厚い氷の層に覆われた海を持つ土星の小さな衛星“エンケラドス”。
エンケラドスには間欠泉があり、地表にある割れ目から宇宙空間に向けて海水を噴き上げています。
興味深いことに海水に含まれているのは、水、塩、シリカ(二酸化ケイ素)、炭素を含む単純な化合物。そう、これらは生命の素材になり得る物質なんですねー
今回の研究では、すでに運用を終えた土星探査機のデータを解析し、数百個の原子が環状や鎖状にならんだ有機高分子を発見。
これまで、太陽系で地球外生命が見つかる可能性が最も高い天体は木星の衛星エウロパだと考えられてきました。
でも、エンケラドスの海に今でも微生物が生きているとすれば、思っていたより太陽系内は生命に満ちているのかもしれませんね。
地球外生命探しに有力な素材
2005年末、あるニュースが科学者たちを驚かせます。
NASAの土星探査機“カッシーニ”の観測から、エンケラドスの南極領域から氷のジェットが噴出しているのが分かったんですねー
ジェットはエンケラドスの表面を覆う氷の殻の割れ目から噴出していて、氷の下に広がる海の水を含んでいました。
今回の研究では、海水の塩分濃度や酸性度を計算することで、ジェットに含まれる海水にメタンなどの簡単な有機化合物も含まれていることを明らかにしています。
さらに、海底の熱水噴出孔が熱とエネルギーを供給していることを突き止めている。
ただ、検出された複雑な分子がどのようにしてできたのかという疑問が残ることに…
生物と無関係な化学反応でできたのか、それとも地球外生命の排泄物なのでしょうか?
残念ながら現時点では分かってはいません。
探査機“カッシーニ”が残した宝
2017年9月に土星に突入してミッションを終えた“カッシーニ”ですが、膨大な観測データを残してくれました。その中には多くの宝物があり、掘り出されるのを待っているんですねー
宝物の1つは“カッシーニ”が土星のE環の付近を飛行したときに収集したデータです。
透けて見えるほど薄いE環は、エンケラドスから噴き出したチリや氷からできています。
“カッシーニ”はこのE環の端をかすめて飛行する際に、そうした粒子を専用の分析装置に衝突させ成分データを収集。
その中で研究グループが調査したのは、太陽系内の他の場所に由来するチリが最も少なくなる2004~2008年のデータでした。
“カッシーニ”はこの期間に15回にわたって約1万個のチリ粒子を収集し成分を調べている。
調査の結果、約1%の粒子に複雑な有機化合物の痕跡を確認。
炭素を含むこれらの大きな分子は、エンケラドスから噴き出す氷に付着した状態で宇宙に飛び出し、たまたまそこを通りかかった“カッシーニ”に衝突して採取されたものでした。
これらの分子は、さらに大きい数千u(uは統一原子質量単位)の親分子の破片である可能性が高いそうです。
海面に浮かぶ有機物の膜
これだけ大きな有機分子がエンケラドスで確認されたのは初めてのこと。
それまで“カッシーニ”が検出していたのは、メタンやエタンのような1~2個の炭素原子と数個の水素から成る15u前後の気体分子でした。
でも新たに検出された分子は、7~15個の炭素原子と数個の水素のほかに窒素や酸素まで含んでいて、大きさは約200uもあります。
大きな分子は、低温で乾燥した火星などの場所では見つかっているのですが、液体の海から来たものが検出されたのは今回初めてなんですねー
ただ、多くの大型有機物分子は液体の中で長期間安定して存在できないので、これらの有機物分子はどこから来たのでしょうか?
