とにかく書いておかないと

すぐに忘れてしまうことを、書き残しておきます。

劇評『赤道の下のマクベス』(2018年3月8日 新国立劇場小ホール)

2018-03-08 18:17:24 | 演劇
 作・演出  鄭 義信
 出演    池内博之、浅野雅博、尾上寛之、丸山厚人、平田満、木津誠之、
       チョウヨンホ、岩男海史、中西良介

 ストレートに心を揺さぶるすばらしい舞台だった。多くの人に見てもらいたい作品である。

 1947年、シンガポールのチャンギ刑務所で、第二次世界大戦の「BC級戦犯」として収容されていた日本人と元日本人だった朝鮮人。彼らは死刑判決を受け死をただ待っている。それぞれにはそれぞれの事情があり、どこかに割り切れないものがある。しかし不条理な死を受け入れるしかない。朝鮮人は日本人に命じられて日本軍で活動していたのに、なぜ自分が死刑にならなければならないのだという思いが心の底にある。しかしそれを表に出しても意味はない。彼らの日々の心の葛藤は痛々しく伝わってくる。

 彼らはみんな生きたいのだ。死を恐れていはいるが、かといって何とか死ぬまでのわずかの時間も明るく精一杯に生きようとする。そうするしかこの不条理に立ち向かうことはできないのだ。彼らの精一杯明るく生きる姿は美しく輝いている。

 朝鮮人はこんな不条理を抱えていたのだ。そう簡単に日本人を許すことはできやしない。今日、いまだに日本と韓国、あるいは北朝鮮との関係がぎくしゃくしてるのはしょうがないということがよくわかる。「未来志向」という言葉で解決できるものではない。しかし時間はかかるがお互いをよく知ればいつかは理解し合える。この演劇はそれを教えてくれる。

 劇場に感動が渦巻く舞台であった。
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劇評『岸リトラル』(2018年3月7日 シアタートラム)

2018-03-08 08:49:14 | 演劇
【作】ワジディ・ムワワド
【翻訳】藤井慎太郎
【演出】上村聡史
【出演】岡本健一 亀田佳明 栗田桃子 小柳友 鈴木勝大 佐川和正 大谷亮介 中嶋朋子

 ストレートに迫ってくる演劇だった。観客は心を揺さぶり、観客は自らの心の醜さを見つめなおす。しかしそこから前に進む希望と意思を植え付ける劇である。最初はかつてのアングラ演劇のような「若気の至り」の演劇かなと感じたが、それ以上に力があるものであった。

 話の内容は死んだ父の埋葬場所を探し旅する子どもたちの話である。作者はワジディ・ムワワドという人だ。レバノン出身で内戦の中で生き延びてきた。だから死を常にまじかに見てきた。そのリアルな死を我々は体験することはできない。しかし、私もここまで生きてくれば大きな過ちも犯し、多くの人を意識的に、あるいは無意識に傷つけてきたのは否定できない。この演劇はそんな自身の罪をストレートにえぐりだし、見ていて苦しくなる。

 しかし人間は前を向かなければならない。過ちを犯しながらも、それを乗り越えてもっとすばらしい世界へとみんなの力で前を向かなければならない。そうならなければ「死」は無意味になる。「死」は終わりではないのだ。未来のためにあるのだ。この演劇はそんな希望を与えてくれる。

 長いし、ストーリーがつかみ辛いので疲れる演劇ではあるが、それ以上に心を揺さぶる演劇である。『炎 アンサンディ』も見てみたいと思った。
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子どもの人生が小さいときに決まる

2018-03-06 16:10:19 | どう思いますか
 出生前診断についてきのうブログを書いた。その出生前診断とは直接関係ないのだが、この報道を聞いて連想したのは、現代は子供が本当に小さいころから自分の運命が決められるようになったということだ。小さいころから知能検査、運動能力検査が実施され、ごく一部のこどもがエリートとして育てられる。これは現実に起こりつつあることだ。

