬の流れが味わい深い茶碗です。

茶入は古瀬戸の丸壷、鵬雲斎大宗匠の「松聲(しょうせい)」という銘があります。丸壷がかわいらしく、茶と黒の釉薬が魅力的な景色を醸し出していました。このような茶入とお出会いがあったのが羨ましいです・・・仕覆は牡丹二重蔓金襴だったかしら??

茶杓は繊細な2つの虫食い穴が印象的な古竹で作られ、銘「閑日月」(紫野・方谷浩明師作)です。「のんびりと一日一日を大事に過ごしていこう・・・」という意味でしょうか・・・いいなぁ~

 

    (点前座の障子の景色が刻々と変化します・・・後炭の風炉中拝見)

 

最後の薄茶になり、半東T氏にも相伴して頂き、一期一会の幸せな時間を全員で共に過ごしました。

「清風」と鵬雲斎大宗匠が書かれた茶椀でお薄をたっぷり頂き、100才を迎えられた大宗匠が歩んで来られた茶の道程に思いを馳せました。薄茶の茶杓銘「養老」にM氏の温かな激励の気持ちが伝わって来て嬉しかったです。

暁庵も「無明払曉」の中、とにかく出来るところまで一生懸命にお茶を生徒さんに教え、同時に今自分に出来る「立礼の茶事」に取り組んでいこう、今までご縁があった方をお招きして・・・と覚悟を決めて踏み出したところでした。

そのこともあって、M氏から「水無月の茶事」を通して、たくさんのエールを頂いた気がして感無量でございました。

きっとYKさまもKTさまも同じ思いでM氏のエールを受け取ったことでしょう。

帰り道、本当に幸せな時間だったわね・・・と異口同音でした。

渾身のおもてなしを頂きまして、誠にありがとうございました。    

 

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箱根・水無月の茶事に招かれて・・・(1)

2023年07月03日 | 社中の茶事(2018年~)

 

 

令和5年6月25日(日)に社中M氏の「水無月の茶事」にお招きいただきました。

「水無月」の「無」は「の」を意味していて、水が無い月ではなく雨が多く水が溢れる「水の月」を表わしているそうです。

暁庵をお招きくださったM氏は長年の茶道精進の甲斐あって昨年目出度く準教授を坐忘斎お家元から拝受し、そのお礼の茶事に招いてくださったのでした。

翠滴る山懐に抱かれた箱根湯本の仁庵へ次客YKさま、詰KTさまと3人でいそいそと出かけました。

紫陽花が鮮やかに咲き乱れる仁庵へ伺うのも5年ぶりでしょうか? 

 

 

広間の待合には煙草盆が美しく調えられ、床に「喫茶去」の横物が掛けられていました。御筆は紫野弧蓬庵・小堀卓厳師です。

大好きな禅語「喫茶去」が嬉しくも、厳しくも心に迫って来ました。きっとご亭主は万感の思いで美味しい御茶を練ってださると思うし、御茶を頂戴する客もそのお心にしっかりと応えなくてはなりません・・・ね。

詰KTさまが板木を打つと、半東T氏が紅い切子のグラスに冷たい飲み物(梅ワイン?)をお運びくださり、腰掛待合へご案内頂きました。冷たい梅ワインが乾いた喉をゆっくりと潤してくれ、期待で胸を膨らませながら腰掛待合へ向かいました。

 

 

腰掛待合で辺りの風情を楽しみながら待っていると、ご亭主M氏が水桶を持って現われました。ご挨拶を交わし、緑の苔に覆われた露地を通リ、蹲で身を浄めてから仁庵(四畳半台目席)へ席入りしました。思いがけなく立礼席になっていて温かなご配慮を感じ、嬉しかったです。

床の御軸は「無明払暁」と何とか読め、米寿大龍と書いてあったような・・・。

相国寺・有馬頼底師の八十八歳の御筆だそうで、「無明払暁・・無明の中、今ここから始まる」を意味するとか・・・。

      (「無明払暁」と書かれた御軸)

「無明払暁」と伺って、以前訪れた直島(香川県香川町)の「家プロジェクト」の一つ、「南寺」(ジェームス・タレル)をぼんやり思い出しました。

一足中へ入ると、そこは漆黒の無明の世界でした。暗闇の中を不安、恐れ、期待を感じながら壁を伝って進んでいくうちに、身体に染みついた常識や不要な感情がそぎ落とされて、本来の人間の持つ感覚だけが研ぎ澄まされていくようでした。