考えられるのは、エンケラドスの海中で新たに生成された大きな有機物分子が海面に浮き上がってきて、南極領域の氷の割れ目の近くで層になっていているということ。
有機物分子はそこで氷の粒に付着して、海底から浮き上がってきた気体の泡が海面で弾けるときに、その勢いで宇宙に飛び出したのかもしれません。
地球の表面にも生物やその副産物からなる油膜のような有機物分子の薄い膜が浮いています。
同じものがエンケラドスにもあるということは、生物が存在するということになるのかもしれません。
生命存在の可能性が高くなった? 衛星エンケラドスで水素分子を検出!
行ってみないと分からない
炭素を豊富に含むスープが存在することは非常に興味深いことですが、生命の存在を確実にするものではありません。
それは、地球外生命の代謝反応以外にも、このような分子を作れる化学反応はいろいろあるからです。
こうした反応が生命活動とは完全に無関係で、化学と地質学のみで説明できるのでしょうか? それとも、いつの日か生命を生み出す可能性があるのでしょうか?
あるいは、エンケラドスの海に生息する地球外生命の排泄物なのでしょうか?
現時点でその答えは分かっていません。
ただ、“カッシーニ”がミッションを終えた今、その答えを見つけるにはエンケラドスに有機物を調べに行く必要があるんですねー
エンケラドス・ライフ・ファインダーというミッションなら、そう遠くない未来に出発が可能なんですが、NASAはこのプロジェクトへの資金提供を拒否。
代わりに、同じく氷の海がある木星の衛星エウロパへ行く探査機の打ち上げが予定されています。
衛星エウロパの表面から水柱! 地球外生命探しが一歩前進
エウロパの塩分を含んだ海でどのような化学反応が起きているのでしょうか?
エンケラドスと同じように生命に必要な成分が豊富に存在しているのでしょうか?
エンケラドスへ行くミッションが無くなったのは残念ですが、2020年代に打ち上げられる探査機“エウロパ・クリッパー”の観測開始を楽しみに待ちましょう。
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生命に必要な3要素の探査へ! NASAのエウロパ探査計画“エウロパ・クリッパー”
エンケラドスには間欠泉があり、地表にある割れ目から宇宙空間に向けて海水を噴き上げています。
興味深いことに海水に含まれているのは、水、塩、シリカ(二酸化ケイ素)、炭素を含む単純な化合物。そう、これらは生命の素材になり得る物質なんですねー
今回の研究では、すでに運用を終えた土星探査機のデータを解析し、数百個の原子が環状や鎖状にならんだ有機高分子を発見。
これまで、太陽系で地球外生命が見つかる可能性が最も高い天体は木星の衛星エウロパだと考えられてきました。
でも、エンケラドスの海に今でも微生物が生きているとすれば、思っていたより太陽系内は生命に満ちているのかもしれませんね。
NASAの土星探査機“カッシーニ”が撮影したエンケラドスの間欠泉。 間欠泉からは氷状の物質が噴出している。 |
地球外生命探しに有力な素材
2005年末、あるニュースが科学者たちを驚かせます。
NASAの土星探査機“カッシーニ”の観測から、エンケラドスの南極領域から氷のジェットが噴出しているのが分かったんですねー
ジェットはエンケラドスの表面を覆う氷の殻の割れ目から噴出していて、氷の下に広がる海の水を含んでいました。
今回の研究では、海水の塩分濃度や酸性度を計算することで、ジェットに含まれる海水にメタンなどの簡単な有機化合物も含まれていることを明らかにしています。
さらに、海底の熱水噴出孔が熱とエネルギーを供給していることを突き止めている。
ただ、検出された複雑な分子がどのようにしてできたのかという疑問が残ることに…
生物と無関係な化学反応でできたのか、それとも地球外生命の排泄物なのでしょうか?
