○ 会社買収の際等に、Due Diligence(DD)の一環として対象企業の主要な役職員の詳細を調べるときがありますが、最近は個人情報保護との関係をどの様に考えたら良いのか、悩ましい問題が出てきていますね。特にメーカで主要研究開発者とそのテーマ、あるいはソフトウェア会社の場合等は、主要な役職員の職務経歴書、スキルシート等は、買収を検討する際の重要な情報であり、これをきちんと調べないといけませんね。
○ ところで、個人情報の定義ですが、個人情報保護法第2条では、「個人情報」とは、「生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)をいう。」としています。
○ また、一般的に、個人情報保護規定を制定している会社での定義は、もっと詳細に規定していますね。例えば以下ですね。
「個人情報」とは、
(ア) 当社の製品・サービスの個人顧客、当社取引先企業・団体に所属する個人、あるいは、当社の求人に対する応募者等に関する個人的情報、又は、当社の取締役・監査役・従業員(以下「役員・従業員等」)に関する個人的情報であって、
(イ) それに含まれる、氏名、年齢、生年月日、住所、電話・ファクシミリ番号、メールアドレス等の記述や個人別に付された番号、記号、符号、画像もしくは音声により、当該個人を識別できるものをいう。
尚、当該情報のみでは識別できないが、他の情報と容易に照合でき、それにより当該個人を識別できるものを含むものとする。
但し、法人の役員で営業報告書・有価証券報告書等により公表されるもの、及び役職員の責によらざる事由で公知となった情報で当該個人がその公知性に異議を唱えないもの等は除く。
・ 尚、個人情報保護法施行令第2条では5000人以下のデータベース保有の会社は、個人情報取扱事業者から除外されていますね。これは小規模事業者へのコスト負担軽減の配慮で、勿論当事者としては個人情報保護に配慮しないといけませんが。
○ M&A案件で、売り手側アドバイザーの投資銀行の人が、個人情報は開示できません等と言うことがあります。M&Aで会社を買収することは、スキルを持った有能な人の一挙獲得という場合も多いと思います。人の内容を知る事は非常に重要な場合が多いですね。その投資銀行では、中途採用するときに職務経歴書・スキルシート等を見ないのでしょうか。そんな事あり得ないですよね。自分が採用する人が、何をしてきた人か分からず採用する企業なんてありませんね。
・ M&Aのときに、経営者・役員ぐらいまではインタビューするときもありますが、個別の主要従業員までインタビューはしませんし、そういったM&Aが進行していることも、社内では極秘になっているときも多いですね。従い、インタビューは無理でも、せめて職務経歴書・スキルシート等のチェックで、従業員の概要を調べないといけません。
○ 個人情報保護法では、M&AのDDで買収候補企業に個人情報を提供することは、全くの想定外ですね。そうかと言って、DD中に各個人から開示の承諾を一件ずつ取ることも無理ですね。ではどうすれば良いのでしょうか?
・ M&Aの場合は、どういった能力のある、あるいは職務経歴のある人の集まりかが重要ですね。ですから、必ずしも誰がどういった能力を持っているか迄は不要なケースが多いです。従い、特定の個人迄識別しなくて良いケースが多いと思います(役員の場合は特定しないといけませんが)。従い、例えば山田太郎さんの職務経歴書は不要ですが、Aさんの職務経歴書は必要で、これで良いわけですね。生年月日も不要ですね。ただ生年ぐらいは必要ですけどね。
・まあ、個人を特定出来る情報部分は伏せて買収候補者に見せるぐらいでしょうか。しかし、勿論、同時に組織図とか各部署の責任体制等も調査しますから、実は照合すれば特定出来るケースが多いのですけどね。買収候補企業は、最初に守秘義務契約書を結んでいますので、この辺は、まああまり情報開示出来ない等と硬直的な事をいうよりも、大人の対応といいますか、フレキシブルな対応も必要になって来ると思いますね。