ベンチに座り、しばらく無明の世界へ身を置きました。すると、闇に目が慣れたのでしょうか? 一筋の光明が見えてきて、次第に目が明るさをとらえていきました・・・。

私には難しい仏教的な意味合いはわかりませんが、これから切り開いていかれるM氏の茶の世界への光明(道しるべ)を示しているように思われ、心の中で応援の拍手をしました・・・。

 

       (仁庵にある道しるべ)

懐石になり、仁庵・調理長心尽くしの懐石を感激しながら賞味しました。特に湯葉しんじょう水無月の煮物椀が絶品!でした・・・。

記念に献立の写真を掲載します。 つづく)

 

     箱根・水無月の茶事に招かれて・・・(2)へつづく

 

 


「洛南の秋の茶事」を終えて・・・(2)

2022年10月31日 | 社中の茶事(2018年~)

           (桂籠に秋の草花が溢れて・・・)

 

つづき)

昼食を終え、菓子が出されました。

菓子銘は「さわもみじ」、洛南・山崎の地は桂川・宇治川・木津川が合流し淀川になる三川合流地帯で、秋になると赤や黄の紅葉が三川の沢を美しく彩るそうです。Sさんはそんな情景をお伝えして、ご近所の菓子屋「雅炉(がろ)」(横浜市保土ヶ谷区)に特注して創ってもらいました。

          菓子銘「さわもみじ」  

      (天王山・旗立松展望台からの景色)

中立の後、銅鑼で後座の席入りです。

床に秋の草花が溢れています・・・ススキ、照葉、吾亦紅、薔薇の実、シュウメイ菊、菊、リンドウ。

床の花をご覧になってハッとしてため息をつかれた方もいらしたと伺い、ご亭主は嬉しかったことでしょう。

お点前が閑かに始まり、濃茶が2服練られ、正客N氏と次客NYさまに出されました。三客F氏、四客Y氏、詰Iさまは水屋からお出ししました。

「お服加減はいかがでしょうか?」

茶銘は「天王山」(山政小山園)、本能寺の変ののち、豊臣秀吉と明智光秀の天下分け目の合戦の地であった山崎の天王山に因んでいます。

茶事の主眼は濃茶なので、いつもどきどきしながら濃茶を見守り、応援しています・・・。

主茶碗は妙喜庵の銘のある、思い出深い赤楽茶碗です。お替えの4碗は黒楽、白楽(加藤石春造)、吉向焼(吉向松月七世造)、呉器御本(加藤錦雄造)でした。

 

拝見で出された茶入は丹波焼の肩衝(市野信水造)、仕覆は鶴ヶ岡間道です。こちらはSさんの生まれ育った兵庫県を丹波焼に、現住の地への思いを鶴ヶ岡間道に込めたそうです。

茶杓は高桐院・松長剛山和尚の御作で、銘「花の宿」でした。

 

 (干菓子の「藤袴」と「花ごころ」、菓子器は輪島塗溜塗蒔絵の久利喜鉢)

 後炭を省略し、薄茶になりました。

薄茶になってやっと緊張が解けてきたようで、茶席から大きな笑い声が聞こえてきて水屋でホッとしました。

薄茶の茶碗は、主茶碗が赤膚焼( 古瀬尭三作)、替え茶碗は 萩焼(喜村晧司作)、絵唐津(中里清和作)、京焼・栗絵(中村良二作)、京焼・撫子絵(橋本紫雲作)です。

薄茶は「式部の昔」(山政小山園詰)です。

お干菓子は2種、源氏香「藤袴」(会津葵製)と「おぼろ種花ごころ」(京下鴨・宝泉堂製)を輪島塗溜塗蒔絵の久利喜鉢に盛りました。こちらにも花好きのSさんらしいこだわりが感じられます。

薄器は和紙貼大棗(石井鳳凰造)、一見和紙貼で地味なのですが、蓋を開けると秋の草花が見事に描かれていて、とても趣も奥も深い棗でした。

終わりのご挨拶の後、見送りをし、Sさんの心を込めたお茶事が楽しく無事に終了しました。

全部はご紹介できませんでしたが、お道具のほとんどはSさんが時間を掛けて捜したもので、それだけでもこのお茶事に掛ける熱意が伝わってまいりましたが、きっと愉しい時間だったのでは・・・と推察しています。

暁庵は水屋であれこれ想像するだけですが、次回はぜひ席中でSさんのステキなお話を伺いたい・・・と思っています。

どうぞまたお茶事を存分になさってください。楽しみにしておりますし応援できれば嬉しいです・・・

 

 

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