まさるのビジネス雑記帳

勉強ノート代わりに書いています。

企業価値研究会の「買収防衛の在り方」について

2008-08-01 17:44:12 | 企業一般

     2008630日に、経済産業省の企業価値研究会が、「近時の諸環境の変化を踏まえた買収防衛策の在り方」という報告書を公表しました。経済産業省・法務省が2005527日に公表した「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」(以下「指針」)を踏まえて、500社を超える企業が買収防衛策を導入した実態とこれまでの裁判例を踏まえて、合理的な買収防衛策の在り方を探ろうとしたものですね。

     優秀な研究会メンバーの人たちが議論した割には、結局最大公約数の意見をまとめた感じで、深みの無い物足りなさを感じざるを得ない内容だと思います。主な内容としては、(1)八項目にわたる取締役(会)の行動規範(2)買収防衛策の発動が許容される場合として、濫用的買収と株主共同の利益を毀損するという実質判断に基づき、その必要性と相当性の要件を満たした場合を挙げています。また、プロセスを守らない買収者には、金員等を交付する必要はないとまで言っています。

     (1)については、取締役は保身を図ることなく、株主共同の利益のために、買収者に嫌がらせや邪魔をせずに真摯に検討すべしと言っています。同床異夢の株主、買収者という株主の利益を犠牲にするにもかかわらず、相変わらず「株主共同の利益」という言葉を使っています。「(社会に貢献する)企業の健全な成長」と言う方が正しいと思うのですか如何でしょうか。

     (2)については、プロセスを守らない買収者に金員を交付する必要は無いと言っています。これは言い過ぎで、感情論・勧善懲悪論ですね。別に買収者は違法な事をしたわけでもありません。買収者が収益を得るような金員等の交付は、確かに指摘のように買収防衛策の発動を誘発し、予定外のキャッシュアウトということで、企業の健全な成長を阻害する可能性がありますが、買収者の投下資本の回収ぐらいは何らかの方法で確保してあげないといけないですね。ブルドックの最高裁決定でも、「買収者を差別的に取り扱ったとしても、当該取扱が衡平の理念に反し、相当性を欠くものでない限り、株主平等原則の趣旨に反するものということはできない」と言っています。金員を交付されないと、買収者は多額の損失を負いますし、相当性を欠くものだと思いますね。

     その他、報告書についての疑問点をまとめて見ましょう。

1)      米国のライツプラン型(事前新株予約権交付で、買収者登場の際に買収者以外に株式を発行する)買収防衛策では、実際に発動されるというよりも、株主の判断の為に、被買収者の経営者(取締役会)が買収条件の改善・向上のため、買収者と交渉するための道具として利用されていると記載されています。これには重要な事実が開示されていません。被買収企業の経営者は、買収条件の向上、つまり買収価格の引き上げを目指しますが、株主のためという表の理由の他に、一般的には自分のストックオプション等によりがっぽり(何千万ドルになる場合もある)退職慰労金を貰えるGolden Parachuteがあるからですね。株主も儲かるけれども自分が一番儲かるわけですね。保身はいけないなどと言われていますが、米国ではしっかり退任する経営陣は私腹を肥やせる訳です。日本の経営者は保身すべきでは無いというのは「べき論」であり、やはり貢献度に応じた退職慰労金はやむを得ないでしょう。こういった点も報告書では触れてほしいですね。

2)      報告書では取締役会の行動規範として、「買収提案が株主共同の利益に資するものとなる可能性があるときは、買収条件の改善に向けて買収者との交渉を真摯に行わなければならない」としています。条件改善すなわち、TOB等の価格引き上げですね。中長期的に会社がどうなろうと、この際株式を買収者に売り飛ばして逃げるのが株主共同の利益ですというわけですね。買収者は、対象会社の資産を担保に借り入れしたり(LBO)して、対象会社の資産を毀損しますね。条件の改善は、株主に対するものであり、会社に対するものではありません。LBOのときは会社を借金漬けにする可能性があります。すなわち、企業価値を毀損する場合もあるということです。企業価値と株主共同の利益は、衝突する・相対立するときがあるということです。そういったことは報告書では分析されていないですね。

3)      「少数株主が残存しない100%現金買収の場合は、買収者が買収後の詳細な経営計画・見通しや業績予想までを開示する必要はないと考えられる」と記載されています。どうしてこんな視野の狭いことを言うのでしょうね。会社は、株主のものでもありますが、同時に従業員・取引先その他のステークホルダーのものです(法律論では無いですが)。まあ、インサイダーでもない買収者が経営計画・業績予想等公表しても、その通りに進むことなど常識的にはありえないですけどね。従い、株主はこの際株式を売却するのはいいですが、少なくともステークホルダーに大きな影響がありますね。きちんと開示する義務はあると思います。



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