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モバライダー mobarider

アルマ望遠鏡がとらえた老星がジェットを噴出して変身する瞬間。惑星状星雲や宇宙における物質の進化が見えてくる。かも…

2020年03月26日 | 宇宙 space
アルマ望遠鏡による老齢の星の観測から、星から噴き出すジェットとその周囲の物質の分布が、これまでにない解像度で描き出されました。
このデータを分析して分かったのが、ジェットが噴き出し始めたのは今からわずか60年ほど前のこと。
ジェットによって星の周囲のガス雲の形状が変形している… まさにその現場をとらえられたようです。


多様な“惑星状星雲”の形状

太陽程度の質量の星は、一生の最期に大きく膨らんで赤色巨星になります。
その後、自身を形作るガスを噴き出して“惑星状星雲”と呼ばれる天体として一生を終えます。

“惑星状星雲”の形状としては、球状のものや細長く伸びたものなど様々なものが知られています。
でも、“惑星状星雲”の元になった星は球状なので、多様な形状の星雲が作り出されるメカニズムは、多くの天文学者の関心を引くことになります。

“惑星状星雲”の形状は、元になった星が単独星か連星を成しているかによっても、異なると考えられています。

単独星の場合だと、年老いた星からガスがほぼ球対称に噴き出すので、“惑星状星雲”も球対称な形状になると考えられます。
一方、二つの星が互いに回り合う連星系の場合、老齢の星から噴き出したガスが、もう片方の星の重力によって影響を受け、球対称ではない複雑な形に広がることが想定されます。

この“惑星状星雲”を作り出すメカニズムの解明には、年老いた星周辺の観測が必要になります。
ただ、この領域は星からすでに放出された物質によって隠されているので、これまで直接観測することは困難でした。


連星系で起きている現象

今回の研究を進めているのは、鹿児島大学、スウェーデン・チャルマース工科大学の国際研究チーム。

これまでに電波望遠鏡を用いて終末期にある星々を数多く観測し、一部の天体からは水分子が放つ特異的な電波が検出されることをすでに明らかにしています。研究チームではこれらの天体を“宇宙の噴水”天体と呼んでいます。

これらの現象が連星系で起きているかは確定できていません。
でも、以下のようなメカニズムで水分子の電波が放射されていると予想しています。

まず、2つの星の片方が先に進化して、赤色巨星を経てガスを噴き出し自身は芯だけになります。
ここに、低質量の伴星からガスが流れ込むと、そのガスの一部が終末期の星から双極方向に高速で噴き出すジェットを作ります。
このジェットは、赤色巨星が過去に噴出したガスとぶつかることで、複雑なガスの構造が作られるとともに、この衝突現場から水分子の電波が出ることになります。
年老いた星を含む連星系の進化のイメージ図。(1)AとBの二つの星からなる連星系 → (2)連星系のうち質量の大きい星Aが先に進化して赤色巨星になる。 → (3)星Aの進化がさらに進み、ガスを周囲に噴き出す。中心には星Aの芯が残される。 → (4)星Bも膨らみ始め、星Bのガスが星Aの芯の重力にとらえられて流れ込む。そのガスの一部は星Aから両極方向にジェットとして放出される。
年老いた星を含む連星系の進化のイメージ図。(1)AとBの二つの星からなる連星系 → (2)連星系のうち質量の大きい星Aが先に進化して赤色巨星になる。 → (3)星Aの進化がさらに進み、ガスを周囲に噴き出す。中心には星Aの芯が残される。 → (4)星Bも膨らみ始め、星Bのガスが星Aの芯の重力にとらえられて流れ込む。そのガスの一部は星Aから両極方向にジェットとして放出される。(Credit: NAO)
この現象のカギとなるジェットの継続時間は100年未満と考えられています。
この時間は、星々の寿命に対して数百分の1以下と大変短いので、実際にジェットを噴き出す段階にある星が観測できる確率は低くなってしまうんですねー

1000億個以上の星が存在する天の川銀河の中でも、この段階にある連星系が発見されたのは、これまでの観測で15例しかありません。

短時間しか継続しないジェットは、地球からは遠くにあって非常に小さく見えるので、これまでジェットと周囲にあるガスが衝突している様子は詳しくとらえられていませんでした。


アルマ望遠鏡による高解像度の観測

そこで研究チームが考えたのは、高い解像度を持つアルマ望遠鏡を用いて、“宇宙の噴水”天体の一つである“W43A”を観測することでした。
“W43A”は、わし座の方向約7200光年彼方に位置している年老いた星との連星系です。

アルマ望遠鏡による観測の結果、年老いた星から噴き出すジェットからの電波放射と、その周囲のチリの広がりを、これまでにないほど鮮明にとらえることに成功しています。
アルマ望遠鏡で観測した年老いた星を含む連星系“W43A”の周囲の様子(疑似カラー画像)。中心に連星系があり、左右方向に細長い高速ジェットが伸びていることが分かる(青色)。ジェットの周りには低速なガス流も見えている(緑色)。ジェットの周りに広がっているのがジェットで掃き寄せられたチリ(オレンジ色)。
アルマ望遠鏡で観測した年老いた星を含む連星系“W43A”の周囲の様子(疑似カラー画像)。中心に連星系があり、左右方向に細長い高速ジェットが伸びていることが分かる(青色)。ジェットの周りには低速なガス流も見えている(緑色)。ジェットの周りに広がっているのがジェットで掃き寄せられたチリ(オレンジ色)。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Tafoya et al.)

観測データを詳しく調べて分かってきたのは、老齢の星から間欠泉のように断続的に噴き出したジェットによって、周囲の物質が掃き寄せられ始めていること。
今回観測されたチリは、こうして集められた物質であり、ジェットによって今後さらに外側へと運ばれていくと考えられます。

さらに、ジェットの速度がこれまで推定されていたよりもはるかに大きいことも分かります。
天体から放出された時には秒速175キロにも及んでいました。

ジェットの長さとこの速度から逆算して明らかになったのは、ジェットが噴出を始めたのがわずか60年前ということ。極めて最近のことなんですねー
  このジェットの中に、ほぼ等間隔に並ぶガスの塊も確認している。

ジェットが非常に若いことを考えると、この天体では星周物質の分布が、ジェットによって変形され始めた段階にあるようです。
  星周物質は、星の近傍に存在している物質。
アルマ望遠鏡による観測結果をもとにした“W43A”の周囲(イメージ図)。画面いっぱいに広がる淡いガス雲は、より早い段階で中心の星から球対称に噴き出したガス。星から噴き出す細長いジェットが周囲の物質を掃き寄せて変形させていくことで、複雑な“惑星状星雲”の形が今まさに作られようとしている。
アルマ望遠鏡による観測結果をもとにした“W43A”の周囲(イメージ図)。画面いっぱいに広がる淡いガス雲は、より早い段階で中心の星から球対称に噴き出したガス。星から噴き出す細長いジェットが周囲の物質を掃き寄せて変形させていくことで、複雑な“惑星状星雲”の形が今まさに作られようとしている。(Credit: NAO)

数十年というタイムスケールで変化する現象であれば、一人の人間が生きている間にその動きを追跡することができます。

このジェットにしても、今後数十年以内に形成される“惑星状星雲”にしても、星間空間と恒星との間の物質の輪廻の一部です。
それらを通して、恒星内部で合成された元素が宇宙空間にまき散らされる過程を見ていることになります。

その仕組みを解き明かすことができれば… 宇宙における物質進化についても理解がより深まることになりますね。


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