minga日記

minga、東京ミュージックシーンで活動する女サックス吹きの日記

来る者は拒まず・・・30年。

2013年02月02日 | ライブとミュージシャンたち
30年という年月は長いようであっという間だ。カウンターには缶詰が山積み。おつまみに缶詰出すところってあけたの店とここくらいだろうw。この店はいっきさん(もちろんかける音楽も)の魅力で成り立っている。

ぺーぱーむーんでライブをやる度に胃が痛くなったり、いっきさんが満足するような演奏できるのだろうか、とか不安でいっぱいだったあの頃。いっきさんはよく、お客さんに「ライブっていうのは2セット全部聴かなきゃ伝わらないんだ。最後にキラっと光るものが一瞬でもあれば、それでいいんだよ。」と言っていた。

2セット終ってもいっきさんが納得いかない演奏の時は「もう一曲、アップテンポの曲をやってくれ!」とリクエストしてくる。できないくらいの早いテンポで人間の限界に達したあとに起こる化学変化のようなものがジャズにとっては最も大切なもの、といっきさんは私たちに教えてくれた。

「綺麗な、上手な演奏なんか糞くらえ、そんなものには興味ないんだ、まる裸でぶつかりあって生まれてくる何かを見たいんだ。」と口癖のように言っていた。

そんないっきさんとはお客さんもミュージシャンたちもよく喧嘩もした。「なんだい、この因業じじい!」といってべそ書きながら帰って行った若者もいた。アルバートアイラーが流れている中で「さっきの演奏より、このアイラーの方がいい!」と言った若者に缶詰を投げて激怒したこともあった。メガネがふっとんで割れたのにもかかわらず、その青年はあとからイチゴを買って来て謝った。「去る者は追わず、来るものは拒まず」のいっきさんは絶対に喧嘩しても「帰れ!もう2度と来るな!」なんて事は言わない人だった。だから、みんないっきさんと喧嘩しても、次に何事もなかったかのように飲みにやってくるのだ。本当に魅力的な人だと思う。

30年続くという事は並大抵の事ではない。そして、この前のライブには30年(下手すると、前の店時代からだから35年?)通いつづけている常連客たちが集った。まるで同窓会のようだった。高校生も一人いたけどw。

RIOもここが私たちの聖地だということをよく知っている。「なんだか、いつもと空気が違うよな。」とつぶやいていた。そして、2セット目の頭に、ソロをやってくれ、と無茶振りをされて快く演奏。これにはいっきさんもいたく感動していた。





最初から温かい客席の歓声で気を良くした私たちは楽しくあっという間の2セットが終了。昔緊張で胃が痛かった事もあったのに、心から楽しんで演奏できるなんて・・・「さっちゃん、昔と違って、ずいぶん余裕だったなあ。」と東大教授の松原さん。一緒に富士山に登って演奏したときの応援隊の一人でもある。10年振りに聴きに来てくれて、「まさか、『息子が入って3人で演奏する』と聞いていたけど、こんなに立派になっていようとは・・・」とひたすら褒めてくれたのがとても嬉しかった。

演奏後、息子は帰ったが、私たちは常連たちと残って飲んでいると、いっきさんが「さっちゃん、ソロで一曲吹いてくれよ。30年のお祝いだからさ。」

そう言われたら断れるはずがない。ピンガ1杯飲んじゃったからちょっとヘロヘロだったけど、息子もソロを頑張って吹ききったから、いっちょ私もやってみるか。

いっきさんの為に、昔よく演奏したファラオ・サンダースの曲を1曲吹いた。演奏中に走馬灯のように昔の事がいろいろと思い出され・・・気がついたらヘイデンのPassionariaも吹いて、途中でみんながキナパジュンの「不屈の民」で歌い出すシーンも。本当にここの常連客は素晴らしい。みんな音楽が大好きでいっきさんの事が大好きなのだ。そうだ、昔はよく朝まで歌って歌声酒場みたいになっていたっけ...。



私のソロで火がついた永田利樹も2曲ソロベースを聴かせ、最後は2人で2曲。もちろん締めくくりはアイラーのゴースト。



いっきさんのこの笑顔を見たら・・・もう缶詰が飛ぶ事もないだろう。安心してぺーぱーむーんに飲みに行って下さいねw。


これからもできるだけ長くお店が続きますように。いっきさん、美弥さん、そして、素晴らしい仲間たち、本当にありがとう!!



写真提供:チャーリー