<印花魚文の装飾技法>
印花魚文盤の装飾技法としての器胎成形は、以下の2点が特徴として挙げられる。
○鍔縁
○カベットの鎬文
このうち鍔縁は大別して、以下の2種類がある。
1)口縁が立ち上がる、段付き縁・・・厳密には鍔縁と呼べないであろう
2)口縁が横に開く鍔縁・・・圧倒的にこの手が多い
次にカベットの鎬ぎ形成技法としては
① L字型と考えられる鉋を上から下へ運び、片切りで鎬を形成する方法
② 丸みを持つ刃物を上下に彫り込み、鎬を形成する方法
・・・の2種類が存在する。
また釉薬の発色は
A 光沢のある褐色
B 光沢のない褐色
C 暗緑灰色
D 飴色
・・・の4種類が知られている。
これら1)、2)、①、②、A、B、C、Dの組み合わせと、印花双魚、三魚、四魚各文の組み合わせにより、実に多くの装飾文様が存在する。以下、代表的な技法事例を紹介する。
<褐釉印花四魚文盤・東南アジア陶磁博物館>
技法の組み合わせ:1)-①ーA
釉薬表面に油を弾いたような斑紋が見られるが、これはサンカンペーンの一つの特徴である。
この鎬をどのように形成したのか? 九州の小鹿田焼のように、 飛び鉋の技法ともみえるが、鎬形状の規則性が薄く、掘り込みの深さもそれなりにあり、やはりL字型の刃物(鉋)で上から下へ片切りで、彫り込んだものと思われる。
鍔縁と呼べないような、立ち上がりをもつ段付き口縁の印花魚文盤や鉢は数が少ない。尚、四魚文はサンカンペーンでは極希少である。
<褐釉印花双魚文盤・東南アジア陶磁博物館>
技法の組み合わせ:2)-②ーA
丸彫刻刀のような道具で、カベットを縦に削りとった鎬文は比較的少ない。
<褐釉印花双魚文盤・清邁堂コレクション>
技法の組み合わせ:2)-②ーB
前者に比較し幅の狭い刃物で、カベットを縦に削り取った鎬文で、釉薬に光沢はなく、我が国で云う伊羅保釉に似た発色である。
<青磁印花双魚文盤・清邁堂コレクション>
技法の組み合わせ:2)-②ーC
青磁と表現したが、翠色の発色ではなく、暗い緑灰色の発色でサンカンペーンでは希少である。魚文の形や釉の発色から、パヤオとの類似性を思わせないでもない。
<褐釉印花双魚文盤・清邁堂コレクション>
技法の組み合わせ:2)-②ーD
褐釉ではあるが、その発色は飴色でサンカンペーンとしては、ポピュラーな盤である。
以上、5つの事例を紹介した。一見単調に思える印花魚文盤ではあるが、実に多様な装飾技法が、駆使されていることを感じることができる。いずれ、鉄絵文盤にみる装飾技法を紹介してみたい。