東京芸術劇場シアターイーストでフロリアン・ゼレール作『La Mère 母』を見ました。現実と幻想の狭間の人間を描く、緊張感あるすばらしい舞台でした。
家族のために人生をささげてきた母。しかし大切に育てた息子は自分で暮し始め、彼女もでき次第に母から離れていきます。愛情過多の母が次第に鬱陶しく感じてもいるようです。夫にも愛人がいるようです。夫の嘘が心を突っつくように感じます。母は自分が生きがいとしていた家族に去られ、いつしか精神を病み幻想を見始めます。演劇はその幻想と現実の狭間を描き、事実がどこにあるのかがわかりません。観客は追い詰められていく母の姿を見詰めることによって、家族という不思議な存在を考えざるを得ません。非常に悲しく残酷な演劇です。
主演は若村麻由美。愛情過多であり、孤独を怖れる女性を見事に演じています。父親役の岡本健一もやり過ぎない演技で舞台を引き締め、若村麻由美との距離感を見事に作り出しています。息子役の岡本圭人も微妙な心理をうまく演じています。
引き締まった舞台であり、なおかつ心の迷宮に迷い込む感覚になります。名舞台です。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます