2021年4月8日 NHK「おはよう日本」
長崎の沿岸の養殖用の生けす。
5,000匹のマダイ。
重さ2キロに成長し本来なら出荷するサイズだが
コロナ禍の需要の落ち込みで生けすに残ったままである。
長野さん(35)は高校を卒業後に養殖漁業の世界に入り
2年前 祖父の代から続く養殖漁業の会社経営を引き継いだ。
(養殖漁業者 長野さん)
「今が一番おいしい時期だが
全然売れなくて困っている。」
もともと長野さんの会社の主力商品は高級魚のトラフグである。
ただトラフグはその年ごとの需給バランスで価格が大きく変動するリスクがある。
そこで経営安定化の切り札にしたいと
長野さんが拡大してきたのがマダイやシマアジの養殖だった。
この日出荷したシマアジは50匹のみ。
トラックに3つあるタンクのうち1つしか使えなかった。
(仲買業者)
「でかいトラックで来たけど
きょうはもう少ないからこれでいい。
やっぱり需要がどうして落ちている。」
(養殖業者 長野さん)
「少量でも出して行かないと減らない。
悔しい思いはたくさんある。
本当に“コロナのバカ野郎”というぐらい全然売れなくなった。」
経営環境が厳しさを増すなか長野さんの心の支えとなっているのが
去年の春 尊敬する先輩から教わった“打つ手は無限”という言葉である。
千葉県出身の実業家の言葉で
事務所の壁に大切に貼っている。
(養殖業者 長野さん)
「“ダメダメダメ”と思えばもう駄目になっていくし落ち込んでいく。
だけどちょっと視線を変えれば
いろんな角度からみれば
もっといろんな事ができるかもしれないということで。
“そうだな”と思った。」
打つ手は無限。
長野さんが去年10月に打ち出したのが
スマホのアプリで手軽に注文できる魚の直販サービスである。
市場を通じて出荷していたやり方を見直したのである。
家庭で調理しやすいよう切り身の出荷にも対応している。
滑り出しは上々だった。
コロナ禍で送料無料にする国の支援事業が追い風になって
1日70件の注文が舞い込む日もあり
消費者から届く生の反応が励みになったという。
ただ送料を無料にする国の支援事業がいったん終わると
注文はたちまち10分の1にまで減少したのである。
(養殖業者 長野さん)
「国の送料無料の事業にそのまま頼っていても駄目ということなので
1人でも多くの人に知ってもらえるようにしなくてはいけない。」
国の支援事業頼みでは長続きはしない。
“打つ手は無限”
長野さんが3月に打ち出した次の一手は
自分の魚の地道なファン作りだった。
観光団体や飲食店と連携して
養殖漁業を知ってもらう体験ツアーを企画したのである。
ツアーに招いたのは若者たちである。
魚の育て方やえさやりのこだわりを説明。
えさやりを体験したり魚に触れてもらったりした。
水揚げしたばかりの魚を目の前でさばき味わってもらう。
「甘い。
めちゃくちゃ甘いですね。」
コロナ禍を通じて自らの生産者としての意識が変わってきたという長野さん。
これからもあの手この手を打ち出していく考えである。
(養殖漁業者 長野さん)
「自分たちは生産者で
今までは魚を作ればいいだけだったが
このjコロナを通じて
自分たちが作った魚を自分たちで売るということを勉強させられた。
常に攻めの姿勢でいろんなことをしていかなくてはいけない。」