2月28日 編集手帳
夏目漱石の『三四郎』に〈ストレイシープ=迷える羊〉が語られている。
新約聖書のマタイ伝が出典らしい。
100匹の羊のうち1匹が迷えば、
羊飼いは99 匹を残してでもその1匹を捜し求める…
「命令された万引きを断ったら、
暴力を振るわれた」
「学校には行くな、
と言われている」。
公園で出会った小学校時代の同級生に、
少年は目の周りや腕にあざの残る姿で語ったという。
残忍な狼(おおかみ)の群れに捕らわれた小羊の孤独を思う。
絶望を思う。
首や顔などを刺されて殺された川崎市の中学1年生、
上村遼太君(13)である。
抜けたくても抜けることを許さなかったグループの、
少年3人(17~18歳)が殺人容疑で逮捕された。
ここに吐き出し、
叩(たた)きつけたい言葉をいまは腹に飲み下し、
犯行の全容解明を待つ。
〈子は抱かれみな子は抱かれ子は抱かれ人の子は抱かれて生くるもの〉(河野愛子)。
学校と警察と家族が手を合わせて繭のように幾重にも抱きしめ、
狼どもの牙から小羊を守ってやれなかったか。
誰もが深い悔恨とともにわが身を責め苛(さいな)んでいるだろうことは承知しつつ、
やりきれぬ思いが胸を去らない。