2021年5月28日 読売新聞「編集手帳」
かわいい大きな目をした青虫がリンゴやケーキをどんどん食べて育っていく。
サナギになり、
やがては美しいチョウへ――。
エリック・カールさんの絵本『はらぺこあおむし』である。
世界的なロングセラーとなるこの本は1969年、
じつは日本で初版本が印刷された。
子供たちが触れて喜ぶようにと、
絵のところどころに穴を開ける凝った仕掛けに当時の米国の出版社は尻込みした。
困ったすえに印刷技術の高い日本の出版社に企画を持ち込み、
世に出たという経緯がある。
「色彩の魔術師」と呼ばれたカールさんが91歳で亡くなった。
本棚に「あおむし」のいた思い出のある方は多かろう。
『パパ、お月さまとって!』や『くまさん くまさん なにみてるの?』も息長く読まれている名作だ。
飛行機が苦手なのに「日本のすべてが好き」と語り、
何度も来日したカールさんは4年前、
読者への手紙を本紙に寄せた。
<長年、
私の本と絵を子供たちと大切に分かち合ってくれていること、
そして親から子へ、
希望とともに絵本を受け継いでくれていることに感謝の気持ちを捧げます。
ありがとう>。
こちらこそ。