 絵空事のように思う方もいるかもしれないが、教育に関心のある一部の富裕層の人たちは、自分の子供にどのような能力があり、その能力を伸ばすためには何でもしてあげるという態度である。親自身も学歴があり教育に関する多くの知識を持っている。だから親が我が子の教育コーディネーターになって、自分の思う方向に子供を導いている。こういう人がモンスターペアレントになるのだ。理屈は正しいのでごもっともというほかはないのだが、現実の場面での実行の難しさがわからないからどうしても議論は平行線をたどらざるを得ない。だから教員は疲弊する。

 一方そういう世の中の流れにまったく関心を示さないタイプの大人もまだたくさんいる。こどもは自分の力で成長すべきだという考え方である。それはそれでいいが、あきらかに学力面では劣ってしまう。それでもいいと思ってくれていれば世の中は平和である。

 そして経済的に厳しい親がいる。経済的に厳しいので仕事が忙しく、親は子ども面倒をみることができない。今は塾に行くにも、スポーツをさせるにもお金がかかるので、何もさせてあげられない。子どもは家でゲームをしているだけになる。そういう子供も一方では増えている。

 可能性とか、夢という言葉はみんな平等だから成り立つ言葉だ。ところが今は可能性も夢もない。子どもの時から現実と戦うだけだ。むなしい世の中になってしまった。
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出産前診断

2018-03-05 09:08:40 | 社会
 出産前診断というのがあるそうだ。その診断によって生まれてくる子供がダウン症である場合はわかるという。ダウン症であると診断された場合、多くの場合中絶を選ぶという記事を目にした。そしてその出産前診断が義務化されるかもしれないという報道がなされている。

 出産前診断の是非については私は意見を持たない。「持たない」というよりも「持てない」と言ったほうが正確だ。あまりにもデリケートすぎる問題で、どんな意見も軽く見えてしまうからだ。ダウン症の可能性を告げられた親の心の葛藤を考えると何も言うことができない。

 医療の進歩はすばらしい。医療の進歩によって新たな問題が生まれてくる。その時に私たちは自分の意志でそれに答えを見つけていかなければならない。そのためにはその時に初めて問題の存在を知るのではなく、様々な問題について事前によく理解しておき、常に考えている必要がある。日進月歩の医療だからこそ常に考え続けなければならないのだ。

 自分の目の前にそういう問題が生じたらどう行動するか。そういうことを考えさせる教育が必要なのだ。
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書評『AIvs.教科書が読めない子どもたち』(新井紀子著)

2018-03-04 08:02:07 | 読書
 AIについてわかりやすく説明してくれて、AIの発達がこれからの社会にどういう影響を与えるかがわかりやすく理解できる。そして教育の現状が指摘され、今後の教育の在り方について考えさせられる。とてもおもしろい本であり、教育関係者にとっては必読書である。

 筆者は東京大学合格を目指したAIロボット「東ロボくん」の開発者の数学者である。第1章ではその「東ロボくん」プロジェクトの説明がなされる。

そして第2章ではAI技術とは何かが説明される。AIというのは人間のはるかに超えた能力を一方では持っているが。結局はコンピューターであり、人間によって指示されたことしかできないということがわかる。

 次のことばがとてもわかりやすい。

 「論理、確率、統計。これが4000年以上数学の歴史で発券された数学の言葉のすべてです。それが、科学が使える言葉のすべてです。(中略)コンピューターが使えるのは、この3つの言葉だけです。」

 「数学が発見した、論理、確率、統計にはもう一つ決定的に欠けていることがあります。それは「意味」を記述する方法がないということです。」


 つまり、AIは「意味」が理解できないのである。だから東大には合格できないというのが筆者の考えである。とても説得力がある。しかし一方ではそんなAIでも、MARCHには合格できる力があるのだ。これはこれまで人間が行ってきた仕事の多くはAIにとってかわられることを示している。今後人間がやるべき仕事は「意味」に関わる仕事になってくるのだ。

 第3章では、このような状況であるのにも関わらず、多くの中高生が教科書を正確に読めないという調査結果を紹介して、教育の重要性を訴えている。これまでも教科書が読めない子供がいるという話は聞いていたが、ここまでひどかったのかと驚かされる。私は教員をやっているが、反省させられた。なんにも理解できていない高校生が本当に多いのだ。

 教育が大きく変わろうとしているが、その方向性を間違えてはいけないとあらためて思い知らされた本であった。
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