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カラカラに乾いた小惑星“イトカワ”は過去に大量の水を含んでいたかも? 惑星の水供給のシナリオを書き換える可能性

2023年07月25日 | 宇宙 space
2003年に打ち上げられ、2010年に小惑星からのサンプルリターンを世界で初めて成功させたJAXAの小惑星探査機“はやぶさ”。
“はやぶさ”が小惑星“イトカワ”から採取したサンプルは、無事に地球へ運ばれ、様々な研究に用いられることになります。

このサンプルは今回の研究でも用いられていて、そこから見つかったのが塩化ナトリウムの結晶でした。
このことは、イトカワの元になった天体(母天体)が、かつて液体の水を含んでいたことを間接的に示す証拠になるようです。
この研究は、アリゾナ大学のShaofan CheさんとThomas J. Zegaさんの研究チームが進めています。
イトカワは一般的なタイプの小惑星で、非常に乾燥していることで知られている。でも、今回の研究で過去には豊富な水が含まれていたことが明らかにされた。(Credit: ISAS / JAXA)
イトカワは一般的なタイプの小惑星で、非常に乾燥していることで知られている。でも、今回の研究で過去には豊富な水が含まれていたことが明らかにされた。(Credit: ISAS / JAXA)

カラカラに乾いた一般的なタイプの小惑星

イトカワは“S型小惑星”という非常に一般的なタイプの小惑星。
地球に落下する隕石の67%は、S型小惑星と同じタイプの岩石でできているとも言われています。

S型小惑星を一言で表すと“カラカラに乾いた岩石”で、長年の研究でも水の証拠は見つかっていませんでした。
ここでいう“水”とは、液体や固体の水(遊離水)に限らず、化学成分の中の水、例えば鉱物に含まれる結晶水なども含まれる。
S型小惑星は、太陽系誕生時に太陽から近い距離で作られた天体で、水は太陽の熱や天体同士の衝突による熱で蒸発してしまったと考えられています。

このため、地球などの惑星に水をもたらしたのはS型小惑星ではなく、もっと少数の珍しいタイプの小惑星だとする考えが主流でした。

その有力候補が、太陽系の外側の低温環境で作られたとされる“C型小惑星”です。
C型小惑星には、JAXAの小惑星探査機“はやぶさ2”の探査天体“リュウグウ”や、NASAの小惑星探査機“OSIRIS-REx”の探査天体“ベンヌ”があります。

S型小惑星は過去のある時点で大量の水を含んでいた

今回の研究によって示されたのは、乾燥したS型小惑星も過去に豊富な流体、すなわち液体の水が存在した可能性が高いことです。

その理由は、イトカワのサンプルに含まれていた“塩化ナトリウム(NaCl)”の結晶の存在でした。
身近にある食卓塩と同じ組成の塩化ナトリウムの結晶は、液体が関与しないと生成されにくいことで知られています。
イトカワのサンプルから見つかった塩化ナトリウムの結晶(丸で囲まれた結晶)。大きさは1μm(0.001mm)よりもはるかに小さい。(Credit: Che & Zega)
イトカワのサンプルから見つかった塩化ナトリウムの結晶(丸で囲まれた結晶)。大きさは1μm(0.001mm)よりもはるかに小さい。(Credit: Che & Zega)
実は、これまでにもS型小惑星を起源とする隕石中から、塩化ナトリウムの結晶が見つかったことがありました。
ただ、地球の大気中の湿気や人間の汗などが、実験室で隕石のサンプルを分析する際に付着したとする、汚染による可能性を排除することができていなかったんですねー

一方で、地球の環境に一度も晒されたことが無かったのが、“はやぶさ”が持ち帰ったイトカワのサンプルでした。
カプセルに入って厳重に管理されていたためですね。

このサンプルは5年間保管されていました。
でも、保管開始直後の写真と比較して、塩化ナトリウムの存在する場所が変化していないことや、比較のために同様の環境に晒された地球の岩石に新たな塩化ナトリウムが付着していないことも、サンプルが汚染されていないことを示す証拠になりました。

結果的に、今回イトカワのサンプルから見つかった塩化ナトリウムの結晶は、地球に届けられてから付着したものではなく、イトカワに元々存在していたことが分かります。

さらに、今回明らかになったのは、塩化ナトリウムの分布がナトリウムの豊富なケイ酸塩鉱物の脈と一致することや、ケイ酸塩鉱物の化学組成が熱水による変質を受けたことを示していることでした。

研究チームは、イトカワの元になった天体には凍った水と塩化水素が含まれていて、それらの化学変化と最終的な水の蒸発が、塩化ナトリウムの結晶を作ったという仮説を立てています。

このシナリオが正しい場合、イトカワのようなS型小惑星は過去のある時点で大量の水を含んでいたことになります。
そう、惑星形成時の水の供給にも影響した可能性があるんですねー

ただ、今回の研究だけでは、S型小惑星が過去に含んでいたかもしれない水の量を推定することは難しいので、惑星の水供給のシナリオを書き換えることには繋がりません。

でも、太陽系でありふれたタイプの天体が、過去には乾燥していなかったことを示す今回の成果は、惑星形成論に影響を与える可能性はあります。


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