1月16日 キャッチ!世界のトップニュース
約70年にわたってイスラエルと対立してきたアラブ諸国。
その中でも今イスラエルが急接近しているのがペルシャ湾に面した湾岸アラブ諸国である。
去年11月イスラエルのネタニヤフ首相は国交のないオマーンを電撃訪問し
中東情勢をめぐり意見を交換。
突然の訪問は中東諸国を驚かせた。
その後イスラエルの閣僚3人もUAEアラブ首長国連邦などを訪問。
狙いは共通の敵となっているイランへの対抗軸を固めるためである。
UAEを訪れた女性閣僚は
イスラム教徒と同じようにヒジャブを被り
アブダビの象徴となっているモスクを表敬訪問した。
(イスラエル レゲブ文化スポーツ相)
「ここからわが国と湾岸諸国の平和と繁栄を祈ります。」
一方UAEは
自国で開催した国際柔道大会で優勝したイスラエル選手のために
初めてイスラエル国家を流し
接近する両国の関係を印象付けた。
さらにイスラエルは戦略的な関係を深めようと
湾岸アラブ諸国に対してインフラの共同プロジェクトも提案している。
(イスラエル政府制作)
この鉄道で
イスラエルと湾岸諸国の交流が拡大し
お互いの経済発展につながるでしょう
その名も「平和鉄道」。
ペルシャ湾で有事が発生しイランがホルムズ海峡を封鎖した場合でも
イスラエルと湾岸アラブ諸国をつなぐ鉄道によって物資の補給を確保できると
安全保障上のメリットを強調している。
この鉄道で
イランがホルムズ海峡の及ぼす安全保障のリスクを回避できます
接近を図るイスラエル。
一方 湾岸アラブ諸国の側には
これまで抱いていた“反イスラエル”の感情が薄れる兆しが出てきている。
テルアビブに本社を置く幼児や小学生向けの教育アプリを開発・運営しているIT企業。
各国の教師たちが自作のソフトを公開し
閲覧した教師がソフトをダウンロードして授業で使う仕組みである。
このアプリはイスラエルと国交のない湾岸アラブ諸国で利用が広がっていて
このうちユーザーが最も多いのがサウジアラビアである。
積極的に利用している教師は約10万人にのぼる。
アプリがイスラエル製だと気づかずに利用するケースが大半だが
気づいた場合でも解約されたケースはこれまで1件も無いという。
(IT企業 CEO)
「利用者と連絡を取る際
必ずイスラエル企業だと名乗ります。
大切なのは政治的関係を超えて利用者と価値を生みだすことです。」
湾岸アラブ諸国の側でイスラエルとの接近を推し進めてきたとされるのが
サウジアラビアの改革者
ムハンマド皇太子である。
ところが去年10月
重大な事態が発生した。
サウジアラビア人ジャーナリスト カショギ氏の殺害事件で
ムハンマド皇太子自身が深く関与した疑いが浮上したのである。
国際的な非難が高まり
“皇太子の立場は危うくなるのではないか”という見方も出た。
これに対しサウジアラビアを擁護する立場にまわったのがイスラエルだった。
(イスラエル ネタニヤフ首相)
「イスタンブールの大使館で起きた事件は
非常に恐ろしく
適切に対処すべきだが
中東地域の安定にはサウジアラビアの安定が極めて重要だ。」
イスラエルのテレビ局もサウジアラビアの首都リヤドと異例の中継を結んで好意的な反応を伝え
両国関係が改善に向かう流れを印象付けた。
(イスラエル チャンネル2の番組 サウジアラビアのジャーナリスト)
「ネタニヤフ首相に感謝しています。
ユダヤ人とは問題ありません。
共通の敵はイランです。
イランに対抗するための方法を共に模索する必要があります。」
イスラエルと湾岸アラブ諸国が大きく動き出した背景は
2017年5月にトランプ大統領がサウジアラビアを訪問し
イランを抑え込むためとしてアメリカとアラブ諸国の連帯を強く打ち出したことである。
たとえばサイバーの分野ではこれを境として
イスラエルとサウジアラビアのサイバーセキュリティーの政府担当者や関連業者が
互いの国を直接行き来するという
以前であればありえなかった状況である。
またイスラエルの対外諜報機関モサドは
海外での諜報活動の経験が乏しいサウジアラビアに対し
イランに関する多くの機密情報を提供しているということである。
いずれもイスラエル側が湾岸アラブ諸国のサポートにまわっているのが協力の実態である。
イスラエルが湾岸アラブ諸国に接近するのはイランに対抗するためだけではない。
難航するパレスチナとの和平交渉を脇に置いたまま
湾岸アラブ諸国と国交の正常化を図る狙いである。
イスラエルとパレスチナの和平交渉は「中東和平交渉」と呼ばれてきたのは
両者が和平を結んだあかつきには
他のアラブ諸国もイスラエルとの和平に応じる。
そして中東全体に平和が訪れるという道筋だった。
しかしいまイスラエルはその道筋をひっくり返そうとしている。
イラン問題をてこに湾岸アラブ諸国と先に和平を締結できれば
安全保障は一気に改善できる。
さらにパレスチナは後ろ盾を失って
イスラエルはパレスチナとの和平交渉も有利に運べるという思惑が指摘されている。
イスラエルの湾岸アラブ諸国への外交戦略は今後
“カショギ事件”を理由にやりづらくなるだろうという見方と
むしろ一層進むという相反する見方がある。
前者はいわば針のむしろに座るサウジアラビアがこれ以上イスラエルとの接近を受け入れれば
さらなる批判を招きかねないとして
しばらく控えるというものである。
後者の方はサウジアラビアにとっては“カショギ事件”の難局を乗り切って
ムハンマド皇太子を将来の国王に無事就任させるにはアメリカの後ろ盾が欠かせない。
アメリカの支援を得るためにより一層イスラエルに歩み寄るという選択肢である。
いずれにせよイスラエルのネタニヤフ政権は蜜月の関係にあるトランプ政権と緊密に連携して
情勢を値踏みしながら
湾岸アラブ諸国への接近を続けていくことになる。