残念ながら現時点では分かってはいません。
探査機“カッシーニ”が残した宝
2017年9月に土星に突入してミッションを終えた“カッシーニ”ですが、膨大な観測データを残してくれました。その中には多くの宝物があり、掘り出されるのを待っているんですねー
宝物の1つは“カッシーニ”が土星のE環の付近を飛行したときに収集したデータです。
透けて見えるほど薄いE環は、エンケラドスから噴き出したチリや氷からできています。
“カッシーニ”はこのE環の端をかすめて飛行する際に、そうした粒子を専用の分析装置に衝突させ成分データを収集。
“カッシーニ”が撮影したエンケラドスの南極領域の写真。 氷の殻の表面を蛇行する割れ目がとらえられている。 |
“カッシーニ”はこの期間に15回にわたって約1万個のチリ粒子を収集し成分を調べている。
調査の結果、約1%の粒子に複雑な有機化合物の痕跡を確認。
炭素を含むこれらの大きな分子は、エンケラドスから噴き出す氷に付着した状態で宇宙に飛び出し、たまたまそこを通りかかった“カッシーニ”に衝突して採取されたものでした。
これらの分子は、さらに大きい数千u(uは統一原子質量単位)の親分子の破片である可能性が高いそうです。
2015年10月、土星探査機“カッシーニ”が、 エンケラドスの南極近くに見られるガスや氷の噴出(プルーム)の中を飛行して成分を調査。 この噴出は2005年に“カッシーニ”が初めて見つけたもの。 |
海面に浮かぶ有機物の膜
これだけ大きな有機分子がエンケラドスで確認されたのは初めてのこと。
それまで“カッシーニ”が検出していたのは、メタンやエタンのような1~2個の炭素原子と数個の水素から成る15u前後の気体分子でした。
でも新たに検出された分子は、7~15個の炭素原子と数個の水素のほかに窒素や酸素まで含んでいて、大きさは約200uもあります。
大きな分子は、低温で乾燥した火星などの場所では見つかっているのですが、液体の海から来たものが検出されたのは今回初めてなんですねー
ただ、多くの大型有機物分子は液体の中で長期間安定して存在できないので、これらの有機物分子はどこから来たのでしょうか?
考えられるのは、エンケラドスの海中で新たに生成された大きな有機物分子が海面に浮き上がってきて、南極領域の氷の割れ目の近くで層になっていているということ。
有機物分子はそこで氷の粒に付着して、海底から浮き上がってきた気体の泡が海面で弾けるときに、その勢いで宇宙に飛び出したのかもしれません。
地球の表面にも生物やその副産物からなる油膜のような有機物分子の薄い膜が浮いています。
同じものがエンケラドスにもあるということは、生物が存在するということになるのかもしれません。
生命存在の可能性が高くなった? 衛星エンケラドスで水素分子を検出!
行ってみないと分からない
炭素を豊富に含むスープが存在することは非常に興味深いことですが、生命の存在を確実にするものではありません。
それは、地球外生命の代謝反応以外にも、このような分子を作れる化学反応はいろいろあるからです。
こうした反応が生命活動とは完全に無関係で、化学と地質学のみで説明できるのでしょうか? それとも、いつの日か生命を生み出す可能性があるのでしょうか?
あるいは、エンケラドスの海に生息する地球外生命の排泄物なのでしょうか?
現時点でその答えは分かっていません。
ただ、“カッシーニ”がミッションを終えた今、その答えを見つけるにはエンケラドスに有機物を調べに行く必要があるんですねー
エンケラドス・ライフ・ファインダーというミッションなら、そう遠くない未来に出発が可能なんですが、NASAはこのプロジェクトへの資金提供を拒否。
代わりに、同じく氷の海がある木星の衛星エウロパへ行く探査機の打ち上げが予定されています。
衛星エウロパの表面から水柱! 地球外生命探しが一歩前進
エウロパの塩分を含んだ海でどのような化学反応が起きているのでしょうか?
エンケラドスと同じように生命に必要な成分が豊富に存在しているのでしょうか?
エンケラドスへ行くミッションが無くなったのは残念ですが、2020年代に打ち上げられる探査機“エウロパ・クリッパー”の観測開始を楽しみに待ちましょう。
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