日米共同の観測ロケット“FOXSI-3”で得られた太陽の軟X線観測データが公開されました。
このデータは、毎秒250枚という高い時間分解能の撮像分光観測を世界で初めて行って得られたもの。
わずか6分間の大気圏外飛行中の観測で得られたものですが、太陽コロナについての理解が進むことが期待されているんですねー
太陽系で最大の爆発現象
太陽を取り巻くコロナは、100万度以上という極めて高温で希薄なプラズマからなる大気です。
太陽コロナの中では様々な現象が起こっていて、代表的なものは“太陽フレア”と呼ばれる太陽系で最大の爆発現象になります。
フレアが発生すると周囲の温度は数千万度まで上昇し、プラズマ粒子は光速近くまで加速。
この高エネルギー粒子は太陽風として地球にも到達し、地球環境や送電線・電力系統に影響を与えたりします。
特に、宇宙空間にある衛星や巨大なアンテナとして働く送電線の被害が起こる可能性が高いようです。
宇宙に出てX線を観測する
100万~数千万度の温度を持つコロナはX線を最も強く放射しています。
なので、太陽コロナを研究するには、太陽から放射されるX線をとらえる必要があります。
でも、X線は地球の大気に吸収される性質があるので、観測するには気球や観測ロケット、人工衛星を使って宇宙空間に出る必要があるんですねー
また、X線は通常の鏡やレンズを透過してしまうので、撮像や分光に必要になるのが特殊な望遠鏡やカメラです。
さらに、コロナの性質を詳細に知るには、X線の空間分布・時間変化・エネルギー分布を知る必要もあります。
つまり、高いダイナミックレンジ(明るい場所も暗い場所もよく見えること)・高い空間分解能・高い時間分解能・高いエネルギー分解能の観測を実現しないといけません。
これまでの太陽観測では、数百万度のプラズマが放射する“軟X線”の波長で、この4つを同時に満たすような観測は行われたことがありませんでした。
たとえば、日本の太陽観測衛星“ようこう”や“ひので”のX線望遠鏡です。
この望遠鏡は、空間分解能は高いものの、1枚の画像を撮像するのにかかる時間が長すぎるので、太陽コロナで発生する数十秒~数分という時間スケールの現象をとらえる撮像分光観測は不可能でした。
“ひので”と“IRIS”がとらえた太陽コロナ加熱メカニズム
新しい軟X線観測装置を開発
今回の研究では、裏面照射CMOSセンサーを採用することで、1秒間に250枚もの高速度撮像が行える軟X線観測装置“ProEnIX”を新たに開発しています。
昨年の9月8日、研究チームはこの装置を日米共同の太陽観測ミッション“FOXSI-3”の観測ロケットに搭載。
観測では、軟X線での集光撮像分光観測(光を焦点面に集め、画像を撮り、同時に光子のエネルギー分布も得る観測)を高い時間分解能で行うことに初めて成功しています。
今回公開された“FOXSI-3”の太陽観測データは、太陽からのX線光子1個1個を検出・測定した世界初の成果になります。
“ProEnIX”の高速度カメラは1枚あたり50個程度のX線光子を検出していて、このX線光子のデータを重ね合わせれば、点描のように太陽の軟X線画像を描くこともできます。
“FOXSI-3”に搭載された高速度軟X線観測装置“ProEnIX”カメラの全データを用いて描いた太陽。 |
さらに、X線光子のエネルギーごとの検出数からコロナのスペクトルも得られました。
“FOXSI-3”の“ProEnIX”カメラで得られた軟X線集光撮像分光データ。 (a)が撮像された画像。画像上の白い点が検出されたX線光子を示す。 この画像を重ね合わせることで、(b)のような太陽の軟X線画像が得られる。 (c)は検出された光子の数を10秒ごとに合計して得られた軟X線の時間変化の様子。 (d)は検出された光子をエネルギー(信号強度)ごとに合計して得られた軟X線スペクトル。 |
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