暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

神の月の茶事ー2

2014年10月10日 | 茶事  京都編
(つづき)
懐石献立は萩の月の茶事とほぼ同じなのですが、
栗とキノコ類(松茸、なめこ)が実りの秋の懐石を彩ってくれました。
最初は一文字、二椀目は栗ご飯を飯器でお出ししました。
さらに「もう一度飯器をお出ししますが、どちらにしましょうか?」
すると一斉に「栗ごはんでお願いします!」 超嬉しいリクエストです。

懐石、初炭と進み、主菓子を縁高でお出しし、中立をお願いしました。
主菓子は虎屋の「栗蒸羊羹」、この季節になると食べたくなる、お薦めの菓子です。

中立の間に湯相を調え、お軸はそのまま荘り残して、
釣り花入へ利休草、あけぼの草、桔梗をいけ、座を清めます。
水指は、神の月の茶事なので清浄感のある木地釣瓶を選び、茶入をかざりました。
今、シンプルで清々しい木地釣瓶がお気に入りで、風炉ではこれだけでも良し・・・
と思うほどです。
            

銅鑼を5つ打って、後座の迎え付けです。
まもなく、絹づれの音が聞こえてきました。
席入の様子を窺いながら温めた茶碗を二つ用意し、茶道口へ座ります。
呼吸を調えてから静かに襖を開け、茶碗を運び出し、濃茶点前が始まりました。
帛紗を捌くと、見守るお客さまの緊張感が伝わってきて、私の緊張と増幅し、
座が一体となるような心地好さを覚えながら点前をしました。

4人のお客さまに美味しい濃茶をたっぷり飲んで頂きたくて、
重茶碗ではなく茶碗二つを持ち出し、先ず2名様分を練ってお出ししました。
お服加減を尋ねてから、もう一つの茶碗へ濃茶を入れ、後の2名様へ。
点前順序は二椀目を建水と一緒に持ち出す以外は重茶碗とほぼ一緒です。

            
               虫明焼の茶碗・・・ピンボケですが

「お服加減はいかがでしょうか?」
「とてもまろやかで美味しゅうございます。どちらの?」
「一保堂の「北野の昔」でございます」

一碗目は高麗御本三島、二椀目は黒楽、長次郎写しです。
茶入は4年ほど前の九州旅行中に出逢った「朝鮮唐津の茶入」(井上東也作)、
その時のエピソードをご披露しました。
仕覆は小真田吉野間道です。
茶杓は黄梅院の太玄和尚の銘「秋紫雨」、微妙なしぐれ模様が気に入っています。

            

久々の後炭が楽しかったです・・。
なにせお稽古を共に励んでいる茶友が優しく見守ってくださるので、
平かな心で後炭手前をすることができました。

時が経つのは早く、あっという間に薄茶になってしまいました。
干菓子は田丸彌の「貴船菊」と若菜屋の「焼き栗きんとん」です(煙草盆は省略)。
葦に雁絵の虫明焼と京焼「御所の秋」の茶碗で薄茶をお出ししました。
薄茶は、一保堂の「丹頂の昔」です。
お稽古や茶道具のこと、炭焼きと茶炭、他流の茶会など
いろいろなお話が入り混じり、自服もさせて頂き、心あたたまる薄茶タイムでした。
お稽古の時のように、いつまでも皆で一緒にいたいような・・・。

こうして、灑雪庵・神の月の茶事が終了しました。
この日の見送りは送り銅鑼です。
いつものことですが、万感の思いを胸に銅鑼を打ちました。

・・・大・・・小・・中・中・・・大
                                   
          神の月の茶事-1へ戻る

神の月の茶事-1

2014年10月09日 | 茶事  京都編
              吉田山(神楽岡)にある吉田神社

早や神無月(10月)も9日を過ぎ、昨日は十五夜、皆既月食、寒露でした。

10月4日(土)に「神の月」の茶事をしました。
お客さまはS先生のご指導の元、ともに稽古に励んでいる4人の方々です。
開催予定が一度流れて、この度お招きできてホッとしています。
次の歌を添えて、御茶一服のご案内を差し上げました。

   神無月 時雨もいまだ降らなくに
     かねて移ろう神なびの森      よみびとしらず(古今)

神無月とは神の月という意味だそうです。
神さまはもちろん出雲大社へお集まりになるのでしょうが、それは一時のこと、
神なびの森にも神社のお社にも神様はいらっしゃるそうです。

灑雪庵に近い吉田山は神楽岡(かぐらおか)とも言い、神さまのメッカのような場所で、
京都の節分で名高い吉田神社をはじめ、菓祖神社、山蔭神社、吉田神社斎場大元宮、
竹中稲荷社、宗忠神社などがあります。

             
              全国の八百万の神を祀る吉田神社・大元宮

             

神の月らしさを・・と思い、煙草盆は吉田神社の福枡にしてみました。
待合の掛物は富岡鉄斎の画いた草花と菊を表装したものです。
詳しいことはわからないのですが、草花が枯れたハスのようにも見え始め、
以前Kさんが名残りの茶事で掛けてくださったお軸の禅語を思い出しました。

  荷尽己無雨蓋
  菊残猶有傲霜枝
(読み下し)
  荷(はす)は尽きて己(すで)に雨を(ささ)ぐるの蓋(かさ)無く
  菊は残りて猶(なお)霜に傲(おご)るの枝有り

             

本席のお軸は、金剛経の一節で足立泰道老師に書いて頂いた
 「応無処住而生吾心」(おうむしょじゅう にしょうごしん)
(読み下し)
  住むところを無くして、しかもその心を生ずべし

捉われていることを全て無にしなさい。そして、その無の中から
湧き上がってきた自分の思いを大事にしなさい・・・とお伝えしました。

ご挨拶のあと、お香を聞いて頂きました。
予め温めておいた香炉へ紅く火のついた香炭団(山田松香木店)を入れ、
Wさまから頂戴した菱灰をふんわりと盛り上げ、空気穴と聞き筋を入れました。
正客前に香盆を運び出し、「どうぞお申し合わせでお香を・・」と香所望です。
次客のSさまがお香を焚いてくださると、まもなく薫香が末席まで満ちてきました。
お香は火の加減が微妙なのでいつもドキドキです・・・。
             

正客Tさまから順次聞き回し、穏やかで心豊かなひと時を共有しました。
「優しく雅な香りを楽しませて頂きましたが、お香銘は?」
「ご案内の和歌・・・神無月 時雨もいまだ降らなくに かねて移ろう神なびの森
 より「神なび」(伽羅)でございます。
 「神(かん)なび」とは神が隠れ籠もる・・という意味だそうです」

「まだ佳い薫りが楽しめますのでもう一巡お回しください。
 菱灰の作者さんがいらっしゃるので菱灰についてお尋ねくださいませ」
香盆を詰のWさまに託し、懐石準備のために心を残しながら席を離れました。
                               

           神の月の茶事-2へつづく