監督アリーチェ・ロルバケル。イタリア。
いわゆる「ネタバレ」の個所もありますので、気を付けてごらんください。
Bunnkamuraルシネマで『幸福なラザロ』を見ました。不思議な感覚の映画です。静かな驚きに満ちていました。しかしメルヘンではありません。そこに登場する人間たちはみんな人間らしく、いい面、悪い面両方描かれます。だからこそいとおしく感じます。
映画的な手法として特筆すべきものがあります。前半と後半で時間が10年以上経過します。しかし見るものはそれにすぐには気が付きません。それはラザロだけが年をとらないからです。谷底に落ちてしまったラザロはオオカミに助けられ息を吹き返します。村に戻るともうそこには誰もいないのです。歩いて町に出てみると、そこにかつての村人がいます。このあたりから観客がようやく状況が読み込め始めます。何が起きているのかわからない不思議な感覚のまま映画は進んでいきます。観客はちょうどラザロの視点にたって、少しずつ状況を理解していきます。これはとても映画的な手法です。感心しました。
またテーマも切実です。前半は一部の人間が村の住民をだまし搾取しているという話です。しかし後半の「今」も同じように一部の人間が下層の人々を搾取しているだけなのです。状況は変わっていません。もしかしたら誰もが気づかないまま進んでいるという意味では「今」のほうが悪くなっているのかもしれません。
こんな状況の中では人間はだれもが醜い心を表に見せてしまいます。しかしどんな状況であろうと人間は小さな喜びを持ちながら生きていく、そんな美しさも持つことができるのです。そこに救いを感じることもできます。
いい映画でした。
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