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祖霊と鳥

2020-11-22 08:07:57 | 日本文化の源流

――荻原秀三郎著『稲と鳥と太陽の道』―― シリーズ(6)

 

先ず荻原秀三郎氏の下記一節を引用することから始める。“古代中国には、祖霊をよく祀れば季節の運行にも恵まれ、穀物の豊熟がもたらされる、という考え方があった。死者の霊魂は地中に埋めた死体とともに地中で暮らし、子々孫々を見守るというのが、中国人の来世観である。祖霊祭は単に祖先を敬うだけが目的ではなく、手厚い祭祀により祖霊の加護を得て豊穣をもたらすという意味がある。つまり祖霊祭は豊穣祈願の農耕儀礼でもあった。祖霊の鎮まる墓所や祖霊が依りつく柱を対象とする祖霊祭が豊穣祈願祭であることは、中国小数民族の現在行われている民俗行事からも明らかである。“・・・その事例を列挙することは省略する。

そのような事例は我が国の民俗事例にも見出すことができるとして、愛知県奥三河・北設楽郡の『花祭の白山』を事例に、他界から鳥の姿をした祖霊がこの世に豊穣をもたらす鳥の信仰があったとしておられる。以下、引用である。

“古代における鳥は、予知能力を持つ霊鳥であり、他界から稲の豊穣をもたらす瑞鳥であった。鳥は天空を自由に飛翔することから、祖霊や神の居住する世界へ容易に移動できると考え、神の使いとみたり、霊魂を運ぶとして崇拝した。”

霊魂を運ぶものとしての鳥の信仰は記紀神話に登場する事例として、天若日子(あめのわかひこ)の葬送を掲げ、鳥が死者の魂の弔いに欠かせない存在であることを示している。さらに次のように進む。“鳥が死霊を運ぶという観念は、他界へ向かう舟の舳先に鳥をとまらせた珍敷塚古墳の天の鳥舟の彩色壁画で知られる。

対馬では墓地の竿にとまり死霊を運ぶ。これは朝鮮半島南部のソッテの対馬バージョンであろうが、ソッテは豊穣祈願と災難除け、子孫繁栄を主たる目的としている。・・・とすれば対馬・曲の鳥竿は祖霊を他界へ運ぶと共に豊穣を祈願するためのものとも考えられる。“

(出典:荻原秀三郎著『稲と鳥と太陽の道』)

祖霊と鳥は、指摘されているように結びつくものと考えられ、珍敷塚古墳壁のみならず、多くの事例が存在する。

<シリーズ(6)了>

 


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